ガソリン車シェア初の5割割れ、原油高がEV需要を押し戻す構図
5割割れが示す自動車市場の節目
世界の新車市場で、純ガソリン車が「標準仕様」だった時代が大きく揺らいでいます。海外報道がMobility Globalのデータとして伝えた集計では、2026年1〜6月のガソリン車販売は2,025万台で前年同期比10%減となり、世界新車販売に占める比率は49%に低下しました。
この数字は、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を除いた純ガソリン車の比率です。つまり、内燃機関そのものが直ちに消えるという話ではありません。それでも、量販車の中心が「エンジン単独」から「電動化を前提にした商品設計」へ移った節目として重要です。
背景には、中東情勢に伴う原油高、電池価格の低下、中国メーカーの輸出攻勢、欧州や新興国の政策支援が重なっています。日本メーカーにとっては、得意のHVで収益を守りながら、EVとソフトウエア主導の車づくりへどこまで速く転換できるかが問われます。
原油高で再評価されたEVの経済性
純ガソリン車が失った多数派の座
ガソリン車シェア49%という数字は、単なる環境意識の変化だけでは説明できません。2026年上半期は、世界の新車市場そのものが弱含みました。IEAは1〜6月の世界自動車販売が前年同期比で約5%減少したと分析しており、最大市場である中国と米国の減速が響きました。
その中で、EVは第1四半期の落ち込みから第2四半期に急回復しました。IEAによると、電気自動車販売は第2四半期に前期比35%増となり、50カ国で四半期販売が過去最高に達しました。上半期全体では前年同期をわずかに下回る程度にとどまり、世界新車販売に占める比率は24%へ上昇しました。
ここで注意すべきは、統計によって「EV」の範囲が異なる点です。IEAの電気自動車はBEVとPHEVを含みます。一方、Mobility Global系の報道では、EV販売は687万台、世界シェア17%とされており、よりBEV寄りの集計とみられます。分類は異なっても、純ガソリン車の相対的な後退という方向は一致しています。
燃料費不安とEVの総保有コスト
原油高は、消費者の購買判断を一気に現実的なものにしました。米エネルギー情報局は、2026年第2四半期のブレント原油先物が4月29日に1バレル118ドルまで上昇し、ホルムズ海峡を巡る供給混乱で価格変動が拡大したと説明しています。ガソリンの精製マージンも前年同期比で60%上昇しました。
同局の6月見通しでは、2026年のブレント原油平均価格は95ドル、米国の小売ガソリン価格は1ガロン3.90ドルとされました。これは2025年の3.10ドルから大きな上昇です。燃料代が家計や事業者の固定費に近い存在になるほど、EVの購入価格だけでなく、充電費、整備費、税制優遇を含めた総保有コストが注目されます。
IEAは、道路交通が世界の石油利用の約半分を占めると指摘しています。燃料供給の不安定化は、単なる車種選択の問題ではなく、エネルギー安全保障の問題でもあります。特に輸入燃料への依存度が高い欧州やアジアでは、EV導入が家計対策と産業政策の両方の意味を持ち始めています。
欧州で目立つ補助策と規制効果
欧州では、EV復調が統計にはっきり表れています。ACEAによると、2026年上半期のEU新車登録でBEVは122万890台となり、市場シェアは20.7%に上昇しました。ハイブリッド車は37.3%を占め、ガソリン車とディーゼル車の合計シェアは29.7%まで低下しました。
ガソリン車だけを見ると、EUの上半期登録は130万9,153台で、シェアは前年同期の28.4%から22.2%へ落ちました。フランス、ドイツ、スペイン、イタリアの主要市場でガソリン車は軒並み二桁減となり、電動化車への置き換えが進んでいます。
欧州の特徴は、燃料高と政策が同じ方向を向いた点です。CO2規制、法人車向け優遇、低価格EVへの補助が重なり、消費者は「いつかEVへ」ではなく「次の買い替えでEVも比較する」段階に入りました。原油高は、その比較表の燃料費欄を大きく書き換えた要因です。
中国勢が先行する電動化の量産力
中国の内需減速と輸出拡大型モデル
中国市場は、EV拡大の中心でありながら、2026年上半期は単純な成長物語ではありませんでした。中国政府系の発表では、1〜6月の新エネルギー車生産は743万8,000台、販売は744万6,000台とされています。規模は圧倒的ですが、国内景気や補助制度の変化で需要には波があります。
その弱さを補っているのが輸出です。AP通信は、中国の乗用車輸出が2026年上半期に前年同期比72%増の440万台超へ拡大したと報じました。6月単月では輸出が80%増となる一方、中国国内販売は26%減でした。国内で価格競争が激しくなるほど、メーカーは海外市場に活路を求めます。
IEAも、中国の自動車輸出が2026年上半期に65%増え、EV輸出は120%超伸びたと分析しています。さらに、中国の自動車輸出に占める電気自動車の比率は2025年の約35%から、2026年上半期には45%超へ上昇しました。中国勢にとってEVは、国内販売の一部ではなく、輸出産業の中核に変わっています。
電池・ソフトを束ねる製造競争
競争力の源泉は価格だけではありません。IEAは、中国のBEV生産コストが先進国より30%超低く、その差の約3分の1は電池に由来すると分析しています。電池セル価格も中国は欧州より30%超、米国より20%超低いとされます。素材調達、電池、車体、電子制御を近い距離で束ねられる製造基盤が、車両価格の下げ余地を生んでいます。
KAMAの集計として報じられたデータでは、2026年上半期の世界電動車販売は884万7,000台規模で、中国系6グループの合計シェアは62.3%に達しました。BYD、吉利、SAIC、奇瑞、Leapmotor、長安が上位に入り、BYDは229万台、吉利は112万7,000台とされています。
