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KDDIローミング終了で楽天モバイルに迫る自前網転換の正念場

by 山本 涼太
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9月末期限が示す通信競争の転換点

KDDIが楽天モバイルに提供してきた国内ローミングは、2026年9月30日で現行の提供期間を迎えます。公式の公開情報では、提供期間は2019年10月1日から2026年9月30日までで、対象周波数は基本的に800MHz帯です。楽天モバイルが自前の全国網を構築するまでの暫定措置として始まった支援が、いよいよ恒常的な競争条件から外れていく局面に入りました。

重要なのは、単なる契約終了ではなく、携帯4社体制の成熟度を測る節目になっていることです。KDDIはau利用者の品質を守る必要があり、楽天モバイルは低価格とデータ無制限を支える自前網の完成度を問われます。10月以降の焦点は、都市部の支援縮小だけでなく、山間部、観光地、屋内、地下など、人口カバー率だけでは測りにくい場所のつながり方です。

auローミングが支えた楽天の全国展開

暫定支援として始まった800MHz網

楽天モバイルは2020年4月に携帯キャリアとして本格サービスを始めましたが、当初から全国の基地局を一気に整備できたわけではありません。そこでKDDIのau網を借りるローミングが、地方部や自社回線未整備エリアを補う仕組みとして機能しました。KDDI側の公開情報では、このローミングは第4世代移動通信サービスの立ち上げに際した暫定措置と位置づけられています。

技術面で大きいのは、KDDIが基本的に800MHz帯を提供してきた点です。800MHz帯は、700MHz帯や900MHz帯と並んで「プラチナバンド」と呼ばれる低い周波数帯に属します。高い周波数に比べて障害物の裏側や屋内へ回り込みやすく、山間部や建物内での面積カバーに向きます。楽天モバイルが主力としてきた1.7GHz帯だけでは届きにくい場所を、KDDI網が補ってきた構図です。

ただし、ローミングは楽天モバイルにとって万能の解決策ではありません。自社網で通信する利用者が増えればローミング費用を抑えられますが、KDDI網への依存が長く残れば、通信品質の評価が自社投資の成果と混ざります。低価格プランで契約数を伸ばすほど、他社網を借りるコストとトラフィック制御の難しさも増します。通信事業の収益性は、加入者数だけでなく、自前網でどれだけ効率よくデータを処理できるかに左右されます。

2023年協定が広げた都市部と屋内

2023年5月、KDDI、沖縄セルラー、楽天モバイルは新たなローミング協定を発表しました。この協定では、従来対象外だった東京23区、名古屋市、大阪市を含む都市部の一部繁華街が新たに対象に加わり、地下鉄、地下街、トンネル、屋内施設などの一部やルーラルエリアでも提供を続ける内容になりました。提供期間も2026年9月まで延長されました。

この変更は、楽天モバイルの弱点が「人口カバー率」から「実利用の穴」へ移ったことを示しています。2023年時点で楽天回線エリアの4G人口カバー率は98%に到達していましたが、人口カバー率は屋外の面的な到達を示す指標であり、地下街の奥、商業施設の深部、駅間トンネル、ビルの高層階といった体感品質を完全には表せません。都市部の繁華街をローミング対象に加えたことは、利用密度の高い場所ほど品質のばらつきが顧客満足に直結する現実への対応でした。

一方で、KDDI側には自社網の混雑を避ける責任があります。ITmedia Mobileが報じた2026年5月の決算説明会での発言では、松田浩路社長は楽天モバイル向けローミングについて「当初の役割は終えた」との認識を示し、KDDI網へのトラフィックが想定以上になっていることにも触れました。競争相手への支援がau利用者の体感品質を損なえば、KDDIのブランド価値に跳ね返ります。ローミング縮小は、競争政策上の支援から、各社が自社品質で勝負する段階への移行といえます。

自前網転換を急ぐ楽天モバイルの技術課題

700MHzプラチナバンドの効果と限界

楽天モバイルにとって最大の追い風は、700MHz帯のプラチナバンドです。同社は2023年10月に総務省から700MHz帯の割り当てを受け、2024年6月27日に商用サービスを開始しました。楽天モバイルの発表では、1.7GHz帯で全国展開してきたOpen RAN対応の完全仮想化クラウドネイティブネットワークの知見を活用し、700MHz帯でも展開を進める方針です。

700MHz帯の価値は明確です。低い周波数は建物や地形の影響を受けにくく、広いエリアを少ない基地局で覆いやすい性質があります。楽天モバイルがこれまで不得意としてきた屋内、地下、地方部のカバレッジホールを埋めるには、1.7GHz帯の基地局増設だけでなく、低周波数帯をどこに優先投入するかが重要になります。特にローミング終了後は、KDDIの800MHz帯が担っていた最後の受け皿を、楽天自身の700MHz帯がどこまで代替できるかが問われます。

