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働き方改革7年後も残る昭和の影 トップと現場がすれ違う理由

by 渡辺 由紀
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はじめに

働き方改革関連法で時間外労働の上限規制が始まってから、大企業で7年、中小企業でも6年が過ぎました。制度の狙いは、長時間労働の是正と過労死防止です。ところが足元では、政権や一部経営側から「働きたい人がもっと働けるようにすべきだ」という見直し論が出る一方、現場の労働者は必ずしも緩和を求めていません。

なぜここまで認識がずれるのか。理由は、経営トップが見ているのが人手不足と受注制約であり、現場が見ているのは健康、私生活、そして管理のしわ寄せだからです。本記事では、厚生労働省の5年総点検、JILPTの管理職調査、副業・兼業政策の動向を手がかりに、改革の成果と残る昭和型発想の正体を整理します。

すれ違いを生む制度見直し論の背景

経営側が規制緩和を求める理由

現在の上限規制は、原則として月45時間、年360時間です。臨時的な特別事情がある場合でも、年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの枠がかかります。厚労省は2025年1月公表の「労働基準関係法制研究会」報告書で、働き方改革関連法の附則に基づく見直し議論を本格化させました。つまり、制度の再検討そのものは既定路線です。

問題は、その議論がしばしば「規制があるから成長できない」「若いうちはもっと働くべきだ」という昭和型の語りに回収されやすいことです。厚労省が2026年3月に公表した5年総点検のヒアリング調査では、企業327社のうち53社が現状より労働時間を増やしたいと回答しました。理由として多かったのは、業務の性質、受注確保、労働者の希望、人手不足です。経営側から見れば、上限規制は労務管理の問題であると同時に、供給能力を縛る制約でもあります。

ただし、この企業側の要望も一枚岩ではありません。同じ調査では201社が「現状のままがいい」と答え、その理由として業務量との関係、健康確保やワークライフバランス、人材確保・定着を挙げています。上限緩和を求める声は確かにありますが、多くの企業は長時間労働の常態化が採用や定着をむしろ難しくすると見ています。経営者の本音と企業全体の最適解は、必ずしも一致していません。

副業促進と「もっと本業で働け」の矛盾

もう一つのねじれは副業です。経営側には「副業するくらいなら本業に時間を使ってほしい」という感覚が根強く残りますが、政策の方向は逆です。厚労省は働き方改革実行計画を踏まえ、副業・兼業の促進ガイドラインを2018年に策定し、その後も改定を重ね、2025年3月31日改定版のパンフレットや労働時間通算の解説資料を公表しています。政府は副業を、単なる小遣い稼ぎではなく、多様なキャリア形成や人材流動化の一部と位置づけています。

このため、企業が「労働時間規制は緩めたいが、副業は広げたくない」と考えると、制度の思想と衝突します。副業は、会社への忠誠心が弱いから行うのではなく、収入補完やスキル形成、将来不安への備えとして選ばれることが多いからです。昭和型の長時間・専属前提の雇用観が残る企業ほど、ここで現場との距離が広がります。

現場が感じる不満の中心

労働者のニーズは緩和より現状維持と負担軽減

厚労省の労働者3,000人調査では、労働時間を「増やしたい」「やや増やしたい」は10.5%にとどまり、「このままでよい」が59.5%、「減らしたい」「やや減らしたい」が30.0%でした。妥当だと考える時間外労働の長さも、20時間以下が65.6%、45時間以下では93.0%に達しています。少なくとも労働者全体としては、上限規制の大幅緩和を望んでいるとは言えません。

増やしたい側にも事情はあります。理由の最多は「たくさん稼ぎたい」41.6%で、「自分のペースで仕事がしたい」19.7%、「残業代がないと家計が厳しい」15.6%が続きます。これは成長意欲だけでなく、賃金水準や生活防衛の問題が大きいことを示しています。長く働きたいのではなく、現在の給与体系では長く働かないと生活が苦しいという層が一定数いるわけです。

この点を無視して「働きたい人に自由を」とだけ語ると、論点がずれます。必要なのは上限緩和より、賃金設計、生産性向上、職務分担の見直しです。労働者の不満は、時間規制そのものより、限られた時間の中で仕事量や責任が減らないことに向いています。

管理職に集中するしわ寄せ

改革の影で最も負担を抱えやすいのが管理職です。JILPTのヒアリング調査は、管理職がプレイングマネージャーであることが多く、管理業務の増加で多忙化し、会社の外でも仕事をこなさざるを得ない状況があると指摘しています。残業削減のために進捗の見える化や業務平準化を進めても、最終的には管理職が部下の業務を肩代わりし、自らの労働時間が長くなる例が少なくありません。

同調査では、働き方改革によって一般社員の残業削減や効率化の効果があった一方、管理職の負担増加、持ち帰り残業、権限不足への不満が確認されています。つまり、制度上は残業が減っても、仕事そのものが減らなければ、負荷は上に逃げるだけです。トップが「若手はもっと働けるはずだ」と感じる背景には、自分たちの世代が長時間労働で育った経験もありますが、現場で起きているのはむしろ管理の過密化です。

過労死等防止対策白書の最新公表でも、近年の労災請求件数の傾向分析や重点業種の実態把握が続いています。長時間労働の問題は終わったテーマではありません。制度を緩める前に、なぜ今も健康確保が政策課題であり続けているのかを直視する必要があります。

注意点・展望

今後の見直しで避けるべきなのは、全業種一律の緩和論です。建設、運輸、医療などは業務特性が異なり、2024年4月に猶予業種へも上限規制が適用されたばかりです。人手不足が深刻でも、解決策を「長く働くこと」に戻せば、採用難と離職増を招きやすくなります。

本当に必要なのは三つあります。第一に、管理職の業務と権限を見直すことです。第二に、副業や複線的キャリアを敵視せず、労働時間管理と両立させることです。第三に、残業代依存を減らす賃金制度へ移ることです。働き方改革の次の段階は、時間規制の有無ではなく、昭和型の人事慣行をどこまで手放せるかで決まります。

まとめ

トップと現場の不満がすれ違うのは、どちらかが間違っているからではありません。トップは人手不足と機会損失を見ており、現場は健康、生活、管理のしわ寄せを見ています。問題は、その両者をつなぐべき制度設計と業務見直しが不十分なまま、「もっと働けるかどうか」という単純な問いに矮小化されやすいことです。

働き方改革7年後に残る昭和の影とは、長時間労働そのものより、長く働くことを成長や忠誠心と結びつける発想です。改革を前に進めるには、時間を増やす議論ではなく、限られた時間で仕事を回せる組織へ変える議論が欠かせません。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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