海外居住者の国内不動産課税、個人事業税の空白を総務省が是正へ
海外居住者だけに残る個人事業税の空白
総務省は、日本国内で一定規模の不動産貸付業や駐車場業を営む海外居住者に、都道府県の個人事業税を課す方向で検討に入りました。政府・与党の2027年度税制改正大綱への反映を目指します。
現行制度では、国内に住所も事務所もない個人が、管理会社などを介して不動産を貸す場合、個人事業税を課す都道府県を決められないことがあります。同じ規模の事業でも、国内居住者には課税され、海外居住者には課税されない空白です。
重要なのは、外国人だけを対象とする制度ではない点です。日本人でも海外赴任や移住によって非居住者となれば対象になり得ます。改正の核心は国籍ではなく、国内で行われる事業と地域の行政サービスとの関係にあります。
所得税・固定資産税と異なる個人事業税の仕組み
国税で先行する国内源泉所得の捕捉
海外居住者の国内不動産収入が、現在まったく課税されていないわけではありません。国税庁は、国内不動産の貸付けで得る所得を国内源泉所得と位置付けており、非居住者にも日本での確定申告を求めています。
法人や事業者などが非居住者へ国内不動産の賃料を支払う場合、原則として賃料の20.42%を所得税等として源泉徴収します。源泉徴収額は最終的な税額ではなく、必要経費を反映した確定申告で精算されます。
一方、個人が自分や親族の住居として借りる場合は源泉徴収の対象外です。この場合でも、貸主である非居住者の不動産所得そのものが非課税になるわけではなく、貸主側に申告義務が生じる可能性があります。
固定資産税も居住地に左右されません。海外居住者が国内の土地や家屋を所有していれば、毎年1月1日時点の所有者として物件所在地の市町村から課税されます。所得税は「利益」、固定資産税は「資産の保有」に着目した税です。
年290万円控除と原則5%の県税
今回の検討対象である個人事業税は、道路や防災、公衆衛生など、事業活動を支える都道府県の行政サービスに必要な経費を分担する県税です。不動産貸付業と駐車場業は第1種事業に当たり、標準税率は5%です。
税額は、おおむね前年の事業所得または不動産所得に個人事業税特有の調整を加え、各種控除と年290万円の事業主控除を差し引いて計算します。所得税の青色申告特別控除は個人事業税では適用されないため、所得税の課税所得をそのまま5%倍する計算ではありません。
仮に個人事業税上の調整後所得が1,000万円で、年290万円の事業主控除以外に控除がないとすれば、概算税額は「1,000万円-290万円」に5%を掛けた35万5,000円です。あくまで制度理解のための単純例で、実際には専従者給与や損失の繰越などを確認する必要があります。
課税対象を分ける事業規模の認定
すべての賃貸物件が個人事業税の対象になるわけではありません。一般にアパートなどはおおむね10室、一戸建てはおおむね10棟、独立家屋の店舗や倉庫などは5棟といった規模が認定の目安です。
大阪府では、通常の基準未満でも、貸付建物の総面積が600平方メートル以上で年間賃料収入が1,000万円以上なら不動産貸付業と認定します。茨城県が公表する同種の補完基準は延べ床面積650平方メートル以上で、自治体ごとに細部が異なります。
駐車場も、青空駐車場は10台以上、立体式など建築物である駐車場は台数を問わず課税対象とする基準が一般的です。したがって、海外に住みながら国内のマンションを1室貸しているだけの人まで、一律に追加課税される制度ではありません。
不動産所在地課税が変える自治体と所有者の実務
貸付不動産の所在地を結節点とする案
地方税法は、国内に事務所や事業所を持つ個人について、その所在地の都道府県に個人事業税の課税権を認めています。事務所等がなければ、事業と最も関係の深い住所または居所を事務所とみなします。
ところが海外居住者は、国内の住所も事務所も持たない場合があります。賃貸マンションや青空駐車場は、それだけでは人的・物的設備を備えた「事務所等」と認められないため、課税権の帰属先がなくなります。
自治総合センターが2026年3月にまとめた調査研究会報告書は、この問題を今後の検討課題として明記しました。解決策の一案として、貸付対象となる不動産の所在都道府県に課税権を帰属させる方式を提示しています。
この考え方なら、国内居住者と海外居住者の差を埋めるだけでなく、道路、防災、治安、建築行政などの費用を負担する自治体と税収の帰属先が一致します。不動産という動かない資産を結節点にするため、住所地課税より分かりやすい面もあります。
