美的PortaSplit欧州急伸、移動式エアコンが捉えた住宅事情
欧州の猛暑が変えた家庭用冷房の需要曲線
中国家電大手の美的集団が欧州で投入した移動式エアコン「PortaSplit」が、猛暑と住宅事情を背景に急伸しています。2026年の欧州向けToB出荷は20万台を超えたと報じられ、前年から倍増したとされます。美的の欧州向け公式発表でも、2024年の欧州投入以降、累計販売は30万台を超えたと説明しています。
この伸びは一過性の「暑さ特需」だけではありません。欧州では住宅の冷房普及率が低く、賃貸住宅や歴史的建築では外壁工事や室外機設置の制約があります。そこに、工事不要で窓に取り付けられるスプリット型という設計がはまりました。エアコンは家電であると同時に、建物、施工、電力、物流をまたぐインフラ商品になりつつあります。
PortaSplitが住宅制約を商機に変えた設計
PortaSplitの特徴は、一般的な据え付け型スプリットエアコンと、従来の一体型ポータブルエアコンの中間に位置する点です。室内機と屋外側ユニットを分け、窓やバルコニーに設置できる構造にすることで、壁に穴を開けずに冷房性能と静音性を確保します。欧州の住宅では、この「工事をしない」価値が単なる利便性を超えています。
工事不要が刺さった賃貸と集合住宅
欧州の集合住宅では、外壁の見た目、共有部分、騒音、管理組合の承認が冷房導入の障壁になります。フランスの公的情報サイトは、屋外の空調ユニットを設置して建物の外観を変える場合、事前申告が必要になると説明しています。さらに共同所有住宅では、総会での承認が必要になります。
ドイツでも事情は似ています。消費者団体Verbraucherzentraleは、スプリット機器は専門業者が取り付け、外壁に穴を開けて室外機を固定するため、賃借人は大家の許可が必要になると整理しています。猛暑になってから施工を頼んでも、許可と工事待ちで夏が終わる可能性があります。
美的はこの制約を商品要件に置き換えました。窓に対応するブラケット、細い冷媒ホース、専門業者不要の取り付け、引っ越し時に持ち運べる可搬性です。欧州の消費者は、単に安いエアコンを求めていたのではなく、住宅制度に邪魔されず今夜から使える冷房を求めていました。
3.5kWと39dBが埋めた性能差
従来の一体型ポータブルエアコンは、設置しやすい一方で、排熱効率や騒音に不満が出やすい商品でした。PortaSplitは屋外側ユニットで熱を逃がすため、室内の気圧を崩しにくく、部屋全体を冷やしやすいと説明されています。英国向け製品ページでは、冷房能力は1万2000BTU、3.5kW、静音モードは39dBです。
性能表示も欧州市場向けに分かりやすく設計されています。冷房の省エネ等級はA++、暖房はA+で、冷房、暖房、除湿、送風を1台でこなす仕様です。欧州では冷房だけでなく、ヒートポンプを冬の補助暖房として使う関心もあります。夏だけの商品ではなく、年間を通じた室内環境機器として見せられる点が強みです。
この設計は、家電のスペック競争というより、住宅の未整備部分を埋める工業製品です。窓枠、騒音、外観規制、施工費、電気代への不安を一つずつ減らすことで、これまで冷房導入を先送りしていた層を市場に引き込みました。技術の派手さより、制約条件の読み切りが売れ行きを決めています。
品切れを前提に動く供給網
需要の急増は、販売現場にも表れています。複数の欧州市場ではPortaSplitの在庫を追跡するサイトが登場し、スペイン、フランス、英国、オランダ、ドイツの小売在庫を数分単位で確認しています。こうした動きは、商品が「比較して買う家電」から「在庫が出たら押さえる季節商品」に変わったことを示します。
美的の公式発表は、需要が一部市場で供給を上回り、流通パートナーと補充に取り組んでいると説明しています。これは供給網にとって難しい局面です。エアコン需要は熱波のニュースで急増しますが、在庫を持ちすぎると冷夏や秋以降に余剰になります。生産、輸送、小売配分を短い販売窓に合わせる力が問われます。
中国メーカーの強みは、この短期変動への対応力です。製品の企画だけでなく、部品調達、組み立て、コンテナ手配、小売への補充までを速く回せます。欧州企業が施工業者の能力に依存しがちな据え付け型で戦う一方、美的は「箱で届き、消費者が設置する」商品にすることで、販売速度を上げました。
