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三菱商事撤退後の洋上風力、中国独走下の世界でJERAは勝てるのか

by 田中 健司
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撤退から1年で露呈した日本市場の設計不備

三菱商事を中心とする企業連合は2025年8月、秋田県沖の2海域と千葉県銚子市沖で進めていた洋上風力事業の中止を決めました。2021年の選定時点における3案件の出力は合計約169万kWです。国内初の大規模な一般海域公募が、風車を1基も稼働させないまま仕切り直しとなりました。

撤退から約1年が過ぎ、日本の課題は「有力企業が去った」という一点にとどまりません。低価格を引き出せば事業も実現するという制度上の前提が崩れ、港湾、建設船、送電網、人材への先行投資にも不確実性が広がりました。

一方、世界市場では中国が設備容量と製造量の両面で存在感を高めています。欧米では撤退が続く半面、英国のように価格と契約条件を修正して投資を呼び戻す国も現れました。この再編期にJERAが勝てるかどうかは、中国企業との単純な価格競争ではなく、日本で完成まで運ぶ仕組みを確立できるかにかかっています。

価格偏重の入札が生んだ第1ラウンドの破綻

固定収入と変動費用の深い断層

国土交通省が公表した2021年の選定結果によると、三菱商事連合の供給価格は由利本荘市沖が1kWh当たり11.99円、能代市・三種町・男鹿市沖が13.26円、銚子市沖が16.49円でした。価格点と事業実現性が各120点という採点方式の下、3海域すべてで最も高い価格点を得ています。

選定後には新型コロナウイルス禍やウクライナ危機を背景に、鋼材、風車、海底ケーブル、輸送費が上昇しました。円安と金利上昇も重なり、巨額の初期投資を必要とする洋上風力の採算は悪化しました。三菱商事洋上風力の発表も、インフレ、円安、供給網の逼迫、金利上昇を撤退判断の背景に挙げています。

問題は低価格だけではありません。売電収入が長期間にわたって固定される一方、資材価格や為替、金利の変動を事業者が広く引き受ける構造でした。長い開発期間中にコストが上がっても、契約価格や工程を柔軟に組み替える余地が乏しかったのです。

もっとも、撤退をすべて「安値受注の失敗」で片付けるのも正確ではありません。公募当時には世界規模のインフレや急激な金利上昇を完全には予測できず、制度側も長期インフラ特有の変動リスクを十分に織り込んでいませんでした。企業の見積もりと国の制度設計が同時に現実から外れた結果とみるべきです。

完遂重視へ転換した新しい公募設計

経済産業省と国土交通省は2026年6月、一般海域の公募制度に関する運用指針を改訂しました。改訂内容には、想定供給価格幅の設定、事業実現性の配点と採点方法の見直し、迅速性に対する配点の引き下げ、工程変更の柔軟化が盛り込まれています。

これは「最も安い計画」から「完成する可能性が高い計画」への軸足移動です。極端に低い価格で全案件を獲得する戦略が有利になりにくくなり、金利、為替、資材価格の上昇を想定した感度分析や、調達契約の具体性が一段と問われます。中止された3海域の再公募にも新制度が適用される方向です。

ただし、制度変更だけで投資が戻るとは限りません。事業者に価格変動への対応余地を与えれば、発電コストや将来の国民負担が見えにくくなる懸念があります。反対に支援を絞りすぎれば、応札者が減り、港湾や国内工場への投資も止まります。価格競争、事業完遂、負担抑制の三つをどこで均衡させるかが再公募の焦点です。

政府は2040年までに洋上風力全体で3000万~4500万kWの案件形成を目指し、うち浮体式を1500万kW以上とする方針です。目標を掲げる段階から、毎年一定量の案件を途切れなく建設する段階へ移れるかが問われています。案件の空白が生じれば、専用船や基地港湾、人材への投資を国内に定着させることは困難です。

中国52%時代に進む欧米市場の選別と再設計

数字で鮮明になった中国の量的支配

世界風力エネルギー会議の2026年報告によると、2025年末の世界の洋上風力設備は9250万kWでした。このうち中国は4840万kWと52%を占め、新規導入でも世界930万kWのうち660万kWを担いました。

製造面の集中も進んでいます。陸上用を含む2025年の風車設置量では、Goldwind、Envision、Windey、Mingyang、SANYの中国勢が世界上位5社を独占しました。巨大な国内市場、国有電力会社による継続発注、港湾と造船の集積が、大型化と量産の速度を支えています。

ただし、中国勢の優位をそのまま国際市場での全面支配とみるのは早計です。同じ調査では、中国メーカーによる設置量の93.4%が中国国内に集中しています。欧州では欧州メーカーのシェアがなお高く、日本の大型案件もVestasやSiemens Gamesa製の風車を採用しています。

日本企業が中国と設備量で競う必要はありません。国内の耐震、台風、冬季雷、複雑な海底地盤に適合させ、港湾建設から据え付け、保守まで一体で管理する能力が競争軸になります。中国製品の価格だけを基準にするのではなく、故障時の部品供給、長期保守、認証、地域調達を含む総費用で判断する必要があります。

撤退と再始動が同居する欧米市場

欧米の状況も一様な「失速」ではありません。欧州では2025年に系統接続された洋上風力が約200万kWにとどまり、WindEuropeの集計では2016年以来の低水準でした。建設遅延、送電網不足、許認可の長期化が重なっています。

