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衣料品輸入の中国五割割れで進む東南アジア生産シフトの最新実像

by 藤田 七海
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中国五割割れが示す調達地図の転換点

日本の衣料品輸入で、中国の存在感が節目を迎えています。2025年に繊維製品の輸入先に占める中国比率が5割を下回ったことは、単なる国別順位の変化ではありません。1980年代以降に広がった「中国で大量に作り、日本で売る」というアパレルの前提が、コスト、地政学、労働監査、在庫管理の面から組み替わり始めたというサインです。

国内アパレル市場は、すでに輸入なしでは成り立ちにくい構造です。経済産業省の資料では、2022年の衣料品の輸入浸透率は数量ベースで98.5%に達し、国内供給点数も1990年から2022年にかけて1.8倍以上に増えたと整理されています。つまり焦点は「国産回帰」ではなく、ほぼ海外生産である前提のなかで、どの国に、どの工程を、どれだけ任せるかに移っています。

ユニクロを展開するファーストリテイリングのような大手は、販売地域を北米、欧州、東南アジアへ広げながら、調達網も分散させています。価格の安さだけを追う時代から、需要に近い場所で機動的に作り、人権や環境の説明責任も果たす時代へ移るなかで、アパレル各社の競争軸は大きく変わっています。

中国集中を崩したコストとリスクの連鎖

賃金上昇と追加関税の二重圧力

中国が日本向け衣料品の中心地になった理由は明快でした。巨大な労働力、港湾や物流の整備、縫製から副資材までそろう産業集積、そして日本企業が求める品質への対応力です。短納期で大量の商品をそろえられる体制は、量販店、百貨店、専門店チェーンの成長を支えました。

ただし、その強みは同時にコスト上昇の影響も受けやすい構造でした。中国沿海部では労務費が上がり、内陸移転や自動化だけでは、低価格衣料の採算を守りにくくなっています。さらに米中対立や追加関税、強制労働をめぐる規制強化は、中国で作ることの「見えないコスト」を押し上げました。

米国国際貿易委員会(USITC)の調査は、この変化を米国市場の数字で示しています。2023年の米国アパレル輸入は793億ドルで、中国はなお最大の供給国でしたが、輸入額シェアは2013年の37.7%から2023年の21.4%へ低下しました。一方、バングラデシュ、カンボジア、インド、インドネシア、パキスタンの合計シェアは上昇しています。

日本市場でも構図は似ています。財務省貿易統計は、主要商品別、国・地域別の輸出入額を2025年の確々報値として公開しており、衣料品や繊維製品の国別比較が可能です。そこに業界団体の輸入概況を重ねると、中国依存の低下とASEAN・南アジアの存在感拡大が同時に進んでいることが読み取れます。

量産基地から高難度拠点へ変わる中国

重要なのは、中国から生産が一斉に消えるわけではない点です。中国には今も、素材調達、染色、縫製、検品、物流をまとめる強い基盤があります。難度の高い加工や、急な追加発注、複数素材を組み合わせる商品では、中国の産業集積が依然として競争力を持ちます。

そのため、アパレル各社の現実的な選択は「脱中国」よりも「中国の役割の再定義」です。ベーシックなTシャツやパンツはベトナム、バングラデシュ、インドネシアへ移し、複雑な商品や短納期対応は中国に残す。こうした分業が進むほど、中国は安さの供給地から、品質・部材・調整力を担う拠点へ変わっていきます。

ファーストリテイリングの中国事業にも、成熟市場としての調整が見えます。同社は2025年度のグレーターチャイナ売上高を6502億円、営業利益を899億円とし、前年から減収減益だったと開示しました。販売面での成長鈍化は、生産だけでなく消費市場としての中国をどう位置づけるかという課題にもつながります。

この変化は、日本のブランド戦略にも影響します。かつては「中国で安く作る」ことが価格競争力の源泉でした。今は、どの国で作っても一定の品質を保ち、サプライチェーンの説明責任を果たし、売れ行きに応じて在庫を調整できることがブランド価値になります。低価格そのものより、価格に対する納得感が問われる局面です。

東南アジアと南アジアに広がる縫製網

ベトナムとバングラデシュの受け皿化

中国比率の低下を受け止めている代表格が、ベトナムとバングラデシュです。ベトナムは港湾、工業団地、外資メーカーの集積に加え、欧州連合との自由貿易協定を背景に、米欧ブランドの調達先として存在感を高めています。Le Mondeは、2025年のベトナムの衣料輸出が約400億ユーロに達し、その4割が米国向け、15%がEU向けだったと報じています。

ベトナムの強みは、縫製だけでなく周辺工程を取り込む点にあります。ジーンズやスポーツ衣料の工場では、洗い加工、織布、物流まで組み合わせ、短納期と品質管理を同時に追求する動きが広がっています。日本企業にとっても、単に人件費の安い国ではなく、販路拡大先でもある東南アジアで生産する意味が増しています。

一方、バングラデシュは量産型衣料の巨大拠点です。BGMEAの統計では、同国の既製服輸出は2024-25年度に393億4697万ドル、2025年暦年でも388億2471万ドルに達しました。輸出全体に占める既製服の比率は2024-25年度で81.49%に上り、国家経済の中核産業であることが分かります。

