管理職志向が過去最低17%に急落した背景と対策
管理職志向17%が示す職場の危機
「管理職になりたい」と考える正社員が、ついに過去最低の水準に落ち込みました。パーソル総合研究所が発表した「働く1万人の就業・成長定点調査」の2026年版によると、「現在の会社で管理職になりたい」と回答した正社員はわずか17%にとどまり、同社が集計を始めた2018年以降で最も低い数値を記録しています。
この結果は、日本の職場で長年指摘されてきた「管理職の罰ゲーム化」が、いよいよ深刻な段階に入ったことを示唆しています。同時に、20代男性の「何歳まで働きたいか」という問いに対する回答も大きく変化しており、若年層のキャリア観そのものが根本的に変わりつつあります。
本記事では、管理職志向の低下がなぜ起きているのか、その構造的な要因を掘り下げるとともに、企業が今後どのように対応すべきかを考察します。
パーソル総合研究所の調査が示す衝撃の数字
管理職志向17%の意味
パーソル総合研究所は2017年から毎年、全国の15歳から69歳の就労者を対象にインターネット調査を実施しています。2026年版では2月から3月にかけて調査が行われ、1万人から回答を得ました。
その結果、「現在の会社で管理職になりたい」と答えた正社員の割合は17%でした。これは2018年の調査開始以来、最も低い数値です。裏を返せば、8割以上の正社員が「管理職にはなりたくない」と考えていることになります。
日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が実施した別の調査でも、約77%が「管理職になりたくない」と回答しており、管理職忌避の傾向は複数の調査で一貫して確認されています。
20代男性の就労意欲にも顕著な変化
同調査では、「人生で何歳まで働きたいか」という設問についても注目すべき結果が出ています。20代男性正社員の回答の平均は53.8歳で、2017年の調査と比べて6.4歳も低下しました。
パーソル総合研究所の別の分析によると、20代の男性就業者でリタイア希望年齢を「50歳以下」とした割合は、2017年の13.7%から2024年には29.1%へとほぼ倍増しています。つまり、若い世代の間では「できるだけ早く仕事を辞めたい」という意識が急速に広がっているのです。
重要なのは、こうした意識変化が学生時代からあるものではなく、社会人になってから生じる点です。パーソル総合研究所の分析では、実際に働き始めてさまざまな経験をした後に早期リタイアを望むようになるケースが多いと指摘されています。
「罰ゲーム化」する管理職の実態
バズワードになった「管理職の罰ゲーム化」
パーソル総合研究所の上席主任研究員である小林祐児氏は、著書『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル、2024年刊)の中で、管理職が「罰ゲーム」と呼ばれるようになった背景を詳細に分析しています。同書は大きな反響を呼び、「管理職の罰ゲーム化」はパーソル総合研究所が選出する2025年〜2026年の人事トレンドワードにも選ばれました。
同研究所がコロナ禍以前に実施した「中間管理職の就業負担に関する定量調査」では、管理職が抱える課題として「業務量が増えた」が52.5%、「後任の人が見当たらない」が56.2%、「部下育成ができない」が37.5%という結果が出ています。管理職は自身の業務量増加に苦しみながら、次世代の管理職候補も育てられない状況に陥っているのです。
負担増を生む構造的な要因
管理職の負担が増え続ける背景には、いくつかの構造的な要因が絡み合っています。
第一に、バブル崩壊以降の長期的な人件費抑制策として、管理職ポストの削減と「組織のフラット化」が進みました。その結果、1人の管理職が管理する部下の数が増え、担う役割も多様化しています。
第二に、働き方改革の「副作用」があります。パーソル総合研究所の調査では、「働き方改革が進んでいる」と回答した管理職ほど業務量が増加しているという皮肉な結果が出ています。部下が定時で帰宅する一方、残った業務を管理職が巻き取る構図が生まれているのです。
第三に、マネジメントの難易度そのものが上がっています。ハラスメント防止の法制化、人材の多様化、リモートワークの普及、メンタルヘルスへの配慮など、管理職に求められるスキルと対応範囲は年々拡大しています。プレイングマネージャーとして自ら実務をこなしながら、こうした多面的なマネジメントも求められる状況は、多くの管理職にとって限界に近いものです。
負のスパイラルの存在
さらに深刻なのは、管理職の負担増が「負のスパイラル」を生んでいる点です。管理職が多忙になると、人事部門は「マネジメントスキルが不足している」と判断して研修を増やします。すると管理職の負荷はさらに高まり、部下の育成に手が回らなくなります。結果として管理職の後任が育たず、管理職志望者も減少するという悪循環が生まれています。
国際比較で際立つ日本の特異性
14カ国中最下位の管理職志向
