NewsHub.JP

NewsHub.JP

物流CLO時代の経営改革 コスト可視化と企業連携実務

by 田中 健司
URLをコピーしました

はじめに

2026年4月、日本の物流政策は一段深い局面に入ります。改正物流効率化法により、一定規模以上の荷主には物流統括管理者、いわゆるCLOの選任が求められ、物流は現場部門の改善テーマから経営課題へと格上げされました。背景にあるのは、ドライバー不足や時間外労働規制だけではありません。運賃上昇、荷待ち削減、積載率改善、脱炭素対応が同時に進むなか、物流を数字で管理し、社内外を束ねて意思決定する役割が必要になったためです。

本稿では、制度の要点を押さえたうえで、先進企業や政策動向から見えるCLOの実務を整理します。焦点は二つです。第一に、物流コストや荷待ち時間をどう可視化するか。第二に、共同輸配送やモーダルシフトのような企業間連携を、どこまで経営判断に落とし込めるかです。

CLO設置義務の衝撃と役割再定義

法改正で広がる経営責任

経済産業省の整理では、2025年4月から全ての荷主に対し、積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮に関する努力義務が課されています。そのうえで2026年4月からは、年間取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主に対し、中長期計画の作成、定期報告、CLO選任が義務化されました。CLOは役員など経営判断に参画する立場から選ぶ必要があり、物流部門長の延長では足りない制度設計です。

国土交通省のポータルサイトや2026年3月30日の提言公表では、CLOの役割は単なる配送管理にとどまりません。調達、生産、販売、在庫、物流を横断し、社内の部門連携をつくること、さらに取引先や物流事業者との水平連携と垂直連携を主導することまで期待されています。罰則もあるため、名目的な兼務では済まず、全社KPIを持つ責任者としての実効性が問われます。

可視化が最初の仕事になる理由

もっとも、CLOが最初に直面するのは「何を改善すべきか分からない」という問題です。日本ロジスティクスシステム協会の2025年度物流コスト調査では、売上高物流コスト比率は全業種平均で5.36%、有効回答196社のうち輸送費単価が増加した企業は88.1%に達しました。しかも同調査は、法対応策として「現状把握(可視化)」を起点にパレット化、標準化、DXが広がっていると指摘しています。

ここで重要なのは、物流コストの総額だけでは不十分だという点です。施設ごとの荷待ち時間、商品別や納品先別の採算、繁閑差、積載率、再配達、付帯作業の有無まで分解しないと、改善余地は見えません。実際、改正法の定期報告では、荷待ち時間と荷役等時間を分け、施設ごとの平均時間を把握する考え方が示されています。CLOの実務は、まず測れない物流を測れる物流へ変えることから始まります。

コスト可視化と企業連携の実装

現場データから経営KPIへの接続

経済産業省の「物流デジタルサービス事例集」は、荷待ち・荷役時間の削減や積載効率向上に資するデジタル活用を整理しています。ここから見えるのは、予約受付、動態管理、検品効率化、請求照合といった個別機能が、最終的には経営管理に接続されるべきだという点です。花王では物流施設統合管理システムの導入により、作業進捗の見える化を進め、現場管理者の意思決定を支える体制を広げています。可視化の価値は、ダッシュボードを作ること自体ではなく、どの拠点に投資し、どの商流を見直すかを判断できることにあります。

法制度の観点でも、荷主には自社の貨物重量算定や施設別の荷待ち把握が求められます。商品マスタ、最大積載量、売上金額換算など複数の算定方法が認められているのは、企業ごとのデータ成熟度が異なるためです。裏を返せば、CLOには会計、販売、倉庫、輸送のデータを一つの言語に翻訳する役割があると言えます。

共同輸配送とモーダルシフトの実務

もう一つの柱が企業連携です。北海道経済産業局は2024年に共同輸配送や商慣習見直しの事例集を公表し、地域物流を維持するには単独最適では限界があると示しました。さらに同局が2024年9月に認定したイオン北海道、イオングローバルSCM、センコー、栗林商船などのモーダルシフト計画では、年間10,914時間のドライバー運転時間削減、302.8トンのCO2削減を見込んでいます。これは連携が理念ではなく、数値で評価できる経営施策であることを示す好例です。

企業側の動きも加速しています。SUBARUは2025年4月にCLOと物流本部を新設し、2026年2月には西濃運輸との協業で、部品を集約した長距離混載輸送を開始しました。ヤマト傘下のSustainable Shared Transportと富士通も、2025年2月から共同輸配送のオープンプラットフォームを稼働させています。CLOが担うべきなのは、こうした連携を単発案件にせず、標準パレット、共通データ、定時運行、費用配分といったルール整備まで含めて仕組みにすることです。

注意点・展望

よくある誤解は、CLOを置けば物流改革が自動で進むという見方です。実際には、営業が小口多頻度配送を続け、生産が短納期前提で計画を組み、調達が納入条件を固定したままであれば、物流部門だけでは改善できません。CLOの成否は、物流KPIを経営会議に載せ、調達や販売の評価指標まで変えられるかにかかっています。

今後は、単なるコスト削減型CLOと、供給力と成長投資を両立するCLOの差が広がるでしょう。JILS調査が示すように物流コスト上昇は構造的で、価格転嫁やサービス設計も含めた判断が必要です。国土交通省のフォーラムで共有された先進企業の事例も、CLOを物流責任者ではなく、サプライチェーン再設計の責任者として位置付けていました。日本企業にとってCLOは新しい肩書ではなく、物流を経営の言葉で語るための装置です。

まとめ

改正物流効率化法が突きつけているのは、物流を現場任せにできる時代の終わりです。CLOに求められるのは、荷待ちや積載率を測る仕組みを整え、コスト構造を可視化し、その結果を基に社内外の連携を設計することです。共同輸配送やモーダルシフトは、その延長線上にある実装テーマにすぎません。

読者がまず確認すべきなのは、自社で物流コストを商品別、拠点別、顧客別に把握できているかどうかです。そこが曖昧なら、CLOの議論は組織論で止まります。可視化できれば、次に連携の余地が見えてきます。CLO時代の経営改革は、物流を測ることから始まります。

参考資料:

関連記事

最新ニュース