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ニデック5期連続違法配当、修正再表示で問われる取締役責任の行方

by 鈴木 麻衣子
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5期の株主還元を違法に変えた修正再表示

ニデックは2026年9月30日、過年度財務諸表の修正再表示により、2022年3月期から2026年3月期まで5期連続で配当や自己株式取得が分配可能額を超えていたと公表しました。会社法の財源規制に反する状態であり、単なる決算訂正では終わらない問題です。

焦点は、誰がどの範囲で会社に損害を填補するのか、会計監査人にも責任が及ぶのか、再発防止策が実際に機能するのかという点です。公表された約2434億円は対象となった株主還元の合計であり、超過額そのものではありません。この違いを踏まえ、法的責任と経営への影響を整理します。

分配可能額を超えた約2434億円の株主還元

対象額と超過額を分ける読み方

ニデックが公表した各期の対象額は、2022年3月期の自己株式取得314億1300万円、2023年3月期の配当・自己株式取得940億1400万円、2024年3月期の同412億4400万円、2025年3月期の同537億9300万円、2026年3月期の配当229億6000万円です。合計すると2434億2400万円に達します。

ただし、この全額が分配可能額を超えた部分という意味ではありません。会社の開示は、各期に実施した配当・自社株買いの総額が、その時点で許される上限を超えていたと説明する一方、各行為の分配可能額や超過差額を明らかにしていません。投資家は「約2434億円の違法支出」と単純化せず、対象総額と実際の超過額を区別する必要があります。

会社法461条は、配当や一定の自己株式取得によって株主へ交付する金銭などの総額を、効力発生日の分配可能額以内に制限しています。分配可能額は連結決算の利益ではなく、原則として親会社単体の剰余金を基礎に、自己株式の帳簿価額や会社計算規則上の控除項目などを反映して算定します。

このため、連結ベースで利益や資本が残っているように見えても、親会社単体で関係会社株式の評価損などを計上すれば、配当余力が大きく縮小します。過去の資産評価を遡って訂正した結果、当時は適法と判断していた株主還元が、修正後の数値では上限超過だったことが表面化しました。

なお、開示は「実施した年度」を基準にしています。2026年3月期決算短信では同年度の基準日に対応する中間・期末配当が無配とされている一方、分配可能額超過の資料には同年度中に実施した229億6000万円の配当が記載されています。配当の基準日と実際の支払時期による分類の違いにも注意が必要です。

巨額減損が単体財務へ波及した構図

修正の背景には、棚卸資産評価損の先送り、固定資産の減損回避、費用の資産計上、引当金の過少計上など、多数の不適切な会計処理があります。ニデックは2026年3月期に非金融資産の減損損失6321億3500万円を計上し、親会社所有者に帰属する当期損失は5646億2400万円となりました。

親会社の個別決算では、関係会社株式評価損1835億円を含む特別損失3309億円を計上しています。個別純資産は2025年3月期の2029億8400万円から、2026年3月期には189億7600万円へ減少し、自己資本比率も1.0%となりました。この単体財務の急激な悪化が、分配可能額問題を深刻化させた構図です。

連結決算上は消去される子会社株式の評価損でも、親会社単体の剰余金と配当能力には直接影響します。今回の事案は、連結業績を中心に株主還元を判断し、会社法上の財源規制を単体財務と結び付けて管理する仕組みが弱かった可能性を示しています。

会社法462条と株主代表訴訟の責任範囲

既存訴訟と新たな責任追及の接点

会社法462条では、分配可能額を超える配当や自己株式取得が行われた場合、対象行為を執行した取締役や、一定の決議に賛成した取締役などが会社への填補責任を負い得ます。取締役側には、職務を行うについて注意を怠らなかったことを立証する余地がありますが、単に担当部署へ任せていたという説明だけで免責されるとは限りません。

ニデックでは、分配可能額を巡る訴訟がすでに始まっています。個人株主1人は2026年9月、2022年9月と2023年2~3月の自己株式取得、2022年12月の中間配当を対象として、永守重信氏と小部博志氏に287億3055万8300円と遅延損害金を会社へ支払うよう求める株主代表訴訟を京都地方裁判所に提起しました。

この訴訟は、2023年に公表済みだった分配可能額超過を対象とするものです。当時の外部調査委員会は、取締役会資料に分配可能額の記載がなく、取締役による慎重な確認も不足していたと指摘しました。一方、一定の業務体制が存在し、担当部署を信頼したことは不合理ではないとして、取締役が注意を怠ったとは評価できないとの見解も示していました。

