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マンション高騰で年収上位層に偏る都市住宅、賃貸も重い家計負担

by 田中 健司
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都市住宅の手ごろさを奪う価格と家賃

都市部の住宅問題は、単に「マンションが高い」という話にとどまりません。買う場合は販売価格と金利、借りる場合は募集家賃と更新費、さらに管理費や通勤時間まで含めた住居費全体の問題になっています。

近年よく使われる「アフォーダビリティー」は、住宅が所得に対して手ごろかどうかを測る考え方です。日本でも首都圏の新築マンション価格が1億円台に乗り、賃貸家賃も最高値圏にあるため、平均的な家計が都市近接の住宅を選びにくくなっています。

本稿では、首都圏マンション市場、賃貸市場、所得統計、建設費、金利の公開資料を横断し、購入できる層がどこまで限られているのかを検証します。建設・不動産産業側の供給制約も踏まえ、家計が見るべき判断軸を整理します。

新築マンションを押し上げる供給制約

平均1億円台が示す購入層の変化

不動産経済研究所によると、2026年上半期の首都圏新築分譲マンションの戸当たり平均価格は1億135万円でした。上半期として初めて1億円を超え、前年同期比でも13.1%上昇しています。東京23区に限ると平均価格は1億4,249万円で、首都圏平均との差がさらに広がりました。

同じ資料では、上半期の発売戸数は7,989戸で、前年同期比0.8%減でした。減少幅は小さいものの、上半期としては5年連続の減少です。価格が上がる局面で供給が増えにくいことは、需要が少し弱まっても価格が急落しにくい構造を示しています。

平均値だけでは超高額住戸の影響を受けやすいため、中央値も見る必要があります。不動産経済研究所の別資料では、2025年の首都圏新築マンション価格の中央値は6,998万円、東京23区は1億1,380万円でした。23区では平均値だけでなく中央値も1億円を超えており、高額物件だけが全体を押し上げているとは言い切れません。

所得との距離はさらに大きくなっています。厚生労働省の国民生活基礎調査では、2023年の全世帯の平均所得は536万円、中央値は410万円です。児童のいる世帯の平均所得は820万5,000円ですが、それでも23区の新築マンション中央値には届きにくい水準です。

東京カンテイ系の年収倍率調査でも、首都圏で年収800万円を想定した新築マンションの世帯年収倍率は10.9倍でした。資金計画の目安として7倍を置くと、年収800万円で7倍以下に収まる行政区は首都圏107行政区のうち35行政区、比率で32.7%に限られます。

「買えるのは年収上位20%だけ」という表現は、厳密な統計区分というより、購入可能層が急速に高所得側へ寄っている実感を表しています。実際には上位20%の中でも、自己資金、親族援助、共働きの安定度、職場までの距離によって可否は分かれます。都心部では、上位層であっても無理のない購入とは限りません。

建設費と用地難が価格を下げにくい構造

価格上昇の背景には、需要の強さだけでなく供給側の原価上昇があります。建設物価調査会の建築費指数では、2026年6月の東京の集合住宅、鉄筋コンクリート造の工事原価指数は145.6でした。2015年平均を100とする指数で、前月比も0.9%上昇しています。

マンション開発では、用地取得、解体、設計、建設、販売までの期間が長くなります。土地価格と建設費が高い時点で仕入れた案件は、数年後に市場が多少冷えても、販売価格を大きく下げにくい特徴があります。人手不足で工期が延びれば、金融費用や管理費用も上乗せされます。

国土交通省の建築着工統計でも、2025年度の新設住宅着工戸数は持家、貸家、分譲住宅が減少したため、前年度の増加から再び減少に転じました。分譲マンションだけでなく住宅全体の供給が伸び悩むと、購入市場から賃貸市場へ流れる家計の受け皿も細ります。

さらに2026年上半期の首都圏新築マンションでは、定期借地権付き物件の供給増も指摘されています。所有権より価格を抑えやすい一方、土地を所有しないため、資産性や将来の売却、期間満了時の扱いを慎重に見る必要があります。価格高騰への対応策でありながら、家計にとっては比較が難しい商品でもあります。

初月契約率も見逃せません。2026年上半期の首都圏初月契約率は64.8%で、好不調の目安とされる70%を下回りました。価格は上がるが即完売ではないという状態です。販売側は高値を維持しつつ、買い手は選別を強めている局面に入っています。

賃貸へ移っても軽くならない住居費

募集家賃の上昇が広がる首都圏

購入を見送れば賃貸で待てる、という選択も以前ほど容易ではありません。アットホームの2026年6月調査では、東京23区の賃貸マンション平均募集家賃は、30平方メートル以下のシングル向きで11万4,242円、30平方メートル超50平方メートル以下のカップル向きで18万3,568円でした。

50平方メートル超70平方メートル以下のファミリー向きは25万9,335円、70平方メートル超の大型ファミリー向きは41万5,766円です。前年同月比では、それぞれ12.4%、10.8%、6.8%、9.2%の上昇でした。単身、共働き、子育て世帯のいずれにも負担が広がっています。

同調査は、家賃を「賃料プラス管理費・共益費等」と定義しています。家計から見れば、実際に毎月出ていく住居費に近い数字です。礼金、更新料、引っ越し費用、保証会社費用までは含まれないため、住み替えによる負担はさらに大きくなります。

