マクドナルド包装転換が映すPFAS規制対応と企業の供給網改革
包装材から始まるPFAS規制対応の連鎖
PFASは、水や油をはじき、熱や薬品にも強い性質を持つ有機フッ素化合物の総称です。環境省や欧州委員会は、PFASを1万種類以上に及ぶ物質群として説明しており、難分解性や蓄積性が規制強化の背景になっています。
規制の波は、消火剤や飲料水だけにとどまりません。食品包装、衣料品、化粧品、化学品、半導体材料へ広がり、企業には「どの商品に含まれるか」だけでなく、「どの工程で、どのサプライヤーが、どの目的で使ったか」を説明する力が求められています。
その象徴が、マクドナルドの紙製容器包装の対応です。フライドポテトやハッシュポテトの紙製バッグでは油染みを防ぐ機能が必要です。従来はPFAS系の耐油加工が使われやすい領域でしたが、外食チェーンは包装材の性能、法規制、消費者の安心を同時に満たす再設計を迫られています。
本稿では、食品包装で先行する脱PFASの実務を起点に、半導体製造まで波及する供給網リスクを整理します。焦点は「使わない宣言」ではなく、代替材の量産適性、成分証明、在庫管理、排水や廃棄物を含む製造現場の統制です。
紙製バッグ転換で問われる油脂耐性の再設計
食品接触材で先行する規制の集中
食品包装はPFAS規制の中でも先に動いた分野です。理由は明確です。包装材は食べ物に直接触れ、使用量が多く、廃棄後に環境へ流出する経路も広いからです。ファストフードの包み紙、紙製ボックス、持ち帰り容器、ポップコーン袋などは、油や水分を防ぐための表面処理が品質を左右します。
米食品医薬品局は2024年2月、紙・板紙の食品包装に使うPFAS系耐油剤が米国市場で販売されなくなったと発表しました。さらに2025年1月には、PFASを含む紙・板紙用の食品接触物質に関する35件の通知が有効でなくなったと説明しています。これは自主的な市場退出と規制対応が組み合わさった結果です。
州レベルではさらに踏み込みます。カリフォルニア州は2023年1月1日から、植物繊維を主体とする食品包装について、意図的に添加されたPFASや総有機フッ素で100ppm以上のPFASを含む製品の販売を禁じました。ミネソタ州も2024年1月1日から食品包装における意図的添加PFASを禁止し、インク、緩衝材、テープ、結束材など、包装の各層まで対象に含めています。
欧州では、食品接触包装に対する規制期限が2026年8月12日に迫ります。EUの包装・包装廃棄物規則は、一定濃度以上のPFASを含む食品接触包装を市場に出すことを禁じる方向です。欧州の紙器業界団体ECMAは、50mg/kgという濃度基準や、移行在庫を消化する猶予がない点を強調し、サプライヤーからPFAS不使用宣言、REACHの高懸念物質情報、食品接触適合宣言、可能であれば分析試験報告を集めるよう促しています。
包装メーカーにとって難しいのは、規制対応と性能保証が同じタイミングで進む点です。PFASを除くだけなら工程変更で済む場合があります。しかし、熱い揚げ物を入れても油漏れしないこと、紙のこわさや折り曲げ性を保つこと、印刷や接着の品質を損なわないこと、リサイクルや堆肥化の方針と矛盾しないことまで確認する必要があります。現場では、素材メーカー、紙加工会社、インキメーカー、包装設計会社、店舗オペレーションが連動します。
マクドナルドが示す非添加管理の実務
日本マクドナルドのサステナビリティレポート2025は、マックフライポテトSやハッシュポテトなどの紙製バッグには油シミを防ぐ加工を施していると説明しています。その上で、顧客提供用の紙製容器包装類すべてにおいて、2024年製造分からPFASを除去したと記載しています。重要なのは、紙製バッグの見た目の変更ではなく、耐油機能を別の仕組みで満たす調達・品質保証の変更です。
グローバルのマクドナルドも、2025年末までに一次的な顧客向け包装を再生可能素材、リサイクル素材、認証素材へ切り替える目標を掲げています。2024年末時点では、一次的な顧客包装の90.93%が再生可能、リサイクル、認証由来の素材で、繊維系一次包装は98.99%がリサイクルまたは認証由来でした。意図的に添加されたフッ素化合物を含まない包装品目は99.82%に達しています。
ただし、この数字は「完全なゼロ」を意味しません。マクドナルドは、包装材に意図的に有機フッ素化合物を加えない方針を示す一方、地域環境に由来する微量の有機フッ素が包装に残る可能性を認めています。つまり企業が管理すべき対象は、配合レシピだけではありません。原紙、コーティング、成形助剤、印刷、接着、保管環境、試験方法まで広がります。
外食チェーンの包装は、単価が低く、消費スピードが速く、全国の店舗で同じ品質を出す必要があります。店舗で油漏れや破れが起きれば、顧客体験だけでなく、作業動線や清掃コストにも響きます。PFAS対応は環境部門だけで処理できるテーマではなく、購買、品質保証、法務、商品開発、店舗運営が同じ仕様書を読む仕組みづくりです。
