マンション空室税は効くか、海外三制度と神戸新税案の実効性を検証
空室・非居住・短期転売を分ける政策設計
マンション価格が上がる一方、夜になっても明かりのつかない住戸が目立つ都市では、住宅を「住む場所」へ戻す政策が課題になっています。ただし、長期空室、セカンドハウス、賃貸募集期間中の住戸、短期転売は、それぞれ原因も有効な対策も異なります。
総務省の2023年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は900万2,000戸、空き家率は13.8%でした。このうち共同住宅の空き家は502万9,000戸ですが、その78.5%は賃貸用です。全国の空き家数を、そのまま投資目的で放置されたマンションの数とみなすことはできません。
一方、国土交通省の登記情報分析では、2024年に取得後1年以内で売買された新築マンションの割合が東京23区で9.7%、都心6区で12.1%、神戸市で9.1%に達しました。住宅の利用促進と投機抑制を両立するには、誰が所有するかより、住戸がどう使われ、どの程度の期間で売買されたかを測る制度が重要です。
スペインと豪州が選んだ保有コストの強化
バルセロナの優先購入権と恒久的公的住宅化
スペイン・カタルーニャ州の優先購入権は、一般の住宅取引を一律に禁止する制度ではありません。住宅需給が逼迫した区域で、大規模な法人所有者が住宅を売却する場合などに、州政府が民間買主と同じ条件で先に取得できる仕組みです。行政への通知を欠いた取引には、売買後に買い戻す権利も認められています。
2025年の州法改正では、対象住宅を優先購入権で取得した場合、原則として恒久的な保護住宅に位置づけることになりました。その後の売却価格も、行政の取得価格に物価変動を反映した水準が上限となります。行政が一度取得した住宅を、再び投機市場へ戻りにくくする構造です。
バルセロナ市も独自条例を整備し、10戸を超える建物、空き住戸、脆弱な居住者がいる物件、ジェントリフィケーションの懸念がある地域を優先対象としています。市が直接購入するだけでなく、入居者や非営利団体へ権利を譲ったり、共同取得したりする方法も設けました。
市の公表によると、これまでに取得した公的住宅は1,600戸を超え、このうち315戸超が優先購入権によるものです。新規建設が難しい高密度市街地では、既存住宅を公的ストックへ転換できる点が強みです。ただし、購入予算がなければ権利を行使できず、高値で買い取れば公費が売り手の利益を支えるという批判も避けられません。
ビクトリア州の累進空室税とBC州の転売税
オーストラリア・ビクトリア州の空室税は、2025年から州全域へ拡大されました。前年のうち6か月を超えて空いていた住宅には、建物を含む不動産評価額に対し、課税初年度1%、連続2年目2%、3年目以降3%が課されます。
評価額100万豪ドルの住宅なら、単純計算で負担は初年度1万豪ドル、2年目2万豪ドル、3年目以降3万豪ドルです。長期間空けるほど保有コストが増すため、賃貸、売却、入居のいずれかを選ばせる圧力が強まります。2026年からは、メルボルン都市圏で開発可能なまま5年以上放置された住宅用地も対象になりました。
もっとも、休暇用住宅、工事・改修中の物件、所有権が移転した住戸などには一定の免除があります。空室であることを所有者が申告する仕組みも制度上の弱点です。州議会予算局は制度拡大前、課税対象となり得る物件を約5,000戸と推計した一方、実際に自己申告していたのは約900戸と指摘しました。
州議会の監視委員会も、空室税が売却や賃貸供給、住宅価格に与えた効果を政府が十分に公表していないと問題視しています。税率の高さだけでなく、電力・水道使用量や賃貸契約情報をどこまで照合できるかが実効性を左右します。
空室税とは別に、カナダのブリティッシュコロンビア州は2025年から短期転売税を導入しました。取得後365日以内の売却益には20%を課し、その後は税率を段階的に下げ、730日でゼロにします。離婚、病気、失業、転勤などには例外があり、実需によるやむを得ない売却と投機を分ける設計です。
