海外投信の日本株買い、選別相場の新基準
海外アクティブ投信が日本株を選ぶ背景
海外投信による日本株買いが、単なる指数連動の資金流入ではなく、個別企業を選び抜くアクティブ運用の文脈で目立っています。背景にあるのは、東証改革、企業の資本配分見直し、インフレ定着への期待、AI関連需要、そして日本発ブランドの世界展開です。
重要なのは、日本株が「割安な市場」から「変化する企業を選ぶ市場」へ移りつつある点です。本稿では、海外投資家が何を評価し、どこにリスクを見ているのかを、JX金属やサンリオの事例を交えて読み解きます。
資本効率改革が変えた日本株の見られ方
東証要請が生んだ対話の共通言語
海外アクティブ投信が日本株に目を向ける第一の理由は、企業との対話がしやすくなったことです。東京証券取引所は2023年3月、プライム市場とスタンダード市場の上場会社に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現を要請しました。2026年4月にはこの要請を更新し、経営資源の適切な配分に関する投資家の期待を整理しています。
この変化は、ファンドマネージャーにとって大きな意味があります。以前の日本株投資では、現預金の多さ、政策保有株、低いROE、説明不足の中期計画が評価の壁になりがちでした。いまは企業側が、資本コスト、PBR、ROE、成長投資、株主還元を同じ言葉で説明する必要に迫られています。
東証は開示企業一覧を毎月更新し、2026年からはコーポレートガバナンス報告書における各社の開示内容も掲載する形に変えました。これは、海外投資家が銘柄を絞り込む際の実務的な手がかりになります。経営が本気で資本効率を改善している会社と、形式的な説明にとどまる会社の差が見えやすくなるからです。
金融庁と東証は2026年7月、コーポレートガバナンス・コード改訂を確定しました。公開草案には147の個人・団体から意見が寄せられており、国内外の市場関係者の関心は高い状態です。海外投信にとって、日本株は政策主導の改革テーマであると同時に、企業ごとの差を拾える投資対象になっています。
海外勢と個人資金が重なる需給基盤
需給面でも、日本株の土台は変わっています。野村アセットマネジメントは、2025年度の株式分布状況調査をもとに、外国法人等の株式保有比率が34.7%と過去最高を更新したと整理しています。個人の保有比率も17.4%に微増しており、新NISAを背景に国内の投資家層も厚みを増しています。
海外勢の買いだけでは、相場は外部環境に左右されやすくなります。しかし、個人の長期資金が同時に増えている点は、過去の日本株ブームと異なります。海外投信が企業改革を評価し、国内個人がNISAを通じて資産形成を進める構図は、売買の時間軸を少し長くします。
投資信託市場全体の拡大も見逃せません。投資信託協会の統計を基にした市場データでは、2026年6月の公募株式投信の純資産総額が207兆円台に乗り、過去最高を更新したとされています。モーニングスターの国内投信フロー分析でも、世界株式型や低コストインデックスが資金流入の中心である一方、テーマ型やアクティブ型にも資金が向かっています。
世界の投信市場も大きな資金プールです。Investment Company Instituteによると、2026年1〜3月期末の世界の規制対象オープンエンドファンド資産は87.23兆ドルでした。株式ファンド資産は41.46兆ドルで、グローバル運用者が一部を日本株に振り向けるだけでも、需給に大きな影響を与えます。
JX金属とサンリオに映る選別買いの条件
半導体材料で評価される供給網
海外投信が買う日本株は、必ずしも指数上位の大型株だけではありません。むしろ、世界市場で競争力を持ち、収益構造を説明しやすい企業が選ばれやすくなっています。その典型が、半導体材料を手掛けるJX金属です。
JX金属は、銅やレアメタルを軸に、資源確保からリサイクルまでを含むサプライチェーンを持つ先端素材企業です。同社の資料では、半導体用スパッタリングターゲットの世界シェアが約65%、磁性材用スパッタリングターゲットが約60%、InPウエハーが約40%、高純度タンタル粉末が約50%とされています。
この数字が示すのは、AI関連需要が半導体メーカーだけに閉じないことです。生成AI、データセンター、HBM、3D-NAND、先端ロジックの投資が続けば、製造装置、材料、検査、実装、光通信まで広い産業に需要が波及します。海外投信は、そうしたサプライチェーンの中で価格決定力を持つ企業を探しています。
2026年7月には、JX金属が韓国拠点で半導体用スパッタリングターゲットの加工能力を増強するため、約40億円を投資すると発表しました。韓国は先端メモリーの集積地であり、顧客に近い場所で加工・販売・技術支援を担う体制は、供給安定性の評価につながります。
素材企業は市況変動の影響を受けやすい面があります。それでも、世界シェアが高く、用途が先端半導体に深く入り込み、能力増強の理由を説明できる企業は、単なる景気敏感株ではなく「AIインフラの基盤銘柄」として見られます。海外アクティブ投信が好むのは、このような構造的な需要と個社の競争力が重なる銘柄です。
キャラクターIPが生む世界収益
もう一つの象徴がサンリオです。海外投信が日本株を選ぶ視点は、半導体や素材だけではありません。ブランド、キャラクター、ライセンス、ファンコミュニティといった無形資産も、世界で稼ぐ力として評価されます。
サンリオの有価証券報告書によると、同社グループはキャラクター使用許諾、ギフト商品の企画・販売、テーマパーク事業などを展開しています。特徴は、ハローキティに依存するモデルから、クロミ、シナモロール、マイメロディなど複数キャラクターを育てるIPポートフォリオ型へ移っている点です。
2026年3月期の地域別動向では、アジア売上高が380億円、営業利益が162億円となり、前期比で大きく伸びています。中国ではトイ・ホビーやアパレル、企業特販が好調で、韓国や台湾でも複数キャラクター戦略が寄与しました。欧州、北米、南米でもライセンスやデジタル接点が広がっています。
