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輸送費34%増時代のCLO義務化、共同輸送と全体最適経営改革

by 鈴木 麻衣子
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物流を経営課題に変えるCLO義務化

物流は長く、販売や生産を支える裏方のコスト部門として扱われてきました。しかし、2026年4月の改正物流効率化法の全面施行で、その位置付けは明確に変わりました。一定規模以上の荷主は、物流統括管理者、いわゆるCLOの選任、中長期計画の作成、定期報告を求められるようになりました。

背景にあるのは、2024年問題を一過性の労務規制として片付けられない構造的な供給制約です。野村総合研究所は、2030年度の営業用トラックドライバー数を2015年度比25%減の48万人、ドライバー不足率を36%と推計しています。さらに、2030年度の輸送費は2022年度比で34%増える見通しです。

日本ロジスティクスシステム協会の2025年度調査でも、売上高物流コスト比率は5.32%と過去20年で4番目に高い水準でした。物流事業者から値上げ要請を受けた企業の割合は92.8%に達し、価格転嫁と生産性向上を同時に進めなければ、物流費は利益を削る固定的な圧力になり続けます。

この記事では、CLO義務化を単なる法令対応ではなく、企業統治とサプライチェーン改革の節目として捉えます。日清食品の共同輸送や商流・物流データ連携、F-LINEの食品メーカー横断の取り組みを手がかりに、個別最適から全体最適へ移るための論点を整理します。

荷主規制が求めるデータ統治と責任設計

年9万トン基準で広がる対象範囲

改正物流効率化法は、荷物を出す発荷主だけでなく、受け取る着荷主にも対応を求めています。国土交通省などの理解促進ポータルによると、取扱貨物の重量が年9万トン以上の荷主は特定荷主として指定され、中長期計画や定期報告などの義務を負います。これは、メーカーだけでなく、卸売、小売、建設、外食、フランチャイズ本部などにも波及する制度設計です。

ここで重要なのは、義務が「物流部門だけの書類作成」では終わらない点です。中長期計画には、運転者1人当たりの1回の運送ごとの貨物重量の増加、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮について、実施措置、目標、実施時期などを記載します。計画は毎年度提出が基本ですが、内容に変更がなければ5年に一度の提出とされています。

定期報告では、判断基準の遵守状況、関連事業者との連携状況、荷待ち時間等の状況を報告します。荷待ち時間と荷役等時間は原則として分けて計測し、施設ごとに実態を把握する必要があります。つまり、現場で何分待たせているか、どの荷役が負荷を生んでいるかを、経営が見える形で持たなければなりません。

CLOに求められる役員級の統括機能

CLOは、物流部長に新しい肩書を付けるだけでは務まりません。制度上、物流統括管理者は事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者とされ、役員などの経営幹部から選ばれることが想定されています。選任しない場合には100万円以下の罰金、選任届出を怠った場合には20万円以下の過料という制裁も定められています。

業務範囲も広いです。CLOは中長期計画や定期報告の作成を統括するだけでなく、リードタイムの確保、発注量・発送量の適正化、調達・生産・販売・在庫・物流などの連携体制整備、設備投資、デジタル化、物流標準化、社内研修、取引先との調整まで担います。物流改革は、在庫政策、販売計画、商品設計、調達契約を横断する経営課題として定義されたのです。

この構造は、コーポレートガバナンス上も大きな意味を持ちます。物流費の上昇や輸送停止リスクは、財務数値、納品品質、顧客信頼、環境負荷に直結します。にもかかわらず、現場任せのままでは取締役会が十分なリスク情報を持てません。CLOは、物流リスクをKPI化し、経営会議で意思決定できる状態に変える責任者と見るべきです。

コスト削減から供給責任への転換

従来の物流改善は、運賃単価の引き下げ、倉庫費の抑制、在庫削減に寄りがちでした。しかし、ドライバー不足が深刻になる局面では、安い運賃を求め続けるほど必要な時に運べなくなるリスクが高まります。JILSの調査が示すように、物流事業者からの値上げ要請は広範に起きており、荷主側も価格転嫁を受け入れながら効率化を同時に設計する段階に入っています。