管理職を忌避する傾向は日本特有の現象です。パーソル総合研究所が過去に実施した国際比較調査では、「現在の勤務先で管理職になりたい」と回答した割合は日本が最も低く、14の国・地域の中で最下位でした。
対照的に、インドでは約90.5%、ベトナムでは87.8%、フィリピンでは80.6%の人が管理職を志向しており、日本との差は歴然です。欧米諸国と比較しても、日本の昇進意欲の低さは突出しています。
背景にある雇用システムの違い
この差の背景には、日本特有の雇用システムがあります。日本企業では伝統的にメンバーシップ型の雇用慣行が根付いており、新卒一括採用後にゼネラリストとして育成されます。管理職への昇進は年功的な要素が強く、課長から部長になるまでに約6年かかるなど、キャリアアップのスピードも遅い傾向にあります。
一方、欧米やアジア新興国ではジョブ型雇用が一般的で、管理職はより明確な職務定義と報酬体系のもとで選ばれます。管理職になることが直接的に大幅な待遇改善につながるため、昇進へのモチベーションが高く維持されやすいのです。
管理職になりたくない理由の多面性
「向いていない」が最多回答
管理職になりたくない理由として最も多く挙がるのは、「自分は管理職に向いていないと思うから」という回答です。JMAMの調査では全体の46.6%がこの理由を挙げています。
しかし、この回答の裏側には複雑な心理が隠れています。実際に管理職の姿を見て「大変そう」「自分にはできない」と感じる社員が多いのです。現在の管理職が疲弊している姿が、次世代の管理職志望者を遠ざけるという構造になっています。
責任と報酬のアンバランス
「責任が重い」「出世欲がない」がそれぞれ5割以上の回答率で上位を占めています。責任や業務の負荷が増大する一方で、報酬面でのメリットが薄れている点も大きな要因です。
近年、初任給や一般社員の給与は上昇傾向にある一方、管理職になることで得られる報酬増は以前ほど魅力的ではなくなっています。残業代が支給されない管理職の場合、実質的な時間単価では一般社員を下回るケースすら報告されています。
ワークライフバランスへの意識
若い世代を中心に、仕事とプライベートの両立を重視する価値観が浸透しています。管理職になることで「ワークライフバランスが崩れる」と懸念する声も多く、女性社員の間では特にこの傾向が顕著です。
エン・ジャパンの調査では、管理職に興味がある割合は男性で約5割に対し、女性では約3割にとどまっており、18ポイント近い差があります。育児や介護との両立を考えたとき、管理職の働き方は大きなハードルとして映っているのです。
企業に求められる対策と今後の展望
キャリアパスの複線化が加速
管理職志向の低下に対応するため、多くの企業が「複線型人事制度」の導入を進めています。リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、複線的な人事制度を運用している企業は約66%に達し、特に専門職制度を設けている企業は2016年から2024年にかけて約30ポイント増加して58%になっています。
複線型人事制度では、一定のキャリアステージで「管理職コース」「専門職コース」「専任職コース」などから選択できるようにし、管理職にならなくても処遇や報酬を高められる道を用意します。これにより、「管理職にならなければ給与が上がらない」という従来の課題を解消しようとする動きです。
管理職の負担軽減に向けた取り組み
根本的な解決には、管理職の業務負担そのものを減らす取り組みが不可欠です。具体的には、マネジメント業務の分散化、事務作業の自動化・効率化、部下が自律的に動ける組織づくりなどが挙げられます。
また、管理職への十分な報酬の確保も重要です。責任と権限に見合った処遇を整えることで、管理職というポジションの魅力を取り戻す必要があります。
「罰ゲーム」から「やりがいのある挑戦」へ
パーソル総合研究所の小林氏は、管理職の「罰ゲーム化」を解消するためには、管理職個人のスキルアップだけでなく、組織構造そのものを変革する必要があると指摘しています。問題を管理職の能力不足に帰するのではなく、管理職に過度な負担を集中させている仕組み自体を見直すことが求められています。
管理職17%時代の人事制度再設計
パーソル総合研究所の2026年版調査で明らかになった「管理職志向17%」という数字は、日本の企業社会に突きつけられた深刻な警告です。管理職の罰ゲーム化、若年層の就労意欲低下、国際比較での特異性など、問題は多層的に絡み合っています。
この問題に対処するには、複線型人事制度の整備や管理職の業務負担軽減といった個別の施策だけでなく、「管理職とは何か」「組織におけるリーダーシップをどう位置づけるか」という根本的な問い直しが必要です。企業にとって、管理職を「罰ゲーム」ではなく「やりがいのある挑戦」に変えることが、組織の持続的な成長に直結する課題となっています。
参考資料:
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