賃貸マンションの平均募集家賃は、首都圏の全エリアで全面積帯が前年同月を上回りました。東京23区だけでなく、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県まで上昇が広がっています。都心から離れれば必ず安くなる、という単純な構図ではなくなっています。

東京カンテイの分譲マンション賃料データでも、2026年6月の東京23区は1平方メートル当たり5,118円でした。70平方メートルに換算すれば月35万円台です。新築賃貸だけでなく、分譲マンションの賃貸化された住戸でも高い賃料水準が続いています。

所得側の伸びは追いついていません。総務省の家計調査では、2025年平均の二人以上勤労者世帯の実収入は月65万3,901円で、名目では前年比2.8%増でした。しかし物価変動を考慮した実質ではマイナスです。家賃が1割前後上がれば、賃上げ分を住居費が吸収してしまいます。

中古・戸建て・郊外にも残る負担

新築マンションが高すぎるなら、中古マンションや戸建てを選ぶという発想は合理的です。ただし、その代替ルートも以前ほど余裕があるわけではありません。不動産経済研究所の中央値データでは、2025年の首都圏新築マンション中央値は6,998万円まで上がりました。新築の高騰は、中古の売り出し価格にも波及しやすくなります。

LIFULL HOME’Sの2026年4月から6月のマーケットレポートでも、首都圏の中古マンション掲載価格は最高値を更新した一方、都心部では下落の兆しも出ています。これは市場が一方向に上がり続けるというより、価格帯や立地による選別が強まっていることを示します。

戸建てはマンションより年収倍率が低い地域が多く、選択肢として重要です。ノムコムの東京カンテイ系レポートでは、首都圏の年収800万円想定で新築一戸建ての平均世帯年収倍率は6.0倍でした。新築マンションの10.9倍、築10年中古マンションの10.4倍より低い水準です。

ただし戸建てへの移行は、通勤時間、駅距離、災害リスク、修繕負担、車保有の有無まで含めた判断になります。価格だけで見れば届いても、日々の移動や教育環境、将来の売却流動性を含めると、家計の負担が別の形で表れる場合があります。

賃貸でも築古物件への需要が高まっています。LIFULL HOME’Sのレポートは、東京23区の賃貸物件で築年数が古い物件への反響シェアが拡大していると分析しています。これは家計が質を落として調整している面もあり、住宅の手ごろさが改善したとは言いにくい動きです。

住宅費が高くなると、可処分所得の使い道が狭まります。教育費、老後資金、医療費、親の介護費、転職時の収入変動に備える余力が小さくなります。住宅のアフォーダビリティー低下は、不動産市場の問題であると同時に、家計のリスク耐性を弱める問題です。

金利上昇下で狭まる購入可能層の現実

住宅ローン金利の変化は、価格高騰の痛みを増幅します。住宅金融支援機構が公表する2026年8月資金受取分のフラット35は、借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下で最も多い金利が年3.290%でした。固定金利を選ぶ家計には、返済額が一段重くなっています。

首都圏の2026年上半期平均価格1億135万円を前提に、1割の自己資金を入れて9割を35年固定、年3.290%で借りると、元利均等返済の月額は概算で約36万6,000円です。返済負担率を30%から35%に収めるには、年収でおよそ1,250万から1,460万円程度が目安になります。

東京23区の平均価格1億4,249万円で同じ計算をすると、9割借入でも月額返済は概算で約51万5,000円です。返済負担率30%から35%で見ると、年収の目安は約1,760万から2,060万円になります。もちろん変動金利や頭金の多さで変わりますが、都心購入が高所得層に偏る理由は数字からも明らかです。

金利環境は固定だけでなく変動にも影響します。日本銀行の長・短期プライムレート統計では、主要行の短期プライムレートの最頻値は2026年2月に2.125%へ上がりました。変動金利型は金融機関ごとの優遇幅で実際の適用金利が異なりますが、金利上昇局面では将来返済額の上振れを無視できません。

注意すべきは、住宅価格の平均値が下がるまで待つだけでは解決しにくい点です。用地難、建設費、人件費、住宅着工の弱さが残る限り、供給が急に増えて価格を押し下げる展開は限られます。価格調整が起きても、買いやすい住戸が十分に増えるとは限りません。

政策面では、公社住宅を活用したアフォーダブル住宅の募集など、子育て世帯や新婚世帯を対象にした取り組みも始まっています。東京都の公表事例では、世帯年収1,200万円未満などの要件を置き、一定の所得層を支援対象にしています。ただし募集戸数は限られ、市場全体の家賃や価格を下げるほどの規模ではありません。

家計が確認すべき住まい選びの基準

家計がまず見るべきなのは、販売価格ではなく毎月の総住居費です。住宅ローン返済に加え、管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、将来の修繕負担を足した金額で判断する必要があります。賃貸も、家賃、管理費、更新料、引っ越し費用を年額化して比較することが重要です。

次に、金利と収入のストレスを置くことです。変動金利なら適用金利が1%上がった場合、固定金利なら借入時点の返済額が家計を圧迫しないかを確認します。共働きの場合は、片方の収入が一時的に落ちても住居費を払えるかが現実的な安全ラインになります。

最後に、面積や築年数だけでなく、通勤時間と可処分時間を費用として捉えることです。安い住まいへ移ることで交通費、保育、介護、健康面の負担が増えるなら、住宅費だけの節約ではありません。都市住宅の手ごろさが低下する局面では、買うか借りるかよりも、生活全体の固定費をどこまで硬くしないかが判断の中心になります。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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