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酷暑日で変わる建設現場の働き方と命を守る朝型シフト改革の課題

by 渡辺 由紀
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酷暑日が建設現場の勤務設計を変える背景

建設現場の暑さ対策は、空調服や給水所を増やす段階から、働く時間そのものを組み替える段階へ移っています。夏の午後に作業を続ける前提が崩れ、大手ゼネコンや専門工事会社の間では、朝型シフト、昼過ぎの作業終了、危険時間帯の中断を工程に織り込む動きが強まっています。

重要なのは、これは福利厚生ではなく、労務管理と事業継続の問題だという点です。職人の高齢化、担い手不足、2024年から建設業にも本格適用された時間外労働規制の下で、失われた作業時間を残業で取り戻す余地は狭くなっています。酷暑日は「気合で乗り切る日」ではなく、発注者、元請け、協力会社が契約と賃金を再設計する日になりました。

本稿では、厚生労働省、環境省、気象庁、消防庁の公開資料を基に、熱中症対策が建設業の働き方をどう変えるのかを読み解きます。焦点は、命を守る判断を現場任せにせず、雇用と工程の制度に組み込めるかです。

熱中症統計が示す建設業の高リスク構造

死傷者数が過去最多に膨らんだ現実

厚生労働省の確定値によると、2025年の職場における熱中症の死傷者数は1,803人でした。ここでいう死傷者数は、死亡者と休業4日以上の業務上疾病者を合わせた人数です。2024年から約43%増え、同省が統計を取り始めた2005年以降で最多になりました。

死亡者数は19人で、2024年の31人から減りました。厚労省は、2025年6月に施行された労働安全衛生規則の改正により、報告体制の整備や対応手順の作成が進んだことが、重篤化防止に一定程度つながったとみています。死傷者は増えたが死亡者は減ったという結果は、早期発見と搬送判断の制度化が効果を持ち得ることを示します。

ただし、現場の負荷が軽くなったわけではありません。厚労省資料は、2025年夏の日本の平均気温偏差がプラス2.36度となり、統計開始以来最高だったことを死傷者増加の一因として挙げています。気温の上振れが例外でなくなるほど、現場の安全対策は「毎年の注意喚起」では足りません。

建設業に偏る死亡リスク

業種別に見ると、2025年の死傷者数は製造業が365人、建設業が292人の順でした。一方、死亡者数では建設業が5人で最も多く、警備業の3人が続きます。作業場所が屋外で、身体負荷が高く、ヘルメットや保護具を外せない建設現場では、暑熱ストレスが重篤化しやすい構造があります。

2021年から2025年までの5年間では、職場の熱中症死傷者は計5,554人でした。このうち建設業は1,038人、製造業は1,063人で、両業種が全体の約4割を占めます。死亡者に限ると、建設業は52人で全体の39.7%に達し、最多です。死亡災害の集中は、建設業にとって熱中症が季節性の体調不良ではなく、主要な労災リスクであることを意味します。

月別の集中も明確です。2025年の死傷者の約72%、死亡者の約79%は7月と8月に発生しました。2021年から2025年の5年間でも、死傷者の約77%が7月と8月に集中しています。真夏の工程を通常月と同じ稼働率で組むことは、統計的に見ても無理があります。

WBGTが示す危険時間帯の見える化

暑さ対策で基準になるのが、暑さ指数であるWBGTです。環境省は、WBGTを湿度、日射や輻射など周辺の熱環境、気温の三つを取り入れた指標と説明しています。気温が同じでも、湿度が高く風が弱い現場、照り返しが強い現場、鉄骨やアスファルトの近くではリスクが変わります。

環境省の指針では、WBGTが28を超えると熱中症患者が著しく増加し、31以上は「危険」とされます。熱中症警戒アラートは、府県予報区などで翌日または当日の日最高WBGTが33に達すると予測される場合に発表されます。熱中症特別警戒アラートは、都道府県内の全ての情報提供地点で翌日の日最高WBGTが35に達する場合などが対象です。

この仕組みは、現場にとって「今日は暑いから気をつける」という感覚的な判断を、測定値と行動に置き換える道具です。環境省も、個々の場所のWBGTは環境によって大きく異なるため、黒球付きの測定機器で独自に測ることを推奨しています。建設現場では、予報値だけでなく、足場、屋上、地下、仮囲い内など作業場所ごとの実測が必要です。

朝型シフトを支える法規制と工程再設計

労安規則改正で義務になった報告体制

2025年6月1日から、熱中症のおそれのある作業を行う場合、事業者には報告体制の整備、重篤化を防ぐための措置手順の作成、関係作業者への周知が求められるようになりました。厚労省の通達は、熱中症が疑われる人を発見した場合に、作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送、救急隊要請を迷わず実行できる体制を示しています。

ポイントは、本人の申告待ちにしないことです。通達の手順例は、返事がおかしい、ぼんやりしているなど、普段と様子が違う場合も異常として扱う考え方を示しています。熱中症は判断力を奪うため、本人が「大丈夫です」と言っても、管理者が作業を止める権限を持たなければなりません。

この規制強化は、朝型シフトの意味を変えます。単に早く始めて早く終える勤務表ではなく、危険が予測される時間帯に作業を置かないリスク低減策です。午前中に重作業を集中させ、午後は屋内作業、検査、片付け、教育、事務処理に切り替える設計ができれば、現場の判断負荷を下げられます。

