NTTがMWC26で示した光とAIの成長戦略
MWC26で鮮明化したNTTの光AI戦略
2026年3月、スペイン・バルセロナで開催された世界最大のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2026」で、NTTが7年ぶりにグループ共同で出展し、大きな注目を集めました。島田明社長が基調講演に登壇し、光電融合デバイスとAIエージェントを前面に押し出す戦略を鮮明にしています。
これまで携帯通信事業のNTTドコモが「赤」のブランドカラーで主役を務めてきたMWCの舞台で、今回はグループ全体の「青」を掲げる転換点となりました。27年度財務目標の達成が困難な中、NTTはどのような成長シナリオを描いているのでしょうか。
光電融合デバイスで世界のAIインフラを変える
IOWN構想とPECデバイスの進化
NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の中核技術が、光電融合(PEC:Photonics-Electronics Convergence)デバイスです。従来のデータセンターでは電気信号による通信が主流ですが、光信号を活用することで消費電力を劇的に削減できます。
島田社長はMWC26の基調講演で、PECデバイスの進化ロードマップを示しました。現在のPEC-2では、ラック間やサーバー内のボード間に光接続を展開し、102.4Tbpsの通信容量を持つ光電融合スイッチによってスイッチ単体で50%の電力削減を実現します。このPEC-2デバイスは2026年度中の商用提供開始が予定されています。
AI時代の電力問題への解答
AIの急速な普及により、データセンターの電力消費は世界的な課題となっています。島田社長は「光電融合と光量子コンピューターでエネルギー・計算処理の限界を超える」と宣言しました。
従来の光スイッチでは電気配線が約300mmと長く、そこでの電力損失が大きな問題でした。光電融合スイッチでは情報処理部のすぐ近くまで光配線を引き込むことで、電気配線の距離を約10分の1の30mmに短縮できます。
長期的にはIOWN 4.0(PEC-4)で、パッケージ内部のダイ間通信も光化し、2032年を目標に従来比最大100倍の電力効率向上を目指します。NTTはブロードコムなどの半導体大手とも協力し、業界標準としての普及を狙っています。
AIエージェント戦略とグループ再編
NTTドコモの「SyncMe」と個人向けAI
MWC26では「AI-Powered Services and Solutions」ゾーンが設けられ、NTTグループのAI戦略が包括的に展示されました。NTTドコモは個人向けAIエージェント「SyncMe」を披露し、前田義晃社長がインタビューで5G SAの本格展開と合わせた戦略を語っています。
前田社長は2024年6月にドコモ社長に就任した中途採用組の人材で、島田社長が従来の不文律を破って抜擢した人物です。ドコモの通信品質問題への対処と顧客基盤の強化に加え、AIサービスによる新たな収益源の確立を任されています。
NTTデータの新会社「AIVista」
NTTデータグループは、米国シリコンバレーにAIネイティブな新ビジネス創出を推進する新会社「NTT DATA AIVista」を設立し、2025年12月から本格的に事業を開始しました。CEOにはBratin Saha氏が就任し、先端AI技術に基づく新たな価値創出を担います。
さらに2026年4月からは、企業が自ら業務に最適なAIを開発できる基盤「LITRON Builder」の提供を開始します。自然言語でエージェント型AIを開発できるプラットフォームで、NTTデータは2027年度にAIエージェント関連ビジネスの売上3,000億円を目標に掲げています。
MWC26ではNVIDIAとの連携による「Enterprise AI factories」も発表され、グローバル市場でのAIインフラ事業の拡大を加速させています。
6GとIOWNが切り開く次世代通信
INC Edgeの構想
NTTはMWC26で「INC Edge」(In-Network Computing Edge)の概念を打ち出しました。これはモバイルネットワークをIOWN APNに接続し、AI推論処理とトラフィック制御を協調させる仕組みです。分散したGPUリソースをモバイルネットワークの一部として管理でき、推論タスクの実行場所を最適に振り分けることが可能になります。
東京大学・NTT・NECが共同で実証したリアルタイムAR支援では、6G/IOWNインフラ上でストリーミングセマンティック通信技術と生成AIメディア制御技術を統合し、安全・安心を支えるAIエージェントの実用化に向けた成果が示されました。
「赤」から「青」への転換の意味
NTTドコモの「赤」からNTTグループの「青」へという変化は、単なるブランド戦略の話ではありません。携帯通信事業の成長が鈍化する中、光電融合デバイスやAIインフラといったグローバルなBtoB事業がグループの成長エンジンになるという構造転換を意味しています。
NTTグループは中期経営戦略「New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」で、今後5年間に約8兆円の新規投資を行い、2027年度にEBITDAを2022年度比20%増の4兆円とする目標を掲げています。島田社長はこの目標の達成が容易でないことを認めつつも、光電融合とAIの両輪で突破口を開く姿勢を鮮明にしました。
27年度4兆円目標とPEC-2商用化の壁
27年度目標達成への課題
NTTの2027年度EBITDA目標4兆円の達成には、ドコモの収益改善が不可欠です。通信品質問題への投資負担が続く中、AIサービスや法人事業による上積みがどこまで進むかが焦点となります。「稼ぎ頭」であるドコモの減益傾向が続けば、グループ全体の目標達成は厳しいとの見方もあります。
光電融合の競争環境
光電融合技術はNTTの独壇場ではなく、インテルやTSMCなどのグローバル半導体企業も同様の技術開発を進めています。2026年を「光電融合元年」と位置づけるNTTにとって、PEC-2の商用化を予定通り実現し、先行者利益を確保できるかが勝負です。
社長交代の可能性
島田社長は4年目の任期に入り、2026年中の社長交代が取り沙汰されています。後継候補として複数の幹部の名前が挙がっており、グループ変革の総仕上げを担う次期リーダーの選定は市場からも注目されています。
光とAI企業へ変わるNTTの成否指標
NTTがMWC26で示したのは、携帯通信会社から「光とAIのテクノロジー企業」への本格的な変革の姿です。光電融合デバイスによるAIインフラの電力問題への解答と、NTTデータを軸としたAIエージェント事業の拡大が、27年度以降の成長を支える両輪となります。
ドコモ改革の進捗、PEC-2の商用化のスケジュール、そしてAI事業の売上目標の達成状況が、NTTグループの変革の成否を左右する重要な指標です。世界のテクノロジー企業が競争する光電融合とAIの領域で、NTTがどこまで存在感を示せるかに注目が集まります。
参考資料:
- NTT島田社長がMWC26で基調講演 - ケータイ Watch
- MWC Barcelona 2026 基調講演レポート - NTT
- NTT、MWC26でIOWN構想を提示 - Ledge.ai
- ドコモ前田社長インタビュー:AIエージェント「SyncMe」 - ケータイ Watch
- NTT DATA AIVistaのCEO就任 - NTTデータグループ
- NTT、2026年度中にPEC-2の商用提供開始へ - クラウド Watch
- NTTグループ中期経営戦略 - NTT
- NTT Unveils Technology for 6G and Next Generation Computing - BusinessWire
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