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不動産含み益で見直す割安企業とアクティビスト標的化の最新構図

by 田中 健司
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はじめに

日本株で「割安」を測るとき、PBRだけでは見えない企業が少なくありません。理由は単純で、長年保有してきた土地や建物が簿価のまま残り、実勢価格との大きな差が財務諸表に十分反映されないためです。そこに東京証券取引所の資本効率改善要請が重なり、アクティビストは従来よりも深く不動産の含み益に注目するようになりました。

最近の論点は、単に「土地を持っている会社は強い」という発想ではありません。保有不動産が企業価値向上にどう結びつくのかを説明できなければ、むしろ割安放置の象徴とみなされる局面が増えています。本稿では、公開情報だけを使って、不動産含み益を加味した見方がなぜ広がるのか、どのような企業が標的になりやすいのかを整理します。

不動産含み益が割安評価を変える構図

簿価と実勢価格の大きなずれ

東京証券取引所は2023年3月、プライム市場とスタンダード市場の全上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営を求めました。さらに2024年2月には、投資家が何を重視しているかを整理した文書を公表し、2023年末時点で開示済み企業はプライム市場で49%、スタンダード市場で19%だったと説明しています。つまり、PBRやROEの改善は一部の投資家の要求ではなく、市場制度そのものが促す経営課題になりました。

ここで効いてくるのが不動産です。M&G Investmentsは2025年9月、日本のTOPIX採用企業が持つ土地・建物の簿価合計を約1.1兆ドルと試算し、そのうち非中核・投資目的などで時価開示される資産は約2800億ドル、評価額は約4800億ドルとみています。開示対象部分だけでも簿価比で約70%高く、全体に同じ傾向を当てはめると市場価値は約1.9兆ドル、保守的な評価でも2兆ドル規模になり得るという見立てです。推計には前提があるため幅を持って見るべきですが、簿価ベースの純資産だけでは企業の実像を捉えにくいことは確かです。

地価上昇と修正PBR発想の広がり

不動産含み益が改めて注目される背景には、市況の追い風もあります。国土交通省の2024年度土地白書によると、2025年1月1日時点の地価は全用途、住宅地、商業地のいずれも4年連続で上昇し、上昇率も拡大しました。ロイターも2025年3月、全国平均地価が前年比2.7%上がり、1991年以来の大きさだったと報じています。長期保有地の簿価が低いまま、実勢価格だけが上がる構図が続いているわけです。

このため、投資家は通常のPBRではなく、含み益を純資産に加えた「修正PBR」に近い発想で企業を見るようになります。表面上はPBR1倍割れでも、含み益を織り込めば極端な割安ではない企業もあります。一方で、含み益を考慮してもなお株価が低い企業は、事業の収益力や資本配分に構造的な問題があると受け止められやすく、アクティビストにとっては「価値を解放できる余地」が大きい候補になります。

標的になりやすい企業の共通点

本業との結び付きが弱い資産の多さ

アクティビストが狙うのは、不動産を持つ会社そのものではありません。本業とのシナジーが薄いのに、広大な土地や大型物件を抱え込み、説明責任が弱い企業です。象徴的なのが東京ガスです。ロイターは2025年1月、エリオットが同社株を5.03%保有し、広範な不動産ポートフォリオの売却を求めていると報道しました。記事では、東京ガスの有価証券報告書上の不動産資産が5800億円である一方、エリオット側は1兆円超とみていると伝えています。実際、東京ガスは2025年3月の経営計画でROE8.1%を掲げ、同年1月には社長が資産売却の検討を認めました。

この構図では、不動産含み益は単なる隠れ資産ではなく、還元強化や成長投資の原資候補として扱われます。会社が自ら売却や組み替えの方針を示せば対話余地は広がりますが、対応が遅いと「経営が資産効率を軽視している」と受け止められやすくなります。

売却、再編、非公開化にまで進む圧力

圧力は必ずしも増配や自社株買いで終わりません。ロイターは2025年12月、サッポロホールディングスが不動産事業をKKR・PAG連合に4770億円で売却すると報じ、3D Investment Partnersとの長い攻防の末に非中核資産の切り離しが進んだと説明しました。3Dはその後、2025年1月にNTT都市開発リートへのTOBを開始した際にも、日本の不動産価格は堅調でREIT資産は過小評価されていると主張し、サッポロや富士ソフトで不動産売却を迫ってきた実績に触れています。

富士ソフトを巡っては、3Dの問題提起が発端となり、最終的にKKRとベインの買収合戦に発展しました。不動産含み益の存在は、株主還元要求だけでなく、会社分割、事業売却、MBOやPEによる非公開化まで含む再編の入口になり得ます。M&Gも、こうした案件では未反映の資産価値が買収プレミアムの根拠になりやすいと指摘しています。

興味深いのは、資産回転を主業に近い形で進める企業も増えていることです。三井不動産は2025年の統合報告書で、2024年度から2026年度の3年間に資産回転で約2兆円を回収する計画を示しました。これは「不動産を持つこと」自体ではなく、「どの速度と基準で回すか」が評価軸へ移ったことを示しています。

注意点・展望

不動産含み益は便利な評価軸ですが、万能ではありません。工場隣接地、物流拠点、沿線開発用地のように、本業との結び付きが強い資産は単純売却が最適とは限りません。また、売却益には税負担が伴い、一度きりの利益でROEを押し上げても、事業の稼ぐ力が弱ければ企業価値の持続的改善にはつながりません。

それでも市場の基準は明らかに変わりました。TSEは2025年も資本コストと株価を意識した経営の開示リストを月次更新し、METIの企業買収指針も買収提案への向き合い方を明確化しています。今後は「売るべきか、持つべきか」ではなく、「保有継続で株主価値をどう高めるのか」を具体的に示せるかが分岐点になります。説明が弱い企業ほど、不動産含み益を起点に標的化される可能性が高いと見るべきです。

まとめ

不動産含み益を考慮すると、日本企業の割安度は通常のPBRだけでは測れません。地価上昇が続くなかで、古い簿価のまま眠る資産が企業価値評価をゆがめ、投資家は修正PBRに近い視点で企業を見るようになっています。

重要なのは、含み益の大きさそのものより、その資産をどう使うかです。東京ガス、サッポロ、富士ソフトの事例が示す通り、説明できない不動産は防御力ではなく再編圧力の火種になります。読者としては、PBRやROEの数字だけでなく、保有不動産の役割、売却方針、資本配分の説明まで併せて確認することが、次の標的企業を見抜く近道になります。

参考資料:

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