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30歳未満の金融資産6割増、将来不安で投資に向かう若者世代の実像

by 藤田 七海
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30歳未満の金融資産316万円が示す構造変化

総務省の2024年全国家計構造調査によると、世帯主が30歳未満の世帯の金融資産は平均315.7万円でした。2019年の194.8万円から62.1%増え、全世代で最大の伸び率です。同じ期間の年間収入の増加率は19.0%であり、所得の伸びだけでは説明できません。

数字の内側では、預貯金や保険から株式・投資信託への大きな資金移動が起きています。ただし、増加分には株高による評価益が含まれ、平均値も一部の資産保有世帯に引き上げられます。若者の投資熱を、制度、消費文化、将来不安という三つの側面から読み解きます。

預貯金中心から投資信託へ移る若年家計

五年間で62.1%増えた残高の内訳

2024年10月末の総世帯の金融資産は、1世帯平均1527.2万円でした。2019年から247.5万円増え、そのうち有価証券の増加額が143.3万円を占めます。家計全体でも、現金をためるだけでなく市場で運用する方向への変化が鮮明です。

30歳未満では、その変化がさらに急です。金融資産に占める預貯金の割合は2019年の78.4%から2024年には68.1%へ下がりました。生命保険なども10.6%から5.7%へ低下しています。

一方、株式や投資信託を含む有価証券の割合は、7.7%から24.9%へ17.2ポイント上昇しました。株式は5.0%から11.0%、投資信託は2.3%から13.5%へ拡大しています。投資信託の構成比は全世代で30歳未満が最も高く、若年家計の資産形成を象徴する商品になりました。

背景には、少額から自動積立できる投資信託の普及があります。個別企業を選ぶ知識やまとまった元手がなくても、給与日に合わせて定額を購入できます。家計にとって投資は、賞与で一度に株を買う特別な行為から、通信料金や動画配信サービスと同じように毎月支払う「定額行動」へ変わりました。

積立設定後は意思決定を繰り返す必要がありません。この手軽さは継続を助ける一方、生活費が増えた局面でも投資額を見直しにくいという特徴を持ちます。資産形成が日常化したからこそ、投資額を固定費として管理する視点が必要です。

株高と積立資金を切り分ける統計の読み方

315.7万円という残高は、若年世帯が5年間で同額を新たに貯蓄したという意味ではありません。調査では株式や投資信託を2024年10月末時点の時価で評価します。購入後の値上がりも資産残高の増加として表れるためです。

2019年から2024年にかけて、日本を含む主要株式市場はコロナ禍の急落を挟みながら上昇しました。外国株式を組み入れた投資信託では、海外株高や為替変動も円建て評価額に影響します。株高の恩恵と、給与から拠出した新規資金を統計だけで完全に分離することはできません。

それでも、預貯金の構成比が10.3ポイント下がり、有価証券が17.2ポイント上がった事実は、評価益だけでは説明しにくい変化です。少なくとも一定の資金が預金や保険から証券へ向かったと考えるのが自然です。

数字の定義にも注意が要ります。この調査は「世帯主が30歳未満の世帯」を集計しており、親と暮らす20代や世帯主ではない若者を、その年代の世帯として直接捉えた統計ではありません。2019年と2024年に同じ世帯を追跡した調査でもないため、世帯構成の変化も結果に含まれます。

315.7万円は資産ゼロ世帯を含む平均値であり、若年層の典型的な保有額を示す中央値ではありません。全世代でも、金融資産は平均1527.2万円に対して、ゼロ世帯を含む中央値が600万円、保有世帯だけの中央値が728万円です。平均と中央値の大差は、資産分布の偏りを示します。

日本銀行の資金循環統計では、2026年6月末の家計金融資産は約2519兆円に達しました。ただし、こちらには年金受給権や個人事業主の事業資金なども含まれます。統計ごとの範囲をそろえず、「日本の家計」や「若者」を単純比較するのは適切ではありません。

新NISAが日常の消費行動を変える仕組み

長期投資の摩擦を下げた制度とスマホ

若年層の投資を後押しした最大の制度要因がNISAです。2024年の制度改正では非課税保有期間が無期限となり、制度も恒久化されました。年間投資枠はつみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円で、併用すれば最大360万円です。生涯の非課税保有限度額は1800万円となっています。

年間上限は若年世帯の平均的な拠出能力を大きく上回ります。重要なのは上限の大きさより、少額積立を長期間続けても期限切れを心配しなくてよくなった点です。売却後には取得額相当の枠を翌年以降に再利用できるため、結婚、住宅、育児などに合わせた取り崩しもしやすくなりました。

金融庁によると、NISA口座は2026年6月末に3048万口座、制度開始からの累計買付額は85兆円に達しました。2024年末時点の普及率は全体で24.0%で、20歳代も23.1%に達しています。若者だけの現象ではありませんが、NISAが現役世代の標準的な金融インフラへ近づいていることは確かです。

日本証券業協会の2024年利用状況によると、同年に買い付けがあった口座の54.0%は、成長投資枠とつみたて投資枠を合わせた年間買付額が60万円以下でした。投資枠を満額使う一部の高所得者だけでなく、月数万円程度を積み上げる利用者が制度を支えています。