今回判明した5期分には既存訴訟の対象と重なる時期がありますが、5期すべての責任範囲が同じとは限りません。各年度の取締役構成、配当・自社株買いへの関与、取締役会に提示された情報、2023年の再発防止策後も超過が続いた理由を個別に検証する必要があります。とりわけ、一度問題を認識した後の行為では、取締役に期待される注意の水準がより厳しく問われる可能性があります。

さらにニデックは2026年10月16日、役員責任調査委員会が永守氏、小部氏、岸田光哉氏ら取締役8人と元CFOの計9人について、会社法423条や義務違反に基づく損害賠償責任が認められると判断したことを公表しました。会社も複数の取締役らに法令違反があったと認定し、損害賠償請求を含む法的措置を検討するとしています。

ただし、この判断は一連の会計不正に関する一般的な任務懈怠責任が中心です。会社法462条に基づく5期分の填補責任者と金額が確定したことを意味しません。委員会の詳細な報告書は10月20日をめどに公表される予定であり、違法配当との因果関係や損害の算定方法が次の争点となります。

監査法人の責任が自動成立しない理由

2026年3月期の会計監査人はPwC Japan有限責任監査法人です。過年度にはPwC京都監査法人が会計監査人を務め、同法人は2023年12月にPwCあらた有限責任監査法人と合併し、PwC Japanへ名称変更しています。責任を検討する際は、各年度の監査契約、担当者、法人承継の関係を分けて確認しなければなりません。

会社法423条の「役員等」には会計監査人も含まれるため、監査上の任務を怠り会社に損害を与えたことが立証されれば、株主代表訴訟の対象になり得ます。しかし、過年度決算が訂正されたという事実だけで監査法人の賠償責任が成立するわけではありません。監査手続の不備、見逃した虚偽表示の重要性、会社側の情報隠蔽、損害との因果関係などが問われます。

今回の監査報告書は、経営者らが会計監査人に不正確な情報を与え、関連文書の隠蔽や改ざん記録の提供をしていたと記載しています。PwC Japanは十分で適切な監査証拠を得られなかったとして、2026年3月期の連結・個別財務諸表と内部統制監査で意見を表明しませんでした。

意見不表明は、財務諸表が適正だという保証でも、不適正だという断定でもありません。証拠不足が重要かつ広範で、結論を出せない状態を意味します。監査法人への責任追及を論じる際は、会社による虚偽説明と、監査人が職業的懐疑心を持って追加手続を実施したかという二つの論点を切り分ける必要があります。

監査意見と上場維持を左右する三つのリスク

第一のリスクは、責任追及の長期化です。会社自身による旧役員への損害賠償請求、既存の株主代表訴訟、5期分を対象とする追加提訴が並行すれば、責任範囲や損害額を巡る争いが複雑になります。役員賠償責任保険の適用や回収可能性も、会社が実際に取り戻せる金額を左右します。

第二は、財務数値への信頼がなお回復していない点です。監査法人は6322億2000万円の減損についても、一部の計上額や期間帰属に関する十分な証拠を得られていないとしました。翌期以降に追加訂正や評価変更が生じれば、配当再開や資本政策の前提が再び変わる可能性があります。

第三は上場維持と内部管理体制です。東京証券取引所はニデックを2025年10月から特別注意銘柄に指定し、2026年4月には長期間にわたる内部管理体制の重大な不備を理由に上場契約違約金を求めました。分配可能額の確認を経理部だけの作業にせず、法務、財務、取締役会、監査等委員会が独立して検証できる統制へ改められるかが問われます。

株主が次に確認すべき四つの開示資料

投資家が確認すべきなのは、各期の正確な分配可能額と超過額、10月20日に予定される役員責任調査報告書の詳細、会社による損害賠償請求の対象者と請求額、次回決算での監査意見の四点です。約2434億円という対象総額だけで、将来の資金流出や回収額を推定するのは適切ではありません。

今回の問題は、会計不正、単体財務、株主還元、取締役会の監督、外部監査が一つにつながったガバナンス危機です。ニデックの再生を測る基準は、黒字回復だけではありません。過去の責任を透明に確定し、同じ警告が出た後も違反を繰り返した原因を制度として取り除けるかが、企業価値回復の条件となります。

参考資料:

鈴
鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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