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実家じまい代行が広がる背景と相続空き家売却で失敗しない注意点

by 鈴木 麻衣子
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相続空き家が実家じまいを急がせる背景

親の死後に残った実家を、片付けから売却、登記や法律関係の整理まで一括で任せたいという需要が広がっています。背景にあるのは、家そのものの老朽化だけではありません。遠方に住む子世代が、相続人間の調整、残置物の処分、査定、解体、税務、近隣対応を同時に抱え込む構造です。

総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は900万戸、空き家率は13.8%と過去最高でした。このうち賃貸用、売却用、二次的住宅を除く空き家は385万戸に上ります。売るにも貸すにも動いていない住宅が、家計と地域の双方に重荷として残っているのです。

国土交通省の空き家所有者実態調査でも、空き家の取得方法は「相続」が57.9%で最も多く、使用目的のない空き家では相続取得が61.5%に達します。つまり、実家じまいは例外的な家族問題ではなく、不動産市場の供給構造そのものを左右する産業テーマになっています。

ワンストップ代行が埋める手続きの分断

空き家増加が生む処分需要

実家じまいが難しいのは、必要な作業が専門分野ごとに分かれているためです。家の中には家具、家電、衣類、写真、仏壇、書類、通帳、証券、貴金属などが残ります。土地建物には登記、境界、共有持分、抵当権、未登記増築、接道、再建築可否、固定資産税などの論点があります。

子世代が同居していない場合、現地確認のたびに休暇や交通費が発生します。兄弟姉妹が複数いれば、誰が何を判断し、費用をどう分担するかも決めなければなりません。さらに、親が介護施設に入ったあと空き家のまま数年が経過しているケースでは、水回り、雨漏り、庭木、害虫、近隣苦情が同時に表面化します。

この分断を束ねる形で、空き家買取会社や遺品整理会社、不動産仲介会社が「ワンストップ」を掲げるようになりました。空き家を現況のまま査定し、残置物の片付けや買取、清掃、解体、司法書士や行政書士への取次ぎまでパッケージ化するサービスです。

国土交通省も2024年6月に「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定し、不動産業者には物件調査、価格査定、売買・賃貸の仲介などを通じて、空き家の発生から流通・利活用まで一括で支える役割があると位置付けました。低廉な空き家等の流通を促すため、物件価格800万円以下の売買に係る媒介報酬規制の見直しも示されています。

買取と片付けを束ねる収益構造

実家じまい代行の中心にあるのは、仲介ではなく「買取」を組み合わせるモデルです。仲介は市場で買い手を探すため、一定の価格を狙いやすい一方、内覧対応、価格交渉、契約不適合責任、残置物撤去が売主側の負担として残りやすくなります。買取は事業者が直接買主となるため、売却時期を読みやすく、荷物を残したまま相談できるケースがあります。

空き家買取を掲げる事業者の公開情報を見ると、残置物がある物件、再建築不可物件、雨漏りやシロアリ被害のある物件でも相談可能とする例が確認できます。司法書士、行政書士、土地家屋調査士、片付け業者と連携すると説明する事業者もあります。消費者にとっては、複数の窓口を回る手間が減る点が最大の利点です。

一方で、ワンストップ化は利益相反を内包します。査定する会社、残置物処分費を見積もる会社、最終的に買い取る会社が実質的に同じグループであれば、売主は価格の妥当性を比較しにくくなります。買取価格から片付け費、解体費、測量費、登記関連費が差し引かれる場合、総額ではなく内訳で判断する姿勢が必要です。

事業者にとっては、単なる不動産売買ではなく、在庫化しにくい物件を再生し、賃貸、再販売、解体後の土地売却、地域事業者への転売につなげるビジネスです。したがって利用者側は、便利さを買う代わりに、通常の仲介より価格が低くなる可能性を理解する必要があります。

士業連携で進む登記と権利整理

相続した実家は、所有者の名義が変わっていなければ売却できません。日本司法書士会連合会は、相続登記をしていなければ売却できず、長期間放置すれば相続関係が複雑になるリスクがあると説明しています。法務省のQ&Aでも、相続登記は2024年4月1日から義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が必要です。

2024年4月1日より前に相続した不動産も、未登記であれば義務化の対象です。この場合は2027年3月31日までに登記をする必要があります。正当な理由なく期限内に申請しない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。実家じまいの先延ばしは、感情面だけでなく制度上のリスクにも変わったのです。

ただし、ここで重要なのは「法律関係整理も丸投げできる」という言葉の限界です。登記申請の代理や法務局提出書類の作成は、司法書士や弁護士などの資格者が担う領域です。事業者が士業へ取り次ぐことと、事業者自身が登記業務を行うことは別です。契約前には、誰がどの資格で何を担当するのかを文書で確認すべきです。

特に共有名義の実家では、相続人全員の同意、本人確認、印鑑証明、遺産分割協議書、未成年者や認知症の相続人への対応などが絡みます。売却価格より先に、権利関係を整理できる状態かを確認しなければ、買取契約の前提が崩れることがあります。

価格査定と処分費を分けて見る実務

買取価格が下がる三つの要因

実家じまい代行の相談で最も誤解が生じやすいのは、「残置物ごと買い取る」という言葉です。これは、残置物に価値があるから高く買うという意味ではありません。多くの場合、事業者は撤去費、運搬費、処分費、清掃費、保管費、再販売までの資金拘束を見込んで価格を決めます。

買取価格を押し下げる第一の要因は、建物の老朽化です。国土交通省の実態調査では、建築時期が1950年以前の空き家では、相続で取得した割合が78.9%でした。構造上の不具合が生じていた空き家でも相続取得の割合は64.8%と高く、古い相続物件ほど修繕や解体の負担が重くなりやすいことが読み取れます。