早く動いた企業ほど、代替材の量産テストと検査能力を先取りできます。中堅の外食、食品、紙器メーカーは、共同購買や標準的な証明書式で調達力の差を埋める工夫が必要です。
半導体サプライチェーンに迫る用途棚卸し
微細加工で残る不可欠用途の壁
包装材では代替が進みやすい用途が増えていますが、半導体では事情が大きく異なります。PFASは、低表面エネルギー、高い化学安定性、耐熱性、純度管理のしやすさなどから、製造装置、配管、シール、薬液、フォトリソグラフィ、エッチング、熱媒体、潤滑材に入り込んでいます。SEMIは、半導体バリューチェーンのほぼあらゆる側面でPFASが関わると説明しています。
特にリソグラフィでは、PFASが微細な回路形成の安定性に関係します。imecは、化学増幅型レジストでPFAS含有化合物が光酸発生剤に使われ、酸拡散の制御、膜の均一性、表面エネルギー低下に寄与すると説明しています。これは単に「別の撥水剤に置き換える」問題ではありません。ナノメートル単位の線幅、欠陥密度、歩留まり、露光条件、量産時の再現性を同時に満たす必要があります。
欧州委員会も、PFASには代替が存在し、すでに置き換えが進む用途がある一方、代替がないか性能が不十分な用途があると整理しています。2024年に採択されたPFHxA関連物質の制限では、雨具などの消費者向け繊維、食品包装、一般向け混合物、化粧品、一部の消火剤を対象にする一方、半導体、電池、燃料電池などの用途は対象外とされています。これは半導体が規制の外にいるという意味ではなく、代替可能性と供給安全保障の観点から別枠で評価されているということです。
半導体工場の投資は数千億円規模に膨らみ、材料の変更には長い認定期間が必要です。既存ラインで使う薬液や部材を急に変更すれば、微小欠陥の増加、装置停止、顧客認定のやり直しにつながります。したがって半導体企業のPFAS対応は、禁止リストを読むだけでは不十分です。工程ごとの用途、代替候補、排出経路、顧客契約、輸出入規制、工場排水の測定を一体で管理する必要があります。
排水測定と代替レジストの開発競争
半導体業界では、規制への反発だけでなく、実測と代替開発も進んでいます。SIAの半導体PFASコンソーシアムは、フォトリソグラフィ、プラズマエッチング、熱媒体、湿式薬液、組立・検査・パッケージングなどの放出経路を整理する技術文書を公開しています。2025年には半導体工場排水のPFAS分析方法に関する資料も並び、2026年にはフッ素化ポリマーが薬液容器の安全性や純度に必要な理由、熱媒体の代替候補などを扱う資料が追加されています。
代替材料の開発では、imecがPFASフリーの化学増幅型レジストを評価し、EUV向けで一定のパターン形成性能を示したと報告しています。ただし、解像度や欠陥制御には課題が残ります。洗浄・リンス、下層膜、上層膜、液浸露光向け添加剤など、周辺材料まで連鎖的に変える必要があるためです。
富士フイルムは2025年7月、imecとの評価でPFASフリーのネガ型ArF液浸レジストが28nm世代の金属配線形成で高い歩留まりとスループットを示したと発表しました。顧客評価段階に進んでいる点は、量産適用に向けた重要なシグナルです。ただし、先端工程と成熟工程、ロジックとメモリー、前工程と後工程では要求仕様が異なります。一つの成功例が、そのまま全工場の標準材になるわけではありません。
欧州では、CEA-Letiが主導するGENESISプロジェクトも始まりました。2025年6月発表の同計画には58のパートナーが参加し、3年間で排出制御、材料革新、廃棄物削減、原材料再利用を進めます。PFASフリー化学や低GWP代替、センサー型の排出削減も柱で、環境規制とチップ産業政策が結びついています。
日本企業にとっても、これは他人事ではありません。日本では2025年12月に、PFHxS関連物質を化審法の第一種特定化学物質へ追加指定する政令改正が閣議決定され、2026年6月17日に主要部分が施行される予定です。第一種特定化学物質は、製造・輸入の許可が原則禁止され、用途や輸入製品にも制限がかかります。国内で製造する企業だけでなく、海外から材料や部材を調達する企業も、含有情報の取得と代替計画を早める必要があります。
規制強化で広がる代替材検証と在庫リスク
PFAS対応で最も危ないのは、規制名だけを見て「自社製品は対象外」と判断することです。食品包装では、意図的添加の有無で見る制度、総有機フッ素の濃度で見る制度、個別PFASの分析値で見る制度が混在します。EUの食品接触包装では、2026年8月12日以降の市場投入が焦点になりますが、業界団体は調和された分析方法がまだない点も指摘しています。
