日米がレアアース・銅を共同開発、脱中国へ
はじめに
2026年3月19日にワシントンで開催される日米首脳会談で、レアアース(希土類)、リチウム、銅の共同開発に関する合意が交わされる見通しです。高市早苗首相とトランプ米大統領の会談では、米国内で三菱マテリアルや三井物産が参加する4つの事業の推進が確認されます。
重要鉱物はEV(電気自動車)、スマートフォン、半導体、防衛装備品など現代の産業基盤に不可欠な素材です。現在、レアアースの精製・加工では中国が世界シェアの約9割を握っており、この過度な依存構造の是正が日米共通の課題となっています。本記事では、共同開発の具体的内容と、脱中国依存に向けた日米欧の戦略を詳しく解説します。
日米共同開発の具体的内容
米国内4事業の推進
日米首脳会談では、米国内で展開する4つの重要鉱物関連事業が合意される見込みです。報道によると、インディアナ州でのレアアース精製事業やノースカロライナ州でのリチウム鉱山開発が含まれ、三菱マテリアルと三井物産がこれらのプロジェクトに参加する計画です。
中国の強みは埋蔵量だけではありません。採掘後の「分離」「精製」「磁石の製造」に至る工程全体を支配していることが、中国の圧倒的な競争力の源泉です。米国内に精製・加工の拠点を構築することで、サプライチェーンの中流から下流までを日米で押さえる狙いがあります。
南鳥島でのレアアース開発
日米首脳会談では、南鳥島(東京都小笠原村)沖の排他的経済水域(EEZ)におけるレアアースの共同開発も確認される方向で最終調整が進んでいます。
南鳥島周辺の深海底には、ジスプロシウムやテルビウムなど重希土類を豊富に含む「レアアース泥」が大量に存在することが確認されています。2026年1月には探査船「ちきゅう」が出港し、水深6,000メートルの海底からの泥の採取実験が本格的に始まりました。2026年2月には実際にレアアース泥の回収が確認されています。
東洋エンジニアリングが深海からのレアアース泥を揚泥するシステムの設計・開発を担当しており、2027年度には数十〜数百トン規模の試験採鉱と陸上での分離・精製プロセスの検証が予定されています。本格的な商業利用は2028〜2030年頃が目標です。
日米欧による重要鉱物サプライチェーン再構築
55カ国参加の重要鉱物サミット
2026年2月4日、トランプ米政権はワシントンで55カ国を招いた重要鉱物に関する閣僚級会合を開催しました。この会合では、中国の安価な重要鉱物による市場支配を防ぐため、最低価格の設定と米国民間資本の流入促進が提案されました。
EU、日本、メキシコは最低価格の設定など新たな政策の策定で米国と合意しました。これは、中国が国家補助金を通じて人為的に低価格を維持し、西側諸国の鉱山開発を採算割れに追い込んできた構造への対抗策です。
日米欧の重要鉱物貿易協定
Bloombergの報道によると、日米欧は重要鉱物の貿易協定枠組みを近く発表する方向で協議が進展しています。3月19日の日米首脳会談では、重要鉱物の調達を拡大させる貿易協定に向けたアクションプラン(行動計画)の締結が見込まれています。
東京新聞の報道では、このアクションプランには中国産の重要鉱物に関税を上乗せする案も盛り込まれる見通しです。日米が共同で関税措置を講じることで、中国の経済的威圧に対する抑止力を高める狙いがあります。
2025年10月の日米枠組みからの発展
重要鉱物に関する日米の取り組みは、2025年10月28日に署名された「重要鉱物供給確保のための日米枠組み」が出発点です。そこから約5カ月で、55カ国を巻き込む多国間の枠組みへと急速に発展しました。
財務省のプレスリリースによると、2月の閣僚会合では「重要鉱物サプライチェーン強靱性に関する戦略的パートナーシップ」が正式に発足しています。制度面での整備が急ピッチで進んでおり、各国政府の危機感の高さがうかがえます。
注意点・今後の展望
