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SMR事業化の焦点、原子炉販売から電力供給パッケージへの移行

by 中村 壮志
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経済安保インフラに変わるSMRの争点

小型モジュール炉、いわゆるSMRを巡る競争の焦点は、原子炉そのものの性能比較だけでは説明できなくなっています。AIデータセンター、軍事施設、港湾、素材産業が求めるのは、低炭素であることに加え、途切れにくく、立地に合わせて増設でき、資金調達まで読める電力です。

この変化の中で、米国のSMR新興企業は「炉を売る会社」から「電力供給の事業体」へと自らを再定義しています。特にLast EnergyのPWR-20は、20MW級の小型炉を工場製造し、産業顧客の近くに置き、PPAを通じて電力を売る構想を前面に出しています。原子力を巨大公共事業から、標準化されたインフラ事業へ移せるかが問われています。

炉を売らず電力を売る米新興の設計思想

PWR-20が狙う工場製造の標準化

Last Energyが打ち出すPWR-20は、80MWの熱出力または20MWの電気出力を持つ加圧水型のマイクロ原子力発電所です。同社は、既存の軽水炉で広く使われてきた技術と燃料供給網を使い、原子炉の基本技術そのものよりも、製造、設置、契約、運転を束ねた「届け方」に重点を置いています。

この発想は、従来の原子力発電所が抱えてきた最大の弱点を意識したものです。大型炉は一基当たりの出力が大きく、系統全体の安定供給に向きます。一方で、建設期間が長く、初期投資が巨額になり、需要家が建設リスクを直接背負いやすいという問題があります。SMRは小さいだけでは十分ではなく、同じ設計を繰り返し作り、現場工事を減らし、資金回収を見通せる契約形態と組み合わせて初めて意味を持ちます。

同社の資料では、PWR-20は0.5エーカー未満の敷地に収まる構成を掲げ、複数ユニットを並べて増設する考え方を示しています。これは、発電所を一度に大きく建てるのではなく、需要の伸びに合わせて20MW単位で積み上げる設計です。データセンター、工業団地、港湾のように、一定規模のベースロード需要が集中する場所では、この単位の小ささが投資判断をしやすくします。

PPAで顧客リスクを引き受ける構造

より重要なのは、Last Energyが炉の販売ではなく、電力購入契約を前面に出している点です。POWER Magazineは2023年、同社が英国とポーランドの4つの産業パートナーと、34基分のPWR-20に関するPPAを結んだと報じました。契約期間全体の電力販売額は189億ドル規模とされ、原子炉設備を顧客が買うのではなく、長期にわたり電力を購入する形です。

このモデルでは、産業顧客は原子炉の所有者や運転者になる必要がありません。顧客が欲しいのは原子炉ではなく、安定した電力価格、脱炭素価値、停止しにくい供給です。太陽光や風力の世界で広がったPPAを原子力に持ち込むことで、原子力特有の許認可、建設、燃料、廃炉の複雑さを供給側が背負う構図になります。

ただし、これは単なる販売戦術ではありません。原子力は安全規制、立地合意、廃棄物、燃料調達が事業の中核です。顧客に設備を売って終わるビジネスでは、こうしたリスクを分散しにくいのです。逆に、供給側が長期契約で収入を固定し、金融機関や政府支援を呼び込み、標準化された炉を連続展開できれば、原子力のコスト構造を変えられる可能性があります。

Last Energyが2025年に発表したロンドン・ゲートウェイでのDP Worldとの案件も、この流れに沿います。構想では、20MWeのPWR-20が港湾拡張に電力を供給し、余剰分を系統へ送る計画です。港湾は物流、軍事、通商が交差する戦略拠点であり、電力供給の安定性は単なるコスト問題ではありません。ここにSMRを置く意味は、脱炭素と経済安全保障が重なり始めたことにあります。

AI需要と欧州政策が押し上げる商機

データセンター電力需要の急増

SMRの事業化を後押ししている最大の外部環境は、AIとデータセンターの電力需要です。IEAは、電力がAI、データセンター、先端製造、電化の中核投入物になる「電力の時代」が進んでいると分析しています。米国や中国ではデータセンターの電力需要が急増し、地域によっては系統接続の待ち時間や発電所の延命判断に影響を与えています。

IEAのEnergy and AIでは、米国のデータセンター向け電力供給で天然ガスが現在最大の電源であり、2030年までの追加供給でも大きな役割を持つとされています。一方で、2030年以降はSMRが運転を始める前提で、原子力がデータセンター需要を支える重要な選択肢になると分析しています。技術企業によるSMRへの資金コミットメントは20GW超に達しているとの記述もあり、需要側が先に原子力を求める構図が見えます。

この点は、従来の原子力政策と大きく異なります。かつては国や電力会社が大規模な電源計画を立て、需要家は系統から電力を受け取るだけでした。現在は、AI事業者やクラウド事業者が、自社の成長制約として電力を捉え、立地、電源構成、契約期間を直接選ぶようになっています。SMRの事業パッケージ化は、こうした大口需要家の行動変化に合わせたものです。

EUの産業政策と米国の国家安全保障

欧州でもSMRは産業政策の文脈で位置づけられています。欧州委員会は2026年3月、2030年代初頭に欧州初のSMRを稼働させる戦略を示し、2050年のEU内SMR容量が17GWから53GWに達し得るとの見通しを示しました。用途としては発電だけでなく、地域熱供給、産業熱、化学、低炭素水素、データセンターが挙げられています。

この戦略の背景には、ロシアのウクライナ侵攻後に欧州が経験したエネルギー危機があります。天然ガスへの依存は、価格だけでなく外交上の弱点になりました。再生可能エネルギーの拡大は不可欠ですが、風況や日照に左右されます。系統増強、蓄電池、需要応答を組み合わせても、産業熱や24時間稼働のデータセンターには安定電源が必要です。