中国製造業の欧州攻略を支える供給力
PortaSplitの伸びは、美的単体のヒット商品にとどまりません。中国製の冷房機器が欧州の気候変化と住宅制約に合わせて市場を広げる構図です。中国税関データを引用した報道では、2026年上半期の中国からEU向けエアコン輸出は37億6000万ドルとされ、前年同期比43.2%増でした。携帯型エアコンの輸出は70%超伸びたと報じられています。
広州南沙から欧州へ向かう緊急物流
需要急増に対して、美的は広州・南沙の生産拠点で専用ラインを動かし、残業生産と輸送の前倒しで対応していると報じられています。人民網によると、2026年7月10日には広州国際港から中国欧州貨物列車が出発し、エアコンなど55コンテナを欧州へ運びました。4~6月には携帯型エアコンと主要部品が鉄道で10万台超、金額で約5200万ドル分輸送されたとされます。
鉄道輸送は、海上輸送より高くても航空便より安く、納期を短縮できます。猛暑期の商品では、この差が販売機会を左右します。欧州の小売棚が空になっている時期に2週間前後で補充できれば、価格を大きく上げずに売上を取れます。単なる工場の増産力だけではなく、物流モードを選び替える能力が競争力になります。
製造業の視点では、これは「欧州向け高付加価値品を中国で作る」だけの話ではありません。需要の立ち上がりを現地販売網で把握し、中国の生産拠点へ戻し、鉄道や港湾で欧州へ再投入する循環です。季節商品の供給網をリアルタイム化できる企業ほど、異常気象時の市場を取りやすくなります。
Mideaの欧州現地化とTEKA統合
美的は以前から欧州事業の現地化を進めています。2025年年次報告では、欧州でTEKAの買収を完了し、研究開発、製造、販売、チャネルの相乗効果を高める「In Europe, for Europe」戦略を進めたとしています。同報告書は、欧州で2024年に発売したPortaSplitが2025年に爆発的成長を遂げ、現地需要の洞察を反映した商品だと説明しています。
ここで重要なのは、PortaSplitが中国本社だけで考えた輸出品ではない点です。美的はドイツの研究開発拠点や欧州のデザイン資源を活用し、窓の形状、賃貸文化、施工制約を製品仕様に取り込んでいます。欧州の住宅は国ごとに窓の形も規則も異なります。標準品を大量輸出するだけでは、使い勝手の壁にぶつかります。
美的の2025年売上高は4585億元、海外売上高は1959億元です。海外売上は全体の4割超を占め、同社は世界各地の販売、製造、サービス網を拡充しています。PortaSplitの成功は、低価格輸出から、地域別の生活課題を解く製品へ移る中国家電メーカーの転換を象徴しています。
既存HVAC大手との競争軸
欧州の空調市場は、美的だけの独壇場ではありません。ダイキン欧州は2025年度にEMEAで52億5000万ユーロの売上高を記録し、過去最高と発表しました。ドイツや英国では冷房需要の増加がエアコン需要を押し上げたとも説明しています。既存大手は施工網、サービス体制、業務用・住宅用の幅広い製品で強みを持ちます。
ただし、PortaSplitが切り開いた市場は、従来の施工型エアコンとは購入動線が異なります。店頭やECで買い、専門業者を待たずに設置する商品です。ダイキンなどのHVAC大手は、効率や環境性能に優れた固定式・ヒートポンプで強い一方、賃貸や短期需要をどこまで取り込むかが課題になります。
競争軸は、冷房能力だけではありません。外観規制を避ける設計、設置説明の分かりやすさ、小売在庫の可視化、故障時の交換対応、越境ECと地域販売店の使い分けが重要になります。空調市場は施工業の延長から、消費者向けハードウェアとインフラサービスの中間領域へ広がっています。
急拡大の裏側にある電力負荷と規制リスク
エアコン普及は熱中症対策になりますが、電力需要と環境規制の課題も伴います。Eurostatによると、EU家庭の冷房向けエネルギー消費は2018年の4万500TJから2024年には8万400TJへ倍増しました。冷房が増えるほど、猛暑日のピーク電力、配電網、発電構成が問われます。
欧州委員会系のBUILD UPは、2023年時点で欧州世帯の26%が夏に住居を快適な温度に保てず、低所得層では34.8%に上ると紹介しています。これは、冷房を単なるぜいたく品ではなく、公衆衛生とエネルギー貧困の問題に変えます。一方で、安価な機器が一斉に普及すると、電気代負担が低所得層に跳ね返る可能性もあります。