ガイドラインが求める暑熱リスク評価

厚労省の「職場における熱中症防止のためのガイドライン」は、暑熱に関する有害性として、高温多湿な作業環境、連続作業、通気性や透湿性の低い衣服や保護具、身体作業負荷の大きい作業を挙げています。建設現場は、この四つが同時に重なりやすい職場です。

同ガイドラインは、JISに適合したWBGT指数計による実測、身体作業強度に応じたリスク評価、WBGT値が基準を超える場合の低減措置を求めています。具体策は、日よけや遮へい物、休憩場所の整備、作業時間の短縮、休止時間の確保、暑熱順化、水分と塩分の定期摂取、身体冷却機能のある服装、作業中の巡視などです。

朝型シフトは、この中の「作業時間の短縮」と「作業計画の見直し」に当たります。作業開始を午前7時に前倒しして午後1時に終えるような運用は、午後の高WBGT帯を避けるうえで合理性があります。ただし、早朝に開始すればよいだけではありません。前日の残業、通勤時間、睡眠不足、朝食の未摂取が重なると、早朝作業でもリスクは残ります。

工程と契約に織り込む発注者責任

現場単位で作業を止める判断をしても、納期や請負金額が変わらなければ、しわ寄せは協力会社と職人に向かいます。朝型シフトで1日の作業時間が短くなれば、同じ工事量をこなすには工期の延伸、人員の追加、夜間や屋内作業への振り替え、プレハブ化や省人化施工の導入が必要になります。

ここで発注者責任が問われます。発注者が真夏の稼働率を通常月と同じに見積もり、元請けに納期だけを守らせれば、元請けは協力会社へ無理な工程を求めやすくなります。熱中症対策を現場の自己努力に閉じ込めると、安全投資をした企業ほど採算が悪化する逆インセンティブが生まれます。

厚労省の2026年クールワークキャンペーンは、5月1日から9月30日までを期間とし、4月を準備期間、7月を重点取組期間としています。発注者と元請けは、少なくとも4月の段階で、夏季工程、WBGT測定、休憩設備、緊急搬送、協力会社への費用補填を確認すべきです。命を守る判断を現場代理人だけに背負わせない契約設計が欠かせません。

作業短縮が賃金と人材確保に与える波紋

朝型シフトの最大の論点は、作業時間が減った日の賃金を誰が負担するかです。日給月給や出来高に近い働き方では、危険な午後作業を止めることが、職人の収入減につながりかねません。安全のために休むほど収入が下がる仕組みでは、現場は「もう少しだけやる」という判断に流れます。

建設業は、2024年から時間外労働の上限規制が本格適用された産業です。厚労省の働き方改革特設サイトは、残業時間の上限を原則として月45時間、年360時間とし、特別な事情があっても年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満などの制限を示しています。夏に失った工程を秋以降の長時間労働で取り返す発想は、制度上も人材確保上も持続しません。

そのため、酷暑日の労務管理は賃金制度の問題になります。危険時間帯の中断を有給の安全休止として扱うのか、日当を保障するのか、工期延伸分を請負金額に反映するのか。元請けだけでなく、発注者、専門工事会社、労働者派遣や一人親方に近い就労者まで含めて、収入減を防ぐ設計が必要です。

外国人材やスポットワークに近い働き手への周知も課題です。厚労省ガイドラインは、作業開始前の体調確認、入職後1週間未満の作業者、休暇などで4日以上暑熱ばく露から離れた作業者への配慮を求めています。日本語での朝礼だけでは、熱中症の兆候、報告先、作業離脱の権利が伝わらない可能性があります。多言語の手順書、図解、現場での反復教育が不可欠です。

人材戦略の観点では、熱中症対策は採用力にも直結します。若い技能者が建設業を避ける理由には、きつい、危険、休みにくいというイメージがあります。暑い日に安全に止まれる現場、止まっても収入が守られる現場、管理者が早く帰ることを評価する現場は、技能者にとって選ばれる条件になります。酷暑対策はコストではなく、担い手不足への投資です。

経営者が夏前に整える三つの現場ルール

経営者がまず整えるべきルールは、WBGTに基づく作業中止基準です。現場ごとの実測地点、測定頻度、誰が中止を判断するか、判断後にどの作業へ切り替えるかを事前に決めます。基準を超えたら現場代理人が発注者へ説明しやすいよう、契約書や施工計画にも暑熱時対応を明記する必要があります。

次に、収入を守る安全休止の扱いです。危険時間帯に作業を止めた労働者が損をする制度では、熱中症対策は定着しません。日当保障、工程変更費、協力会社への追加費用、休憩設備費を夏季予算に組み込み、発注者と元請けの間で費用負担を透明にすることが重要です。

最後に、早期発見と搬送の訓練です。熱中症は、意識があるかどうかだけで判断できません。普段と違う返答、ふらつき、吐き気、倦怠感を見つけたら、本人の遠慮を待たずに作業を離脱させ、冷却し、医療機関につなぐ手順を全員で確認します。

酷暑日は、現場の根性を試す日ではありません。働く時間、賃金、工程、契約を人の体に合わせる日です。建設業が命を守る産業へ変わるかどうかは、夏が来てからの声かけではなく、夏前の勤務設計で決まります。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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