この構図は、かつて日本メーカーが得意とした「すり合わせ型の量産力」が、電池・電装・ソフトを含む新しい量産力へ置き換わりつつあることを意味します。EVは部品点数が少ない一方、電池調達、熱管理、車載OS、OTA更新、充電体験まで含めた統合力が問われます。工場の効率だけでなく、車両を出荷した後に機能を更新し続ける体制が競争条件になっています。
HVの橋渡し効果とEV投資遅れのリスク
HVの強みが残る地域と用途
日本メーカーにとって、HVは依然として大きな武器です。米EIAによると、2026年第2四半期の米国軽自動車販売で、HV、BEV、PHEVの合計シェアは24%でした。このうちHVは16%と過去最高に達し、BEVは6%、PHEVは1.4%にとどまりました。充電インフラや税制が揺れる市場では、HVの安心感が強く残ります。
トヨタの欧州事業でも、電動化の主役はまだHVです。2026年上半期の欧州販売は63万3,617台で、電動化車比率は87%に達しました。ただしBEV比率は11%で、ToyotaブランドのBEV販売は6万2,412台です。HVの厚い商品群が収益を支え、その上にBEVを積み増す構図です。
この戦略は短期的には合理的です。燃費改善、既存工場の活用、部品サプライヤーの雇用維持という面で、HVは産業基盤への衝撃を和らげます。一方で、欧州や中国のようにBEVの選択肢が増える市場では、HV中心の品ぞろえだけでは若年層や法人フリートを取り切れないリスクがあります。
固定費構造を揺さぶるEV投資判断
EV投資は、遅れても急ぎすぎても痛みを伴います。ホンダは2026年3月、北米で予定していた3つのEVモデルの開発・市場投入を中止し、電動化戦略の見直しに伴う損失を見込むと発表しました。同社は米国のEV需要減速を踏まえ、HVを強化する方針も示しています。
これは「EVが不要になった」という意味ではありません。むしろ、市場ごとにEV、HV、PHEVをどう組み合わせるか、設備投資をどのタイミングで回収するかが難しくなったということです。EV専用工場、電池合弁、ソフト開発人材は固定費が重く、需要が一時的に鈍ると損益を圧迫します。
ただし、世界全体では電動化の方向は続いています。IEAは2026年の電気自動車販売比率を世界で29%と見込み、中国では60%超に達すると予想しています。日本勢がHVで時間を稼げる期間はありますが、その時間をEVの商品力、電池調達、ソフト基盤に変えられなければ、次の成長市場で存在感を失う可能性があります。
投資家と経営者が追うべき次の指標
ガソリン車シェアの5割割れは、単発の統計ではなく、産業構造の変化を映す信号です。次に見るべきは、原油価格、電池価格、地域別のEV補助策、充電インフラの稼働率、そしてメーカー別の電動化車販売比率です。販売台数だけでなく、どの車種で利益を出しているかも重要です。
経営者にとっては、エンジン部品、鋳造、変速機、燃料系部品の需要減にどう備えるかが焦点になります。投資家にとっては、完成車メーカーだけでなく、電池材料、電装部品、充電設備、車載ソフト企業まで含めた供給網の再編を見る必要があります。
HVは当面の橋渡し役として残ります。しかし、原油高が続き、低価格EVの供給が増えれば、消費者の比較軸はさらに変わります。自動車産業の次の勝者は、エンジンかEVかの二択ではなく、地域ごとの需要を読みながら、電池・ソフト・生産現場を一体で動かせる企業です。
参考資料:
- Gasoline Cars Fall Below Half of Global New-Car Sales for First Time
- Chinese Automakers Top 62% of Global Electrified Vehicle Market in First Half
- Electric Car Markets in a Time of Uncertainty - Executive summary
- Quarterly sales of electric cars break records in several key markets amid energy crisis
- Trends in electric cars - Global EV Outlook 2026
- Manufacturing and trade - Global EV Outlook 2026
- Pathways to global EV cost-competitiveness
- Petroleum markets responded to disruptions in the Middle East in the second quarter
- EIA expects a drop in global oil demand will limit price increases from Hormuz disruptions
- Hybrid sales rise while battery electric sales remain lower after tax credit expiration
- New car registrations: +5.7% in H1 2026; battery-electric 20.7% market share
- China’s new energy vehicle output, sales both exceed 7 mln in H1
- China’s passenger car exports are up 80% in June as EV demand grows, while sales drop at home
- Toyota Motor Europe battery electric vehicle sales double in the first half of 2026
- Honda Announces Losses Associated with Reassessment of Automobile Electrification Strategy
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