米国でも、先進原子炉は国家安全保障と結び付けられています。2025年の大統領令は、AIインフラ、重要インフラ、防衛施設、サプライチェーンを支えるため、先進原子炉の迅速な開発と導入を政策目標に掲げました。DOEのReactor Pilot Programは、国立研究所以外の場所で少なくとも3つの先進炉概念を2026年7月4日までに臨界へ到達させることを目標にしています。

DOEは2025年8月、同プログラムで11件の先進炉プロジェクトと作業を進めると発表し、その中にLast Energyも含まれました。これは、SMRが脱炭素の補助電源ではなく、米国の技術輸出、燃料供給網、防衛インフラ、AI競争力を支える政策装置になっていることを示します。原子炉メーカーの競争は、エネルギー企業同士の競争にとどまらず、国家間の制度設計競争へ広がっています。

許認可と燃料供給が左右する普及速度

NuScale案件が示した初号機リスク

SMRへの期待が高まる一方で、普及速度を過大評価するのは危険です。米国ではNuScaleの設計が2023年にNRCの認証を受け、米国初のSMR認証として注目されました。しかし、同社とUAMPSが進めていたCarbon Free Power Projectは、同年11月に終了が発表されました。UAMPSは、十分な契約加入を確保できる見通しが立たず、プロジェクト継続は困難と説明しています。

この事例は、規制上の前進と商業成立が別物であることを示しています。設計認証は重要な節目ですが、建設費、金利、サプライチェーン、自治体や需要家の契約意思がそろわなければ、実機は立ち上がりません。SMRは「小さいから安い」と単純には言えず、同じ設計を何度も作る量産効果が出る前の初号機は、むしろ割高になりやすいのです。

OECD原子力機関のSMR Dashboardも、技術の成立性だけでなく、許認可、立地、資金調達、サプライチェーン、ステークホルダー関与、燃料の6つの軸で進捗を見る必要があるとしています。つまり、SMR競争の勝者は、最も斬新な炉型を持つ企業ではなく、規制当局、顧客、金融、燃料供給者を同時に動かせる企業になる可能性が高いのです。

燃料と立地合意という地政学的制約

燃料供給も制約です。EIAは、米国で開発中のSMRやマイクロリアクターの一部が、通常の低濃縮ウランより濃縮度の高いHALEUを使うと整理しています。HALEU供給は、米国や同盟国がロシア依存を下げようとする中で重要なボトルネックです。Last EnergyのPWR-20は既存の低濃縮ウラン供給網を使うことを強調していますが、それでも燃料加工、輸送、使用済み燃料の扱いは国家規制と国際政治から切り離せません。

立地合意も同じです。英国のOffice for Nuclear Regulationは2025年7月、Last EnergyのPWR-20に関する予備設計レビューを完了したと発表しました。ただし同時に、そのレビューは設計審査、サイトライセンス、環境許認可の代替ではないと明記しています。初期段階の手続きが進んでも、最終的な商業運転までには、地域社会、環境規制、緊急時計画、廃炉計画の確認が残ります。

その意味で、SMRの「事業パッケージ」は便利な販売文句ではなく、リスク配分の設計図です。誰が建設遅延を負うのか。燃料価格の変動を誰が吸収するのか。規制変更時の追加費用は契約にどう反映されるのか。顧客がPPAで電力を買うだけなら、これらのリスクは供給側と金融側に集まります。したがって、SMR事業者には原子炉設計より広いプロジェクト金融能力が求められます。

日本企業が見極めるべき輸出戦略

日本にとって、SMRの再評価は単なる海外ニュースではありません。福島第一原発事故の経験は、安全文化、規制独立性、地域合意を原子力政策の中心に置き直しました。その一方で、原子力技術者、素材、部品、品質管理の基盤を失えば、将来の選択肢そのものが細ります。問題は、国内で大型炉を増やすかどうかだけではなく、日本が次世代原子力の制度とサプライチェーンにどう関わるかです。

JAEAはHTTRを活用し、高温ガス炉による水素製造技術の確認を進めています。2025年3月の発表では、HTTRに水素製造施設を接続し、原子炉の熱を直接使う技術を確証する計画が示されました。HTTRは原子炉出口冷却材温度950度を記録しており、鉄鋼や化学のような電化しにくい産業で、熱と水素を同時に供給する構想と結び付きます。

ここで日本が学ぶべき点は、米国新興企業の事業モデルです。高温ガス炉を含む次世代炉を海外へ展開するなら、技術カタログだけでは不十分です。相手国が求めるのは、炉型、燃料、保守、人材育成、許認可支援、ファイナンス、需要家契約を含む総合パッケージです。特に新興国やエネルギー輸入国では、原子炉を買うより、安定した電力と産業熱を長期契約で確保したいニーズが強まります。

もちろん、日本が米国型のスタートアップモデルをそのまままねる必要はありません。日本の強みは、保守的な安全設計、長期運用、部材品質、官民での国際協力にあります。むしろ、米国のスピードと日本の信頼性をどう組み合わせるかが現実的な論点です。エネルギー安全保障の時代には、技術を持つだけでは足りず、相手国の産業政策に組み込まれる形で届ける力が必要になります。

投資家や企業担当者が注視すべき指標は明確です。第一に、実証炉が臨界と運転データに到達する時期です。第二に、PPAが単なる覚書から資金調達可能な契約へ進むかどうかです。第三に、燃料供給と規制審査の標準化が進むかどうかです。SMRは夢の技術としてではなく、経済安保インフラとして事業条件を一つずつ満たせるかで評価すべき段階に入っています。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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