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ソフトバンク流の短時間雇用、手帳なき障害人材を戦力化する条件

by 渡辺 由紀
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はじめに

障害者雇用を巡る議論は、法定雇用率を満たしているかどうかに集まりがちです。しかし、企業の採用現場で本当に難しいのは、その数字に表れにくい人材をどう仕事につなぐかです。障害があっても障害者手帳を持っていない人、あるいは体調や通院の都合で週20時間以上の勤務が難しい人は、就労意欲や能力があっても企業側の制度設計からこぼれやすい存在でした。

厚生労働省の令和4年「生活のしづらさなどに関する調査」では、障害者手帳を持たない人のうち、障害福祉サービス等を受けている人が22.9万人、サービスを受けていないものの障害による日常生活のしづらさがある人が114.1万人と推計されています。少なくとも在宅調査ベースで100万人超の層が、手帳の有無だけでは捉え切れない形で存在しているわけです。

この見えにくい人材層に対して、雇用率達成のための受け皿ではなく、業務設計の対象として向き合ってきたのがソフトバンクです。同社は2016年に週20時間未満で働ける「ショートタイムワーク制度」を本格導入し、2024年3月時点で累計69人が81部署で就業しました。この記事では、制度が生む壁、ソフトバンクの実装方法、ほかの企業が学ぶべき論点を順に整理します。

手帳の有無が分けてきた就労機会の断層

法定雇用率制度と手帳基準の壁

障害者雇用率制度は、本来は共生社会の実現を後押しする仕組みです。ただ、企業実務では算定対象が明確でなければ運用できません。厚生労働省系のハローワーク資料では、実雇用率の算定対象は原則として身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳で確認すると整理されています。この建て付けでは、手帳を持たない人は採用できても、雇用率の計算には乗りにくい構造になります。

加えて、長く残っていたのが労働時間の壁です。ソフトバンクがショートタイムワークを始めた2016年当時、週20時間未満の雇用は障害者雇用率制度の算定対象外でした。企業から見れば、配慮が必要で勤務時間も短い人を新たに受け入れても、法定雇用率の実績にはつながりません。結果として、本人の能力よりも制度上の扱いやすさが採用判断を左右しやすかったと言えます。

この点は2024年4月に一部見直されました。厚生労働省は、週10時間以上20時間未満で働く精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者について、実雇用率上0.5人として算定できるよう制度を改正しました。ただし、2026年4月30日時点の民間企業の法定雇用率は2.5%であり、次の引き上げは2026年7月1日の2.7%です。制度は前進しましたが、全ての「手帳非所持者」や全ての短時間就労希望者が直ちに対象化されたわけではありません。

つまり、企業が直面する本質的な課題は二つあります。第一に、手帳基準でしか捉えにくい人材をどう採用候補として認識するか。第二に、週20時間未満でも成立する職務をどう設計するかです。法改正だけでは前者は解けず、後者も現場の仕事の分け方を変えなければ前に進みません。

非所持層の規模と企業側の見えにくさ

見えにくさは、人数の少なさから来ているわけではありません。前述の厚労省調査が示す通り、手帳を持たないが支援や生活上の困難を抱える人は決して小さな母集団ではありません。にもかかわらず、企業の人材ポートフォリオではこの層が「応募が少ない人材」ではなく、「採用設計に入っていない人材」になりやすいのです。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査でも、週20時間未満の就職希望は確かに存在します。就労継続支援B型事業所への2020年調査では、週20時間未満の就職を希望する人がいると回答した事業所から得られた2,242事例のうち、希望理由として最も多かったのは「体調の変動・維持」で70.9%でした。勤務時間の短さは意欲の弱さではなく、就業継続の条件として求められているわけです。

同じ調査では、2017〜2019年度に週20時間未満の雇用契約で一般就労に移行した486事例でも、理由の最多はやはり「体調の変動・維持」でした。さらに、移行先企業は300人未満が約7割を占めます。これは、大企業だけが対応できる特殊な雇用形態ではなく、中小企業でも業務を分けられれば成立する可能性を示しています。

雇用率制度の算定ロジックだけを見ていると、企業は「対象者をどう数えるか」に意識が寄ります。しかし、人材不足が続く局面では、「短い時間なら働ける人をどう戦力化するか」に問いを置き直した方が合理的です。ソフトバンクの事例が示す価値は、まさにここにあります。

ソフトバンクが示す短時間雇用の設計図

業務切り出しと同一評価の運用

ソフトバンクは2016年5月、東京大学先端科学技術研究センターと連携し、ショートタイムワーク制度を本格導入しました。試験期間の2015年9月から2016年4月には6人を雇用し、アンケート集計、データ入力、郵便物の封入発送だけでなく、イラスト作成、チラシデザイン、資料の英訳など、個別スキルを生かす仕事も担当していました。ここで重要なのは、「短時間だから補助業務だけ」という発想に閉じなかった点です。

2024年5月に公開されたソフトバンクの説明では、ショートタイムワークは東京大学先端研の「超短時間雇用モデル」をもとに仕組み化されました。一般的な日本型雇用のように人を採ってから仕事を割り当てるのではなく、先に業務を定義し、その仕事ができる人を募集するのが特徴です。語学力、分析力、プログラミングなど、単一の強みでも業務が成立するよう、職務を細かく切り分けています。

