企業の新卒採用面接でガクチカ偏重を越え学業と実務能力をどう問うか
はじめに
新卒採用の面接では、長く「学生時代に力を入れたこと」、いわゆるガクチカが定番質問として使われてきました。短時間で人柄や行動特性を見たいという意図は理解できますが、2026年卒採用をめぐる環境は、従来の定番質問に依存した見極めでは足りなくなっています。リクルートワークス研究所の調査では、2026年卒の新卒採用数が「増える」企業から「減る」企業を引いた差はプラス7.8ポイントで、採用意欲はなお高水準です。一方で、採用予定数の充足率は76.8%にとどまり、計画通りに採用できていない企業も少なくありません。
こうした市場では、面接は単なるふるい落としではなく、限られた候補者を正確に見極め、同時に志望度を高める接点になります。しかも学生側は生成AIを使ってESや面接準備を進めるようになり、マイナビ調査では企業の26.0%が面接質問の工夫、10.8%がES内容の精査で対応しています。では企業は、学生に何を問うべきなのでしょうか。本記事では、ガクチカ偏重の限界を整理したうえで、これからの新卒面接で有効な質問設計を考えます。
ガクチカ偏重が抱える三つの限界
問われる内容と評価される内容のずれ
まず押さえたいのは、企業がガクチカで本当に見ているものは、経験そのものではないという点です。リクルートワークス研究所が紹介した就職白書2023データでは、ガクチカを聞いている企業のうち、「力を入れたことそのもの」を評価しているのは32.4%にとどまります。これに対し、「力を入れたことの取り組み方」は80.9%、「そこから学んだこと」は78.5%でした。
この数字が示すのは、面接官が知りたいのは部活、留学、アルバイトといった題材の華やかさではなく、課題設定、試行錯誤、他者との関わり、改善の仕方だということです。にもかかわらず質問が「何を頑張ったか」で止まると、面接はエピソードの品評会になりやすく、評価基準が曖昧になります。学生側も「何をしたか」を盛る方向に寄りやすく、企業が見たい能力と質問の形がずれてしまいます。
学業と事実確認しやすい経験の取りこぼし
二つ目の限界は、学業をはじめとする職務関連性の高い経験を拾いにくいことです。リクルートワークス研究所は、文系就職の面接では「学生時代に力を入れたこと」が多く聞かれる一方で、「学業」は問われにくいと指摘しています。しかし企業が知りたいのが論理的思考、情報整理、継続力、専門知識の使い方であるなら、授業、ゼミ、卒業研究、実験、共同制作のほうが、業務に近い手掛かりになる場面は少なくありません。
NACEは、就業準備力を示す主要能力として、コミュニケーション、クリティカルシンキング、プロフェッショナリズム、チームワーク、テクノロジー活用など8つの能力群を示しています。さらに2026年版のJob Outlookでは、雇用主はインターン、学内就業、徒弟的経験などの実践経験を重視し、ほぼ7割がスキルベース採用を使っているとしています。つまり企業が問うべきなのは、学生生活の「代表作」そのものではなく、学業や経験を通じてどの能力をどう再現したかです。
誇張が出やすい面接運用
三つ目は、妥当性の問題です。リクルートワークス研究所は、ガクチカは面接で誇張や嘘が出やすい質問だと指摘しています。自由度が高く、事実確認の足場が少ないためです。生成AIが普及した現在、この弱点はさらに大きくなります。マイナビ調査で、企業がESと異なる質問や深掘り質問を増やしているのは、まさにその反応です。
ここで重要なのは、AI利用そのものを敵視することではありません。NACEの2026年版Job Outlookでは、エントリーレベル求人の13.3%でAIスキルが求められるとされています。今後は「AIを使ったか」ではなく、「何をAIに任せ、どこを自分で検証し、結果責任をどう負ったか」を問うほうが、仕事の現実に近い評価になります。
企業が面接で問うべき五つの論点
構造化面接と職務関連性
面接設計の出発点は、質問を職務に結び付けることです。厚生労働省は、公正な採用選考の基本として、応募者の適性・能力に基づいた基準で選考することを求めています。本人に責任のない事項や思想信条など、職務遂行と無関係な情報を聞くべきではありません。何を問うかは、まずその仕事で必要な能力を言語化する作業から始まります。
