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韓国の紅海タンカー航行容認が映すエネルギー安保と海上リスクの現実

by 中村 壮志
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はじめに

韓国政府は2026年4月6日、事実上封鎖状態にあるホルムズ海峡の代替として、一定の条件を満たす原油タンカーに紅海ルートの利用を認める方針を打ち出しました。輸入依存度の高い韓国にとって、これは単なる物流判断ではなく、国家のエネルギー安全保障を優先する決断です。

ただし、紅海ルートは安全地帯ではありません。サウジアラビア西岸のヤンブー港を使えばホルムズ海峡を迂回できますが、その先にはフーシ派の脅威が残るバブ・エル・マンデブ海峡があります。この記事では、韓国がなぜリスクを承知で紅海を選んだのか、代替ルートの実力と軍事・外交上の論点を整理します。

韓国が紅海ルート容認に踏み切った背景

ホルムズ依存の大きさ

韓国の悩みは、エネルギー調達構造そのものにあります。Korea JoongAng Dailyによると、韓国は原油輸入の約70%を中東に依存し、中東から韓国へ向かう貨物のほぼ99%がホルムズ海峡を通過します。別の記事では、2025年時点で中東依存は原油71%、天然ガス34%、石油製品66%とされており、海峡の機能不全が産業全体に直結する構図が鮮明です。

米エネルギー情報局(EIA)は、ホルムズ海峡を2025年上期に日量2090万バレルの石油が通過した「世界で最も重要な石油チョークポイント」と位置づけています。しかも同局は、中国、インド、日本、韓国の4カ国で、ホルムズ経由の原油・コンデンセート流量の74%を占めたと分析しています。つまり韓国の問題は一国の調達難ではなく、アジア全体の買い付け競争と直結する問題です。

韓国政府が紅海ルートを「危険だから全面停止」と言い切れなかった理由もここにあります。4月6日時点で、Korea JoongAng Dailyはホルムズ周辺に韓国船籍の船舶26隻が待機していると報じました。船が動かなければ、製油所の操業計画、石化原料の確保、物流コストの見通しまで一気に不安定になります。政府が安全と供給のどちらか一方だけを選べない段階に入ったことが、今回の容認方針の出発点です。

ヤンブー経由ルートの実務

今回の迂回策の中核は、サウジ東部油田から西岸ヤンブーへ原油を陸送し、そこから紅海経由でタンカーに積み替える方式です。韓国メディアはヤンブーの輸出能力を日量約500万バレルと伝えています。サウジアラムコも、2018年にヤンブー南ターミナルの稼働で西岸輸出能力が日量300万バレル増えたと公表しています。

ここで重要なのは、紅海ルートが「完全な代替」ではなく「損失を減らす緊急弁」だという点です。EIAは、サウジとUAEの迂回パイプラインを合算しても、ホルムズ海峡を通る膨大な流量の一部しか代替できないとみています。韓国にとってヤンブー経由は有効ですが、すべての不足分を置き換える万能策ではありません。

それでも紅海が選ばれるのは、時間軸の問題があるためです。韓国は米国や豪州からの追加調達も検討していますが、長距離輸送には時間がかかります。既存の中東供給網をなるべく崩さず、ホルムズだけを迂回できるヤンブー経由は、短期の供給維持に最も現実的な選択肢です。韓国政府が「一定の要件を満たす船舶」に限定して認めるのも、供給確保と保険・警備コストの両方をにらんだ運用とみるべきです。

代替ルートに残る海上安全保障の難所

バブ・エル・マンデブの脅威

紅海ルートの弱点は、ホルムズを避けても別のチョークポイントに向き合うことです。バブ・エル・マンデブ海峡は、紅海とアデン湾を結ぶ細い航路で、イエメン情勢の影響を正面から受けます。EIAによると、この海峡を通過する石油・石油製品の流量は、2023年通年の日量870万バレルから、2024年1〜8月平均では日量400万バレルへと半減しました。多くの船社が危険を見て、喜望峰回りへ逃げた結果です。

米海事局(MARAD)の2026年3月の勧告はさらに厳しく、2023年11月から2025年10月までにフーシ派による商船攻撃が100件超、影響国は60カ国超としています。脅威の中身も、無人機、無人水上艇、弾道・巡航ミサイル、小型艇による接近、違法乗船や拿捕まで多様です。単に「紅海を通ればよい」という話ではなく、通航中の監視、通信、進路選定、航行時刻まで含めた管理が必要になります。

この点で、韓国が3月初めには紅海航行を控える方向だったのに、4月に入って限定容認へ転じた意味は大きいです。危険が消えたからではなく、危険が残る前提で供給を回す段階に移ったということです。海上保険料の上昇、護衛の可否、寄港地での待機時間まで含めた総コストを受け入れない限り、原油確保そのものが難しくなっていると読むべきです。

青海部隊と多国間協調

韓国政府は、海洋水産省の状況室と青海部隊を通じて船舶位置をリアルタイムで把握し、安全確保にあたる方針です。青海部隊はアデン湾での対海賊任務を担う部隊で、韓国では2009年から派遣が続いてきました。つまり今回の対応は、新たな遠洋展開を急ごしらえで始めるというより、既存の海上安全保障資産をエネルギー輸送の保護に振り向ける性格が強いです。

もっとも、軍事的な監視だけでは足りません。4月2日に日本外務省が公表した外相会合の内容では、英国主催のオンライン会合で各国がホルムズ海峡の安全航行確保に向けた立場を再確認し、日本はIMOで安全回廊の設置を提案したと説明しています。韓国が個別交渉ではなく多国間協調を重視しているのは、イラン側に通航料や政治条件を認める前例をつくりたくないからです。

この構図は紅海にもそのまま当てはまります。韓国が軍の監視を強めても、単独で海上リスクを無力化できるわけではありません。必要なのは、船会社、保険会社、寄港国、同盟国、国際機関が同じ危険認識と運航ルールを共有することです。今回の容認方針は軍事判断であると同時に、国際秩序の中で海上交通の自由を守れるかを試す外交判断でもあります。

注意点・展望

ここで注意したいのは、紅海ルート容認を「供給不安の解消」と受け取らないことです。ヤンブー経由は確かに有力ですが、ホルムズ海峡の巨大な処理能力をそのまま置き換える規模はありません。加えて、バブ・エル・マンデブ海峡の危険が再燃すれば、韓国は再び迂回や調達先分散を迫られます。

今後の焦点は3つあります。第1に、韓国船社が実際にどの程度このルートを使うかです。第2に、サウジ側の積み出し能力と韓国製油所の受け入れ計画がどこまで噛み合うかです。第3に、ホルムズと紅海の両チョークポイントで多国間の安全確保が前進するかです。今回の判断は短期の物流対策に見えて、実際には韓国が中東依存とどう付き合うかを問う中長期課題の入口でもあります。

まとめ

韓国政府の紅海航行容認は、危険を無視した強行策ではありません。ホルムズ依存の高さ、ヤンブー経由という限られた代替性、フーシ派の脅威、そして青海部隊と多国間協調の組み合わせを前提にした、損失最小化の選択です。

読者として押さえるべきなのは、今回の論点が単なる「船を通すかどうか」ではないことです。エネルギー安全保障、海上軍事、保険と物流、国際法上の航行の自由が一つの海域に重なっています。韓国の判断は、アジアの輸入国が同じ問題にどう向き合うかを先取りして示した事例として見る必要があります。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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