日本の中間層はなぜ痩せたのか最新データで読む賃金停滞と企業分配
所得中央値405万円と企業最高益のねじれ
「中流消滅」という言葉は刺激的ですが、最近の統計を並べると、誇張だけでは片づけにくい現実が見えてきます。厚生労働省の2023年調査では、2022年の1世帯当たり平均所得は524万2,000円、中央値は405万円でした。しかも所得階級では100万円以上400万円未満が42.0%を占め、家計の厚みは想像より薄くなっています。
一方で企業側を見ると、財務省の法人企業統計では2024年度の経常利益が114兆7,288億円と過去最高でした。利益が拡大しているのに、家計の安心が戻らない。このねじれを理解しないと、日本の格差と成長停滞は読み解けません。この記事では、家計、雇用、企業分配の3つのデータをつなぎ、中間層が細ってきた構造を整理します。
中間層縮小を示す家計と雇用の断面
所得分布と相対的貧困の断面
中間層の縮小を考えるとき、平均値だけを見ると実感を誤ります。JILPTが紹介した厚労省の2023年「国民生活基礎調査」では、2022年の1世帯当たり平均所得は524万2,000円でしたが、中央値は405万円にとどまりました。分布のボリュームゾーンも100万〜400万円未満に集まり、いわゆる「真ん中」の厚みが下側へ寄っている構図です。
貧困指標でも同じ傾向が確認できます。厚労省の2022年大規模調査では、相対的貧困率は15.4%でした。単純に言えば、6〜7人に1人が貧困線を下回る水準です。子どもの貧困率は11.5%まで改善したものの、生活意識では51.3%の世帯が「苦しい」と答えており、物価上昇前から家計の余力は強くありませんでした。
ここで重要なのは、貧困が一部の失業者だけの問題ではない点です。就業していても所得が伸びず、社会保険料や食料品価格の上昇で可処分所得が削られると、中間層は急速に薄くなります。日本の格差は、失業の多さより、働いても家計が厚くなりにくい構造に表れています。
非正規雇用と賃金差の断面
雇用面では、非正規化が中間層の弱体化を長く押し広げてきました。総務省の労働力調査によると、2024年平均の非正規の職員・従業員は2,126万人でした。比較可能な2013年以降で正規雇用も増えているとはいえ、非正規雇用の規模自体は依然として大きく、日本の雇用の土台に組み込まれたままです。
しかも問題は人数だけではありません。国税庁の2024年分民間給与実態統計調査では、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円でしたが、正社員は545万円、正社員以外は206万円でした。非正規の年収水準は正社員の4割弱にとどまり、雇用形態の差がそのまま生活水準の差になっています。
もちろん、非正規を選ぶ理由は一様ではありません。2024年平均で最も多かった理由は「自分の都合のよい時間に働きたいから」で731万人でした。ただ、男性では「正規の職員・従業員の仕事がないから」が89万人おり、選択の自由だけで説明できない層も残っています。柔軟な働き方の拡大と、低賃金の固定化は別問題として切り分ける必要があります。
企業収益拡大と分配の遅れ
利益最高更新と内部留保の厚み
企業業績は明らかに改善しています。財務省の年次別法人企業統計調査によると、2024年度の全産業の売上高は1,692兆4,018億円、経常利益は114兆7,288億円で、いずれも過去最高でした。2023年度時点でも経常利益は106.8兆円、利益剰余金は601.0兆円、現金・預金等は321.3兆円と高水準です。
利益が増えること自体は悪い話ではありません。問題は、その果実がどこへ向かうかです。内閣府の2024年度国民経済計算年次推計では、労働分配率は69.5%でした。コロナ禍の特殊要因があった2020年度の74.3%と単純比較はできませんが、企業収益の拡大ほど雇用者報酬が厚くなっていない事実は確認できます。
「企業の罪」という言い方をそのまま使うなら、利益を上げたことではなく、正規雇用の置き換えや賃上げの慎重姿勢を通じて分配の回復を遅らせた点にあります。とくに価格転嫁しやすい大企業と、賃上げ原資を確保しにくい中小企業の差が広がると、企業部門の好調さは家計全体の改善へつながりません。
賃上げの広がりと実質賃金の壁
足元では賃上げの流れ自体は強まっています。帝国データバンクの2026年度調査では、63.5%の企業が賃金改善を見込み、ベースアップ実施予定も58.3%でした。企業側に人手確保の必要があるため、賃上げの裾野は確かに広がっています。
それでも家計が豊かになった実感が弱いのは、実質賃金が戻り切っていないからです。厚労省の毎月勤労統計の2025年分では、現金給与総額は前年比2.3%増でしたが、実質賃金指数は1.3%減で4年連続のマイナスでした。OECDも、2021年1〜3月期から2025年1〜3月期までに日本の実質賃金が累計2%低下したと指摘しています。
つまり、日本企業は「賃上げをしていない」のではなく、「利益増と物価上昇に見合うほどには賃上げできていない」のです。この差が、中間層の再生を遅らせています。名目賃金が増えても、食品、住居関連、社会保険料負担を差し引いた後の生活余力が細れば、統計上の増収は安心に変わりません。
非正規化と内部留保が残す分配課題
このテーマで避けたいのは、企業だけを単独犯にする見方です。高齢化による世帯構成の変化、税と社会保険料の負担、長引く低成長、物価上昇も、中間層を細らせた大きな要因です。平均所得の低下には、高齢者世帯の増加も影響しています。
ただし、それでも企業の役割は軽くありません。採用を非正規へ寄せたこと、利益の配分先を賃金より内部留保に傾けたこと、取引先へ十分な価格転嫁を回し切れなかったことは、格差の固定化を後押ししました。今後の焦点は、ベースアップの継続だけでなく、正規転換、職務に見合う賃金表への改定、下請けを含む価格転嫁の定着、人への投資の拡大に移るはずです。
企業収益を賃金と人材育成へ流す設計
最新データを並べると、日本の中間層が痩せた背景はかなり明確です。家計側では平均所得より中央値が低く、相対的貧困率は15.4%で、非正規と正社員の年収差は極めて大きい。企業側では利益が過去最高を更新しながら、労働分配と実質賃金の回復はなお鈍い。これが現在のねじれです。
中間層を立て直すには、景気回復を待つだけでは足りません。企業収益を、賃金、正規雇用、人材育成、取引先への適正価格へどう流し直すかが問われています。日本企業の責任は、利益を出すことより、その利益を社会の厚みに変える設計を引き受けることにあります。
参考資料:
- 2022年の平均世帯所得は524万円で前年から3.9%減少|JILPT
- 高齢者世帯は31.2%、世帯数、割合とも過去最高-2022年 国民生活基礎調査(厚労省)|人と仕事研究所
- 令和6年分 民間給与実態統計調査|国税庁
- 労働力調査(詳細集計)2024年(令和6年)平均結果の要約|総務省統計局
- 年次別法人企業統計調査(令和6年度)|e-Stat
- 2024年度国民経済計算年次推計 参考資料|内閣府
- 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報|厚生労働省
- 実質賃金、前年比1.3%減、4年連続マイナス-2025年分 毎月勤労統計調査|人と仕事研究所
- OECD Employment Outlook 2025: Japan|OECD
- 2026年度の賃金動向に関する企業の意識調査|帝国データバンク
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