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NTTとスカパーが衛星光通信で大容量データ即時伝送へ

by 山本 涼太
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NTT・スカパーJSATの2030年光通信計画

NTTとスカパーJSATは、2030年までに人工衛星で観測した地表や気象などのデータを光技術によって高速・大容量で地上に伝送するサービスを開始する方針です。両社の折半出資による合弁会社「Space Compass(スペースコンパス)」が事業を担います。

従来の電波による衛星データ伝送では速度と容量に限界がありましたが、光通信技術を活用することで通信速度は約10倍に向上し、準リアルタイムでのデータ伝送が可能になります。民間主体でこうしたサービスを提供する事例はほとんどなく、日本企業による衛星ビジネスの新たな展開として注目されています。

米国・イスラエルとイランの軍事衝突を背景に安全保障分野での衛星データ需要が急速に高まる中、このサービスの持つ戦略的意義について解説します。

光データリレーサービスの仕組み

従来の衛星通信の課題

地球を周回する低軌道(LEO)の観測衛星は、地表の画像や気象データなど膨大な情報を収集しています。しかし、従来の電波通信では地上局との通信可能時間が限られており、衛星が地上局の上空を通過する短い時間内にしかデータを送れません。通信速度にも制約があるため、大量のデータを即座に届けることが困難でした。

災害発生時に被災状況をいち早く把握したい場合や、安全保障上の緊急事態で迅速な情報取得が必要な場合に、こうした遅延は大きな障壁となります。

光通信で実現する高速・大容量伝送

Space Compassが提供する「光データリレーサービス」は、この課題を光通信技術で解決します。低軌道の観測衛星が収集したデータを、静止軌道(GEO)にある中継衛星にレーザー光で送信し、そこから地上局へ高速伝送する仕組みです。

静止軌道衛星は地上約36,000kmの高度で常に同じ位置に留まっているため、地上局との通信が常時可能です。低軌道衛星と静止軌道衛星の間を光通信で結ぶことで、観測データを収集後ほぼリアルタイムで地上に届けられます。通信速度は従来の電波方式と比べて約10倍に向上し、大容量データの迅速な伝送が実現します。

Space Compassの事業戦略と展開

合弁会社の概要

Space Compassは2022年7月にNTTとスカパーJSATが折半出資で設立した合弁会社です。資本金は約180億円で、NTTのネットワーク・コンピューティング技術とスカパーJSATの静止軌道衛星の運用実績を組み合わせた事業展開を目指しています。

スカパーJSATは日本で唯一の商用静止軌道衛星運用事業者として長年の実績を持ち、NTTは世界トップクラスの光通信技術を有しています。両社の強みを融合させることで、他社にはない競争優位性を確立しています。

米Skyloom社との連携

光通信技術の分野では、米国のSkyroom Global Corporationとの連携も重要な要素です。Skyloomは最先端の光衛星間通信技術を保有しており、Space Compassと協力して光データリレーの技術基盤を構築しています。

衛星の打ち上げは段階的に進められており、2024年末に最初の光データリレー衛星が打ち上げられました。2026年にかけて追加の衛星を配備し、グローバルなカバレッジとフルサービスの展開を目指しています。

防衛省との契約

Space Compassは2025年に防衛省から「静止軌道間光通信技術実証」事業を受注しました。宇宙領域把握活動で収集された大量のデータを、光データリレー衛星を経由して伝送する技術の実証を行うもので、日本の防衛力強化に直結する取り組みです。

安全保障分野では、衛星データの迅速な取得が情報優位性に直結します。地上の状況をリアルタイムに近い速度で把握できる能力は、防衛のみならず外交判断にも大きな影響を与えます。

市場動向と安全保障需要の高まり

急成長する光衛星通信市場

光衛星通信市場は急速に拡大しています。調査会社MarketsandMarketsによれば、光(レーザー)衛星通信の世界市場規模は2025年の約6.2億ドルから2030年には15.6億ドルに成長すると予測されています。年平均成長率は20.4%という高い伸びです。

データリレー衛星市場全体でも、2030年に157.4億ドル規模に達するとの予測があり、年平均成長率は10.2%とされています。アジア太平洋地域は中国、日本、インド、韓国を中心に最も高い成長率が見込まれています。

中東情勢が加速させる需要

2026年2月末に始まった米国・イスラエルとイランの軍事衝突は、衛星データの安全保障上の価値をあらためて浮き彫りにしました。紛争地域の状況把握、ミサイル発射の監視、被害状況の迅速な評価など、衛星データのリアルタイム伝送能力は軍事的な意思決定に不可欠です。

レーザー通信はビーム幅が極めて狭いため、電波通信と比べて傍受が困難です。この特性は軍事通信の秘匿性を高める上で大きな利点となり、防衛分野での需要を一層押し上げる要因となっています。

天候課題・ESA競合と民間衛星拡大

技術的課題と競合環境

光衛星通信には天候の影響を受けやすいという課題があります。大気中の雲や水蒸気がレーザー光を減衰させるため、地上局との通信では電波方式と比べて天候に左右される場面があります。複数の地上局を配置して冗長性を確保するなどの対策が必要です。

また、国際的な競合も存在します。欧州宇宙機関(ESA)のEDRSシステムや、NASAの商用衛星通信サービスの推進など、各国・地域で同様の取り組みが進んでいます。日本勢がグローバル市場で存在感を示すには、技術力に加えてサービスの信頼性とコスト競争力が求められます。

民間衛星ビジネスの拡大

Space Compassの取り組みは、日本の宇宙産業にとって重要な転換点です。従来、衛星データの利活用は政府主導の色合いが強い分野でしたが、民間企業が主体となって商用サービスを展開することで、農業、防災、都市計画、環境モニタリングなど幅広い分野での活用が期待されます。

QPS研究所やアクセルスペースといった国内の衛星ベンチャーとの連携も進んでおり、日本の宇宙エコシステム全体の活性化につながる可能性があります。

Space Compassが占う2030年宇宙ビジネス

NTTとスカパーJSATによる光データリレーサービスは、衛星データの伝送方法を根本から変える技術革新です。準リアルタイムでの大容量データ伝送は、安全保障から防災、産業利用まで幅広い分野に恩恵をもたらします。

中東情勢の緊迫化で衛星データの戦略的価値が高まる中、2030年に向けて本格展開を進めるSpace Compassの動向は、日本の宇宙ビジネスの方向性を占う試金石といえます。光通信市場の急成長を背景に、日本発の衛星サービスがグローバル市場でどこまで存在感を示せるか注目されます。

参考資料:

山本 涼太

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