NewsHub.JP
NewsHub.JP

ドコモビジネスが描くAI時代の企業ネットワーク変革

by 山本 涼太
URLをコピーしました

AI時代の企業ネットワーク変革

AIエージェントやフィジカルAIが急速に普及する中、企業ネットワークに求められる要件が根本的に変わりつつあります。従来の固定的な帯域設定や画一的なサービスでは、AI時代の企業ニーズに対応しきれないという課題が浮き彫りになっています。

NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)は、この変化を見据えて「AI-Centric ICTプラットフォーム」を掲げ、企業のAI活用を支えるネットワーク基盤の構築に本格的に乗り出しています。同社の金井俊夫副社長は、「インターネットを超える大変化が訪れる」と語り、企業ネットワークの未来に大きなビジョンを示しています。

本記事では、NTTドコモビジネスが推進するAI時代のネットワーク戦略と、その具体的な取り組みについて解説します。

AI時代に企業ネットワークが直面する課題

従来型ネットワークの限界

これまでの企業ネットワークは、拠点間の安定した通信を確保することが主な目的でした。帯域は固定的に割り当てられ、セキュリティは境界防御が中心という構成が一般的です。

しかし、AIエージェントが自律的にタスクを実行し、フィジカルAIがロボットやセンサーを通じて現実世界と連携する時代になると、ネットワークに求められる要件は大きく変わります。リアルタイムの大量データ処理、動的な帯域制御、エッジとクラウドの柔軟な連携といった新たなニーズが生まれているのです。

フィジカルAIがもたらすネットワーク要件の変化

フィジカルAIとは、AIが現実世界のセンサーやロボット、IoT機器と直接連携して「認識」から「行動」までを実行する技術領域です。製造現場での自律型ロボットや、物流倉庫でのピッキング自動化、インフラ保守の遠隔監視など、その応用範囲は急速に広がっています。

これらのシステムを安定稼働させるには、低遅延・高信頼のネットワークが不可欠です。ソフトバンクとエリクソンが2026年2月に発表した実証実験では、AI-RANを活用してフィジカルAI向けの低遅延・高信頼ネットワークの実現に成功しており、通信業界全体でこの課題への取り組みが加速しています。

NTTドコモビジネスの「AI-Centric ICTプラットフォーム」戦略

重点4領域で2027年度に売上5,000億円を目指す

NTTドコモビジネスは2025年9月に事業戦略を発表し、「AI」「IoT」「デジタルBPO」「地域・中小DX」の4領域を重点分野に掲げました。2024年度時点の合計売上高2,500億円を、2027年度には倍増となる5,000億円超に引き上げる目標を打ち出しています。

特にAI領域では1,500億円の売上を見込んでおり、企業のAI活用を包括的に支援するプラットフォームの提供が柱となります。代表取締役社長の小島克重氏は、成長戦略として「プラットフォームの進化」「重点4領域の事業強化」「パートナーリング強化」の3点を挙げています。

NaaS「docomo business RINK」の進化

この戦略の中核を担うのが、NaaS(Network as a Service)である「docomo business RINK」です。2023年11月に提供を開始したこのサービスは、ネットワーク機能とクラウドベースのセキュリティを統合し、企業に柔軟なネットワーク環境を提供します。

2025年には「WANセキュリティ」機能を追加し、脅威検知や行動検知、通信ログの長期保存といったセキュリティ強化を実現しました。さらにIoT向けの「docomo business SIGN」も新たに投入し、モバイルネットワークとセキュリティを一体化したIoTシステム構築を可能にしています。

docomo business RINKは米Gartner社の「Eye on Innovation Awards」でWinnerに選出されるなど、国際的にも高い評価を受けています。日本に本社を置く企業としては初の受賞という快挙です。

AIエージェントが変えるネットワーク運用の現場

ネットワーク保守業務へのAIエージェント導入

NTTドコモは2026年2月25日、世界最大級規模のデータを活用したネットワーク保守業務向けAIエージェントシステムの商用化を開始したと発表しました。100万台以上のネットワーク装置から収集されるトラフィック情報や警報情報を、複数のAIエージェントが横断的かつリアルタイムに分析します。

このシステムにより、従来と比べて障害対応時間を50%以上削減できるとしています。Amazon Bedrock AgentCoreとAIに最適化されたデータベースサービスを基盤に構築されており、ネットワークの異常を検知して対処案を自動で提示する仕組みです。

200種のAIエージェント展開へ

NTTドコモビジネスは2025年6月、エクサウィザーズとの協業により、20種の業務特化型AIエージェントを活用した業界別ソリューションの提供を開始しました。金融、公共、製造業界を皮切りに展開し、2026年には200種のAIエージェントの展開を目指しています。

金井副社長は、「AI管理サービスにおいて、従来のマネージドサービスのような画一化ではなく、企業ごとの属性に基づいてAIがカスタマイズする」という方針を示しており、2026年度中にこうしたサービスの提供を計画しています。