個別案件では、デンマークのØrstedが英国のHornsea 4を従来計画のまま進めないと決定しました。出力240万kWの大型案件で、供給網コスト、金利、工期と運営リスクの上昇が理由です。米国ではTotalEnergiesが2026年3月、ニューヨーク湾とノースカロライナ沖のリースを返上し、米国で洋上風力を開発しない方針を示しました。

一方、英国政府は2026年1月の第7回差額決済契約入札で、過去最大となる840万kWを確保しました。価格条件を現実に合わせ、長期の売電収入を見通せる契約を提示した結果です。欧州は洋上風力を放棄したのではなく、採算性の低い案件を選別し、投資可能な条件へ作り替えています。

日本への示唆は明確です。政策目標だけでは企業の投資判断を動かせず、完成可能な価格と長期契約が必要です。反対に、支援価格を引き上げるだけでは供給網の効率化が進みません。入札で安さを競わせた後に救済するのではなく、当初からリスク分担を透明にすることが重要です。

13GW連合が持つ運営と資金調達の厚み

JERAは2025年8月、再生可能エネルギー子会社JERA Nexとbpの洋上風力事業を統合し、50対50出資のJERA Nex bpを発足させました。JERAの発表では、稼働資産、開発案件、確保済みリースを含む持分容量は約1300万kWです。

統合の利点は規模だけではありません。JERA側は台湾のFormosa 1、Formosa 2、ベルギーのParkwind、日本の石狩湾新港などで建設・運営経験を持ちます。bp側の開発人材と資金調達力を組み合わせれば、調達契約の標準化や、案件間での人材共有、外部資本の導入を進めやすくなります。

ただし、1300万kWはすべて建設が決まった容量ではありません。開発中案件やリースも含むため、採算性の低い計画は優先順位を下げられる可能性があります。山形県遊佐町沖では2026年7月、bp子会社が企業連合からの撤退を検討していると報じられました。事業会社は撤退があっても計画を続ける方針ですが、bpの参加自体が完遂を保証するわけではありません。

秋田と青森で問われる建設会社としての力

JERAの勝算を判断する最初の試金石は、国内の秋田・青森両案件です。男鹿市・潟上市・秋田市沖は31万5000kWで、2028年6月の運転開始を予定しています。JERAの2026年2月時点の説明では、陸上送変電設備と基地港湾の工事が進み、Vestasとの風車調達契約、鹿島建設との基礎工事契約も締結済みです。

2026年7月には、15MW風車を使う同案件が電気事業法上の適合性確認を取得しました。一般海域の公募案件として初めてで、10MW超級の洋上風車としても国内初です。台風、地震、冬季雷に対応した日本仕様の設計が審査されたことは、書類上の計画から施工段階へ進んだ証拠になります。

青森県沖日本海南側は61万5000kWで、2030年6月の運転開始を予定します。JERA Nex bp、東北電力、グリーンパワーインベストメントが開発し、JERAグループでは国内3件目の洋上風力案件です。秋田と合わせた93万kWを予定通り完成できれば、三菱商事撤退後の国内市場で中心的な地位を得られます。

ただし、秋田案件の供給価格は第2ラウンドのゼロプレミアム水準である1kWh当たり3円です。これは電力を3円で販売するという意味ではなく、FIPによる上乗せ支援に頼らず、市場収入や相対契約で採算を確保する設計です。企業向け長期契約をどこまで確保できるかが、建設工程と並ぶ重要条件になります。

JERAの勝敗を分ける三つの実行リスク

第1のリスクは、調達済み資機材を予定通り港へ運び、据え付ける工程管理です。洋上風力では風車、基礎、ケーブル、SEP船のどれか一つが遅れても、天候上の施工可能期間を逃しかねません。秋田案件で2028年6月の運転開始を守れるかが、JERAの国内実行力を測る基準になります。

第2は収益と資金調達です。金利、為替、市場価格を同時に管理し、需要家との長期契約や外部資本で投資負担を抑える必要があります。50対50の合弁会社はリスク分散に有効ですが、世界の案件を選別する局面では、日本案件が投資優先順位を維持できるかも重要です。

第3は地域と供給網の持続性です。漁業影響調査、環境対策、地元雇用、保守拠点への支出を、建設前の約束で終わらせてはいけません。地域との信頼が崩れれば、後続海域の形成も難しくなります。完成後の設備利用率や補修時間まで開示し、30年単位で評価される産業へ変える必要があります。

これらを踏まえると、JERAが勝てる可能性はあります。ただし、その勝利は中国を設備量で上回ることでも、世界中の開発権を保有することでもありません。秋田と青森を予算と工程の範囲内で完成させ、次の案件でも再利用できる建設・保守基盤を残すことです。

日本の洋上風力再起を測る三つの指標

今後の判断材料は三つです。第一に、秋田案件の港湾整備、風車搬入、基礎施工が工程通り進むか。第二に、中止された3海域の再公募で、現実的な価格と複数の応札者が両立するか。第三に、青森案件で長期売電契約、資金調達、地域合意が建設開始前に固まるかです。

三菱商事の撤退は洋上風力の終わりではなく、安値落札を成功とみなす政策の終わりでした。中国の量産力は強大ですが、日本には厳しい自然条件への設計、港湾建設、長期保守という独自市場があります。JERAが二つの国内大型案件を完遂できれば、日本はようやく「計画を選ぶ市場」から「発電所を連続して造る産業」へ移れます。

参考資料:

田
田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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