証券口座のスマートフォン対応も、投資と消費の境界を薄くしました。残高、損益、積立予定額を買い物アプリと同じ感覚で確認でき、ポイントを投資に回せるサービスもあります。店舗や担当者を介していた資産運用は、若者にとって自己管理型のデジタルサービスへ姿を変えました。

ブランドやサービスを選ぶように、指数、手数料、運用会社を比較する文化も広がっています。投資商品は将来のための道具であると同時に、「堅実に暮らしている自分」を表現するライフスタイルの一部にもなりました。この心理は継続の力になる一方、SNS上の成功例と資産額を競う危うさも伴います。

老後・物価不安が生んだ先取り投資

日本証券業協会が新NISA利用者7610人を調べた調査では、つみたて投資枠を始めた目的として「将来・老後の生活資金」が58.2%で最多でした。「資産形成自体」が41.9%、「病気や失業、自然災害など不測の事態への備え」が26.4%で続きます。

これは投資をしている人だけを対象とした調査であり、全若年層の意識とはいえません。それでも、値上がり益を短期的に狙うより、長い将来に備える目的が中心であることは重要です。若者の投資傾倒は、楽観的な相場観よりも、先の見えない生活への防衛行動という側面を持ちます。

物価上昇も現金だけを持つことへの不安を強めました。総務省の消費者物価指数は、2025年平均で2020年を100とした総合指数が111.9となり、前年比でも3.2%上昇しました。預金残高の数字が変わらなくても、購入できる商品やサービスは減り得ます。

30歳未満の年間収入は2019年から19.0%増え、2024年には平均460.2万円となりました。ただし、これは税引き前の名目収入です。住居費や食費などの上昇を経験する若者にとって、給与が増えた実感と将来への安心が一致するとは限りません。

公的年金への見方にも冷静さが必要です。2024年の財政検証では、モデル世帯の所得代替率は足元の61.2%から、過去30年投影ケースで最終的に50.4%となる見通しです。一方、高成長実現ケースでは56.9%、成長型経済移行・継続ケースでは57.6%であり、経済や就業の前提によって結果は変わります。

この数字は「年金がなくなる」という予測ではありません。若者が公的年金だけに依存せず、自分で補完する必要を感じる材料になっています。NISAによる積立は、年金の代替ではなく、公的保障、就労収入、私的資産を組み合わせるための一つの手段です。

将来不安が強いほど、現在の楽しみを過度に削って投資へ回しやすくなります。しかし、旅行、学習、健康、人間関係への支出には、若い時期にしか得られない価値があります。資産残高を増やすだけでなく、現在と将来の生活満足度をどう配分するかが、次の家計課題です。

平均値の陰に残る資産格差と相場下落リスク

金融資産が6割増えたという見出しだけでは、投資できる余裕のない若者が見えなくなります。平均値は多額の金融資産を持つ一部世帯に引き上げられます。奨学金、カードローン、家賃負担などを抱える家計では、投資より債務返済や緊急予備資金が優先される場合があります。

株式や投資信託の比率が上がるほど、相場下落時の評価損も大きくなります。NISAは運用益を非課税にする口座であり、元本や利益を保証する制度ではありません。数年以内に必要な結婚費用や住宅資金を株式中心で運用すると、使いたい時期の下落で計画が崩れる恐れがあります。

知識面の課題も残ります。金融リテラシー調査では、18~29歳の正誤問題の正答率が2022年に41.2%で、他の年代を下回りました。口座開設の容易さに、リスク、手数料、分散効果への理解が追いついていない可能性があります。

SNSには役立つ情報と誤情報が混在します。金融庁は、著名人になりすました広告からクローズドチャットへ誘導し、架空の口座へ入金させる投資詐欺に注意を促しています。「必ず増える」「政府公認」といった説明を信用せず、事業者の登録、手数料、資金の送付先を公式情報で確認する習慣が欠かせません。

若い世代が優先したい三つの家計防衛策

若い世代の資産形成では、金額を競うより資金の役割を分けることが先決です。まず日常生活費と不測の支出に備える預金、次に数年以内のライフイベント資金、最後に長期運用できる資金という三層に分けます。近く使うお金まで投資へ回す必要はありません。

長期資金は、家計に無理のない定額を自動積立にし、資産、地域、購入時期を分散します。昇給時に増額し、収入減や大きな支出があれば減額する柔軟さも必要です。NISAの上限を埋めること自体を目標にせず、手数料と値動きを理解できる商品を選びます。

最後に、年1回は資産残高だけでなく、負債、生活費、年金見込み、今後の予定を一緒に確認します。30歳未満の金融資産6割増は、若者が将来を主体的に設計し始めた変化です。その成果を持続させる鍵は、不安に追われた過剰投資ではなく、現在の暮らしを守りながら続けられる仕組みにあります。

参考資料:

藤
藤田 七海

ブランド・消費文化・ライフスタイル

ブランド戦略・消費文化・ライフスタイルを幅広く取材。歴史や科学にも造詣が深く、多角的な視点で社会の「今」を切り取る。

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