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人手不足時代の雇わない経営で採用難を越える中小企業の組織再設計

by 渡辺 由紀
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採用難を経営設計で解く発想

「雇わない経営」という言葉は、人を大切にしない経営を意味するものではありません。むしろ、人を採ればすべてが解決するという思考をいったん止め、仕事の設計、利益構造、技術活用、外部人材との関係を組み直す発想です。

中小企業庁の2025年版中小企業白書は、中小企業・小規模事業者が最も重視する経営課題として「人材確保」を挙げる割合が高いことを示しています。同時に、労働生産性やデジタル化、省力化投資の遅れも指摘されています。つまり問題は採用不足だけではなく、人が足りなくなる構造そのものにあります。

本稿では、採用ありきの経営から離れ、少ない人数でも付加価値を生む会社へ変わるための論点を整理します。単なる人員削減論ではなく、採用、定着、育成、外部委託、DXを一体で見るための実務的な読み解きです。

人手不足を採用数で埋める限界

採用市場の長期戦化

人手不足は一時的な景気循環では説明しにくくなっています。厚生労働省の労働経済白書は、2010年代以降の人手不足について「長期かつ粘着的」に生じている可能性を示し、生産性や労働参加率の向上が必要だと整理しています。求人を出せば人が集まる時代に戻ると考えるのは、現実的ではありません。

リクルートワークス研究所の「未来予測2040」は、労働供給制約が生活維持サービスにまで及ぶ将来像を描いています。これは大企業だけでなく、地域の小売、製造、建設、介護、宿泊、飲食といった中小企業の現場ほど重い意味を持ちます。地域で働く人の総量が限られるなら、競合より高い広告費を払うだけでは根本解決になりません。

採用市場の厳しさは新卒にも中途にも表れています。ワークス大卒求人倍率調査では、2026年卒の大卒求人倍率は1.66倍とされ、堅調な採用意欲が続いています。中途採用実態調査でも、2026年度の中途採用数が前年より増えると見込む企業が、減ると見る企業を上回っています。採用需要が強い環境では、知名度、賃金、勤務条件で劣る企業ほど苦戦します。

人件費と採用費の同時上昇

採用を増やす経営には、見えにくい固定費リスクがあります。2025年版中小企業白書は、人材確保のための採用コストについて、5年前より増加したと回答する事業者が約7割を占めると示しています。求人広告費、紹介手数料、採用担当者の工数は、採用できなかった場合にも消えていきます。

さらに、採用後の定着が不十分であれば、採用費は何度も発生します。同白書は、人材が不足していない事業者ほど直近3年間に採用した従業員の定着率が高く、人材不足の事業者では定着率が低い傾向を示しています。人が足りない会社ほど採用に焦り、焦った採用ほど定着しにくくなる悪循環が生まれます。

賃上げも避けて通れません。人材確保に賃金は不可欠ですが、付加価値が増えないまま人件費だけが上がると、経営余力は削られます。日本生産性本部は、物価上昇を上回る賃上げを実現するうえで生産性向上の必要性が高まっていると指摘しています。採用の前に、今の人数でどれだけ粗利を生めるかを問う必要があります。

雇わない経営を支える三つの実務

業務をなくす工程設計

雇わない経営の第一歩は、足りない人を探す前に、なくせる仕事を探すことです。ここでいう「なくす」は、現場を乱暴に削ることではありません。重複入力、紙の転記、承認待ち、属人的な確認、移動だけに費やす時間など、顧客価値を生まない工程を洗い出す作業です。

中小企業白書は、労働生産性について、大企業では増加傾向がある一方、中規模企業や小規模企業ではおおむね横ばいが続いていると説明しています。人手不足のなかで横ばいが続けば、現場は忙しくなるのに賃上げ原資は増えにくくなります。採用より先に業務設計を見直す理由はここにあります。

同白書に掲載された省力化投資の事例では、作業工程の自動化によって従業員数を維持したまま売上高を伸ばした企業が紹介されています。重要なのは、単に機械を入れることではなく、前工程から後工程までのボトルネックを見極め、作業の流れ全体を設計し直している点です。

