NewsHub.JP
NewsHub.JP

NEC・富士通の基地局事業、MWCで示した生存戦略

by 山本 涼太
URLをコピーしました

NEC撤退と富士通1FINITYの転機

日本の通信機器産業が存亡の危機に立たされています。NECは2026年1月に従来型基地局事業からの撤退を発表し、構造改革費用として180億円を計上しました。京セラも基地局事業から撤退しています。一方、富士通はネットワーク事業を子会社「1FINITY」に分社化し、独立した事業体として再出発を図っています。

こうした逆風のなか、両社は2026年3月にスペイン・バルセロナで開催された世界最大のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2026」に出展し、新たな方向性をアピールしました。従来型ハードウェアから脱却し、ソフトウェアとOpen RANで巻き返しを図る両社の戦略と、日本の通信技術が直面する課題を解説します。

日本の基地局メーカーが直面する苦境

エリクソン・ノキアの壁

世界の基地局市場は、中国のファーウェイ、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアの3社が出荷金額ベースで約8割のシェアを占める寡占状態にあります。日本のNECや富士通は、このグローバル競争のなかで存在感を示すことが困難な状況が続いていました。

転機となったのは、主要顧客であるNTTドコモの調達方針の転換です。ドコモは従来、国内ベンダーを主力として基地局を調達してきましたが、エリクソンの基地局をエリア単位で導入する方針に切り替えました。関係者によれば「国内ベンダーの基地局は古くて重く、工事に手間とコストがかかる」ことが理由とされています。

NECの基地局事業撤退

NECは2026年1月29日の第3四半期決算説明会で、従来型の専用ハードウェアを中心とした基地局の既存事業を終息することを正式に発表しました。4G・5G基地局の機器開発を中止し、4月末までに販売を終了します。

この構造改革に伴い、第3四半期に180億円の損失を計上しています。ただし、NECの藤川CFOは「売上への影響は軽微だが、損益面では年間で50億円強の改善を見込んでいる」と説明しており、赤字体質からの脱却を狙う戦略的判断であることを強調しています。なお、防衛用の基地局開発は継続するとしています。

京セラも撤退、国産メーカー総退場の危機

NECに先立ち、京セラも5G基地局事業からの撤退が明らかになっています。従来型ハードウェアの基地局事業から国産メーカーが相次いで撤退する事態は、日本の通信インフラにおける技術主権の喪失を意味しかねないと懸念されています。

日本から通信技術のノウハウや人材が失われることは、安全保障の観点からも看過できない問題です。通信インフラは経済安全保障上の重要技術であり、海外ベンダーへの完全依存はリスクを伴います。

MWC 2026で示した両社の生存戦略

NECの「AI×6G」ビジョン

NECはMWC Barcelona 2026(3月2〜5日)に「Building an AI-Native Society(AI-ネイティブ社会の構築)」をテーマに出展しました。従来型ハードウェアからの撤退を発表した直後の出展だけに、新しい方向性を示す重要な場となりました。

NECのブースでは、最新のvRAN(仮想化無線アクセスネットワーク)対応5G基地局装置、低消費電力の増幅器モジュール、ネットワーク自動化のためのAIソフトウェアなどが展示されました。NECの戦略は明確です。価格競争が激しい汎用ハードウェアから撤退し、vRAN、Massive MIMO向けの新型無線装置(RU)、Beyond 5G・6G向けの研究開発に経営資源を集中させるという選択です。

NECは2026年度までにvRAN対応基地局を5万局以上展開する目標を掲げています。ソフトウェアで勝負する分野では、ハードウェアの価格競争とは異なる付加価値を提供できる可能性があります。NEC Laboratories Europeのユルゲン・クイテック博士は、MWC会期中のパネルセッション「AI and Us: What Are We Really Building Toward?」に登壇し、AI技術と通信の融合に関するNECの取り組みを発信しました。

富士通・1FINITYの分社化戦略

富士通は2025年7月、ネットワークプロダクト事業を完全子会社「1FINITY」として分社化しました。光伝送装置やO-RAN準拠の5G基地局装置の開発・製造・販売・保守を担う新会社で、グループ会社を含め約4,600人の従業員を擁します。

1FINITYはMWC 2026に出展し、Tier 1(大手)の通信事業者に導入されているO-RAN準拠の無線装置を披露しました。展示された製品は、高密度都市エリア向けのMassive MIMO無線機、広域カバレッジ用の高出力マクロセル、局所的な密度向上のためのコンパクトマクロセル、街路レベルのホットスポット向け屋外スモールセルなど、多様なラインナップです。

分社化の狙いについて、富士通の時田隆仁社長は「より専門的な経営体制を構築し、競争力を強化する」と説明しています。独立した事業会社として機動的な意思決定を行い、グローバル市場での展開を加速させる戦略です。

Open RAN成長市場と6G競争の課題

Open RAN市場は今後大きな成長が見込まれています。市場調査によると、グローバルOpen RAN市場は2024年の約19.4億ドルから2034年には約87.1億ドルに成長し、年平均成長率(CAGR)は16.2%と予測されています。しかし、この成長市場においても、エリクソンやノキアがOpen RAN対応製品で存在感を強めており、日本勢にとって楽観できる状況ではありません。

NECと富士通の通信事業統合の可能性も取り沙汰されています。両社が個別に戦うよりも、経営資源を統合して規模の経済を追求すべきだという声は根強くあります。ただし、企業文化の違いや既存顧客との関係など、統合には多くの障壁が存在します。

もう一つの注目点は6G(第6世代移動通信システム)です。2030年代の実用化が見込まれる6Gでは、通信と計算が一体化した新しいアーキテクチャが求められます。この領域での早期の技術確立が、日本の通信産業が再び世界で存在感を示す最後のチャンスになる可能性があります。