消費文化の観点から見ると、サンリオの強みは「かわいい」という単一イメージにとどまりません。キャラクターごとに異なる性格、色、物語、ファン層を持ち、アパレル、美容、玩具、食品、スポーツ、ゲームへ横展開できます。海外の若年層にとって、キャラクターは商品ロゴではなく、自己表現の記号です。
同社は2026年4月、新ブランド「Sanrio Games」を立ち上げ、家庭用ゲームを世界同時展開する方針を示しました。今後3年で約10タイトルを投入する計画も掲げています。これは、物販やライセンスから、デジタル上の継続接点へ収益源を広げる動きです。
海外投信がサンリオを評価する場合、見るべきは短期のキャラクター人気だけではありません。複数IPを管理する組織力、海外ライセンシーとの関係、ゲームや動画での接点拡大、ブランド毀損を避ける品質管理が重要です。日本企業の無形資産が、世界の消費文化の中で再評価される局面に入っています。
為替・金利・過熱感が揺らす買い持続力
海外投信の日本株買いが続くかどうかは、企業改革だけでは決まりません。為替、金利、米国株の動向、AI関連株の過熱感が、資金配分を左右します。円安は輸出企業や海外収益企業に追い風ですが、海外投資家にとっては為替ヘッジコストや円建てリターンの変動要因にもなります。
日銀の政策正常化も重要です。日銀は2024年3月にETFとJ-REITの新規買い入れを停止し、2025年9月には保有ETFの処分方針を決めました。日銀審議委員の講演では、ETF保有の簿価が37兆円規模であること、売却完了には単純計算で100年以上かかるペースで慎重に進める考えが示されています。市場への直接的な売り圧力は急ではありませんが、心理的な上値抑制要因にはなり得ます。
世界の資金循環にも注意が必要です。英国Investment Associationの2026年6月統計では、同月の個人向けファンド純流入は38億ポンドと2021年8月以来の高水準でしたが、株式ファンド全体では流出が続き、日本株ファンドにも小幅な流出がありました。地域や販売チャネルによって、日本株への見方は一枚岩ではありません。
さらに、AI関連銘柄への期待が強まりすぎると、バリュエーションの調整が起きやすくなります。OECDのAsia Capital Markets Report 2026は、日本で自社株買いが増えた一方、長期的な企業価値向上には、配当や自社株買いだけでなく、資本コストを上回る投資、イノベーション、規律ある資本配分が欠かせないと指摘しています。
海外投信の買いは、日本企業への信任投票であると同時に、結果を求める資金です。開示だけで株価が上がる局面は長続きしません。成長投資の回収、価格転嫁、海外売上の拡大、人的資本への投資、ブランドの持続性が、次の選別基準になります。
投資家が確認すべき銘柄選別の物差し
個人投資家がこの流れを見る際は、「海外勢が買っているから買う」では不十分です。確認すべきは、海外投信がなぜその企業を選ぶのかという理由です。世界シェア、無形資産、資本効率、英語開示、経営者の説明力、株主還元と成長投資のバランスを見比べる必要があります。
JX金属のような素材企業では、AI需要との距離、顧客分散、能力増強の採算性が焦点です。サンリオのようなブランド企業では、キャラクター人気の循環、海外ライセンス管理、デジタル展開の収益化が焦点になります。どちらも、財務諸表に表れにくい競争力をどう評価するかが重要です。
日本株の再評価は、政策、資金流入、企業努力が重なって進んでいます。ただし、相場全体を買う局面から、変化を実行できる企業を選ぶ局面へ移っています。海外アクティブ投信の動きは、その選別基準を映す鏡です。投資家は株価の勢いだけでなく、資本配分とブランド価値の持続性を点検するべきです。
参考資料:
- Trading Overview in June 2026 & First Half of 2026 | Japan Exchange Group
- Action to Implement Management that is Conscious of Cost of Capital and Stock Price | Japan Exchange Group
- Finalization of the Corporate Governance Code (2026 Revision) | Financial Services Agency
- 株式分布状況調査 | 名古屋証券取引所
- 海外投資家と個人が支える日本株の新局面 | 野村アセットマネジメント
- Worldwide Regulated Open-End Fund Assets and Flows, First Quarter 2026 | Investment Company Institute
- Funds enjoy the heat as June records £3.8bn inflows | The Investment Association
- Speech by Board Member MASU | Bank of Japan
- The next phase for Japanese equities | Bank of America
- Quick Guide to JX Advanced Metals Corporation
- Expansion of Processing Capacity for Semiconductor Sputtering Targets at JX Advanced Metals Korea
- Sanrio Launches New Brand “Sanrio Games”
- Financial Results Briefing Materials and Video | Sanrio Company, Ltd.
- 株式会社サンリオ 有価証券報告書 全文(FY2026)| EDINET DB
- Creating value and increasing trust: Asia Capital Markets Report 2026 | OECD
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