問題の所在は以前から国会でも指摘されてきました。2025年3月の参議院総務委員会では、国内に住所も事務所もない海外居住者には、どの都道府県も個人事業税を課せないのではないかとの質問が出ています。今回の検討は、この制度上の宿題への回答と位置付けられます。
納税管理人と行政データ連携の課題
所得税について、非居住者は申告書の提出や納付、税務署からの書類の受領を代行する納税管理人を選任します。固定資産税でも、多くの自治体が海外転出者に納税管理人の申告を求めています。
新しい個人事業税でも、既存の納税管理人を活用する仕組みが現実的な選択肢です。ただし、国税の納税管理人と地方税の納税管理人は根拠や提出先が異なります。自動的に同じ人が個人事業税も処理するとは限りません。
国内居住者の個人事業税は、所得税の確定申告情報を都道府県が受け取り、納税通知書を送る賦課課税が基本です。海外居住者まで対象を広げるなら、国税庁から自治体へ渡す情報に、物件所在地、貸付規模、納税管理人などをどう結び付けるかが重要になります。
非居住者による国内不動産の取得については、外為法に基づき、取得後20日以内に日本銀行を経由して財務大臣へ報告する制度もあります。ただし、これは税務申告とは目的が異なります。課税資料として活用するには、法的根拠や個人情報の取扱いを整理しなければなりません。
複数都道府県にまたがる所得配分
海外居住者が東京、大阪、北海道などに物件を持つ場合、どの都道府県が所得の何割を課税するのかという問題も生じます。物件別の利益を厳密に区分するのか、賃料収入、固定資産価額、床面積などで配分するのかによって、自治体の税収は変わります。
現行制度では、複数の都道府県に事務所等を持つ個人の所得は、原則として従業者数で分割します。しかし、無人の賃貸物件では従業者数を使えません。不動産事業に適した新たな分割基準が必要です。
さらに、不動産貸付業と認定する補完基準には自治体差があります。同じ所有者の一体的な事業が、ある県では課税対象、別の県では対象外となれば、公平性の問題が形を変えて残ります。課税権だけでなく、規模判定と所得配分の全国的な統一が制度の成否を左右します。
制度設計を左右する公平性と徴税コスト
改正を支持する根拠は明快です。同じ地域で同じ規模の不動産事業を営みながら、所有者が海外に住むだけで個人事業税がなくなる状態は、国内事業者との水平的な公平を欠きます。不動産所在地への課税は、行政サービスを提供する自治体に税収を戻す考え方とも整合します。
一方、所有者はすでに固定資産税を負担しています。固定資産税と個人事業税は課税対象が異なるものの、道路や防災などの受益を理由に二つの地方税を課すことへの説明は欠かせません。追加税収より調査、通知、外国語対応、滞納整理の費用が大きくならないかも検証が必要です。
税率5%は賃料収入ではなく、必要経費や事業主控除を反映した所得にかかります。このため、小規模な区分マンション所有者より、多数の物件や大規模駐車場を運営する高所得層への影響が中心になるとみられます。ただし、現時点では対象人数や税収見込みが公表されておらず、影響額の断定はできません。
また、租税条約ごとに対象税目や外国税額控除の扱いを確認する必要があります。日本の多くの租税条約は、不動産所在地国による賃料所得への課税を認めていますが、新設される地方税が居住国で控除対象になるかは別の論点です。
2027年度税制改正大綱への反映が目標であり、法律の成立や施行日はまだ決まっていません。海外投資の規制策と早合点せず、対象となる個人、事業規模、課税開始年を法案段階で見極める必要があります。
海外オーナーが改正前に確認すべき事項
海外居住者は、所有物件の所在地、用途、室数、棟数、駐車台数、年間収入、必要経費を物件別に整理しておく必要があります。特に複数県に物件を持つ場合は、管理費や借入金利子などをどの物件に配分したか説明できる記録が重要です。
納税管理人についても、所得税と固定資産税の届出状況を確認し、個人事業税が加わった場合に誰が通知を受け、納付を管理するのかを決めておくと混乱を抑えられます。法人や事業者が借主の場合は、現行の源泉徴収が適切に行われているかも点検すべきです。
自治体側には、課税件数を増やすこと以上に、全国で一貫した認定基準と低コストの徴税体制が求められます。今回の改正は小さな制度変更に見えますが、住所中心だった地方税を、資産と経済活動の所在地へ組み替える試金石になります。
参考資料:
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