そのためCLOの最初の仕事は、物流費を単価だけで見る習慣を改めることです。積載率、車両回転、荷待ち時間、荷役時間、納品頻度、リードタイム、返品率、緊急出荷率を一つの管理体系に入れる必要があります。例えば、営業部門が短い納期を約束し、販売促進部門が月末に物量を集中させ、生産部門が小ロット出荷を増やせば、物流部門だけでは解けない非効率が発生します。

CLO義務化は、こうした部門間の利害を経営の場に引き上げる仕組みです。法務や監査の観点では、単に届出を済ませたかではなく、実態として権限と情報がCLOに集まっているかが問われます。名目的な任命では、物流危機にも制度対応にも耐えにくい経営管理になります。

日清食品らの共同輸送に見る全体最適

軽量貨物と重量貨物の混載設計

共同輸送が注目される理由は、荷物の特性が企業ごとに偏っているからです。日清食品がアサヒ飲料、日本通運と2020年に始めた関東から九州への共同輸送は、その典型です。飲料は重量が重く、2段積みしにくいため荷台上部に空きが生まれます。一方、即席麺は軽いため、容積を使い切っても重量には余裕があります。

3社は、パレットサイズや製品数量を調整し、重い飲料の上部空間に軽い即席麺を組み合わせる混載スキームを確立しました。日清食品の発表では、従来の個別輸送に比べてトラック使用台数を20%削減でき、即席麺の積載方法をバラ積みからパレット積みに変えることで、ドライバーの荷役負担も軽くなるとされています。

この事例が示すのは、共同輸送が単なる相乗りではないという点です。必要なのは、重量、容積、パレット規格、積み降ろし順、納品時間帯、温度帯、破損リスクを合わせる設計力です。競合や異業種との連携では、どのデータを共有し、どこまで業務ルールを変えるかも論点になります。

戻り便を収益資源に変える循環型物流

日清食品と伊藤園の連携は、帰り便やパレット返却に着目した点でさらに示唆的です。両社は2023年8月から空きパレットの共同返却輸送を進め、トラック使用台数を約9%、CO2排出量を約31%削減しています。2024年4月からは、日清食品の即席麺と伊藤園の茶葉を混載して関東方面へ運ぶ取り組みも実施し、トラック使用台数を約38%、CO2排出量を約23%削減するとしています。

2024年7月には、伊藤園の生産委託工場から管理倉庫へ茶葉を運び、復路で日清食品の静岡工場から在庫拠点へ即席麺を運ぶラウンド輸送を毎日運行で始めました。日清食品によれば、この取り組みではトラック使用台数を約19%、CO2排出量を約17%削減する見込みです。

ここでの価値は、片道の積載率だけでは測れません。往路と復路の貨物を組み合わせることで、空車回送を減らし、ドライバー拘束時間と車両投入数を抑えます。パレット返却のような「戻す物流」も、共同化の対象に入れれば改善余地になります。CLOが見るべきKPIは、出荷便の単価だけでなく、往復の稼働、拠点間の空白、資材の返却動線まで広がります。

商流データ連携による発注最適化

物流の全体最適は、トラックの中だけで完結しません。日清食品と三菱食品は2026年5月、商流と物流のデータ連携による協業を本格始動すると発表しました。2025年10月からの実証では、三菱食品の特売発注予定データを事前連携することで、日清食品の在庫調整業務時間を月約200時間削減しました。

さらに、三菱食品から日清食品への発注時に、トラック1台当たりの積載効率を最大化するAI発注モデルを構築し、配送に必要なトラック台数を約30%削減できると試算しています。これは、発注単位や納品タイミングが物流負荷を決めることを端的に示しています。

商流側が販売機会を最大化しようと細かな発注を繰り返せば、物流側には低積載・多頻度配送が発生します。逆に物流効率だけを優先して発注を大きくまとめれば、欠品や在庫過多のリスクが高まります。データ連携の意義は、需要予測、在庫、発注、配送を同じテーブルに載せ、どの制約を優先するかを定量的に選べるようにする点にあります。

食品メーカー連合が進める標準化

食品業界では、個社の努力を超えた共同物流の土台も整いつつあります。F-LINEプロジェクトは2015年に食品メーカー6社が発足させ、2019年には5社の共同出資でF-LINE株式会社が設立されました。基本理念は「競争は商品で、物流は共同で」です。物流品質を維持しながら、幹線輸送、共同保管、共同配送、納品時の課題解決を進める枠組みです。

