マンション高騰抑制へ短期転売規制案を検証、住宅政策の課題と選択肢
統一地方選を見据えた住宅高騰対策の焦点
自民党は大都市圏のマンション高騰を抑える対策の検討に入り、短期転売への対応を主要論点に据えました。2027年4月の統一地方選を視野に、住宅を必要とする現役・子育て世帯が都市に住み続けられるかが、地方政治でも問われる構図です。
問題は、価格上昇を投機だけで説明できない点にあります。再開発が進む都心では、建設費、用地費、住宅以外の用途との土地取得競争、共働き世帯などの需要が重なります。短期転売を抑える措置は必要でも、それだけで取得可能性が回復するとは限りません。
政策を評価する際は、転売規制の厳しさではなく、実需層に住戸が届くか、賃貸を含む選択肢が増えるか、自治体の負担と便益が釣り合うかを併せて見る必要があります。
登記データが映す都心大規模物件の短期転売
一年以内転売を捉える登記分析
国土交通省は2026年9月、不動産登記情報と民間の価格データを用い、三大都市圏と地方4市の新築マンション約57万戸、移転登記約150万件を調査しました。ここでいう短期売買は、保存登記から1年以内に移転登記がなされた取引です。購入意図を直接調べた調査ではなく、取引の動きを客観的に捉える基礎資料と位置付けるべきです。
調査では、東京都を中心に神奈川県、大阪府、兵庫県の一部で短期売買の比率が高く、増加傾向も見られました。地域の中心部ほど比率が高い、または上昇する傾向がある点は、交通利便性や再開発の希少性が資産取引を呼び込みやすいことを示します。
東京23区の専有面積40平方メートル以上の物件では、2024年に大規模マンションの短期売買割合が9.0%となり、大規模でないマンションの2.9%を上回りました。大規模物件は販売戸数が多く、注目度も高いため、購入時点で値上がりを見込む取引が集まりやすいとみられます。
ただし、この数字をそのまま「9%が投機目的」と読むことはできません。転勤、家族構成の変化、資金計画の見直しなど、短期間で売却せざるを得ない事情も存在します。規制対象を一律に広げれば、実需の住み替えまで萎縮させる可能性があります。
平均値と中央値で異なる価格の実像
高騰の深刻さは、新築分譲マンションの中央値にも表れています。不動産経済研究所によると、2025年の東京23区の新築マンション価格は中央値が1億1380万円となり、前年比27.3%上昇しました。平均価格も1億3613万円で過去最高を更新しています。
中央値は、超高額住戸の供給に大きく左右される平均値よりも、販売価格帯の中心を把握しやすい指標です。中央値まで1億円を超えたことは、一部の高級タワーマンションだけの現象ではなく、建設コストや用地費が広い価格帯に波及していることを示唆します。
都心6区に限ると、2025年の中央値は1億7000万円、平均価格は1億9503万円です。都心の超高額物件の供給量は平均価格を大きく動かしますが、中央値の上昇も続いています。供給される物件の構成変化と、個々の住戸の価格上昇を切り分けて検証することが欠かせません。
政府も、資材価格・労務費の上昇、開発適地の減少、ホテルなどとの用地取得競争を供給面の要因として挙げています。需要面では、再開発による都市の魅力向上、都市部への人口流入、立地に優れた住戸を求める共働き世帯の増加を指摘しています。
したがって、短期転売は価格を押し上げる一因となり得ても、唯一の原因ではありません。売買規制だけに政策資源を集中すれば、コスト上昇や供給不足という本体の問題を取り残します。政策の成否は、短期転売比率の低下だけでなく、供給戸数、価格帯別の成約状況、賃料、居住実態を継続的に公表できるかに左右されます。
税制と自治体要請で問われる実効性の設計
五年区分に基づく現行譲渡課税
現行の税制でも、土地・建物を売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら、短期譲渡所得として課税されます。国税庁によると、所得税は30%、住民税は9%で、復興特別所得税を含めると税負担はおおむね4割です。長期譲渡所得の税率とは明確な差があります。
与党内では、この短期譲渡への税率をさらに引き上げる案が浮上しています。利益を短期間で得る取引の期待収益を下げる点では、税制は分かりやすい手段です。購入時に再販売益を織り込む投資家ほど、保有期間や価格設定を見直す動機が強まります。
一方で、税率引き上げの対象を「5年以下」と広く設定する場合、転勤や介護、離婚、ローン返済の困難など、生活上の事情による売却にも影響します。投機抑制を目的とするなら、居住実態、保有目的、事業者による複数戸取得といった要素をどう扱うかが制度の要です。
高い税率は、売却を先送りさせて中古市場の流動性を落とす副作用もあります。購入希望者に住戸が回ることが目的なら、税収を増やすだけでは足りません。課税後に売り物件が増えたのか、実需の購入者が増えたのか、賃料に転嫁されていないかまで追跡する必要があります。
