大林組が職人年収1000万円へ、ゼネコンの人材争奪戦
職人不足で逆転するゼネコンの立場
建設業界で「立場の逆転」が起きています。これまで元請けのゼネコンが圧倒的に強い立場にあった建設現場で、深刻な職人不足を背景に下請け企業や職人たちの発言力が急速に高まっています。
大林組は優秀な職人に対して手当を直接給付し、年収1000万円の実現を目指す施策を展開。鹿島建設は下請け幹部を最長1年間受け入れる制度を設けるなど、大手ゼネコン各社が「選ばれる側」として待遇改善に本格的に取り組み始めました。
本記事では、建設業界で進む下請け待遇改善の最新動向と、その背景にある構造的な課題について解説します。
大林組「スーパー職長制度」の全容
手当の直接給付という革新
大林組が2011年から運用する「スーパー職長制度」は、特に優秀な職長を認定し、手当を直接本人に支給する仕組みです。従来、元請けから下請けへの支払いは会社間で行われ、個々の職人の手取りに直結しない構造がありました。この制度はその課題を打破するものです。
認定ランクに応じた日額手当は以下の通りです。
- マイスター: 日額5,000円
- レギュラー: 日額3,000円
- ジュニア: 日額2,500円
年間の稼働日数を考慮すると、マイスター認定を受けた職人は所属会社からの給与に加え、大林組からの直接手当だけで年間100万円以上の上乗せとなります。これにより、所属会社の給与と合わせて年収1000万円を超える職人が誕生しています。
認定者数は年々拡大
2025年度には、スーパー職長568人とスーパーオペレーター41人の計609人が認定されました。2022年度の505人、2023年度の531人、2024年度の566人と年々増加しており、制度の浸透が進んでいることがわかります。
さらに2025年度からは、従来の大林組林友会所属者に限られていた認定対象を、大林組協力会社災害防止協会の所属者にまで拡大。より多くの職人が年収アップの恩恵を受けられる体制を整えています。
鹿島建設の「多重下請け撤廃」戦略
下請け幹部の受け入れで関係を深化
鹿島建設は、協力会社(下請け)との関係強化に独自のアプローチを取っています。下請け企業の幹部を最長1年間、鹿島の現場に受け入れる制度を設け、元請けと下請けの相互理解を深める取り組みを進めています。
この施策の背景には、鹿島が掲げる「多重下請け構造の撤廃」という大きな方針があります。鹿島の押味至一会長は、施工体制を原則として二次下請けまでに限定する方針を示しており、下請けの重層化を解消することで職人の賃金向上と安全管理の改善を目指しています。
「選ばれるゼネコン」への転換
多重下請け構造が維持される限り、末端の職人に十分な賃金が行き渡らないという構造的な問題があります。鹿島は下請け層を減らすことで中間マージンを圧縮し、職人の手取りを増やす仕組みを構築しようとしています。
これは単なる待遇改善にとどまらず、優秀な協力会社に「鹿島の現場で働きたい」と思ってもらうための競争戦略でもあります。
建設業界を取り巻く深刻な人手不足
大型工事を受注できない異常事態
建設業界の人手不足は、もはや将来の懸念ではなく現在進行形の危機です。大手・中堅建設会社の約7割が「2026年度は大型工事を新規受注できない」と回答しており、約4割は契約済みの工事でも工期が遅れる可能性があると答えています。
好業績にもかかわらず仕事を受けられないという異常事態は、人手不足がいかに深刻かを物語っています。
2024年問題が加速させた変化
2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)は、長時間労働に依存してきた業界の体質転換を迫りました。残業規制により一人あたりの労働時間が減少する中、同じ工事量をこなすにはより多くの人手が必要です。
この規制強化が、元請けゼネコンの下請け待遇改善を一段と加速させています。限られた人材を確保するには、給与だけでなく労働環境の改善も不可欠だからです。
業界全体で年収1000万円を目指す動き
大林組だけでなく、建設業界全体として技能者の待遇改善に向けた動きが広がっています。日本建設業連合会(日建連)のトップは「適切な賃金水準を大前提として、ものづくりの楽しさを訴えれば、人口減少下でも建設業に人材は戻ってくる」と語っており、業界平均年収1000万円という目標を掲げる声も出ています。
2025年の冬季賞与は建設業がけん引役となり、1人あたり平均支給額は2年連続で過去最高を記録しました。大手ゼネコン各社も過去最高の売上・利益を達成しており、その利益を人材投資に振り向ける余力は十分にあります。
中小波及とブルーカラー待遇向上の課題
中小建設会社への波及が課題
大手ゼネコンの待遇改善が進む一方で、中小の建設会社がこの流れについていけるかは大きな課題です。大手が高待遇で職人を囲い込めば、中小企業の人材確保はさらに困難になる恐れがあります。
建設業の多くは中小企業で構成されており、業界全体の持続的な発展のためには、大手だけでなく中小企業の職人にも恩恵が行き渡る仕組みが求められます。
ブルーカラーの地位向上は社会全体の課題
建設業界で起きている変化は、日本社会全体にとっても重要な意味を持ちます。少子高齢化により、あらゆる産業でブルーカラー人材の不足が進む中、「現場で手を動かす仕事」の社会的地位と経済的待遇の向上は避けられない流れです。
大林組の「職人年収1000万円」という目標は、建設業界にとどまらず、製造業やサービス業など他の業界にも波及していく可能性があります。
大林組・鹿島が示す職人待遇競争
大林組のスーパー職長制度による直接手当支給や、鹿島建設の多重下請け撤廃に向けた取り組みは、建設業界における「ゼネコンが選ばれる側になった」現実を象徴しています。
深刻な人手不足と2024年問題を背景に、大手ゼネコン各社は過去最高の利益を人材投資に振り向け、職人の待遇改善を競い合っています。「職人年収1000万円」が当たり前になる時代が、建設業界の未来を大きく変えるかもしれません。
参考資料:
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