レゾナック髙橋社長が推進する脱JTC改革の全貌
はじめに
「昭和っぽい会社はムダだらけ」。レゾナック・ホールディングスの髙橋秀仁社長CEOは、JTC(Japanese Traditional Company=伝統的な日本企業)からの脱却を明確に掲げ、大胆な経営改革を推進しています。
2023年1月に旧昭和電工と旧日立化成(昭和電工マテリアルズ)の統合により誕生したレゾナックは、総合化学メーカーの看板を下ろし、半導体材料を軸とした「個性派企業」への転換を進めてきました。統合から3年が経過した現在、事業ポートフォリオの大胆な入れ替えと企業文化の変革が同時に進行しています。
この記事では、髙橋社長の経営哲学と改革の具体的な軌跡、そしてレゾナックが目指す「世界で戦える企業」の姿を解説します。
事業ポートフォリオの大転換:選択と集中の実行
18事業の売却という決断
髙橋社長が2022年に2社のCEOに就任して以来、レゾナックは「超選択と集中」とも言える大胆な事業再編を進めてきました。2022年から2026年末までに計18事業を売却する計画で、すでに過去2年半で9つの事業の売却を完了しています。
特に象徴的なのは、石油化学事業の分離です。2025年1月にはレゾナックの完全子会社「クラサスケミカル」を設立し、石油化学事業を吸収分割で移管しました。決算上も独立セグメントとして扱うことで、事業の透明性を高めながら、将来的な売却や提携の選択肢を確保しています。
こうした施策は、総合化学メーカーとしての「何でもやる」体質から脱却し、半導体材料という成長分野に経営資源を集中させるためのものです。
半導体材料への集中戦略
事業売却の一方で、レゾナックは半導体・電子材料分野への投資を加速させています。統合前の2社は、昭和電工が川上の原料を、日立化成が川下の機能性材料を手掛けており、統合によって川上から川下まで一気通貫の半導体材料供給体制が構築されました。
特にAI半導体の急成長がレゾナックに追い風となっています。HBM(High Bandwidth Memory)用の絶縁接着フィルム(NCF)の売上は、2024年に前年比3倍、2025年はさらに2倍の成長を目指す勢いです。また、サーマルインターフェースマテリアル(TIM)と呼ばれる放熱材ではグローバルシェア100%を誇り、AI半導体の発熱問題が深刻化する中で、独占的な供給ポジションを確保しています。
数字が証明する改革の成果
事業ポートフォリオの転換は、業績にも明確に表れています。2025年12月期の半導体・電子材料事業は、売上収益が前期比12%増の4990億円、コア営業利益は34%増の990億円を見込んでいます。AI関連製品の売上高は年率30%の成長が見込まれており、CFOは「AI向け製品は年率3割成長」と明言しています。
改革が完了すれば、半導体・電子材料の売上高はグループ全体の半分以上となる約1兆円に達し、EBITDAマージンは約20%に上昇すると想定されています。2026年12月期の純利益は前期比2.7倍の770億円を見込んでおり、髙橋社長が掲げる「株価1万円」という目標に向けて着実に歩を進めています。
脱JTC:企業文化変革の挑戦
パーパスとバリューによる経営
髙橋社長の改革は事業面にとどまりません。約2万4000人の従業員を擁する大企業の組織文化を根本から変えるという、より困難な課題にも正面から取り組んでいます。
就任直後にパーパス(存在意義)とバリュー(行動指針)を制定し、「マネジメントはパーパスとバリューで行う」という方針を明確にしました。脱JTCとは無秩序に伝統を壊すことではなく、「その行為が仕事の目的達成に本当に必要かどうか」を問い、目的に照らして不要なものだけを捨てることだと定義しています。
3年間の段階的な浸透プロセス
企業文化の変革は一朝一夕には実現しません。レゾナックは3年間にわたり段階的なアプローチを取ってきました。
1年目(2022年)は「タウンホールミーティング」や「ラウンドテーブル」を通じて、経営トップが年間1000人以上の従業員と直接対話し、パーパスとバリューを語りかけました。2年目は「モヤモヤ会議」を開催し、若手従業員が日頃抱えている課題を率直に出し合い、バリューを使って解決策を経営層と議論するプログラムを実施しました。3年目には「パーパス探求カフェ」として、従業員一人ひとりが自分自身のパーパスを考えるセッションを導入しています。
その結果、パーパス・バリューの共感度は2022年の59%から2024年には73%に、実践度は34%から60%へと大きく向上しました。
「共創型人材」の育成と厳しい姿勢
髙橋社長は人材戦略について4つのマテリアリティ(重要課題)を設定しています。事業が求める人材の供給、選び選ばれる魅力の構築と発信、自律的なプロフェッショナルの創出、共創を生む企業文化づくりの4つです。
CEOとCHROが二人三脚で組織文化変革を推進する体制を敷き、「国内の製造業を代表する共創型人材創出企業」を目指すと明言しています。一方で、髙橋社長は「2026年はレゾナックのバリューを持っていない人材に対して、相応のコミュニケーションを取る年になる」とも述べており、改革への本気度がうかがえます。
半導体産業の構造変化とレゾナックの立ち位置
AI半導体がもたらす材料需要の拡大
AI半導体の急速な発展は、レゾナックにとって大きな成長機会です。AI半導体の平均成長率は2024年から2028年にかけて年率31%と予測されており、従来の半導体よりもコンポーネント数が多く、パッケージサイズも大きいため、使用される材料の量が増大します。
特にHBMでは、チップの積層数が増えるほどNCFの使用量も増える構造にあり、「チップの数よりも当社の材料の量が確実に増えていく」という好循環が生まれています。
次世代パッケージング技術への布石
2025年9月には、レゾナックを含む27社で構成する「JOINT3」コンソーシアムを発足させ、次世代半導体パッケージング技術の共同開発に着手しました。パネルレベルの有機インターポーザー向けの材料・装置・設計ツールを一体的に開発する取り組みで、試作ラインは2026年に稼働予定です。
また、中国のAI自給自足に向けた国家的な半導体サプライチェーン構築の動きに対応して、中国での生産能力も増強しています。グローバルな半導体需要の変化に柔軟に対応する体制を整えつつある状況です。
注意点・今後の展望
レゾナックの改革は着実に進んでいますが、課題も存在します。石油化学事業やライフサイエンス事業の戦略的オプション検討は「道半ば」とされており、残りの事業売却がスケジュール通りに進むかは不透明な部分もあります。
また、半導体材料への集中戦略は、AI半導体の需要が継続的に拡大することが前提となります。半導体産業は景気循環の影響を受けやすく、過度な一極集中がリスクとなる可能性も考慮する必要があります。
企業文化の変革についても、パーパス・バリューの実践度60%は着実な進歩ですが、残りの40%をどう引き上げるかが今後の課題です。2026年に予告された「バリューを持っていない人材への対応」がどのような形で実行されるかは、改革の本気度を測る試金石となるでしょう。
まとめ
レゾナックの髙橋秀仁社長が推進する経営改革は、事業ポートフォリオの大胆な転換と企業文化の根本的な変革という二つの柱で構成されています。18事業の売却によって半導体材料に経営資源を集中させる一方、パーパス・バリュー経営を通じて「脱JTC」を実行するアプローチは、日本の製造業全体にとっての参考事例となっています。
AI半導体の爆発的な需要拡大を追い風に、2026年12月期の純利益は前期比2.7倍という高い成長が見込まれています。「世界で戦える企業」への変革が成功するかどうか、髙橋社長の手腕に引き続き注目が集まります。
参考資料:
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