在庫管理も盲点です。食品包装は、紙器メーカーが空の容器を販売した時点で市場投入と見る場合と、食品メーカーが中身を充填した時点で市場投入と見る場合があります。ECMAは、2026年8月12日以降に非適合の可能性がある在庫を市場へ出せないリスクを強調しています。倉庫にある包材が資産から廃棄物へ変わる可能性があるため、購買計画と販売計画の連動が必要です。
米国のTSCA報告規則も、企業の負荷を重くします。EPAは、2011年1月1日以降にPFASまたはPFAS含有成形品を製造・輸入した企業に、用途、生産量、廃棄、ばく露、有害性情報などの電子報告を求めています。多くの製造業にとって、過去の購買記録やサプライヤー仕様書をさかのぼる作業が発生します。半導体装置、化学品、包装資材のように部品点数が多い業界では、単なる法務対応ではなくデータ基盤の問題になります。
代替材にもリスクがあります。PFASを外したことで油漏れ、撥水性能低下、膜欠陥、洗浄残さ、装置腐食、発火性のある熱媒体への置換といった別の安全課題が生じる可能性があります。環境負荷を下げるはずの素材が、リサイクル性や食品安全、作業者安全を悪化させれば本末転倒です。代替の評価では、毒性だけでなく、工程安定性、ライフサイクル、廃棄処理、事故時対応まで見る必要があります。
今後は、規制が「個別物質の禁止」から「PFAS群全体の管理」へ近づいていきます。企業は、特定のPFOAやPFOSを使っていないことだけでは足りません。PFHxA、PFHxS、長鎖PFCA、フッ素化ガス、意図せぬ副生成物、排水中の前駆体まで、規制対象が増える前提で管理設計を作る必要があります。
経営者が点検すべき脱PFASの優先順位
まず取り組むべきは、用途の棚卸しです。製品、包装、製造補助材、設備部品、洗浄剤、消火剤、廃棄物処理まで、PFASが機能を担っている場所をリスト化します。購買部門だけでは把握できないため、品質保証、製造技術、設備保全、環境安全、法務が同じデータを更新する体制が必要です。
次に、規制期限と代替難易度で優先順位を付けます。食品接触包装や消費者向け繊維のように期限が近く、代替が広がる領域は、仕様変更と在庫圧縮を急ぐべきです。半導体材料や高機能部材のように代替検証に時間がかかる領域は、規制猶予を前提に放置するのではなく、試作、顧客認定、排出削減を並行して進めるべきです。
最後に、証明できるサプライチェーンを作ることです。PFAS不使用宣言、分析報告、化学物質管理票、変更通知、監査記録を紐づけ、顧客や当局に提出できる状態にします。PFAS規制は、環境対応の一項目ではなく、調達網が止まるリスクを抑える経営課題です。包装材から半導体まで、先に可視化した企業ほど、規制をコストだけでなく競争条件の変更として利用できます。
参考資料:
- McDonald’s Sustainability Report 2025 JP デジタルブック
- Goal Performance & Reporting
- Market Phase-Out of Grease-Proofing Substances Containing PFAS
- Restrictions - Internal Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs
- PFAS Compliance for food contact packaging by 12 August 2026
- TSCA Section 8(a)(7) Reporting and Recordkeeping Requirements for PFAS
- 有機フッ素化合物(PFAS)について
- 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令の閣議決定について
- PFAS use prohibitions and reporting
- California Code, Health and Safety Code Section 109000
- Semiconductor PFAS Consortium
- PFAS Explainer: Regulations for Semiconductor Manufacturing
- Removing PFAS from semiconductor manufacturing, from resists to rinses
- Fujifilm Develops PFAS-Free Negative ArF Immersion Resist
- GENESIS Project Launches to Lead Europe’s Transition To Sustainable Semiconductor Manufacturing
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