バングラデシュの強みは、Tシャツ、ニット、パンツなどの大ロット生産です。日本の量販店や専門店にとって、ベーシック衣料の安定供給先としての魅力は大きい一方、政治情勢、労働安全、港湾混雑、リードタイムの長さは無視できません。低価格商品ほど、調達国の分散と在庫計画の精度が利益を左右します。

インドネシアで強まる高付加価値生産

インドネシアは、単純な低価格拠点というより、スポーツ、アウトドア、ビジネス衣料など比較的複雑な商品で評価を高めています。USITCは、インドネシアが相対的に高コストながら、幅広い衣料と高付加価値商品の生産力を持つ点を競争力として挙げています。

この位置づけは、日本企業にとって重要です。東南アジアへの生産移転は、必ずしも「より安い場所へ逃げる」だけではありません。耐久性、縫製精度、素材の機能性、監査対応、納期の安定性を総合して、生産地を選ぶ段階に入っています。ユニクロのように機能性素材や定番商品の品質を重視するブランドほど、委託先の工程管理力が問われます。

ファーストリテイリングは、2026年3月時点の生産パートナーリストで、継続取引を見込む縫製工場、洗い・プリントなどの加工委託先、中核的な生地工場、副資材工場まで情報開示の対象にしています。所在地だけでなく、女性労働者比率や移民労働者比率などの情報も開示対象に含め、半年ごとに更新するとしています。

この開示姿勢は、調達地分散の次の課題を示します。生産国が増えるほど、発注元は工場の実態を把握しにくくなります。低価格を維持しながら、どの工場で、誰が、どの条件で作ったかを説明するには、単なる発注管理では足りません。商品企画、原材料調達、縫製、検品、物流をつなぐデータ管理が必要になります。

さらに、東南アジアは消費市場としても無視できません。ファーストリテイリングの公式情報では、2026年6月末時点でユニクロはインドネシアに78店、ベトナムに31店、タイに73店、フィリピンに81店を展開しています。生産地であると同時に販売地でもあることが、アジアのサプライチェーンをより複雑で戦略的なものにしています。

生産分散で浮かぶ品質と人権監査の重み

生産地の分散は、供給リスクを下げる一方で、管理コストを上げます。中国一国に集中していた時代は、問題が起きたときの影響が大きい反面、工程や物流を見通しやすい面がありました。複数国にまたがると、港湾事情、通貨、祝日、労働法制、電力事情、政治リスクを同時に管理しなければなりません。

カンボジアの事例は、分散先にも脆弱性があることを示します。Guardianは、米国の関税をめぐる不確実性がカンボジアの衣料・履物・旅行用品産業に影響し、同産業が100万人規模の雇用を抱え、労働者の多くが女性であると報じました。中国から別の国へ移せば安定する、という単純な話ではありません。

また、欧米の消費者や投資家は、安さだけでなく人権・環境への説明を求めています。OECDの衣料・履物セクター向けデューデリジェンス指針は、企業に対し、サプライチェーン上の負の影響を避け、対処するための手順を求めています。日本でも経済産業省がJASTIを策定し、ILO中核的労働基準を踏まえた監査要求事項を整備しました。

この流れは、アパレル企業のブランド作りにも直結します。消費者がラベルで見るのは「Made in Vietnam」や「Made in Bangladesh」といった国名だけですが、実際には生地、ファスナー、染色、洗い加工、物流が別々の国にまたがることがあります。国名表示だけでは、品質や倫理性を説明しきれない時代になっています。

企業にとっての課題は、安い国を探すことではなく、どの工程をどこに置けば品質、価格、納期、説明責任のバランスが取れるかを設計することです。中国比率の低下は、この設計思想の変化を映す指標だといえます。

消費者が価格以外に見るべき調達の変化

衣料品輸入の中国五割割れは、店頭価格がすぐ上がる、あるいは下がるという単純な話ではありません。むしろ、価格を抑えるための仕組みが多国間に広がり、見えにくくなっていることを意味します。商品が同じ価格でも、背後では発注先、物流ルート、監査体制、在庫の持ち方が変わっています。

消費者にとって注目すべきなのは、値札だけでなく、定番商品の品質が安定しているか、サイズや色の欠品が減っているか、企業が工場リストや調達方針を説明しているかです。ブランド側には、安さの理由を曖昧にせず、どのように生産地を選び、どのように労働環境を確認しているかを示す力が求められます。

投資家や業界関係者は、中国比率の低下を一過性のニュースとして見るべきではありません。今後は、ASEANや南アジアの生産能力、米欧の関税政策、円相場、人権監査の厳格化が、アパレル企業の粗利益率とブランド信頼を左右します。調達地図の変化は、服の価格だけでなく、企業の競争力そのものを測る指標になっています。

参考資料:

藤
藤田 七海

ブランド・消費文化・ライフスタイル

ブランド戦略・消費文化・ライフスタイルを幅広く取材。歴史や科学にも造詣が深く、多角的な視点で社会の「今」を切り取る。

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