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ドンキがオリンピック買収へ、小売再編の背景

by 鈴木 麻衣子
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はじめに

「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が、首都圏でスーパーマーケットやディスカウント店を展開するOlympicグループを買収する方針であることが明らかになりました。取得額は250億円程度とみられています。

物価高と人手不足が続く中、デジタル投資やスケールメリットで生産性を高められる企業と、そうでない企業の間で「優勝劣敗」が鮮明になりつつあります。今回の買収は、こうした小売業界の構造変化を象徴する動きといえます。本記事では、買収の背景にある業界動向と、PPIHの成長戦略について解説します。

PPIHの成長戦略とM&Aの実績

34期連続増収増益を支える拡大路線

PPIHは2025年6月期の連結売上高が約2兆2,468億円(前年同期比7.2%増)、営業利益が約1,623億円(同15.8%増)と、34期連続の増収増益を達成しています。国内655店舗、海外124店舗の計779店舗を展開するグローバル小売グループへと成長しました。

同社は長期ビジョン「Visionary 2035」のもと、2035年6月期までに連結売上高4兆2,000億円、営業利益3,300億円を目標に掲げています。この達成に向けて1兆2,000億円以上の投資を計画しており、M&Aはその重要な柱の一つです。

長崎屋・ユニー買収で証明した「業態転換力」

PPIHのM&A戦略を語るうえで欠かせないのが、過去の成功事例です。経営不振に陥っていた長崎屋を買収し、ドン・キホーテ業態への転換を通じて再生に成功しました。これにより、若年層中心だった顧客層を中高年層にまで拡大し、郊外型店舗の展開ノウハウを獲得しています。

さらに2019年にはユニー・ファミリーマートホールディングスからユニーを完全子会社化しました。総合スーパー「アピタ」「ピアゴ」の店舗を「MEGAドン・キホーテUNY」に業態転換したところ、転換した店舗では客数が約6割増加し、売上高は約8割伸びるという大きな成果を上げています。

Olympicグループの現状と買収の狙い

厳しさを増すOlympicの経営環境

Olympicグループは東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県などの首都圏を中心に、スーパーマーケットやディスカウント店を展開する老舗小売企業です。2025年2月期の連結売上高は約916億円でしたが、連結経常損益は約1.6億円の赤字に転落しました。従来予想では3億円の黒字を見込んでいたものの、一転して赤字となった形です。

さらに2026年2月期の第3四半期累計(3〜11月)では連結営業損益が約16.6億円の赤字に拡大しており、経営環境の厳しさが浮き彫りになっています。年間配当も前期比5円減の15円に減配する方針が示されるなど、株主還元にも影響が出ていました。

PPIHが見据える首都圏の「食品強化」

PPIHにとって、Olympicグループの買収は首都圏における食品事業の強化という戦略的意義を持ちます。PPIHは2026年3月に食品強化型の新業態「驚楽の殿堂 ロビン・フッド」を発表しました。売場面積の約6割を食品が占める300〜700坪規模の店舗で、地域住民の日常的な買い物需要に応える業態です。

ロビン・フッドはまず中京エリアのピアゴ店舗を転換する形で展開が始まり、2027年には首都圏への進出を計画しています。2035年までに200〜300店舗、年間売上高6,000億円を目指す壮大な計画です。Olympicグループの首都圏店舗網は、この新業態の展開を一気に加速させる「受け皿」として大きな価値があると考えられます。

物価高が加速させる小売業界の再編

デジタル投資が生む「格差」

日本の小売業界では、物価高と人手不足を背景にM&Aが加速しています。原材料費の高騰により消費者の節約志向が強まる一方、スーパーマーケットの店舗数は前年比で30店舗以上減少しており、業界全体の淘汰が進んでいます。

こうした環境下で生き残りの鍵を握るのが、デジタル投資による生産性の向上です。プライベートブランド商品の開発力、調達の効率化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によりコスト増を吸収できる大手と、独自の対応策を打ち出せない中堅・中小企業の間で格差が広がっています。

イオンも大型再編に動く

PPIHだけでなく、業界最大手のイオンもスーパーマーケット事業の大型再編を進めています。首都圏ではマックスバリュ関東、ダイエー関東事業、イオンマーケットを経営統合し、2026年3月に「イオンフードスタイル」として再スタートしました。売上高約1,800億円、126店舗体制で、2030年度には売上高2,400億円を目指す計画です。

近畿圏でもダイエーを存続会社として光洋を吸収合併し、売上高約3,000億円・187店舗の体制を構築しています。スケールメリットを追求する動きは業界全体のトレンドとなっており、単独での生き残りが難しい時代に入りつつあります。

注意点・展望

今回の買収が成功するかどうかは、PPIHがOlympicの既存店舗をどのように転換するかにかかっています。過去のユニーの事例では業態転換による大幅な業績改善が実現しましたが、首都圏の商圏は競争が激しく、同様の成果が保証されるわけではありません。

また、食品強化型業態「ロビン・フッド」はまだ立ち上がったばかりの段階であり、顧客に定着するかは今後の課題です。PPIHのCOOである鈴木康介氏は首都圏での出店に自信を示しているとされますが、既存の食品スーパーや生鮮コンビニとの競争は避けられません。

小売業界全体の再編はさらに加速する見通しです。物価高と人手不足という構造的な課題が解消される見込みは当面なく、規模の経済を追求できる企業とそうでない企業の差は今後も広がっていくと考えられます。

まとめ

PPIHによるOlympicグループの買収は、物価高と人手不足が促す小売業界の再編を象徴する出来事です。PPIHは長崎屋やユニーの買収・業態転換で実績を積んでおり、新業態「ロビン・フッド」の首都圏展開に向けた足がかりとしてOlympicの店舗網を活用する戦略とみられます。

消費者にとっては、業態転換によって食品の品揃えや価格競争力が向上する可能性がある一方、地域に根ざしたOlympic店舗の雰囲気が変わることへの懸念もあるかもしれません。今後のPPIHの店舗運営方針と、競合他社の動きに注目が集まります。

参考資料:

鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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