この設計は、障害者雇用を福祉的配慮だけでなく、業務再編の問題として扱っている点に意味があります。ある社員が抱える仕事の中から、定型化しやすい部分、集中して取り組めば成果が出る部分、本人の苦手で他者の得意に置き換えられる部分を切り出す。すると、ショートタイムワーカーには適切な職務が生まれ、依頼した社員にはコア業務へ戻る時間が生まれます。短時間雇用を受益者支援ではなく、組織生産性の再配分として設計しているわけです。

処遇面でも同社の姿勢は明確です。障がい者採用の募集要項では、障がいの有無にかかわらず同じ人事制度を適用し、昇給、昇格、評価の仕組みも同じだと示しています。配慮はするが、仕事の範囲や業務内容は調整の上で同一水準に置くという考え方です。これは、特別枠として切り分けるより、戦力として定着させやすい運用です。

実績も積み上がっています。ソフトバンクニュースによると、2024年3月時点で累計69人が81部署に勤務し、内訳は障がいのある人が57人、子育てや介護、がん闘病中など障がい以外の理由で長時間勤務が難しい人が12人でした。ショートタイムワーカーの週当たり労働時間では約60%が週10時間以上20時間未満に集中しています。つまり、制度改正で新たに算定対象となったレンジに、企業ニーズと就業ニーズの双方が集まっていたことになります。

社内実装から社会実装への拡張

ソフトバンクの取り組みが注目されるのは、社内制度に閉じていないからです。2018年には東京大学先端研とともに「ショートタイムワークアライアンス」を立ち上げ、事例やノウハウの共有を始めました。最新の特設ページでは、2026年2月末時点の参加法人数は248法人です。2016年の実験的導入が、10年足らずで企業・自治体・各種団体へ広がるプラットフォームに変わったことになります。

この広がりは、短時間雇用が通信会社固有の特殊解ではないことを示しています。アライアンスの実施法人には自治体、病院、BPO、人材サービス、地域団体などが並びます。要するに、必要なのは業種ではなく、仕事の分解と受け入れ体制の設計です。ソフトバンク自身も、テレワークを組み合わせた「ショートタイムテレワーク」を横浜市で実証し、2019年の結果では募集定員の約4倍の希望者が集まり、雇用側・働き手側ともに全参加者が高い満足を示しました。

外部評価も進んでいます。東京大学先端研との連携によるショートタイムワーク制度は2017年度グッドデザイン特別賞を受賞しました。さらにソフトバンクの英語版サステナビリティページによると、ショートタイムワークは2024年12月に「Zero Project Award 2025」を受賞し、90カ国から522件の応募があった中で選ばれた77件の一つでした。社会的意義だけでなく、再現可能な仕組みとして見られていることが分かります。

企業戦略の観点では、同社が通常の障がい者雇用も伸ばしている点も見逃せません。ESGデータでは、ソフトバンクの障がい者雇用率は2024年度に2.92%でした。法定雇用率を上回る実績を確保しつつ、算定対象外になりやすかった人まで射程に入れている。これは、制度対応と人的資本戦略を別物として扱っていないことの表れです。

人手不足が続くなかで、企業の競争力を左右するのは「働ける人を探す力」よりも、「働ける形を作る力」になりつつあります。ショートタイムワークの本質は、障害者雇用の新メニューではありません。フルタイム前提の職務設計を疑い、短い時間でも成果が出るように仕事を再設計する人材戦略そのものです。その意味で、ソフトバンクの事例は雇用率達成の話にとどまりません。

注意点・展望

もっとも、このモデルを表面的にまねしてもうまくいきません。よくある誤解は、短時間勤務制度を用意すれば人材活用になるという発想です。実際には、業務の切り出し、受け入れ部門の合意、相談体制、評価の仕組みがそろわなければ、短時間雇用は「配慮はしたが活躍できない配置」に終わります。制度より先に、職務をどこまで明確にできるかが問われます。

もう一つの注意点は、手帳の有無を採用判断の中心に置き過ぎないことです。法定雇用率の算定では確認書類が必要でも、戦力化の観点では、本人が何時間なら安定して働けるか、どの業務で力を出せるか、どんな配慮があれば継続しやすいかの方が重要です。数合わせの発想が強い企業ほど、短時間就労を「戦力未満」と見なしやすく、結果として人材不足を自ら深めてしまいます。

今後の焦点は二つです。第一に、2026年7月1日に民間企業の法定雇用率が2.7%へ引き上がるなかで、企業が対象者の奪い合いに向かうのか、それとも仕事設計の見直しに向かうのか。第二に、手帳非所持者や治療・介護と両立する人まで含めた柔軟な就労モデルを、どこまで一般化できるかです。ソフトバンクの先行事例は、その答えが後者にあることをかなりはっきり示しています。

まとめ

障害者手帳を持たない人や、長時間勤務が難しい人は、従来の雇用制度では見落とされやすい存在でした。厚労省調査が示すように、その層は決して小さくありません。にもかかわらず、企業が向き合ってこなかったのは、能力の不足ではなく、制度と職務設計の不足でした。

ソフトバンクのショートタイムワークは、その欠落を埋める実装例です。ポイントは、短時間勤務を配慮制度として置くのではなく、業務を切り出し、同一評価の中で戦力化し、さらに社会実装へ広げたことにあります。障害者雇用を人事の周辺施策で終わらせず、仕事の作り方そのものを見直す企業ほど、これからの人材不足局面で強くなります。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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