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iDeCo12月拡充、企業年金なき働き手の老後資産形成を左右

by 渡辺 由紀
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12月改正が問う企業年金格差の是正

個人型確定拠出年金のiDeCoが、2026年12月1日に大幅拡充されます。企業年金のない会社員は、月額掛金の上限が2万3,000円から6万2,000円へ広がります。自営業者やフリーランス、60代の働き手にも選択肢が増える改正です。

ただし、拠出できる「枠」が広がることと、実際に積み立てられることは同じではありません。本稿では、企業年金による支援を受けにくい働き手を便宜上「企業年金弱者」と捉え、制度改正が雇用形態や企業規模による老後資産の格差をどこまで縮められるのかを検証します。

拠出上限の一本化で広がる自助年金の余地

今回の改正では、会社員や公務員が属する国民年金第2号被保険者について、勤務先の企業年金の有無で異なっていた上限の考え方が一本化されます。共通の拠出限度額は、企業年金とiDeCoを合算して月6万2,000円です。

企業年金なしなら月6万2,000円の枠

企業型確定拠出年金や確定給付企業年金がない会社員は、月6万2,000円の全額をiDeCoに拠出できるようになります。改正前の月2万3,000円から大きな引き上げです。退職年金を用意できない勤務先で働く人が、自分で不足分を補う余地は明確に広がります。

企業年金がある人の上限は、6万2,000円から企業型DCの事業主掛金と、確定給付企業年金などの「他制度掛金相当額」を差し引いて決まります。企業年金があるから一律に6万2,000円をiDeCoへ拠出できるわけではありません。勤務先や企業型DCの加入者サイトで、自身の残り枠を確かめる必要があります。

国民年金第3号被保険者の上限は、月2万3,000円のままです。所得のない人は掛金の所得控除による現在の税負担軽減も受けられないため、上限拡大の中心は、働いて所得を得ている第1号、第2号被保険者となります。

iDeCoでは、掛金全額を小規模企業共済等掛金控除として所得から差し引けます。運用益も非課税で再投資され、受取時には年金なら公的年金等控除、一時金なら退職所得控除の対象です。ただし、実際の軽減額は所得と税率で変わり、掛金そのものが税額から戻る制度ではありません。

自営業者と60代に広がる積立期間

自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者は、iDeCoと国民年金基金等を合わせた上限が月6万8,000円から7万5,000円へ上がります。国民年金基金に加入している人は、その掛金と合算して上限を判定するため、iDeCoだけで7万5,000円を使えるとは限りません。

フリーランスは企業による退職金や企業年金がなく、厚生年金の上乗せもありません。そのため拡充の恩恵は大きい一方、収入の変動も考慮が必要です。掛金は月5,000円から1,000円単位で設定でき、拠出を停止することもできます。上限まで一気に増やすのではなく、繁忙期と閑散期を含む年間の資金繰りから継続可能額を決める視点が欠かせません。

加入可能年齢も、現行の原則65歳未満から70歳未満へ引き上げられます。60歳以上70歳未満で国民年金の被保険者ではない人も、過去のiDeCo加入者や運用指図者、企業年金から資産を移せる人などは、一定の条件で拠出を続けられます。

老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給しておらず、企業型DCでマッチング拠出をしていないことなども要件です。2029年11月末までの経過措置では、過去にiDeCoを利用していない60歳以上70歳未満の人にも新規加入の道が開かれます。60代から初めて加入した場合は、原則として加入から5年を経過した後に受給できる点にも注意が必要です。

低加入率を生む職場格差と制度の複雑さ

国民年金基金連合会によると、iDeCoの加入者は2026年8月末で406万1,606人です。前年同月比では増加しているものの、厚生労働相は2026年4月時点の加入率を約5%、認知率を約60%と説明しています。制度を知っていても、加入や増額に踏み出せない層が残っています。

小規模企業ほど薄い退職年金

厚生労働省が2023年の就労条件総合調査を基にまとめた資料では、退職年金制度がある企業の割合は全体で23.2%です。従業員1,000人以上では66.8%ですが、30~99人では16.0%に下がります。退職一時金を含む退職給付制度自体がない企業も、1,000人以上では8.8%、30~99人では29.5%でした。

