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高専卒と大卒の生涯賃金差は何万円か最新統計で実像を詳しく解説する

by 渡辺 由紀
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高専・短大卒と大卒の数千万円差

高専卒と大卒では、生涯賃金にどれほどの差があるのか。答えだけを先に言えば、公的推計でみる限り差はゼロではなく、数千万円単位です。ただし、この問いには大きな注意点があります。厚生労働省や労働政策研究・研修機構の主要統計では、高専卒は多くの場合「高専・短大卒」という一つの区分で集計されており、高専単独の公開値が限られます。

それでも、進路判断の材料としては十分に重要です。高専は中学卒業後の5年一貫教育で、実験や実習を重視し、就職率が非常に高い教育機関です。一方、大学卒は入職年齢が遅い代わりに、30代以降の賃金カーブや管理職登用で優位になりやすい傾向があります。この記事では、公的統計と政策資料をもとに、生涯賃金差の水準、差が生まれる構造、そして数字を読むときの注意点を整理します。

公的推計では差はどれくらいあるのか

利用できる代表的な数字は「高専・短大卒」と「大学卒」の比較

労働政策研究・研修機構(JILPT)の「ユースフル労働統計2025」は、2024年時点の賃金水準を使って生涯賃金を推計しています。ここでの学歴区分は「高校卒」「専門学校卒」「高専・短大卒」「大学卒」などで、高専は短大と合算です。この前提でみると、60歳までフルタイム正社員として働くケースでは、男性の生涯賃金は高専・短大卒が2億3850万円、大学卒が2億6280万円で、差は2430万円です。女性は高専・短大卒が1億8110万円、大学卒が2億990万円で、差は2880万円です。

さらに、60歳時点の退職金を受け取り、その後も平均的な引退年齢までフルタイム非正社員で働くケースでは差が広がります。男性は高専・短大卒が3億340万円、大学卒が3億3950万円で、差は3610万円です。女性は高専・短大卒が2億2790万円、大学卒が2億6720万円で、差は3930万円です。クイズ的にまとめるなら、「公的推計では高専卒を含む区分と大卒の差はおおむね2500万〜4000万円程度」と答えるのが最も実態に近いでしょう。

ただし、この数字をそのまま「純粋な高専卒の平均」と見なすのは危険です。高専は工学系や実務技術系の就職が中心ですが、短大は分野構成がかなり異なります。つまり、この区分は高専だけの特徴を完全には表していません。ここは統計の限界として、はっきり意識しておく必要があります。

同じ会社に勤め続ける想定では差の見え方が変わる

JILPTは、転職を平均的に経験するケースだけでなく、「標準労働者」として同一企業に勤め続ける類型も示しています。2024年データでは、60歳まで同じ企業に勤務した場合、男性の生涯賃金は高専・短大卒が2億7300万円、大学卒が2億8970万円で、差は1670万円です。女性は高専・短大卒が2億770万円、大学卒が2億3940万円で、差は3170万円です。

この結果が示すのは、学歴差は常に一定ではなく、転職、企業規模、キャリアコースの違いで見え方が変わるという点です。特に高専卒は、製造業やインフラ、技術職で早期に現場へ入りやすく、大学卒は総合職や研究開発、管理職コースへ進みやすい傾向があります。生涯賃金差は「学歴だけ」で決まるのではなく、学歴が入り口となって職種と企業規模の差につながることで拡大しやすいのです。

なぜ高専卒は就職に強いのに賃金差が残るのか

高専の強みは早い入職と高い就職率にある

国立高等専門学校機構によると、高専は中学卒業後5年間の一貫教育で、実験・実習を重視した実践的な専門教育を行う仕組みです。本科卒業後はそのまま就職する道に加え、専攻科進学や大学編入という選択肢もあります。就職面でも強く、国立高専卒業生の就職率はほぼ100%とされています。文部科学省・厚生労働省の2025年5月23日公表の調査でも、2025年3月卒の高等専門学校就職率は99.6%で、大学学部の98.0%を上回りました。

この「入りの強さ」は高専の大きな価値です。20歳前後で技術者として働き始められるため、大学卒より2年早く賃金を得られます。高専の学費も国立高専では入学料8万4600円、授業料は年額23万4600円で、1〜3年生には高校と同様の就学支援金制度もあります。大学進学は収入面の期待を高める一方、就業開始の遅れや学費負担も伴います。私立大学の2025年度初年度学生納付金は平均150万7647円で、進学には相応のコストがかかります。

つまり、進路選択を考えるときは「大学卒のほうが生涯賃金は高い」という一点だけでは足りません。高専は早く働き始められ、就職の確実性が高く、教育コストも比較的抑えやすいという別の強みを持っています。

差が残る主因は30代以降の賃金カーブと企業規模

それでも生涯賃金差が残るのは、大学卒の賃金カーブが30代以降に伸びやすいからです。JILPTの生涯賃金推計は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の年齢別賃金を積み上げて作られています。大学卒は入職が遅くても、後年ほど賃金が高くなり、その上積みが最終的に高専・短大卒との差につながります。

企業規模の影響も大きい点を見落とせません。JILPTの2024年推計では、男性大学卒の生涯賃金は60歳までで大企業ほど高く、企業規模1000人以上で3億130万円、10〜99人では2億1420万円です。高専・短大卒も企業規模で差が大きく、1000人以上では2億8170万円、10〜99人では1億9490万円でした。学歴差だけでなく、「どの規模の企業に入るか」が生涯賃金を大きく左右します。

ここから一歩踏み込むと、高専卒の実態は一律ではないことも見えてきます。これは公表統計からの推測ですが、短大よりも工学系就職の比重が高い高専単独で見れば、公開されている「高専・短大卒」平均より大学卒に近い可能性があります。反対に、管理職昇進や職種転換で大卒が有利な企業では差が拡大しやすいとも考えられます。高専卒の年収を語るとき、平均値だけで断定しないことが重要です。

高専統計の誤読と次世代分野の需要

よくある間違いは三つあります。第一に、「高専卒は大卒より稼げない」と単純化することです。公的推計では差がありますが、高専卒の就職率、早期入職、技術職としての専門性を無視すると実態を誤ります。第二に、「高専卒は大卒と完全に同条件で比べられる」と思い込むことです。現実には学歴ごとに就く職種や企業規模の分布が異なります。第三に、公開統計の「高専・短大卒」をそのまま高専単独と受け取ることです。

今後は、高専人材への注目がむしろ強まる可能性があります。経済産業省は2024年、洋上風力やバッテリー分野の人材育成で、高専と産業界の連携を強化する方針を打ち出しました。高専機構のCOMPASS 5.0でも、AI、サイバーセキュリティ、半導体、蓄電池など次世代分野の教育パッケージづくりが進められています。製造業の高度化や脱炭素投資が続くなら、実装力のある高専卒の価値はさらに高まるでしょう。

2500万〜4000万円差と進路判断の軸

高専卒と大卒の生涯賃金差は、公的推計では高専を含む「高専・短大卒」区分でみて、おおむね2500万〜4000万円程度です。差はたしかにありますが、統計は高専単独ではなく短大を含むため、そのまま高専卒の平均と断定はできません。

進路判断では、生涯賃金だけでなく、就職率、入職年齢、学費、職種、企業規模まで含めて見る必要があります。高専は「早く専門職として稼ぎ始めやすい」進路であり、大学は「後半の賃金上昇を取り込みやすい」進路です。どちらが有利かは一律ではなく、目指す職種と企業で答えが変わります。数字を読むときは、平均との差ではなく、その差がどこから生まれるのかまで確認することが大切です。

参考資料:

渡
渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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