重要鉱物の脱中国依存には、いくつかの課題があります。まず、代替供給網の構築には時間がかかります。南鳥島のレアアース開発も本格的な商業利用は2028〜2030年頃が目標であり、短期的な供給不安の解消にはつながりません。
また、中国は2026年2月にレアアースの輸出規制を強化しており、代替供給源の確保が間に合わなければ、EV や半導体の生産に支障が出る可能性があります。最低価格の設定についても、消費国のコスト増加や新興国の反発など、調整が難航するリスクがあります。
一方で、イラン攻撃に伴うエネルギー安全保障の議論が活発化する中、資源安全保障全般に対する政治的関心は高まっています。この機運を活かし、具体的な投資と制度整備を加速できるかが今後の焦点です。
まとめ
3月19日の日米首脳会談は、重要鉱物の脱中国依存に向けた大きな節目となります。米国内でのレアアース精製・リチウム開発事業、南鳥島での海底レアアース採掘、さらに55カ国が参加する重要鉱物サプライチェーンの再構築と、取り組みは多層的に進んでいます。
短期的な供給リスクは残るものの、日米欧が制度面・投資面で本格的に連携する枠組みが整いつつあります。EVや半導体、防衛産業の将来を左右する重要鉱物の確保は、経済安全保障の最前線です。首脳会談での合意内容が、今後の資源戦略の方向性を決定づけることになるでしょう。
参考資料:
関連記事
日米首脳会談のエネルギー・鉱物協力の全貌
2026年3月の日米首脳会談で合意されたエネルギー・重要鉱物分野の協力内容を解説。南鳥島レアアース開発やアラスカ原油協力など、対中国戦略の核心に迫ります。
中国レアアース規制の真相と日米欧連携の全貌
中国の対日レアアース輸出規制は「高市発言への報復」と報じられましたが、実態はより構造的な問題です。規制の背景と動き出した日米欧の重要鉱物連携を解説します。
中国レアアース特許戦略が川下産業を席巻する理由
中国が5万件超のレアアース関連特許で川下産業まで支配を拡大。レアアース鋼の実用化や精製シェア90%超の実態、日本の対抗策を独自調査で解説します。
中国が日本40社に輸出規制、その全容と影響を解説
中国商務部が日本企業40社・団体を輸出規制リストと注視リストに掲載。SUBARUやTDKも対象に。規制の背景、対象企業の全容、日本経済への影響と今後の展望を詳しく解説します。
人工ダイヤ対米投資の狙いと中国依存脱却の壁
日米貿易協定の第1弾に人工ダイヤモンド製造施設が選ばれた背景と、中国が9割超のシェアを握る工業用人工ダイヤのサプライチェーン再構築に向けた課題を解説します。
最新ニュース
AI活用でビジネスはどう変わる 先行企業7社の実践と共通項を読む
LIFULL、イオン、ミスミ、Michelin、藤田医科大学などの事例から、AI導入が業務効率化で終わらず、顧客体験、現場標準化、新たな収益機会へ広がる条件を整理します。
AIは仕事を奪うのか 日本の解雇規制と労働移動政策の論点を検証
AIが雇用を奪うという見方を、日本の解雇ルール、人手不足、OECDやWEFの調査、企業の人材再配置やリスキリング政策の現状から検証し、必要な制度改革を冷静に整理します。
発達障害グレーゾーンはなぜ使いにくいのか 診断基準と支援策を整理
発達障害の「グレーゾーン」が医学用語として扱いにくい理由を、診断基準の線引き、学校現場での見え方、診断がなくても使える支援策、二次障害を防ぐ視点とあわせて丁寧に整理します。
若手への共感過剰が招く指示待ち部下と管理職疲弊の構造を読み解く
若手育成で求められる共感が、なぜ指示待ちと中間管理職の疲弊を招くのか。心理的安全性、自律性支援、最新調査をもとに、寄り添いと任せることの適切な線引きと実務上の打ち手を解説します。
フロリダ補選で民主逆転、トランプ地盤に走る異変の背景を詳解
フロリダ州下院87区の補選で民主党が共和党議席を奪還した理由を、公式開票結果、前回選挙との比較、郵便投票の動き、トランプ氏支持率の低下から読み解きます。