第二の要因は、流通のしにくさです。前面道路に接していない、再建築不可である、境界が不明確である、農地や山林が付属している、駐車場がない、駅から遠いといった条件は、一般の買主に敬遠されます。事業者が買い取る場合も、転売先や賃貸需要を見込めるかが価格に反映されます。

第三の要因は、残置物と手続きの不確実性です。家財の量が多いほど現地作業の人件費は増えます。貴重品や個人情報を含む書類の仕分けが必要なら、単純な搬出作業では済みません。仏壇、神棚、写真、アルバム、医療記録、権利証、保険証券が混在する家では、処分の前に家族の意思決定が必要です。

したがって、利用者が見るべき数字は「買取総額」だけではありません。土地建物の評価額、建物解体を前提にした評価額、残置物撤去費、家財買取による控除額、登記や測量にかかる概算、仲介に切り替えた場合の想定価格を分けて比較する必要があります。

複数査定で見える現況売却の妥当性

価格の妥当性を確認する第一歩は、公的データと民間査定を分けて使うことです。国土交通省の不動産情報ライブラリでは、取引価格、地価公示、防災、都市計画、周辺施設などの情報を確認できます。不動産取引価格情報提供制度では、2025年3月31日時点で約547万件の取引価格情報が蓄積されています。

ただし、実家じまいの物件は標準的な中古住宅とは条件が違います。近隣で同じ広さの取引事例があっても、建物の劣化、荷物の量、境界確認、解体可否、道路条件が異なれば価格は大きく変わります。公的データは「相場の上限感」を把握する材料であり、現況買取の価格をそのまま否定する材料ではありません。

実務では、少なくとも二つのルートを比較したいところです。一つは、残置物付きで直接買い取る事業者の査定です。もう一つは、地元仲介会社による通常売却の見立てです。時間をかけても高く売りたいのか、相続人の負担を減らして早く終えたいのかで、合理的な選択は変わります。

ここで大切なのは、家族会議を価格交渉の後に回さないことです。兄弟姉妹の一人が「急いで処分したい」と考え、別の一人が「安すぎる」と感じれば、契約直前で止まります。査定書を共有し、現況写真、残置物リスト、費用控除の内訳、売却期限の希望を同じ資料で確認することが、結果的に処分を早めます。

税制面も見落とせません。相続した空き家を一定の要件で譲渡する場合、譲渡所得から3,000万円を特別控除する制度があります。国土交通省は、この特例の適用期間が2027年12月31日まで延長され、2024年1月1日以降の譲渡では譲渡後の一定期限までに耐震改修または取壊しを行う場合も対象に加わると説明しています。制度の適用可否は物件と時期で変わるため、税理士や自治体窓口への確認が必要です。

法規制と悪質業者が残す利用時の落とし穴

ワンストップ代行の最大のリスクは、便利な窓口の裏側にある業務の実体が見えにくい点です。残置物処分では、家庭ごみを市区町村の一般廃棄物処理業の許可や委託なしに回収することは認められていません。環境省は、無許可の回収業者を利用しないよう注意を呼びかけています。

また、環境省のリユース関連資料では、廃品回収サービスに関する消費生活相談が増加し、2021年度に2,000件を超え、2023年度は2,384件とされています。高額な見積もり、広告と異なる追加料金、回収を望んでいない物品の持ち去りなどが代表例です。遺品整理でも、形見、供養物、リユース品、廃棄物をどう分けるかがトラブルの起点になります。

契約前に確認すべき項目は明確です。残置物を運ぶ業者名、一般廃棄物の許可または市区町村委託の有無、買取品の査定方法、処分しない物の指定方法、作業前後の写真報告、追加費用が発生する条件、キャンセル料、個人情報書類の扱いを一覧で確認します。口頭で「全部任せて大丈夫」と説明されても、契約書に書かれていなければ後で争点になります。

空き家の放置リスクも軽視できません。国土交通省の空き家対策特設サイトは、放置空き家が倒壊、安全、衛生、防犯の面で周囲に悪影響を及ぼすと説明しています。2023年改正後は、適切に管理されていない「管理不全空家」も指導の対象となり、勧告を受けると固定資産税などの住宅用地特例を受けられなくなる可能性があります。小規模住宅用地では固定資産税の課税標準が6分の1に軽減されるため、特例を失う影響は小さくありません。

経営面から見ると、実家じまい代行会社は今後さらに増える可能性があります。不動産、片付け、解体、士業取次ぎ、相続相談を束ねるほど顧客単価は上がります。しかし、業務範囲が広がるほど、説明責任、外部専門家の管理、個人情報保護、許認可確認、利益相反管理が問われます。利用者は安さや速さだけでなく、会社のガバナンスを見る必要があります。

実家を資産にも負担にも変える初動

実家じまい代行は、相続人の負担を減らす有効な選択肢です。特に遠方の空き家、残置物が多い家、老朽化が進む家、相続人の人数が多い家では、一つの窓口が工程を管理する価値があります。一方で、便利さは価格低下や費用控除と表裏一体です。

最初に行うべきことは、家の名義、相続人、鍵、固定資産税通知書、登記関係書類、現況写真、残置物の大まかな量を整理することです。国土交通省は「住まいのエンディングノート」を作成し、元気なうちから家族で住まいの将来を話し合うことを促しています。親の生前から情報を共有できれば、実家じまいは大幅に軽くなります。

契約時には、現況買取の査定額、通常仲介の見立て、残置物処分の内訳、登記を担当する資格者、税制特例の確認先を並べて比較します。実家は思い出の場所であると同時に、管理責任を伴う資産です。判断を先送りせず、数字と役割を見える形にすることが、納得できる実家じまいの出発点になります。

参考資料:

鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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