ヒューリック高ROEの源泉、回転型不動産で稼ぐ事業構造と競争力
6.5兆円市場で際立つヒューリックの回転型モデル
企業が抱える不動産をどう使い、どう売るかは、いまや単なる資産整理ではありません。東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営を促して以降、企業は遊休地や本社ビルを含む保有資産の収益性を以前より厳しく見直しています。実際、CBREによると日本の商業用不動産投資額は2025年に6.5兆円へ拡大し、主要な本社売却案件も市場を押し上げました。
この流れのなかで、ヒューリックが目立つのは、ただ高値で買って高値で売るからではありません。賃貸事業で安定収益を確保しながら、再開発や改修で価値を上げた物件を売却し、次の投資原資をつくる「回転型」の仕組みを明確に持っているからです。本稿では、公表資料を基に、ヒューリックの高ROEを支える事業構造と、外資が強い市場で日本勢として戦えている理由を整理します。
ヒューリックの高ROEを支える事業構造
賃貸収益と売却益の二層構造
ヒューリックの公表資料をみると、同社の土台は都心好立地の賃貸ポートフォリオです。2024年末時点で保有物件は245件、68%が東京23区に立地し、73%が最寄り駅から徒歩5分圏内にあります。都心立地に寄せたポートフォリオは空室率や賃料変動の影響を受けにくく、安定的な賃貸収益を生みやすい構造です。
一方で、ヒューリックはそれだけに依存していません。中長期計画では、開発や建て替え、ポートフォリオの入れ替えを通じて利益成長と投資効率の向上を図る方針を示しています。公開している2024年実績のROEは12.8%で、同社が「日本有数の企業」の条件として掲げるROE10%以上を上回りました。ここから読み取れるのは、保有資産を長く寝かせて賃料だけを積み上げるモデルではなく、バランスシートを回しながら株主資本の収益性を高める経営です。
同社の2026〜2036年計画でも、M&Aを活用しながら不動産を軸に多様な成長事業を取り込み、利益成長と投資効率の向上を両立させる方針が示されています。これは会計上の一時益を積み上げる発想とは異なります。賃貸で守り、開発と売却で伸ばす二層構造こそが、ヒューリックの高ROEの源泉です。
価値を上げて売る回転モデル
ヒューリック自身は、この仕組みを「Value-added Business」として説明しています。取得した物件に対して、用途転換、改修、設備更新、耐震対応、テナント入れ替えなどを施し、本来のポテンシャルを引き出して価値を最大化する事業です。単に市況の追い風を待つのではなく、手を入れて価格を上げる点に特徴があります。
具体例として、旧イトーヨーカドー店舗を地域密着型商業施設「LICOPA」に再生した案件や、既存病院を中規模商業施設「HULIC &New KICHIJOJI」に転換した案件が示されています。こうした案件は、立地は良くても機能が時代遅れになった建物を、テナント需要に合わせて再商品化する典型です。日本では築古ビルや用途不適合の資産が多く、ここに再生余地があります。
2024年11月には、高難度のバリューアップ案件を手がけるレーサムを連結子会社化しました。これは、売却益のための案件ソーシングを厚くするだけでなく、再生難度が高い案件にも踏み込む布石とみられます。公表資料からの推測ですが、ヒューリックは従来の都心オフィス賃貸会社から、開発・CRE・再生を横断する「不動産オペレーター」へ重心を移しつつあります。高ROEはその結果であって、目的は資産回転を通じた企業価値の増幅にあります。
外資優位の市場で国内勢が戦える理由
CRE提案力と都心集中の強み
外資ファンドが日本の企業不動産を積極的に買う背景には、低金利が続いた資金調達環境と、企業側の資産圧縮ニーズがあります。ただ、案件を取れるかどうかは価格だけでは決まりません。売り手企業にとっては、売却後も本社や事業所をどう使い続けるか、共同開発にするか、賃借に切り替えるかといった選択肢の整理が重要です。
ヒューリックはCRE事業として、企業不動産の有効活用支援を前面に掲げています。公表事例には、電通本社ビルへの投資や、オンワードの土地案件など、売却と利用継続を組み合わせる形が並びます。ここで効くのは、金融的な買い手であるだけでなく、再開発や建て替え、運営まで見通した提案ができることです。日本企業にとって、外資ファンドへ単純売却するより、国内デベロッパーと一体で再編したほうが意思決定しやすい局面は少なくありません。
さらに、ヒューリックは東京23区、とりわけ駅近に強く集中しています。この集中は分散不足にも見えますが、都心の需要を深く理解し、用途変更やテナント戦略を組み立てやすいという利点があります。案件ごとに勝ち筋が異なる回転型ビジネスでは、地域特性を読む力が売却価格に直結します。広く薄く持つより、狭く深く読むことが強みになるわけです。
金利上昇局面で問われる実行力
もっとも、このモデルは市況任せでは成立しません。CBREによると、2025年の日本の不動産投資額は過去最高に達した一方、金利上昇局面でも投資需要は強く、優良資産の取得競争は激しいままです。外資ファンドは大型資金を持ち、案件ごとの意思決定も速いです。ヒューリックが対抗するには、物件取得後にどこまで価値を引き上げられるかが決定的になります。
その意味で、回転型ビジネスのリスクは三つあります。第一に、取得価格が高すぎると改修や建て替えをしても利幅が薄くなります。第二に、工事費上昇や人手不足で再生コストが膨らむ恐れがあります。第三に、売却市場が鈍れば、含み益を現金化するタイミングが遅れます。高ROEは見栄えのよい数字ですが、その裏では案件選別、工事管理、出口戦略の精度が常に問われています。
レーサム買収後に問われる高難度案件の収益化
よくある誤解は、ヒューリックを単なる「オフィス大家」とみることです。確かに安定収益の柱は賃貸ですが、いまの成長戦略の中心はポートフォリオの組み替えと、価値をつくって売る事業にあります。逆にいえば、売却益だけを見て一過性と片づけるのも正確ではありません。開発、再生、CRE提案を通じて、売却益を再生産する仕組みを整えているからです。
今後の焦点は二つです。ひとつは、レーサム買収による高難度案件の取り込みがどこまで利益成長につながるかです。もうひとつは、資本コストを意識した経営を求める市場環境が続くなかで、企業不動産の放出案件をどれだけ国内勢として取り込めるかです。ヒューリックの優位は、賃貸収益で耐久力を持ちながら、再生と売却で回転も利かせられる点にあります。金利正常化の時代には、この両立がいっそう重要になります。
高ROEを支える都心駅近賃貸と再生売却循環
ヒューリックの高ROEは、財務テクニックの産物というより、資産を寝かせず回す事業設計の成果です。都心駅近の賃貸資産で安定利益を確保し、再開発やバリューアップで価値を引き上げ、売却で次の投資原資を生む。この循環がうまく回る限り、同社は外資が主導する企業不動産市場でも存在感を保てます。
企業不動産の売買は、これからも「誰が高く買うか」だけではなく、「誰が価値を高めて次につなげられるか」の勝負になります。ヒューリックを見るうえでは、ROEの高さそのものより、その数字を支える回転型ビジネスの再現性に注目するのが有効です。
参考資料:
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