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千代田区が三菱地所系マンションに要請、5年転売禁止の実効性を検証

by 田中 健司
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個別要請へ踏み込んだ千代田区の政策転換

東京都千代田区が、三菱地所レジデンスなどが区内で計画する分譲マンションについて、購入者への引き渡し後、原則5年間の転売を禁じる特約を設けるよう事業者に要請します。2025年に不動産業界全体へ協力を求めた段階から、具体的な開発計画へ働きかける段階に移った格好です。

公表済みの建築資料を照合すると、対象は三菱地所レジデンス、東急不動産、東急が手掛ける「(仮称)千代田区一番町計画」とみられます。東京都の総合設計制度による容積率緩和を受けた大規模物件であり、都市計画上の便益と住宅政策上の責任をどう結び付けるかが焦点です。

ただし、区の要請は法律や条例に基づく一律の売却禁止ではありません。事業者と購入者の売買契約を通じて短期転売を抑える仕組みです。価格高騰への効果だけでなく、財産権、行政手続きの予見可能性、地域への利益還元まで検証する必要があります。

一番町計画と5年転売禁止の制度設計

容積率緩和で生まれる公的還元の接点

千代田区の環境評価書によると、一番町計画は敷地面積約9259平方メートル、地上14階・地下4階、延べ床面積約8万3128平方メートル、187戸の分譲集合住宅です。2030年6月末の竣工が予定されています。三菱地所が投資家向け資料で「大型・高収益物件」と位置付ける、番町・麹町エリアの重要案件です。

東京都は2025年1月21日、同計画に総合設計制度の許可を出しました。都の許可実績には、公開空地2739平方メートル、有効公開空地3030平方メートルが記録されています。公開空地などを整備する代わりに、建築基準法上の容積率制限を緩和する仕組みです。

東京都の制度説明では、総合設計制度の目的を、土地の合理的利用と公共的な空地の確保による市街地環境の改善としています。開発事業者への単純な補助金ではないものの、通常より大きな建物を建てられる価値は、行政の許可によって生まれます。区が「公的な都市計画上の便益を受ける物件には、実需を重視した販売も求められる」と考えることには、一定の政策的合理性があります。

ここで重要なのが許可と要請の時間差です。東京都による許可は2025年1月ですが、千代田区が不動産協会に包括的な要請を出したのは同年7月でした。その要請は、都市開発諸制度を利用し、今後許認可を受ける事業を対象としていました。日付を突き合わせると、一番町計画は一般要請だけでは対象外となり得たため、今回の個別要請で網をかけ直す構図が浮かびます。

一方、許可後に新たな販売条件を求めるのであれば、事業者側の予見可能性にも配慮が必要です。容積率緩和の審査項目に転売防止策があらかじめ明記されていなかった場合、後から加わる要請をどこまで受け入れるべきかという問題が残ります。今後は個別交渉に頼らず、対象となる制度、物件規模、適用時期を事前に公表するルールが欠かせません。

要請を契約特約に落とし込む仕組み

千代田区が求めるのは、購入者が引き渡しを受けてから原則5年間、住戸を転売できないよう売買契約に特約を付けることです。併せて、同じ建物で同一名義による複数住戸の購入を認めないことも、2025年の業界要請に盛り込まれました。

この仕組みで直接義務を負うのは、区ではなく、特約に合意した売主と買主です。転売が行われても、所有権移転が当然に無効となる公法上の禁止ではありません。契約違反が発覚した場合の違約金や損害賠償など、契約書に定めた民事上の手段で実効性を確保することになります。

一般社団法人不動産協会も、投機的な短期転売は望ましくないとの立場を示しています。ただし、2025年11月に公表した対策の中心は、購入戸数の上限、申込時から登記までの名義の厳格化、引き渡し前の売却活動禁止でした。所有権が購入者へ移った後は、売主が契約解除によって履行を確保できず、違反への対応が民事訴訟に及ぶ可能性があるためです。

