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すし店女将が50歳で司法試験一発合格した勉強術

by 渡辺 由紀
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はじめに

愛知県知多半島の美浜町にある老舗すし店「ゆたか寿し」。1934年創業のこの店を切り盛りする女将・畠伸子さんが、50歳にして司法試験に一発合格したというニュースが大きな注目を集めています。

4人の子どもを育てながら、すし店の仕込みから接客、帳簿管理までこなす多忙な毎日。それでも45歳で一念発起し、約4年半にわたる猛勉強の末に超難関試験を突破しました。2025年度の司法試験合格者の平均年齢が26.8歳であることを考えると、畠さんの合格がいかに異例であるかがわかります。

本記事では、畠さんの挑戦の軌跡と独自の勉強法を紐解きながら、ミドル世代が資格取得に挑むためのヒントを探ります。

畠伸子さんの挑戦の背景

コロナ禍が転機に

畠さんが司法試験を志したきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大でした。91年続く老舗すし店は、宴会需要の激減により経営が大きく悪化します。人口減少が進む地方の飲食店にとって、コロナ禍の打撃は深刻なものでした。

「店の経営を助けたい」という思いから、畠さんは45歳で司法試験への挑戦を決意します。大学卒業後すぐに結婚し、若女将として店に入った畠さんにとって、法律の勉強はまったくの未知の領域でした。しかし、家計を支える新たな収入源を確保するため、弁護士資格の取得を目指したのです。

予備試験の壁と法科大学院への進学

畠さんはまず、法科大学院を経ずに司法試験の受験資格を得られる予備試験に挑みました。コロナ禍で客足が遠のき、使われなくなった店の宴会場を勉強部屋に変え、通信教材で独学を開始します。

しかし予備試験は合格率わずか3〜4%という超難関です。畠さんは2年連続で不合格となりました。それでも諦めず、法科大学院への進学という新たなルートを選択します。20代の若い学生たちに囲まれながら、およそ1年半にわたって法律を学び直しました。

驚異の時間捻出術

「1日24時間、6時間寝ても18時間ある」

畠さんの勉強法で最も注目されているのが、徹底的な時間活用術です。畠さんは「1日は24時間もある。6時間寝ても18時間は余る。だったら勉強する時間は絶対に取れる」と語っています。

具体的なスケジュールは以下の通りです。朝5時に起床してすぐに勉強を開始し、食材の仕込みの合間には参考書を開きます。調理中や移動中には音声教材でインプットを行い、家事の隙間時間には問題演習や復習に充てました。夜は家族が寝静まった後に集中的な学習時間を確保していたといいます。

参考書は実に80冊以上を読破し、平日は10時間以上の勉強時間を確保していました。「机に座るだけが勉強じゃない」という信念のもと、あらゆる場面を学びの機会に変えていったのです。

子育てで培ったマルチタスク力

4人の子育てを「ワンオペ」でこなしてきた経験が、勉強にも大いに活きたと畠さんは振り返ります。複数の作業を同時にこなすマルチタスク能力は、子育ての中で自然に身についたものでした。

メモを見ながら唐揚げを揚げるなど、日常の家事と勉強を組み合わせる「ノールック勉強法」も実践していたそうです。一見すると荒唐無稽にも思えますが、すべての隙間時間を学習に充てるという強い意志があったからこそ実現できた方法です。

司法試験の現状とミドル世代の挑戦

合格率41%時代の司法試験

2025年度の司法試験では1,581人が合格し、合格率は41.20%でした。かつて合格率が数%だった旧司法試験時代と比べると、大幅に門戸が広がっています。最年少合格者は18歳、最年長は69歳と、幅広い年齢層が合格を果たしています。

ただし、合格に必要な勉強時間は3,000〜8,000時間とされており、依然として超難関試験であることに変わりはありません。社会人が働きながら挑戦する場合、3〜5年の勉強期間が必要というのが一般的な見方です。

広がるリスキリングの波

畠さんの挑戦は、近年のリスキリング(学び直し)ブームとも重なります。政府は教育訓練給付制度を拡充し、給付率を最大80%にまで引き上げました。対象講座は約1万6,000にのぼり、資格取得から大学院進学まで幅広い学び直しを支援しています。

社会人の学び直しに対する意識も高まっています。定年70歳時代を見据え、50代のセカンドキャリア構築のためにリスキリングが必須とされる時代になりました。畠さんのように40代・50代で新たな資格に挑戦する人は、今後ますます増えていくと考えられます。

働きながら司法試験を目指すには

予備試験ルートと法科大学院ルート

司法試験の受験資格を得るには、主に2つのルートがあります。1つ目は予備試験ルートで、働きながら勉強できる点が最大の魅力です。合格すれば法科大学院の在学期間と費用をカットできます。

2つ目は法科大学院ルートです。筑波大学のように夜間コースを設けている法科大学院もあり、社会人でも通学可能な環境が整いつつあります。ただし、授業料や生活費を含めて500万〜1,000万円程度の出費を覚悟する必要があります。

畠さんは予備試験に2度挑戦した後、法科大学院ルートに切り替えて合格を勝ち取りました。一つの道がダメでも、別のルートを模索する柔軟さが成功の鍵だったといえます。

社会人が勉強時間を確保するコツ

実際に働きながら司法試験に合格した人の例では、1日3時間、週に20時間程度の学習時間を確保しているケースが多く見られます。通勤時間や昼休みなどのスキマ時間を活用することが重要です。

畠さんのケースは、スキマ時間の活用を極限まで突き詰めた好例です。「面白いと思えたから続けられた」という言葉が示すように、学ぶこと自体に楽しさを見出せるかどうかも、長期間の勉強を乗り越える大きなポイントになります。

注意点・展望

ミドル世代の資格挑戦には、いくつかの注意点もあります。まず、司法試験合格後にも司法修習(約1年間)が必要であり、その期間の収入が途絶える可能性があります。50代で新米弁護士としてキャリアをスタートする場合、就職先の選択肢が限られることもあります。

ただし、前職での経験やスキルを活かせる分野を選ぶことで、この課題は乗り越えられます。畠さんのように飲食業の経営経験がある場合、中小企業の法務支援や事業再生といった分野で強みを発揮できる可能性があります。

リスキリングの潮流は今後も加速するでしょう。政府の支援制度はさらに拡充される見込みであり、オンライン学習環境の整備も進んでいます。年齢を理由に挑戦を諦める必要はない時代が、確実に到来しています。

まとめ

畠伸子さんの司法試験一発合格は、「年齢は挑戦の障壁にならない」ということを鮮やかに示してくれました。4児の母としてすし店を切り盛りしながらも、徹底した時間管理とたゆまぬ努力で夢を実現した姿は、多くの人に勇気を与えています。

ミドル世代にとって、新たな資格への挑戦はけっして遅すぎることはありません。重要なのは、畠さんが実践したように「机に座るだけが勉強ではない」という発想の転換と、学ぶことへの純粋な楽しさを見出すことです。まずは興味のある分野の情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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