ただし、700MHz帯を持っただけで問題が消えるわけではありません。周波数幅は通信容量に直結し、低周波数帯は広域カバーには強くても、混雑した繁華街やイベント会場で大量のデータをさばくには中高周波数帯や5Gとの組み合わせが欠かせません。楽天モバイルは2024年のプラチナバンド開始時に、5Gエリア拡大、基地局パラメータ最適化、地下鉄や地下街の共用基地局整備、自社4G・5G基地局の拡充を組み合わせる方針を示しました。これは、単一の周波数ではなく、無線設計全体で穴を埋める必要があることを意味します。

契約数拡大が高める設備投資圧力

楽天グループの2026年度第1四半期決算では、楽天モバイルの全契約回線数は2026年3月末時点で1,036万回線となりました。モバイルセグメントの売上収益は1,312億円、楽天モバイル単体の売上収益は1,080億円です。固定資産税費用を含む第1四半期として初のEBITDA黒字化も示され、契約数の増加が収益改善につながり始めています。

同時に、契約数の増加はネットワークへの負荷も押し上げます。楽天モバイルの正味ARPUは2,442円とされ、低価格で大容量利用を訴求するビジネスモデルは、利用者あたりの通信量が増えやすい構造を持ちます。回線数が増えるほど、基地局の収容設計、バックホール、コアネットワーク、屋内対策、障害監視のどれか一つが弱くても体感品質に表れます。

楽天モバイルは「Rakuten最強プラン」プロジェクトで基地局設置情報を継続的に公開し、2026年6月後半にも全国の市区町村で新たな基地局設置を進めたと案内しています。こうした公開は利用者への透明性を高める一方、ローミング終了後には成果がより厳しく測られます。都市部では速度や混雑耐性、地方部では圏外の少なさ、地下や屋内では低周波数帯と共用設備の効き方が評価軸になります。

KDDI側の財務にも見方があります。2026年3月期のKDDI連結売上高は6兆719億円、営業利益は1兆991億円でした。楽天向けローミング収入は一定の収益源になり得ますが、ITmedia Mobileの報道では、KDDIは次期中期経営計画にローミング収入による増収を見込んでいないと説明されています。KDDIにとっては、短期の卸収入よりも、au、UQ mobile、povoを含む自社顧客の通信品質を守る価値が大きいという判断です。

地方部継続協議で残る利用者リスク

現行契約の期限後に最も注意が必要なのは、都市部よりも地方部、山間部、観光地、屋内の境界領域です。KDDIの公開情報では、ローミング対象は全国エリアを基本としつつ、東京23区、名古屋市、大阪市、局所的なトラフィック混雑エリアを除く形で整理されています。さらに地下鉄、地下街、トンネル、屋内施設、観光名所などの一部も対象に含まれます。つまり、問題は都道府県単位ではなく、生活動線の細かな点で発生します。

ITmedia Mobileは、2026年6月以降に都市部を中心にローミングエリアが縮小していると報じました。KDDIの800MHz帯は屋内や地下に届きやすいため、終了した場所では「地図上はエリア内でもつながりにくい」という体感差が出る可能性があります。楽天モバイルの自前網が十分に整った地域では影響は小さい一方、ビルの奥、地下鉄駅間、郊外の商業施設、観光地の混雑時間帯では、利用者ごとの差が大きくなります。

KDDIが示したpovoの副回線案も、この文脈で理解できます。デュアルSIM端末が普及した現在、主回線と副回線を分ける利用者は増えています。楽天モバイルを主回線として使い続けながら、圏外対策としてpovoなどを副回線に置く選択肢は現実的です。ただし、それは楽天モバイルにとって「つながらない場面は他社で補う」という評価にもなります。10月以降の競争は、料金の安さだけでなく、主回線として任せられる信頼性をめぐる競争になります。

10月以降に注視すべき通信品質指標

読者が見るべき指標は、人口カバー率だけではありません。まず確認したいのは、自宅、勤務先、学校、通勤経路、地下駅、商業施設、旅行先での実測品質です。次に、楽天モバイルが700MHz帯をどの地域に優先展開するか、基地局新設がローミング縮小エリアと対応しているかです。さらに、決算ではモバイルのEBITDA、営業損失、ARPU、設備投資額を合わせて見る必要があります。

KDDIと楽天モバイルのローミング見直しは、携帯市場の価格競争が次の段階に入ったことを示します。楽天モバイルは低価格を維持しながら自前網の品質を高められるか。KDDIは自社網の品質優位を守りつつ、povoなどで補完需要を取り込めるか。9月末は終点ではなく、携帯4社がネットワークの実力で再評価される起点です。

参考資料:

山本 涼太

AI・半導体・先端技術・SaaS

AI・半導体・通信などの先端技術とそれを事業化する企業を取材。技術の本質と市場インパクトをわかりやすく解説する。

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