国会答弁でも、住宅価格の上昇には複数の要因が複雑に絡み、投機取引や国外からの取得だけの影響を特定するのは難しいとされています。税率を決める前に、対象地域、物件規模、保有期間、売却理由ごとの実態を明らかにすることが、制度への納得を得る前提になります。
再開発許認可を使う自治体の対応
自治体は、国の税制を待たず、都市開発の許認可と事業者への要請を組み合わせ始めています。千代田区は2025年7月、総合設計などを活用する再開発事業で販売するマンションについて、引き渡しから原則5年間の転売を禁じる特約を付けること、同一名義による複数戸購入を禁じることを不動産協会に要請しました。
この方式の特徴は、区が都市開発による容積率緩和などの公共的な便益を与える場面で、地域への還元を求める点にあります。法律で全国一律に規制する前に、再開発の利益と住環境への負担を最も把握しやすい自治体が、地域条件に応じて対応できます。
新宿区はさらに踏み込み、都市開発諸制度などを用いる100戸以上の大規模分譲マンションを対象に、短期売買抑制策の届出と協議を求める要綱を2026年4月に施行しました。事業者に計画段階から対策を説明させ、必要に応じて履行状況の報告も求める仕組みです。
ただし、要請や特約の実効性は、違反時の扱い、例外事由、転売先まで含む管理の方法で決まります。過度に硬直的な特約は、転勤などで住み替える世帯に不利益を及ぼし、売買契約の複雑化や供給事業者の負担増につながりかねません。
自治体にとっては、価格だけでなく、居住実態のない住戸が増えた場合の管理組合運営、防災、地域コミュニティー、学校や保育の需要変化も重要です。再開発で人口と資産価値が増えても、行政サービスの需要と税収の帰属が一致するとは限りません。許認可の条件として求める対策は、地域の公共負担を可視化する仕組みと一体にすべきです。
国が設ける税制と、自治体が再開発事業に求める契約上の対策は、役割が異なります。前者は全国的な投機の抑止、後者は地域の住環境と供給の質の確保です。二つを重ねる場合も、対象を明確に分け、同じ取引への過重な負担を避ける設計が求められます。
供給制約と賃貸支援を併せる政策の条件
価格抑制策の副作用と検証指標
マンション購入を巡る議論では、国外に住所がある取得者への関心が高まりやすいものの、住所地と国籍、居住実態、投機目的は同じではありません。国土交通省の最新調査は、都心6区で国外に住所がある者による2億円以上の物件の活発な取得や短期売買の傾向は特に見られないとしています。
同調査では、氏名から外国人と類推される者によるマンション取得割合も、都心6区で前年より低下しました。特定の属性を一括りにした規制ではなく、国内外を問わず実需を伴わない複数戸取得や短期転売という行動に着目する方が、公平性と実効性を両立しやすくなります。
検証の指標には、短期転売割合だけでなく、価格帯別の新規供給、実需層の契約割合、空室率、管理組合の運営状況、賃料の変化を含めるべきです。規制によって新築販売が鈍れば、かえって希少性が高まり、既存物件を含む相場を押し上げる可能性もあります。
賃貸を含む居住支援の持続性
購入支援だけでは、都心に住み働く人の問題を解けません。総務省の2025年家計調査では、二人以上の勤労者世帯の月間実収入は65万3901円でしたが、実質では前年を0.9%下回りました。全国平均ではあるものの、物価と住宅費の上昇を所得の伸びだけで吸収しにくい状況を示します。
東京都は、民間活力や既存ストックを活用し、子育て世帯などが手頃な家賃で住める「アフォーダブル住宅」の供給誘導を進めています。購入価格を下げる施策と並行して、通勤、子育て、介護に対応できる賃貸の選択肢を増やすことが、人口を支える都市政策になります。
重要なのは、住宅を資産として保有する人と、賃貸で柔軟に住み替える人を対立させないことです。短期転売の抑制で得られる便益、再開発による負担、低廉な住宅供給に必要な公的支援を、同じ政策パッケージとして示す必要があります。
住まいの選択肢を広げるための確認事項
今回の検討は、都心マンションを金融商品として扱う取引と、生活の基盤としての住宅をどう両立させるかを問うものです。大規模物件で短期転売が目立つというデータは対策の根拠になりますが、価格上昇の原因は建設費、用地、供給、需要にまたがります。
購入を検討する世帯は、平均価格の見出しだけで判断せず、中央値、販売戸数、修繕・管理費、将来の住み替え可能性を確認したいところです。賃貸を選ぶ世帯も、更新時の家賃、通勤時間、子育て支援などを含めて住居費全体を比較することが重要です。
国と自治体には、規制導入後の成果を定期的に公開する責任があります。短期転売が減っても、実需層の選択肢や地域の居住環境が改善しなければ政策目的は達成できません。税制、再開発、賃貸支援をつなぎ、住み続けられる都市をつくれるかが次の焦点です。
参考資料:
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