フジクラの「クモの巣」光ファイバーがデータセンター市場を変えた理由
AIデータセンターで急伸するフジクラSWR
AIデータセンターの建設ラッシュが続く中、その「血管」ともいえる光ファイバー市場で圧倒的な存在感を示しているのがフジクラです。2026年3月期第3四半期累計の情報通信事業は売上高3,035億円、営業利益738億円と驚異的な成長を記録しています。
しかし、ほんの数年前までフジクラの光ファイバー事業は赤字続きでした。この劇的な転換を可能にしたのが、業界の常識を覆す「クモの巣」状の光ファイバーリボン技術「SWR(Spider Web Ribbon)」です。
本記事では、フジクラがどのようにして常識外れの発想から革新的製品を生み出し、GAFAM(Google、Amazon、Meta、Apple、Microsoft)をはじめとするハイパースケーラーの心を掴んだのかを解説します。
従来の光ファイバーリボンが抱えていた課題
「板状」構造の限界
光ファイバーリボンとは、複数の光ファイバーを並べて一体化した構造のことです。従来の光ファイバーリボンは、複数のファイバーを横一列に並べて全面接着した「板状」の構造が主流でした。
この板状構造には、多心一括で融着接続できるという大きなメリットがある一方、致命的な弱点も抱えていました。板状のリボンは硬く、ケーブル内で変形しにくいため、高密度に実装することが困難だったのです。
データセンターが求める高密度配線
AIの普及により、データセンター内で処理されるデータ量は爆発的に増加しています。限られたスペースに、より多くの光ファイバーを通す必要が生じました。従来の板状リボンでは、ダクトや配管の容量が配線本数のボトルネックになっていたのです。
ハイパースケーラーは「同じ配管スペースに、もっと多くのファイバーを通せないか」という課題を抱えていました。この難題に対するフジクラの回答が、SWRでした。
SWR:常識を覆した「クモの巣」構造
間欠接着という逆転の発想
フジクラのエンジニアたちは、「全面を接着する」という常識を疑いました。そして生まれたのが、単心光ファイバーを「間欠的に」接着するという発想です。
SWRは、ファイバー同士を所々でのみ接着し、広げるとまるでクモの巣のような網状の構造になります。この「間欠接着」という型破りなアプローチにより、3つの革新的な特性が実現しました。
SWRの3つの優位性
第1に、多心一括融着接続が可能です。従来の板状リボンと同様に、複数のファイバーをまとめて効率的に接続できます。データセンターの大規模な配線工事では、この施工効率が極めて重要です。
第2に、工具なしで単心ファイバーに分離できます。必要に応じて個別のファイバーにアクセスできるため、メンテナンスや配線変更の柔軟性が格段に向上しました。
第3に、容易に変形できるため高密度実装が可能です。これがSWR最大の強みです。クモの巣状の構造は自在に形を変えられるため、丸く束ねてケーブル内に詰め込むことができます。従来の板状リボンでは不可能だった高密度化を実現したのです。
WTC:SWRを活かすケーブル構造
ラッピングチューブケーブルの革新
SWRの性能を最大限に引き出すために開発されたのが、WTC(Wrapping Tube Cable)というケーブル構造です。SWRを集約してチューブ状に巻き付けたWTCは、どの方向にも柔軟に曲げることができます。
この組み合わせにより、従来のケーブルと比較して同じ径の中に大幅に多くのファイバーを収容できるようになりました。データセンターの既存のダクトや配管をそのまま使いながら、配線容量を飛躍的に増やすことが可能です。
200μmファイバーでさらなる高密度化
フジクラはさらに、通常250μmの光ファイバーを200μmに細径化した製品も開発しています。この200μmファイバーをSWR構造で束ねることで、従来比で圧倒的な高密度化を達成しました。
2025年には16心SWRを実装した細径高密度型光ファイバーケーブルの販売も開始し、データセンター向けのラインナップをさらに充実させています。
赤字事業からの大逆転
中国勢との価格競争で疲弊
フジクラの光ファイバー事業は、かつて苦境に立たされていました。中国メーカーの台頭により価格競争が激化し、汎用品では利益を出せない状況に追い込まれていたのです。2020年3月期には会社全体で385億円の最終赤字を計上するなど、経営危機に瀕していました。
高付加価値製品への転換
岡田直樹社長のもとで進められた構造改革により、フジクラは「価格で勝負する」路線から「技術で勝負する」路線へと大きく舵を切りました。SWR/WTCという競合他社が容易に模倣できない高付加価値製品に経営資源を集中させたことが、V字回復の原動力となったのです。
営業利益率は13.8%に達し、電線業界の中でも突出した収益性を実現しています。これは単なるコスト削減ではなく、技術力による差別化が生み出した成果です。
SWR/WTCの技術優位と北米増産投資
技術的優位性の持続性
SWR/WTCの技術は特許で保護されていますが、光ファイバー業界の技術革新は速く、競合他社も独自の高密度化技術を開発しています。フジクラが技術的リーダーの地位を維持するには、継続的な研究開発投資が不可欠です。
米国生産体制の拡充
フジクラは米国サウスカロライナ州での生産体制拡充に1億5,500万ドルを投資し、SWR/WTCの現地生産を本格化させています。米国政府のBEADプログラム(ブロードバンド整備計画)にも対応するこの投資は、北米市場での競争力をさらに高めるものです。
AIデータセンター需要の見通し
生成AIの急速な普及により、ハイパースケーラーによるデータセンター投資は当面拡大が続くと見られています。フジクラの岡田直樹社長も「AI投資は拡大途上」との認識を示しており、SWR/WTCへの需要は引き続き堅調に推移する見通しです。
間欠接着SWRが開いたGAFAM市場
フジクラの「クモの巣」光ファイバー技術SWRは、「全面接着が当たり前」という業界の常識を覆す間欠接着という発想から生まれました。この革新的な構造により、高密度実装・施工効率・メンテナンス性というデータセンターが求める3つの要件を同時に満たすことに成功しています。
赤字事業からの逆転劇は、汎用品の価格競争から脱却し、唯一無二の技術で勝負するという戦略転換の結果です。AI時代の到来がフジクラの技術力を世界に知らしめ、GAFAM市場という巨大な鉱脈を掘り当てることにつながりました。今後も技術革新の手を緩めないフジクラの動向に注目です。
参考資料:
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