EEAは、欧州では建物の断熱改修、都市の緑化、日射遮蔽などの受動的な冷却策を優先しつつ、必要な場合は高効率な能動冷房を公平に使えるようにする必要があると指摘しています。PortaSplitのような高効率をうたう機器でも、使い方と電源構成によって環境負荷は変わります。
規制面では、冷媒、騒音、外観、廃棄、修理可能性が焦点になります。PortaSplitはR32冷媒を使いますが、欧州では温室効果ガス規制や省エネ基準が段階的に厳しくなっています。ヒット商品であるほど、エネルギー効率、耐久性、回収体制、サービス網の説明責任が重くなります。猛暑が続けば需要は増えますが、持続的に売るには欧州の環境政策と整合させる必要があります。
製造業が学ぶべき欧州市場開拓の要点
PortaSplitの成功から見える教訓は、海外市場では「製品を輸出する」より「現地の未解決な制約を製品化する」ことが重要だという点です。美的は、欧州の低い冷房普及率だけを見たのではありません。賃貸住宅、管理組合、歴史的建築、施工費、猛暑時の即時性という複数の制約を、一つの商品仕様にまとめました。
日本の製造業にとっても示唆は大きいです。高性能で壊れにくいだけでは、変化の速い市場を取り切れません。現地の建物、規制、物流、販売店、消費者の不満を読み、製品形状と供給網を同時に変える必要があります。欧州の冷房市場では、今後も固定式、移動式、ヒートポンプ、断熱改修が混在しながら成長するでしょう。
読者が注視すべき指標は三つです。第一に、2026年夏以降もPortaSplitの販売が継続するかです。第二に、欧州の電力価格と冷房規制が消費者の買い方を変えるかです。第三に、ダイキンなど既存HVAC大手が工事不要型や簡易施工型で反撃するかです。猛暑は需要を作りますが、市場を定着させるのは住宅事情を解く設計力と供給力です。
参考資料:
- Midea PortaSplit Responds to Europe’s Growing Need for Flexible Home Cooling
- Midea Portasplit 12000 BTU Mobile Air Conditioner
- Midea Group Co., Ltd. Annual Report 2025
- Copernicus: Record heatwave brings hottest June for western Europe
- Energy use for cooling in EU households doubled in 6 years
- Addressing residential cooling demand and summer energy poverty in the EU
- Cooling buildings sustainably in Europe
- Cooling a hotter world: El Niño meets strong growth in global electricity demand
- What city planning authorization must be filed to settle an outdoor air conditioning or heat pump housing?
- Klimaanlage installieren: Was ist zu beachten?
- Chinese cooling appliances ride Europe’s heat wave with smart, installation-free designs
- Chinese cooling appliances see strong demand in Europe
- Midea’s PortaSplit AC Doubles Europe Shipments to Over 200,000 Units
- Midea PortaSplit stock across Europe
- Daikin fiscal year 2025 results: Steady performance across EMEA
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