空室税は「使わずに持ち続けるコスト」を上げ、転売税は「短期間で売り抜ける利益」を削ります。両者を混同すると、空室は減っても短期売買が増える、転売は減っても住戸が賃貸市場に出ないといった政策の隙間が生じます。
神戸が目指す都心マンション税の制度輪郭
都心の非居住割合が示す局地的な需給ずれ
神戸市の有識者検討会は2026年7月、都心の区分所有マンションにある非居住住戸へ法定外普通税を課す方向性を答申しました。市が条例化の検討に着手した段階であり、税率や施行時期まで確定した新税ではありません。
市が住民基本台帳と固定資産課税台帳を住戸単位で照合したところ、中央区の都心機能誘導地区では非居住割合が18.95%でした。中央区の地区外は8.12%、他区はおおむね4~7%台であり、市内一律の問題ではなく、需要の強い都心に集中した現象です。調査対象は1,134棟、8万8,467戸に及びます。
タワーマンションでは高層階ほど住民登録のない住戸が増え、40階以上では約33.7%でした。しかし、都心では通常の分譲マンションにも同様の傾向があります。このため、答申は高さや階数ではなく、都心にある区分所有住宅かどうかを基準にしました。
国外居住の所有者は、都心機能誘導地区内のタワーマンションでも1.18%が最高でした。国外住所は国籍を示すものでもありません。空室問題を外国人所有だけに帰すると、国内法人、投資家、相続、セカンドハウスといった主要な要因を見落とします。
タワマン限定を外した答申の制度合理性
答申が戸建てを除いた理由は、空家特措法による勧告や住宅用地特例の解除など、既存の対応手段があるためです。マンションの一住戸だけが空いていても建物全体は管理されており、従来の空き家制度では介入しにくいという制度上の隙間があります。
分譲マンションは、所有者が住んでいなくても管理費や修繕積立金を払っていれば、外見上の管理不全は表れにくい物件です。しかし、非居住所有者が増えると、総会の定足数、修繕積立金の増額、専有部分への設備点検、災害時の安否確認で問題が生じます。
神戸市の関係団体ヒアリングでは、空室でも所有者と連絡が取れ、委任状が出ていれば管理上の問題は少ないとの見方も示されました。したがって、非居住であることだけを建物管理上の害とみなすのではなく、住宅ストックの利活用促進を課税目的の中心に置く答申は合理的です。
国土交通省の最新調査も、投機を国籍だけで説明できないことを示しています。2024年の東京23区では、100戸以上の大規模マンションの短期売買割合が9.0%で、それ以外の2.9%を大きく上回りました。短期売買件数の8割超は法人による取引でした。
都市別では神戸市の短期売買割合が9.1%だったのに対し、札幌市は1.8%、福岡市は1.9%でした。地方中核都市へ投資資金が流れていても、すべての都市で同じ速さの転売が起きているわけではありません。供給された物件の規模や登記時期による変動も踏まえる必要があります。
空室判定と課税水準に残る未決事項
答申は生活の本拠がない住戸を課税対象とし、住民票、税務資料、文書照会、現地調査を組み合わせる考え方を示しました。住民票がなければ直ちに空室とする制度ではありません。水道使用量の分析では、住民登録がなくても一定の利用実態がある住戸が確認されています。
一方、少量の水道使用が本人の居住を示すのか、管理会社による清掃なのかを自動判定することは困難です。二地域居住、介護、長期入院、建て替え決議後の退去、改修中の住戸など、課税すべきでない事例を条例で細かく整理する必要があります。
税率は未定で、答申は京都市方式を参考に挙げるにとどまります。京都市は家屋評価額に対する0.7%の家屋価値割と、立地を反映する0.15~0.6%の立地床面積割を組み合わせました。ただし、京都市の課税開始もシステム開発の影響で2030年度へ延期されています。