今回の5年特約には、転勤、介護、相続、離婚、病気、返済困難といった、投機とは異なる売却事情への例外が必要です。例外の判断主体や必要書類が曖昧であれば、真に売却が必要な居住者ほど不利益を受けます。違約金を設ける場合も、金額の根拠と手続きを購入前に明確に示さなければ、紛争の火種になります。

税制には既に「5年」の境界があります。国税庁によると、売却年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら短期譲渡所得となり、個人には所得税30%、住民税9%が課されます。復興特別所得税も加わります。ただし、契約上の「引き渡しから5年間」と税法上の判定日は一致せず、法人の課税方法も異なります。契約特約は既存税制の代替ではなく、購入機会の段階で投機需要を排除する追加策とみるべきです。

高騰市場で問われる価格抑制の実効性

登記データが示す短期売買の集中

短期売買が都心で増えていること自体は、登記情報から確認できます。国土交通省の調査は、2018年1月から2025年6月までに保存登記された三大都市圏と地方4市の新築マンション約55万戸を分析しました。東京23区では、100戸以上の大規模マンションのうち1年以内に売買された割合が、2024年上期に9.9%でした。大規模物件以外の3.3%を大きく上回ります。

国土交通相は別の会見で、2025年上半期に登記された新築マンションのうち、1年以内に売買された割合が東京23区で9.3%、都心6区で12.2%だったと説明しています。都心部ほど短期売買が多いという傾向は、千代田区の危機感を裏付けます。

しかし、短期売買のすべてが投機とは限りません。国の統計は売却理由を直接把握しておらず、転勤などの事情も含まれます。また、2025年上半期に国外住所の取得者が占めた割合は23区で3.5%、都心6区で7.5%でしたが、国の分析では、国外居住者が2億円以上の高額物件を特に活発に短期売買する傾向は確認されませんでした。

したがって、投機対策を外国人対策と同一視するのは適切ではありません。居住地、国籍、法人名義、購入目的はそれぞれ別の情報です。政策対象は国籍ではなく、短期間の反復売買、複数住戸の取得、引き渡し前の広告といった客観的な行動に置く必要があります。

5年特約は、値上がり益を早期に確定したい購入者にとって強い参入障壁になります。抽選や販売初期に実需層が投機家と競合する状況を和らげ、販売住戸の偏在を防ぐ効果は期待できます。一方で、転売をしないまま空室で保有する長期投資家は排除できません。むしろ売却できない期間だけ空室保有が続く可能性もあり、転売抑制と居住促進は別々に測る必要があります。

原価高と供給不足を残す単独対策の限界

価格上昇のすべてを短期転売で説明することもできません。不動産経済研究所の2026年度上半期調査では、4~9月の東京23区の新築マンション平均価格は1億7925万円で、前年同期比34.7%上昇しました。発売戸数は3313戸で7.9%減り、初月契約率は64.3%にとどまりました。

平均価格は、どの物件がその期間に発売されたかで大きく変動します。それでも、施工費や用地費の上昇、供給戸数の少なさ、高額物件への需要が重なっていることは明らかです。不動産協会も、価格上昇の主因を原価高と実需を軸にした需給の逼迫とし、投機的取引の影響は限定的だと主張しています。

両者の見方は、必ずしも完全に矛盾しません。短期転売が価格高騰の主因でなくても、人気物件の購入機会を偏らせ、割安な当初価格と中古価格の差を個人や法人が短期間で利益に変える問題は残ります。転売規制は市場全体の平均価格を大幅に下げる政策というより、希少な新築住戸の配分を公平にする政策として評価する方が適切です。

規制で投資需要が減っても、事業者が販売価格を引き下げるとは限りません。購入申込数が減るだけで価格が維持される可能性もあります。さらに、投資資金が規制対象外の中古マンション、小規模物件、賃貸住宅、周辺区へ移れば、千代田区内の一物件で転売を止めても広域市場の価格は変わりにくいでしょう。

