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NHK ONE始動と民放BS4K撤退が示す放送の転換点

by 鈴木 麻衣子
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NHK ONEとBS4K撤退が示す転換点

日本の放送業界が、かつてないほどの構造転換を迫られています。NHKは2025年10月に放送とインターネットを統合した新サービス「NHK ONE」を開始しました。一方、民放各局はBS4K放送からの撤退を相次いで表明し、2027年までに放送を終了する見通しです。

さらに、2026年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の日本における独占配信権をNetflixが獲得したことも大きな衝撃を与えました。これらの出来事は、「メディアの王様」と呼ばれたテレビ放送の終焉を象徴するものなのでしょうか。本記事では、放送業界の現状と今後の展望を分析します。

NHK ONEが意味するもの

放送とネットの「必須業務」化

2025年10月1日、NHKは新サービス「NHK ONE」を開始しました。これまで個別に運用されてきた「NHKプラス」「ニュース・防災」など複数のオンラインサービスを統合し、ひとつのプラットフォームにまとめたものです。

この背景には、2024年の放送法改正があります。改正法により、NHKのインターネット配信がこれまでの「任意業務」から、放送と並ぶ「必須業務」に格上げされました。法律レベルで、放送とネットが同等に位置づけられたのです。

テレビを持たない世帯への対応

NHK ONEの本質は、テレビを持たない世帯にもNHKのコンテンツを届ける仕組みの構築にあります。スマートフォンやパソコンがあれば、総合テレビやEテレの同時配信、1週間の見逃し配信に加え、ニュースや学習コンテンツなどを利用できます。

テレビを持たない若年世帯が増加する中、NHKが生き残るためにはネット上でのプレゼンスを確立することが不可欠です。NHK ONEは、その戦略の中核に位置する取り組みです。

民放BS4K撤退の衝撃

赤字続きで事業継続が困難に

2025年9月、民放5局(BS日テレ4K、BSテレ朝4K、BS-TBS 4K、BSテレ東4K、BSフジ4K)がBS4K放送から2027年までに撤退する方針を固めたことが明らかになりました。

撤退の最大の理由は深刻な赤字です。総務省の審議会に提出された資料によると、BS-TBSの2024年度の営業費用は約8億6,000万円に対し、営業収入はわずか約1,200万円にとどまっています。収支のバランスが完全に崩壊した状態です。

視聴到達率の壁

そもそもBS4K放送は視聴者に十分に届いていませんでした。地上波TBSの視聴到達率が83%であるのに対し、BS-TBS(2K)は22.8%、BS-TBS 4Kに至ってはわずか3.5%です。

4K対応テレビの普及が進まなかったことに加え、4K放送を視聴するには専用チューナーやアンテナの追加が必要なケースも多く、一般家庭への浸透が進みませんでした。巨額の制作費を投じながら、ほとんど視聴されないという構造的な問題を抱えていたのです。

配信への移行

撤退後、4K品質のコンテンツはTVerなどのインターネット配信プラットフォームを通じて提供される見込みです。放送よりもコストが低く、視聴データの取得も容易な配信の方が、ビジネスとしての合理性が高いという判断です。

WBC独占配信権のNetflix獲得

放送局にとっての「敗北」

2026年に開催される第6回WBCの日本における独占配信権をNetflixが獲得したことは、放送業界に大きな衝撃を与えました。日本代表の試合は国民的な関心事であり、これまで地上波テレビが独占してきたコンテンツが、配信プラットフォームに移行した象徴的な出来事です。

この動きは、スポーツコンテンツの配信シフトという世界的なトレンドの一環です。海外ではすでに、サッカーやF1などの主要スポーツで配信プラットフォームが放映権を獲得する事例が相次いでいます。日本でもこの流れが本格化したことを示しています。

コンテンツ獲得競争の激化

放送局にとって、スポーツの生中継は視聴率を稼げる数少ないキラーコンテンツです。それを配信プラットフォームに奪われることは、広告収入の柱を失うことを意味します。今後、コンテンツの獲得をめぐる放送局と配信サービスの競争はさらに激化することが予想されます。

テレビ放送は本当に終わるのか

数字が示す「テレビ離れ」の現実

若年層を中心にテレビ離れは確実に進んでいます。2024年にはTVerの月間再生数が5億回を突破し、30代以下では「テレビをテレビで見ない」が主流になりつつあります。インターネット広告費は3年連続でテレビ広告費を上回り、広告市場でもデジタルが優位に立っています。

それでもテレビが残る理由

一方で、テレビ放送が完全に消滅する可能性は低いという見方もあります。超高齢化社会においてテレビは依然として主要な情報源であり、災害時の速報性や信頼性は配信サービスにない強みです。

重要なのは、「放送」という形態が終わるのではなく、放送局のビジネスモデルが根本的に変わるということです。放送波を通じたリアルタイム配信から、インターネットを活用した多チャンネル・オンデマンド型への移行が不可避であり、NHK ONEはまさにその先駆けと言えます。

放送からネットへ進むコンテンツ企業化

NHK ONEの始動、民放のBS4K撤退、WBC配信権のNetflix獲得——これらの出来事は、いずれも日本の放送業界が「放送からネットへ」という不可逆的な転換期にあることを示しています。

放送局が生き残るためには、コンテンツ制作力という本来の強みを活かしつつ、配信プラットフォームとの共存・競争戦略を明確にする必要があります。テレビ局が「放送局」である時代は終わりつつあり、「コンテンツ企業」としての再定義が求められています。視聴者にとっては、良質なコンテンツがより多様な方法で届く時代の到来であり、選択肢が広がること自体は歓迎すべき変化です。

参考資料:

鈴
鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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