神戸市が法定外普通税を導入するには、条例の整備に加え、地方税法に基づく総務大臣との協議・同意が必要です。固定資産税と課税標準が重なり、負担が著しく過重にならないかも審査対象になります。答申は制度の骨格であり、導入決定そのものではない点に注意が必要です。
自己申告と住宅供給効果を巡る三つの壁
居住実態を捕捉する行政コスト
第一の壁は、課税対象を見つける費用です。神戸市の答申が整理した京都市の想定では、初年度の税収約8億6,000万円に対し、徴税費用は約6億円です。平年度でも税収約9億5,000万円、徴税費用約2億円が見込まれており、空室判定には相応の行政資源が必要です。
住民票だけに頼れば、形式的な住所移転による回避を招きます。電気・水道、登記、賃貸借、民泊、法人情報を連携させれば精度は上がりますが、個人情報の利用根拠や誤判定時の不服申立てを整備しなければなりません。
課税だけでは増えない利用可能住宅
第二の壁は、課税対象の住戸が市場へ出ても、地域の家計が購入・賃借できるとは限らないことです。高額な都心物件が売却されるだけなら、所有者が入れ替わっても住宅難の解消効果は限定されます。
バルセロナが優先購入権に加え、公的住宅の建設や既存住宅の取得を組み合わせているのはこのためです。カタルーニャ州の公的住宅計画には年間11億ユーロの投資が盛り込まれています。税制は供給政策や改修支援と一体でなければ、利用可能な住宅の純増にはつながりにくい制度です。
境界線が生む公平性と市場のゆがみ
第三の壁は、対象地域や建物形式による公平性です。都心の分譲マンションだけに課税すれば、投資需要が区域外、戸建て、一棟賃貸、ホテル型商品へ移る可能性があります。売却が集中すれば、中古価格や再開発事業の採算にも影響します。
一方、市内全域を対象にすると、需要が弱く貸したくても借り手がいない郊外住宅まで負担を負います。神戸案には、非居住割合と住宅需要がともに高い都心へ絞り、利用転換が可能な住戸へ働きかける利点があります。制度導入後は区域外への投資移動も含めて検証する必要があります。
所有者と自治体が制度化前に確認すべき指標
神戸市が新税を具体化する際は、税収額だけでなく、課税後に居住、長期賃貸、売却へ移った住戸数を公表することが重要です。免除件数、調査費用、不服申立件数、周辺の家賃・中古価格、管理組合の総会参加率も政策効果を測る指標になります。
所有者は、住民票だけでなく、実際の利用日数、賃貸募集、改修工事、電気・水道使用、管理組合との連絡履歴を残す必要があります。管理組合も、国外・市外所有者の国内連絡先や代理人、緊急時の入室方法を更新しておくべきです。
海外制度が示すのは、空室税だけでマンション問題を解決できるという結論ではありません。長期保有には累進課税、短期転売には利益課税、取得機会には優先購入権という役割分担が要点です。神戸市には、国籍ではなく利用実態に着目し、徴税費用を上回る住宅・管理上の成果を検証できる制度設計が求められます。
参考資料:
- 神戸市「居住と税制のあり方に関する検討会」
- 神戸市「居住と税制のあり方に関する検討会 答申」
- 国土交通省「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果」
- 国土交通省「新築マンションの取引実態の調査・分析」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
- バルセロナ市「優先購入権条例」
- スペイン官報「カタルーニャ州住宅・都市計画緊急措置令」
- カタルーニャ州「5万戸住宅計画」
- ビクトリア州歳入庁「空室住宅用地税の現行税率」
- ビクトリア州歳入庁「2024~25年度の制度変更」
- ビクトリア州議会予算局「空室住宅用地税」
- ビクトリア州議会「財政・業績調査報告書」
- ブリティッシュコロンビア州「住宅短期転売税」
- 京都市「非居住住宅利活用促進税についてよくある質問」
- e-Gov法令検索「地方税法」
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