2024年3月には、F-LINEプロジェクト参加メーカー6社とF-LINEが、中部・関西地区から九州への輸送でフェリーを使う定期海上輸送を開始しました。対象ルートのトラック走行距離は600キロメートルから750キロメートルほどで、時間外労働規制の影響を受けやすい長距離区間です。海上輸送への転換は、ドライバーの拘束時間削減、輸送の安定化、CO2排出量削減、BCPの複線化につながります。

共同物流の本質は、個社の荷量を足し合わせることではありません。出荷曜日、港までの陸送、フェリー便、到着後の配送拠点を合わせ、共同で使える標準プロセスに組み替えることです。CLO時代の企業は、自社だけの最適解を守るより、業界の共通インフラに乗ることで供給責任を果たす発想が必要になります。

共同化の壁となる商慣行と利益配分

共同輸送やデータ連携には明確な効果がありますが、実装は簡単ではありません。第1の壁は商慣行です。短い納品リードタイム、細かな時間指定、検品や棚入れの付帯作業、返品前提の販売促進は、物流現場の待機時間と荷役時間を増やします。物流部門が改善したくても、営業条件や取引先との契約に組み込まれていれば、単独では変えられません。

第2の壁は利益配分です。共同輸送で台数が減っても、どの企業がどれだけ便益を得たのかを説明できなければ、長続きしません。軽い荷物を持つ企業、重い荷物を持つ企業、納品時間の制約が厳しい企業では、提供する価値と受け取る価値が異なります。共同倉庫や共同配送では、在庫スペース、荷役人員、システム投資、欠品リスクの負担も分ける必要があります。

第3の壁はデータの質です。商品マスタの重量や容積、パレット情報、発注予定、納品実績、待機時間が部門ごとに分断されていると、共同化の候補すら見つけにくくなります。国の制度が荷待ち時間や荷役等時間の計測を求めるのは、現場を縛るためだけではありません。非効率を定量化し、荷主、物流事業者、納品先が同じ事実に基づいて交渉するためです。

企業統治の観点では、CLOを置いた後の権限設計が最も重要です。CLOが販売部門のキャンペーン計画、生産部門のロット設計、調達部門の納入条件、財務部門の投資判断に関与できなければ、法定書類は整っても実効性は弱くなります。取締役会は、CLOの選任を人事発令で終わらせず、物流KPIを経営KPIに接続する監督体制を持つべきです。

2030年度には輸送力不足がさらに深刻化する見通しです。官邸でも、2024年問題で深刻な停滞は回避された一方、2030年度に34%の輸送力不足が見込まれるとして、抜本的かつ計画的な対策の必要性が示されています。目先の輸送費上昇を価格交渉だけで処理すると、次の制約に備える投資が遅れます。

経営者が今期点検すべき物流KPI

CLO義務化への対応で、経営者が最初に確認すべきなのは、自社がどの立場で物流を発生させているかです。発荷主、着荷主、連鎖化事業者、倉庫利用者としての取扱量を整理し、年9万トン基準や自社施設の荷待ち実態を確認する必要があります。対象外の企業でも、取引先からデータ提供や納品条件変更を求められる可能性があります。

次に、物流KPIを財務KPIと結び付けることです。売上高物流コスト比率、1台当たり積載率、荷待ち時間、荷役時間、納品頻度、リードタイム、返品率、緊急便比率、CO2排出量を並べると、どの部門の意思決定が物流費を動かしているかが見えてきます。JILSが指摘するように、物流コストは調達、生産、販売にまたがるため、部門別管理だけでは全体最適になりません。

最後に、共同化の候補を社外に開くことです。日清食品の事例は、重い荷物と軽い荷物、往路と復路、商流データと物流データを組み合わせることで、削減効果を生み出しています。自社単独の改善余地が小さくなった企業ほど、共同輸送、共同保管、モーダルシフト、発注単位の標準化に踏み込む価値があります。

物流はもはや、調達したサービスを安く使うだけの領域ではありません。運べる力を確保し、取引先と利益を分け合い、データで非効率をなくす経営インフラです。CLO時代に問われるのは、物流部門の努力ではなく、企業全体として供給責任を設計できるかどうかです。

参考資料:

鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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