この考え方は製造業に限りません。小売なら棚卸し、発注、レジ締め、勤怠管理を見直せます。建設なら見積もり、工程表、写真台帳、請求処理を整理できます。士業や専門サービスでも、面談前の情報収集、契約、請求、進捗共有を標準化できます。人を増やす前に仕事の流量を下げることが、雇わない経営の土台です。

この段階で経営者が避けたいのは、現場任せの改善活動に終わらせることです。忙しい現場に「効率化も頼む」と言うだけでは、改善そのものが追加業務になります。経営側が利益率、納期、品質、顧客対応のどれを優先するのかを決め、やめる仕事まで明示して初めて、採用に頼らない設計が動き出します。

外部人材とデジタルの役割分担

第二の柱は、社内に常時雇う仕事と、外部の力を借りる仕事を分けることです。中小企業白書は、副業・兼業人材の活用が道半ばであり、さらなる活用が人材不足解消に寄与する可能性を示しています。専門性が高いが常時必要ではない仕事は、フルタイム採用よりも外部人材の方が合理的な場合があります。

例えば、採用広報、EC改善、経理の月次化、社内規程整備、補助金申請、データ分析、AI導入の初期設計などは、必要な期間と成果物を明確にしやすい領域です。正社員採用にこだわると、採れない、育てられない、任せきれないという三重苦に陥ります。外部人材の活用は、雇用責任から逃げる手段ではなく、社内の仕事を定義する訓練でもあります。

第三の柱は、デジタル化を「人の代替」ではなく「判断の前処理」として使うことです。2025年版中小企業白書は、デジタル化の段階が進むほど、売上面、コスト面、人材面で効果を感じる割合が高いと示しています。一方で、DXに向けた課題として費用負担や推進人材の不足も挙げられています。

だからこそ、いきなり大規模な基幹システムを入れる必要はありません。まずは顧客情報、在庫、受発注、勤怠、案件進捗の一元化から始めるのが現実的です。紙と口頭に埋もれている情報を見える化すれば、誰がやっても同じ品質で進められる仕事が増えます。採用できる人の幅も広がります。

定着と育成を軽視した雇わない経営の落とし穴

雇わない経営は、既存社員に仕事を押しつける経営とは違います。採用数を抑えるほど、一人ひとりの負荷、裁量、成長機会を丁寧に設計しなければ、離職リスクはむしろ高まります。人を増やさないという方針だけが先行すると、現場は「経営が我慢を求めている」と受け止めます。

中小企業白書は、人材育成の取組を増やした事業者では、採用した従業員の定着率が高い傾向を示しています。また、人事評価制度を設ける事業者は全体で約4割にとどまり、従業員規模が大きいほど制度化が進むとされています。人数が少ない会社ほど、評価や育成を「見ていれば分かる」で済ませがちですが、ここに危うさがあります。

外部人材やデジタルツールを入れても、社内に仕事の基準がなければ成果は残りません。誰に何を任せるか、何を内製し続けるか、どの技能を形式知化するかを決める必要があります。雇わない経営の成否は、採用を減らすことではなく、残す仕事をより魅力的で学習可能なものに変えられるかにかかっています。

賃上げとの関係も重要です。省力化で浮いた時間を単に余白として吸収するだけでは、現場の納得は得にくいです。残業削減、休暇取得、技能手当、成果配分、学習時間の確保など、従業員に還元される設計が必要です。人を雇わない分だけ、今いる人の処遇と働きがいを高める視点が欠かせません。

経営者が来期計画に入れる三つの問い

採用難の時代に、採用活動を止める必要はありません。ただし、採用を経営課題の出発点に置くのではなく、業務設計の結果として必要な採用人数を決めるべきです。最初に問うべきは「何人足りないか」ではなく、「どの仕事が本当に必要か」です。

来期計画では三つの問いを置くと整理しやすくなります。第一に、売上や顧客満足に直結しない仕事をどれだけ減らせるか。第二に、社内に常時置くべき技能と、外部人材で補える専門性をどう分けるか。第三に、省力化で生まれた利益や時間を、既存社員の賃金、育成、働きやすさにどう戻すかです。

「雇わない経営」は、人を採らないための標語ではなく、人が集まりにくい時代に会社を持続させる経営設計です。採用難を嘆く前に、仕事を減らし、付加価値を上げ、働く人が残りたいと思える環境をつくることです。その順番を守れる会社ほど、人を雇うときにも選ばれやすくなります。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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