中国系発電所が日本各地に点在、安保リスクの実態
はじめに
中国政府と関連のある企業が、日本国内で太陽光発電事業を広範に展開している実態が注目を集めています。調査によると、中国政府が2023年中に1%以上の支配力を持っていた日本国内の企業は合計303社に上り、中国企業の日本法人を除いても162社が確認されています。その中には、自衛隊駐屯地やトヨタ研究所の近隣に位置する太陽光発電所も含まれています。
再生可能エネルギーの推進という国策の裏側で、安全保障上のリスクが拡大している可能性があります。本記事では、中国系発電所の日本展開の実態と、政府の対応策を多角的に検証します。
中国系企業による太陽光発電事業の展開
上海電力日本の全国展開
中国国有企業傘下の上海電力日本株式会社は、日本各地でメガソーラー事業を展開しています。文春オンラインの調査報道によると、青森県東北町では航空自衛隊の東北町分屯基地から約8キロの地点で太陽光発電所を運営していることが確認されました。この基地は弾薬等の保管・検査・輸送を担う重要施設です。
上海電力は大阪市の咲洲(さきしま)メガソーラーで日本市場に参入し、その実績を足がかりに全国の大規模太陽光発電事業の受注を拡大してきました。通常であれば選定が困難な外国企業が、短い募集期間の中で事業に参入できた経緯にも疑問の声が上がっています。
自衛隊基地・米軍基地近隣での事業展開
山口県岩国市では、米海兵隊の航空基地近隣でも中国系企業の太陽光発電事業が展開されています。事業会社「東日本ソーラー13」が上海電力の日本法人に買収されていたことが判明し、安全保障上の懸念が指摘されました。
軍事施設の周辺に外国政府と関連のある企業がインフラを保有・運営することは、情報収集や有事における妨害行為のリスクを孕んでいます。発電設備の制御システムを通じたサイバー攻撃の可能性も、専門家が警告する脅威の一つです。
安全保障上の複合的リスク
サイバーセキュリティの脅威
キヤノングローバル戦略研究所の研究者は、中国製の制御機器にバックドアが仕掛けられるリスクを指摘しています。太陽光発電所のインバーター(直流を交流に変換する装置)は通信機能を持っており、遠隔からの不正アクセスの経路となり得ます。
2025年5月には、ロイター通信が米国で中国製ソーラーインバーターから通信機器が発見されたと報じ、米エネルギー省が調査に乗り出しました。太陽光パネルそのものだけでなく、制御システムを含めたサプライチェーン全体のセキュリティが問われています。
サプライチェーン支配の問題
日本で設置されている太陽光パネルの約8割は中国製です。太陽光パネルの製造からインバーター、蓄電池に至るまで、サプライチェーンの上流を中国がほぼ独占している状況にあります。再生可能エネルギーを推進すればするほど、中国への依存度が高まるという構造的ジレンマを抱えているのです。
キヤノングローバル戦略研究所は「脱炭素政策が作り出す安全保障の脆弱性」と題した論考で、エネルギー転換と安全保障のトレードオフを分析しています。脱炭素は重要な政策目標ですが、その推進過程で新たな安全保障リスクを生まないよう、慎重な設計が必要だと指摘しています。
土地取得と情報収集リスク
太陽光発電事業は広大な土地を必要とするため、土地取得を通じた情報収集活動の足がかりになる懸念もあります。北海道では外資による大規模な土地取得と違法伐採が問題化しており、FRIDAYデジタルは「買われたら手遅れ」と専門家の警鐘を報じています。
洋上風力発電の事前調査においても、海底地形や海流のデータが収集されることで、潜水艦や水中ドローンによる活動が容易になるリスクが指摘されています。
政府の対応と重要土地利用規制法
重要土地利用規制法の全面施行
こうした安全保障上の懸念に対応するため、日本政府は「重要土地等調査法」(重要土地利用規制法)を施行しました。重要施設の周辺約1キロを「注視区域」として指定し、土地の利用状況を調査できる枠組みを整備しています。
内閣府の公開データによると、全国45の注視区域のうち20地区で、中国が土地・建物の取得件数で最多となっています。この法律により、安全保障上重要な施設周辺の土地取得を監視・規制する体制が強化されました。
規制の実効性に対する疑問
しかし、JBpressは「施行から約2年半で『安全保障上懸念する事案はなかった』は本当か」と疑問を呈しています。法律の施行により調査は可能になりましたが、既に取得された土地や、注視区域外での事業展開に対しては十分な規制が及んでいません。
また、2025年12月には政府がメガソーラー対策パッケージを決定し、環境アセスメントの対象拡大や違法対策の強化に乗り出しました。しかし、安全保障の観点からの規制と、再生可能エネルギー推進のバランスをどう取るかは、依然として難しい課題です。
注意点・展望
冷静な議論の必要性
この問題を論じる際には、いくつかの注意点があります。すべての中国系企業が安全保障上の脅威であるわけではなく、正当なビジネスとして太陽光発電事業を営む企業も多数あります。過度な排外主義に陥ることなく、リスクベースで客観的に評価する姿勢が重要です。
エネルギー安全保障の再設計
高市早苗氏が太陽光発電の見直しを提唱するなど、政治レベルでもエネルギー政策と安全保障の関係が議論されています。武藤経済産業大臣は慎重な姿勢を示していますが、サプライチェーンの多様化と国内製造能力の強化は、党派を超えた課題です。
今後は、再生可能エネルギーの推進と安全保障の両立を図る、より精緻な政策設計が求められます。国産パネルの競争力強化や、制御機器のセキュリティ基準の策定などが具体的な対策として挙げられます。
まとめ
中国系企業が運営する太陽光発電所が自衛隊基地や重要施設の近隣に点在している実態は、日本のエネルギー政策と安全保障の接点における課題を鮮明にしています。サプライチェーンの中国依存、サイバーセキュリティのリスク、土地取得を通じた情報収集の懸念など、複合的なリスクへの対応が急務です。
重要土地利用規制法の施行は一歩前進ですが、規制の実効性には課題が残ります。脱炭素と安全保障を両立させるエネルギー政策の再設計が、今後の日本にとって重要な政策課題となります。
参考資料:
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