つまり、会社の規模によって、事業主から掛金や退職金を受け取れる機会に大きな差があります。企業年金のない会社員がiDeCoを利用する場合、掛金は原則として自分の給与から拠出し、商品選択と運用リスクも自分で負います。上限の一本化は制度上の差を縮めますが、事業主負担や投資教育まで同じにするものではありません。

2026年8月末の第2号加入者347万4,540人のうち、企業年金に未加入の人は209万2,021人でした。毎月定額で拠出する企業年金未加入者の平均掛金は月1万6,363円です。改正前の上限2万3,000円にも届いていない平均値であり、上限を6万2,000円に引き上げるだけで利用額が一斉に増えるとは考えにくい状況です。

物価上昇や住居費、教育費を抱える現役世代にとって、老後まで引き出せない資金を増やす判断には家計の余力が必要です。所得控除は税率が高い人ほど効果が大きいため、改正の恩恵が所得に余裕のある層へ偏らないかという検証も求められます。

400万人時代でも残る加入の壁

企業年金のない中小企業には、事業主が従業員のiDeCo掛金へ上乗せできる「iDeCo+」があります。対象は厚生年金被保険者が300人以下で、企業型DCや確定給付企業年金などを実施していない事業所です。事業主掛金は全額を損金算入できます。

しかし、2026年8月末の実施状況は1万552事業所、拠出対象者は6万6,398人です。増加は続いていますが、企業年金のない第2号加入者の規模と比べれば、職場を通じた支援はまだ限定的です。

中小企業にとっては、掛金という直接的な負担に加え、制度説明、労使合意、届出、給与事務も導入判断に影響します。従業員側も、確定給付年金、企業型DC、iDeCo+の違いを自力で理解しなければならない職場では、最初の一歩を踏み出しにくくなります。

加入率を高めるには、金融機関の広告だけでなく、採用時や入社時、転職時に勤務先の年金制度を説明する仕組みが重要です。福利厚生として企業年金を設けられない会社でも、iDeCo+、掛金の給与天引き、就業時間内の金融教育を組み合わせれば、従業員の行動を後押しできます。

上限拡大後に残る流動性と運用の壁

iDeCoの資産は、例外を除いて原則60歳まで引き出せません。病気や失業、独立後の運転資金に使うことも難しいため、生活防衛資金まで拠出するのは危険です。途中で換金できる預貯金やNISAと役割を分け、当面使わない老後資金だけを振り向ける必要があります。

運用結果によって受取額が変わる点も変わりません。元本確保型商品は値下がりを抑えられる一方、物価上昇下では実質価値が減る可能性があります。投資信託では価格変動と信託報酬を確認し、年齢や受取時期に応じて配分を見直すことが重要です。

費用にも注意が必要です。国民年金基金連合会の加入中手数料は、2027年1月26日の引き落とし分から月105円から120円へ上がります。これとは別に、運営管理機関や資産管理機関、投資信託の費用がかかる場合があります。

受取時の控除も、勤務先の退職金や他の企業年金との組み合わせで課税関係が変わります。拠出時の節税額だけでなく、受取時期と受取方法まで含めた確認が必要です。

働く人と企業が施行前に進める準備

加入者が最初に確認すべきなのは、勤務先の企業年金の有無、企業型DCの事業主掛金、確定給付企業年金の掛金相当額です。そのうえで家計の余剰資金、金融機関の手数料、商品構成を比較し、無理のない掛金を決めます。上限は目標額ではなく、利用できる最大枠にすぎません。

掛金は自動的には増えません。増額には運営管理機関での変更手続きが必要です。2026年12月1日から2027年11月30日までに、改正前の上限を超える金額へ初めて増額する場合は、通常の年1回の変更回数に数えない特例があります。希望する人は早めに金融機関へ確認するとよいでしょう。

企業側には、制度改正を個人任せにせず、自社の退職給付を分かりやすく示す姿勢が求められます。企業年金を持たない中小企業は、iDeCo+や給与天引き、従業員向け説明会を人材定着策として検討できます。

今回の改正の成否は、加入者総数だけでは測れません。企業規模、所得、雇用形態を問わず、企業年金を持たない人が継続可能な金額で利用できたかが重要です。老後資産形成の「枠」の平等を、実際の利用機会の平等へつなげられるかが次の焦点となります。

参考資料:

渡
渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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