そのうえで有効なのが、全候補者に同じ軸で質問し、同じ基準で採点する構造化面接です。米国人事管理庁は、構造化面接では質問内容と評価基準をそろえることで、妥当性、評価者間の一致、信頼性が高まり、不利な偏りも抑えやすいと説明しています。新卒採用でも、職種ごとに「問題解決」「協働」「学習速度」「責任感」などの評価項目を定め、面接官が印象ではなく行動事実で採点する仕組みが必要です。
過去の行動と未来の判断の深掘り
構造化面接では、行動面接と状況面接を組み合わせるのが実務的です。米国人事管理庁によれば、構造化質問の代表は、過去の行動を問う行動質問と、仮想場面での対応を問う状況質問です。新卒採用なら、前者では「締切が厳しい課題で、情報不足のまま進めた経験」「チーム内で意見が割れた場面での役割」「失敗後にやり方を変えた経験」を、後者では「上司役から曖昧な指示が来たらどう整理するか」「AIが作った資料に不確かな点があったらどう扱うか」といった形に落とし込めます。
このとき、重要なのは答えの正解探しではありません。状況理解、情報収集、優先順位付け、周囲への確認、改善行動までを一連で話してもらうことです。ガクチカの題材が部活でも研究でも、こうした聞き方に変えるだけで、見えるのは「話のうまさ」ではなく仕事の進め方になります。
学業・インターン・現場接点の具体化
面接でより多く問うべきなのは、学業と実務の接点です。NACEは、学生が面接前に準備すべきこととして、自分のスキルを使って問題解決した具体例を語れるようにすることを挙げています。その素材は、課外活動だけに限りません。ゼミでどのように仮説を立てたか、実験や演習でどんな失敗をどう修正したか、インターンで何を観察し、どの制約を理解したかを聞くほうが、職務との接続は明確です。
リクルートワークス研究所の調査でも、採用充足に向けた施策として「現場社員の面接や学生フォローへの協力」を実施した企業は66.9%でした。現場社員が入る意味は、学生の話を実務に引き寄せて解釈できるからです。採用部門だけではなく、配属先が想定される部門の社員が、「その経験を入社後どの業務で再現できるか」を確認する設計が必要です。
注意点・展望
これからの新卒面接で避けたいのは、ガクチカを廃止するか維持するかという二者択一です。問題は質問の存在ではなく、質問が職務能力の評価に変換されていないことにあります。ガクチカを残すとしても、評価対象を「題材」から「行動」「判断」「学び」「再現可能性」に移さなければ、面接の精度は上がりません。
もう一つの注意点は、公正性です。厚生労働省が示す通り、面接は適性・能力に関係のない事項を把握しないことが前提です。面接官教育が不十分なまま深掘りを強めると、雑談の延長で家族、信条、生活背景に踏み込みやすくなります。構造化面接の導入は、見極め精度のためだけでなく、聞いてよいことといけないことを明確にする意味でも重要です。
今後は、AI活用、学業成果、インターン経験を横断して評価する設計が標準になっていく可能性が高いです。採用市場が引き続き逼迫するなかで、企業には「魅力づけ」と「見極め」を同時に進める面接が求められます。そのためには、学生に自社の仕事理解を促しながら、同じ尺度で能力を比較できる質問群への更新が欠かせません。
まとめ
企業が採用面接で学生に問うべきなのは、もはや「何を頑張ったか」そのものではありません。問うべきなのは、どんな課題に向き合い、どう情報を集め、他者と調整し、失敗から学び、次の行動を変えられるかという再現可能な仕事の力です。ガクチカはその入口にはなっても、評価の中心である必要はありません。
新卒採用を見直す企業にとっての実務課題は明確です。第一に、職種ごとの評価能力を定義すること。第二に、学業、インターン、課外活動、AI活用まで含めた構造化質問を設計すること。第三に、現場社員と面接官教育を組み込み、公正で再現性のある運用に変えることです。面接で学生に何を問うかは、そのまま企業がどんな働き方を期待しているかの表明でもあります。
参考資料:
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