NEC・富士通のOpen RAN生存戦略

NECと富士通は、従来型ハードウェアの基地局事業で苦戦を強いられてきましたが、それぞれの方法で生存戦略を打ち出しています。NECはvRANソフトウェアと6G研究への集中、富士通は1FINITYへの分社化によるOpen RAN事業の強化という道を選びました。

MWC 2026での両社の展示は、「終わったわけではない」というメッセージを世界に発信するものでした。日本の通信技術が生き残るためには、ソフトウェアやAIを軸にした差別化戦略の実行と、場合によっては事業統合を含む大胆な構造改革が求められます。通信インフラは国の安全保障にも直結する基盤技術です。両社の挑戦の行方は、日本の技術主権を左右する重要な試金石となります。

参考資料:

山
山本 涼太

AI・半導体・先端技術・SaaS

AI・半導体・通信などの先端技術とそれを事業化する企業を取材。技術の本質と市場インパクトをわかりやすく解説する。

関連記事

KDDIローミング終了で楽天モバイルに迫る自前網転換の正念場

KDDIの楽天モバイル向けローミングは2026年9月末で現行期限を迎える。都市部縮小、地方部継続協議、700MHzプラチナバンド、自社基地局整備、povo副回線案を整理し、つながりやすさ、設備投資、料金競争、au品質防衛と利用者対策への影響を、通信技術と事業戦略の両面からわかりやすく詳しく読み解く。

熊本地震で発動した災害時JAPANローミング通信網の課題と教訓

2026年7月28日の熊本県熊本地方地震でドコモ、KDDI、楽天モバイルの一部通信に影響が出る中、JAPANローミングがフルローミング方式で提供されました。最大300kbpsのデータ通信やMVNO対応、過去障害から得た教訓、企業と利用者が備えるべき通信冗長化、安否確認手段、現場運用実務の要点を解説。

KDDIの楽天ローミング縮小観測が映す通信インフラ再編の行方

KDDIと楽天モバイルのローミング契約は2026年9月末に期限を迎えます。楽天の契約数1036万件、700MHz帯の展開、KDDIのモバイル収入2兆円規模という数字を基に、協業縮小が地方・屋内の接続品質、5G投資、携帯料金競争へ及ぼす影響を、大手三社と第四の携帯会社の力学から詳しく消費者目線で読み解く。

NECが1万人超SIerを吸収、AI時代に迫るSE雇用再編の怖さ

NECは2026年10月、1万人超のITエンジニアを抱えたNECソリューションイノベータを吸収合併した。国内IT需要が堅調な一方、生成AIは実装・試験の工数を急速に圧縮する。なぜ今、大規模SIerを本体に取り込み、SEをコンサルティングや運用へ移すのか。人月モデルの限界と雇用再編の行方を、決算・人材データから読み解く。

海底ケーブル2.4兆円投資、日本が握る通信主権と経済安保の針路

国際通信の99%前後を支える海底ケーブルで、日本は2040年度まで官民2.4兆円投資を掲げた。NECのマルチコア光技術、敷設船不足、ハイパースケーラー需要、中国勢との競争、陸揚局分散を軸に、同盟国連携と太平洋島しょ国支援、AI時代のデータセンター分散まで含めた通信主権を左右するデジタル経済安保の焦点を解説。

最新ニュース

AIネオクラウド「8割再編」予測 債務膨張と民主旋風の二重苦

AIクラウドの8割超が2030年までに独立運営を終えるとの予測。CoreWeaveは約351億ドルの債務を抱え、四半期利払いは6.4億ドルに達した。中間選挙でデータセンター規制を掲げた民主党候補が躍進した。GPU世代交代、顧客集中、建設遅延が資金繰りを圧迫する構図と、勝ち残る事業者の条件を財務・技術の両面から読み解く。

国債金利上昇が問う積極財政、成長投資と地方財政を測る市場の審判

10年国債の入札平均利回りが2.768%、日銀の政策金利が1.25%となる中、積極財政の成否は歳出額ではなく、民間投資の誘発、生産性、税収、地方の維持費で決まる。金利上昇を財政不信と即断せず、市場の信号と政策効果の検証を組み合わせ、成長投資を持続可能にする条件を自治体財政の視点から実務的に読み解く。

JT株ストップ安、ロシア資産一時管理で問われる経営リスクの備え

JTのロシア製造4社が大統領令で一時管理下に入り、株価は11月6日に6269円まで19.31%急落した。追加措置で対象は7法人へ拡大。売上収益の1割超を担うJTIロシアの経営権喪失が、業績・配当・減損会計・政府保有株に及ぼす影響と、投資家が確認すべき開示項目を企業統治と地政学リスクの視点から詳しく解説する。

三井化学のJSR買収案、1.3兆円投資で半導体材料市場の主役へ

三井化学が半導体材料大手JSRの取得を検討している。報道された買収額は1.3兆円超で、実現すれば国内化学業界最大級のM&Aとなる。フォトレジストやEUV材料を取り込む戦略効果、JICが非公開化から売却へ動く背景、巨額の資金調達と財務規律、市場が警戒した株主価値への影響、統合後の競争力を左右する論点を解説。

米中間選挙ショックで崩れたAI相場、データセンター規制と投資戦略

米中間選挙で民主党が上下両院を奪還し、ナスダック総合は5.5%安、日経平均は一時4300円超下落した。焦点はAI需要の消滅ではなく、データセンターの電力・水・許認可コストである。連邦政治のねじれ、州規制、高金利、企業の資金力を分解し、日本株と米ハイテク株で投資家が見極めるべき重要な選別軸を読み解く。