AI×NaaS移行に伴う安全対策と選択軸

AI時代のネットワーク変革には、いくつかの課題も存在します。まず、AIエージェントが自律的に動作する環境では、セキュリティリスクも高度化します。AIが不正なデータに基づいて誤った判断を下すリスクや、AIシステム自体がサイバー攻撃の標的になるリスクへの対策が不可欠です。

また、NaaS型のサービスへの移行には、既存のオンプレミス環境からの段階的な移行戦略が必要です。すべての企業が一気にネットワーク構成を刷新できるわけではなく、ハイブリッド環境での運用を支援する仕組みが求められます。

通信業界全体を見ると、NTTドコモビジネスだけでなく、ソフトバンクやKDDIもAI×ネットワークの領域で積極的に投資を進めています。企業にとっては、自社のAI活用戦略に合ったネットワークパートナーを選択することが、今後の競争力を左右する重要な判断になるでしょう。

RINK中核の2027年度5,000億円戦略

AIエージェントやフィジカルAIの普及により、企業ネットワークは単なる通信基盤から「戦略インフラ」へと進化しています。NTTドコモビジネスは、NaaS「docomo business RINK」を中核としたAI-Centric ICTプラットフォームの構築を加速させ、2027年度に重点4領域で5,000億円超の売上を目指しています。

企業がAI時代に適応するためには、ネットワークの柔軟性・セキュリティ・AIとの連携を総合的に見直すことが重要です。自社のデジタル戦略に合わせて、最適なネットワーク基盤の再構築を検討してみてはいかがでしょうか。

参考資料:

山本 涼太

AI・半導体・先端技術・SaaS

AI・半導体・通信などの先端技術とそれを事業化する企業を取材。技術の本質と市場インパクトをわかりやすく解説する。

関連記事

AI経営判断が企業を二分する勝者と敗者の条件と実装ロードマップ

生成AIの導入率は高まる一方、成果は一部企業に集中しています。McKinseyやMicrosoft、BCGの調査とKlarna、Modernaの事例を基に、AIエージェントを経営判断と業務実行へ組み込む企業が勝ち、実験止まりの企業が遅れる構造を、データ基盤、ガバナンス、人材再設計から実務視点で解説。

アズビル生成AI技術継承、人手不足に挑む現場資産化戦略の最前線

アズビルが生成AIで熟練技術者の暗黙知を共有資産に変えようとしている。2023年から国内外グループ会社へ広げた社内チャット、生成KY、バルブ整備AIの事例をもとに、人手不足時代の技術継承に必要なデータ設計、評価基準、現場運用の条件を読み解く。現業職不足が深まる製造業で、シニア人材の経験をどう残すかも解説。

最新ニュース

ホンダ日産三菱、ECU共通化で挑むSDV時代のコスト低減戦略

ホンダ、日産、三菱自が次世代車の中核ECU共通化で詰めの協議に入った。SDVは車載ソフトと半導体投資を押し上げる一方、日本勢には共同調達と標準化が競争力を左右する。経営統合なき協業の狙い、部品供給網への影響、中国勢との速度差、量産化で残る安全・保守リスク、全体像と今後の注視点まで製造業の視点で解説。

就活セクハラ対策義務化で採用現場の盲点を防ぐ企業統治の新常識

2026年10月1日から求職者等セクハラ対策が事業主の義務になります。厚労省委託調査では就活生等向け対策を何も実施していない企業が47.5%。OB訪問、インターン、SNS面談まで広がる採用接点を、相談窓口、面談ルール、リクルーター研修でどう統制し、採用難時代の企業価値リスクを減らす最新の具体実務を解説。

自衛隊USB感染が突く機密システム防衛と中国サイバーリスクの盲点

陸上自衛隊の機密システム端末で感染USBが約1年使われた問題は、可搬媒体管理、調達、監査の弱さを浮き彫りにしました。中国系マルウェアやVolt Typhoonの事例、防衛白書が示す統合運用強化を踏まえ、閉域網でも侵入を前提にする官民の対策と、個人利用や企業流通品に及ぶ供給網リスクまで広く具体的に解説。

KDDIメール情報1422万件漏洩疑惑、ISP委託統制の盲点

KDDIがISP向けメールシステムへの不正アクセスで最大1422万件の情報漏洩可能性を示した問題を検証。メール本文やパスワードが対象に含まれる恐れ、JCOMやBIGLOBEなど六社への波及、個人情報保護法上の通知責任、利用者のパスワード変更、今後の規制強化、委託先統制の課題をガバナンス視点で読み解く。

SKハイニックス逆転、AIメモリー覇権が変える半導体新勢力図

SKハイニックスが時価総額でサムスンを上回った背景には、HBMで61%を握るAIメモリーの供給制約があります。キオクシアのNAND生産完売、NVIDIAのRubin移行、サムスン反撃、EUV投資競争を整理し、顧客固定化と先端パッケージの経済性からシリコンサイクル脱却の条件と今後の過熱リスクを読み解く。