NewsHub.JP

NewsHub.JP

大林組の共育て支援は建設業のキャリア観をどう変えるのか最新整理

by 田中 健司
URLをコピーしました

はじめに

大林組の男性社員による育児参加が注目される背景には、個人の意識変化だけでなく、建設業という業界構造そのものの転換があります。国土交通省の白書は、建設業では人手不足や資格業務の重さもあって、男性の育児休業取得率が他産業より低いとされる点を率直に認めています。その業界で大林組が「男性育休100%」を掲げ、制度拡充と現場の労働時間改革を同時に進めていることには、企業事例以上の意味があります。

ただし、数字の見方には注意が必要です。大林組は2024年度に男性の育児休職と育児目的休暇の年間取得率100%超を達成した一方、ESGデータでは男性の育児休職取得率そのものは9.2%です。つまり、短期の目的休暇から比較的長い休職まで複数の選択肢を整え、共育てへの参加を広げている段階だと読めます。この記事では、大林組の制度設計、キャリアとの接続、建設業で広がる可能性と課題を整理します。

制度設計の現在地

100%目標の中身と数字の読み方

大林組は2022年2月に「男性育休100%宣言」へ賛同し、経営トップによるイクボス推進、制度案内、企業版両親学級、父親向け育児セミナーなどを進めてきました。2025年4月公表の第八次行動計画でも、男性従業員の育児休職・育児目的休暇の年間取得率100%以上を目標に据え直しています。単発の取得促進で終わらせず、継続的な仕組みに組み込んでいる点が特徴です。

ここで重要なのは、会社が掲げる100%が「育児休職のみ」ではなく、「育児休職と育児目的休暇の合算」である点です。ESGデータブックによると、2024年度の男性の育児休職および育児目的休暇取得率は102.1%、取得者数は333人でした。一方、男性の育児休職取得率は9.2%、取得者数は30人、平均取得日数は90日です。前年の男性育児休職取得率5.2%からは伸びていますが、長期の休職が主流になったとはまだ言い切れません。

この違いは、制度が実態に合わせて多層化していることを示しています。出産前後の数日から数週間を取る人、現場や担当案件の区切りに合わせて長めの休職を取る人、配偶者の復職期に合わせて休む人が混在していると考えるのが自然です。報道で「男性育休100%」だけを見ると長期休職一色に見えますが、実態はより柔軟な参加モデルです。

休職だけに頼らない両立支援の構成

大林組の制度の特徴は、育休取得を単独施策にしていない点にあります。D&I関連ページでは、配偶者出産休暇を産前6週間の間に最大5日、産後8週間の間に最大4週間まで取得できる仕組みに拡充したと説明しています。さらに、育児休職は原則1歳まで、保育所に入れない場合は3歳まで延長可能です。看護休暇は小学校6年生まで、子育て休暇は小学校3年生まで、短時間勤務制度も小学校3年生以下まで使えます。

この設計は、共育てを「出生直後のイベント」ではなく、数年単位の生活設計として扱っていることを意味します。加えて、2025年4月からの行動計画では、育児のための短時間勤務制度の対象となる子の範囲拡大も掲げました。厚生労働省の特設サイトが示す通り、2025年4月1日と10月1日には育児・介護休業法の改正が段階施行され、短時間勤務やフレックス、時差出勤など柔軟な働き方の整備がいっそう重視されています。大林組は法改正への受け身対応ではなく、それより先に制度を置きにいく姿勢を打ち出していると言えます。

共育てとキャリア形成の接続

管理職文化の転換

制度があっても、上司が歓迎しなければ取得は広がりません。この点で大林組が重視しているのが、管理職の意識改革です。2021年12月にはイクボス企業同盟に加盟し、同日、社長がイクボス宣言を行いました。会社資料でも、部下のキャリアと人生を応援しながら組織の成果を高める上司像を育てることが明記されています。対象者本人だけでなく、その上司に制度案内を送る運用も、現場の遠慮を減らす実務策として効きます。

キャリア面で見ても、この設計は理にかなっています。建設業では、若手時代の現場経験や資格取得、配置転換のタイミングが昇進に影響しやすく、長い離脱は不安を生みやすいからです。だからこそ、短期休暇、短時間勤務、父親向け育児セミナー、オンライン交流会を重ねて「抜けるか残るか」の二択にしないことが重要になります。共育ての参加を細かく刻める制度ほど、キャリアへの心理的な損失感は抑えやすくなります。

建設業で効く働き方改革との連動

もう一つの焦点は、育児支援と労働時間改革が一体で進んでいることです。大林組の2025年行動計画は、法定時間外労働と法定休日労働の合計を月30時間未満にする目標を掲げています。ESGデータでは2024年度の一人当たり月平均残業時間は32.8時間で、まだ目標には届いていませんが、2023年度の35.0時間からは改善しました。建設現場の4週8閉所達成率も2024年度は67.6%まで上がっています。

この数字は地味に見えて、共育てとの関係ではかなり重要です。男性育休が広がらない理由は、本人の意思だけでなく、現場が代替要員なしで回っていることにあります。国土交通省の白書でも、建設業は他産業より取得率が低いとされ、人材確保と働き方改革の観点から改善が必要だとしています。現場閉所や残業削減が進まなければ、育児支援制度は紙の上で終わります。逆に言えば、大林組の事例は、共育て支援が福利厚生の話ではなく、生産性と人材確保の戦略だと示しています。

注意点・展望

大林組の事例を評価するうえで、最も大事なのは「100%」の内訳を見ることです。全国ベースでは、厚生労働省の2024年度調査で男性の育休取得率は40.5%まで上がっていますが、この数字は育児休業の取得率です。大林組の102.1%は育児目的休暇を含むため、単純比較はできません。むしろ同社の特徴は、長期休職だけを理想形にせず、複数の制度を組み合わせて参加率を高めている点にあります。

今後の焦点は二つあります。一つは、男性育児休職取得率そのものがどこまで伸びるかです。もう一つは、取得しても昇進や評価で不利にならない運用が本当に定着するかです。2025年行動計画で短時間勤務制度のさらなる拡充や残業30時間未満目標が掲げられたことは前向きですが、建設業では現場条件の差が大きく、本社部門と施工部門で体感が分かれる可能性もあります。制度の拡充と現場の平準化が同時に進むかが試金石になります。

まとめ

大林組の共育て支援は、男性社員に育休を取らせるだけの施策ではありません。配偶者出産休暇、育児目的休暇、育児休職、短時間勤務、管理職改革、残業削減を束ねて、育児参加とキャリア継続を両立させようとする設計です。建設業のように長時間労働と属人的な現場運営が残りやすい業界では、このような複線型の制度の方が現実に機能しやすいと考えられます。

読者がこのテーマで確認すべきなのは、企業の取得率の高さだけではありません。何を分母とした数字か、長期休職と短期休暇の比率はどうか、上司向け施策や労働時間改革まで進んでいるかを見ることで、共育てとキャリアの両立が本物かどうかが見えてきます。大林組の事例は、その見分け方を教えてくれる材料になっています。

参考資料:

関連記事

最新ニュース