一番町計画の竣工予定は2030年です。今回の要請による転売件数への効果が本格的に表れるのは、その後になります。足元の住宅費負担を軽減する即効策にはならず、既存住宅の活用、賃貸住宅の安定供給、子育て世帯への支援などとの組み合わせが不可欠です。

地域社会への効果も価格とは分けて考える必要があります。千代田区第4次住宅基本計画によると、区内には2023年時点でマンションが509棟あり、うち203棟は築30年以上でした。区は、所有者が管理組合へ参加し、長期的な維持管理を担うことを重要課題に掲げています。

投機的な所有や空室が多ければ、理事の選任、修繕計画の合意、管理費の回収、防災活動などが難しくなります。5年特約に意義があるとすれば、価格を押し下げる点だけでなく、居住意思を持つ所有者を増やし、将来の管理不全リスクを抑える点です。その効果を確認するには、転売率だけでなく、入居率や管理組合への参加状況まで追跡しなければなりません。

財産権と政策の公平性を巡る三つの論点

第一の論点は、財産権への制約が目的に見合っているかです。引き渡し後の住戸は購入者の私有財産であり、売却できない期間が長いほど生活上のリスクは高まります。例外要件、違反時の負担、審査期間を契約前に開示し、自己居住者のやむを得ない売却と投機的な転売を区別する設計が必要です。

第二の論点は、行政判断の公平性です。容積率緩和という公的便益を受ける開発に限定して条件を求める考え方は、対象を無制限に広げるより説明しやすいものです。ただし、企業名や物件ごとの交渉で条件が変われば、行政の裁量が過大になります。今後の総合設計や再開発には、販売開始前の転売防止計画、購入戸数制限、例外基準を共通の評価項目として示すべきです。

第三の論点は、価格上昇から得られる税収と地域負担のずれです。23区内の固定資産税は、区ではなく東京都が都税として課税します。その一部は都区財政調整制度を通じ、各区の財政需要などに応じて配分されます。高額物件の資産価値が上昇しても、その固定資産税が千代田区の歳入として同額戻る仕組みではありません。

一方、人口増加に伴う教育、防災、福祉、地域コミュニティー支援は区の行政需要になります。居住実態のない住戸では税負担があっても、管理不全への対応や地域活動の担い手不足という別の費用が生じます。自治体財政の観点では、物件価格や税収の大きさだけでなく、継続的な居住が地域サービスを支える効果まで評価する必要があります。

神戸市では、タワーマンションの空き住戸に対する法定外税の可能性が検討され、2026年7月に有識者の答申が公表されました。転売を止める千代田区方式と、非居住という状態に負担を求める方式では政策目的が異なります。今後は、国が担う譲渡所得課税、都が担う取引実態の把握、区が担う住宅・マンション管理政策を組み合わせることが重要です。

自治体が追跡すべき住宅政策の成果指標

個別要請を一過性の話題で終わらせないため、千代田区は対象物件の1年、3年、5年以内の転売率、複数住戸取得の割合、所有者の居住状況、例外承認件数、管理組合への参加状況を匿名化して公表すべきです。規制対象外の物件とも比較すれば、特約の効果と市場全体の変化を区別できます。

購入を検討する人は、転勤や相続時の例外、賃貸への転用、住宅ローン返済が困難になった場合の扱い、違約金の有無を契約前に確認する必要があります。事業者にも、販売広告の早い段階から条件を明示する責任があります。

今回の個別要請は、都心マンション高騰を一挙に解決する規制ではありません。公的な容積率緩和によって生まれる開発利益に、居住の安定という地域価値をどう組み込むかを試す政策実験です。転売件数だけでなく、誰が住み、誰が建物と地域を支えるのかまで検証してこそ、他の開発にも適用できる住宅政策になります。

参考資料:

田
田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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