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積水ハウス「大工1000人正社員化」の狙い

by 田中 健司
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大工不足が促す積水ハウス1000人体制

「家が建てられない」——住宅業界でこんな悲鳴が上がり始めています。原因は建材不足ではなく、大工不足です。日本の大工の数は過去40年で約3分の1に減少し、平均年齢は54.2歳に達しています。このまま放置すれば、住宅を建てたくても建てられない時代が来るのは時間の問題です。

この危機に先手を打ったのが積水ハウスです。同社は業界の常識を破り、大工の大量正社員化に踏み切りました。10年で1,000人体制を目指す「クラフター制度」は、住宅業界全体の転換点となる可能性を秘めています。

深刻化する大工不足の実態

40年で3分の1に激減した大工の数

日本の建設業就業者数は、1997年のピーク時から200万人以上減少し、2024年時点で479万人となっています。中でも大工の減少は著しく、高度経済成長期に比べると約3分の1にまで減りました。

さらに深刻なのは年齢構成です。60歳以上の技能者が全体の25.7%を占めており、今後10年でその大半が引退すると予測されています。一方、29歳以下の若手は約11%にとどまり、次世代への技術継承が追いつかない状況です。

繁忙期に「家が建たない」事態

大工不足の影響は、すでに住宅の現場に表れています。繁忙期に大工を確保できず、着工が遅れたり、工期が延びたりするケースが各地で報告されています。住宅メーカーが受注しても、施工する大工がいなければ家は建ちません。

この問題の根底には、建設業界特有の雇用慣行があります。大工の多くは「一人親方」と呼ばれる個人事業主として活動しており、社会保険や雇用保障がない不安定な立場に置かれてきました。若い世代がこの業界を敬遠するのは当然の帰結です。

積水ハウス「クラフター制度」の全貌

年収最大900万円、完全週休2日制

積水ハウスの子会社である積水ハウス建設が推進する「クラフター制度」は、大工を正社員として雇用する画期的な仕組みです。その待遇は業界の常識を大きく覆すものです。

チーフクラフターの年収は最大約900万円に設定されており、従来の大工の年収500〜600万円から大幅に引き上げられています。高い評価を受けた30〜40代のリーダー層は、前年比40%超の年収増を実現した事例もあります。

勤務条件も充実しています。完全週休2日制で年間休日は125日、男性の育児休暇取得率100%を達成しています。社会保険も完備されており、従来の「一人親方」とは全く異なる安定した雇用環境が提供されます。

初任給も3年連続で引き上げられており、2025年4月には前年比3%増の20万800円(都市部)に改定されました。2023年には最大11%、2024年には最大9%の引き上げが行われており、待遇改善への強い意思が見て取れます。

半年間の研修と4段階のキャリアパス

クラフター制度では、入社後すぐに現場に出るのではなく、北海道・愛知・福岡にある訓練校で半年間の研修を受けます。同期の仲間と寝食を共にしながら、住宅建築の基礎技術を体系的に学ぶプログラムです。

キャリアパスは「ホープ」「クラフター」「チーフクラフター」「マスタークラフター」の4段階に設定されています。技能を磨くだけでなく、工程管理や品質管理を担う工事責任者への職種変更も可能です。大工としてのキャリアに多様な選択肢が用意されている点が特徴です。

2033年に1,000人体制を目指す

積水ハウス建設は、2033年4月までにクラフターを約1,000人体制にする計画を掲げています。これは現在の約3倍の規模です。2024年と2025年には計134名の新規採用を実現し、採用強化前の3年間平均と比較して3.8倍の採用ペースを記録しています。2025年4月には134名が入社し、在籍者数は600人に迫っています。

業界への波及効果と各社の動向

「施工力の資本化」という発想転換

積水ハウスのこの取り組みは、単なる人材確保策ではありません。「施工力の資本化」という経営戦略上の発想転換です。大工を外注する従来モデルでは、施工品質のコントロールが難しく、繁忙期の人材確保にも不安がつきまといます。

自社で大工を抱えることで、品質の均一化、工期の安定化、技術の蓄積が可能になります。短期的には人件費の固定化というリスクを伴いますが、長期的には競争優位性の源泉となり得る戦略的投資です。

建設業全体の働き方改革との連動

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。いわゆる「2024年問題」です。残業に依存していた従来の働き方が通用しなくなり、限られた労働時間で成果を出す体制の構築が急務となっています。

積水ハウスのクラフター制度は、この時代の変化にも対応しています。完全週休2日制や育休制度の充実は、建設業界が長年抱えてきた「きつい・汚い・危険」というイメージを払拭し、若手人材の呼び込みにつながる可能性があります。

新築減少下の1000人稼働率とZEH需要

この取り組みにはリスクも存在します。最大の懸念は、住宅着工件数の長期的な減少トレンドです。人口減少に伴い新築住宅の需要は縮小が見込まれており、1,000人の正社員大工を抱えた場合の稼働率をどう維持するかが課題となります。

また、他の住宅メーカーが同様の戦略を採用した場合、大工の「争奪戦」が激化し、人件費が高騰する可能性もあります。業界全体として、大工の育成数を増やす取り組みが必要です。

一方で、リフォーム市場の拡大や、施工の高度化(ZEH住宅など省エネ基準への対応)を考慮すると、高い技術力を持つ正社員大工の需要は今後も堅調に推移すると予想されます。積水ハウスの「賭け」が成功するかどうかは、新築偏重から多角的な事業展開へと舵を切れるかにかかっています。

年収900万円待遇と施工力内製化の試金石

積水ハウスの大工1,000人正社員化は、深刻な人手不足に直面する住宅業界の転換点となる取り組みです。年収最大900万円、完全週休2日制という待遇は、建設業のイメージを根本から変える可能性を秘めています。

この動きは、大工を「外注先」ではなく「経営資源」として位置づける発想の転換です。短期的なコスト増を受け入れてでも、施工力を自社に内製化するという判断は、住宅業界の未来を左右する試金石となるでしょう。人手不足に悩む他業界にとっても、参考になる雇用モデルです。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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