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中国レアメタル囲い込みが迫る日本の半導体・防衛素材調達転換戦略

by 田中 健司
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資源囲い込みが製造現場に及ぶ理由

中国のレアメタル政策は、単なる資源外交ではなく、製造業の原価、納期、品質保証を同時に揺らす産業政策です。ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、タングステン、インジウムなどは使用量こそ少ないものの、半導体、光学部品、難燃材、切削工具、防衛装備、EV部材の性能を左右します。

焦点は、中国が輸出側で許認可を厳しくしながら、輸入側では周辺国や友好国から原料を集める二重の動きです。国内の採掘・精錬能力を押さえ、海外鉱石も中国の製錬網に吸い込むことで、材料の物理的な流れと価格形成の両方を握りやすくなります。

日本企業にとって問題は、一次サプライヤーの国籍だけでは判断できない点です。部品メーカーが日本や欧州にあっても、添加材、粉末、酸化物、化合物、リサイクル原料のどこかで中国の精錬・分離工程に依存していれば、規制の影響は購買契約の外側から現れます。

輸出規制と輸入拡大が同時に進む構図

中国は2023年以降、米国の半導体規制に対応する形で重要鉱物の輸出管理を段階的に広げました。AP通信が報じた2024年12月の措置では、米国向けにガリウム、ゲルマニウム、アンチモンなどの輸出を原則禁止する方針が示されました。対象品目はいずれも少量高機能材で、輸送量よりも用途の戦略性が大きい素材です。

2025年2月にはタングステン、テルル、モリブデン、ルテニウムなどにも厳しい輸出管理が及びました。ガーディアンは、タングステンが弾薬、切削工具、掘削工具などに使われるため、防衛と産業基盤の双方に影響し得ると報じています。中国側は安全保障上の理由を掲げますが、買い手から見れば許可制そのものが供給の不確実性になります。

ガリウム・ゲルマニウム規制の連鎖

ガリウムとゲルマニウムは、半導体や通信、赤外線光学、太陽電池などで使われます。USGSの鉱物統計では、中国は低純度ガリウムの圧倒的な供給国として位置づけられています。AP通信も、米国がガリウムとゲルマニウムの相当部分を中国から直接調達していると説明しています。

これらは銅や鉄のように単独鉱山から大量に掘る素材ではなく、ボーキサイト、亜鉛、石炭などの副産物として回収される性格が強い金属です。したがって新規供給を増やすには、主産物の鉱山、製錬工程、回収設備、精製技術をまとめて整える必要があります。価格が上がったからといって、短期間で代替供給が現れにくい点が弱点です。

アンチモンとタングステンの軍民両用性

アンチモンは難燃材、鉛蓄電池、半導体、暗視装置、防衛関連用途に広がる素材です。USGSは2024年の世界鉱山生産を約10万トンと推計し、このうち中国は6万トンを占めると示しています。2024年には中国の輸出管理発表後、アンチモン価格が7月の1ポンド8.91ドルから11月には17.50ドルへほぼ倍増したとも記録されています。

タングステンでは集中度がさらに高くなります。USGSの2025年版鉱物統計によると、2024年の世界鉱山生産は約8万1000トンで、中国は6万7000トンです。世界生産の8割超を握る国が輸出許可を通じて流通を調整できる構図は、切削工具を使う機械加工、建設機械、資源掘削、航空宇宙、防衛装備に波及します。

輸入を増やす動きは、この規制と矛盾しません。むしろ中国は、自国からの輸出を絞れる立場を維持しながら、国内製錬や下流産業に必要な原料を外から集めています。鉱石を輸入し、精錬・加工・部品化の工程を国内に残せば、付加価値と交渉力は中国側に蓄積します。

ミャンマー・北朝鮮調達が抱える地政学リスク

中国の資源戦略を考える際、レアメタルとレアアースは分けて見る必要があります。レアアースは17元素の総称で、タングステンやアンチモンとは別の分類です。ただし、鉱山を国外に広げ、中国国内で精錬・加工を握るという供給網の作り方は共通しています。このためミャンマーの重希土類は、レアメタル調達を読むうえでも重要な比較対象です。

Le Mondeは、ミャンマー北部カチン州で重希土類採掘が急拡大し、2023年の重希土類酸化物生産が約4万2000トンに達したと報じました。2015年にはごく少数だった鉱山が、2021年には約300地点、約2700の採取池に広がったとのGlobal Witnessの調査も紹介しています。採掘されたディスプロシウムやテルビウムは中国に渡り、磁石用材料として加工されます。

ミャンマー重希土類への依存拡大

ミャンマーの事例が示すのは、中国が国内の環境負荷を下げながら、実質的な加工支配を保つ構図です。Le Mondeの別稿では、中国は江西省などで汚染の大きい小規模鉱山を整理する一方、同じ技術と人材が国境の外へ移ったと説明されています。ミャンマー側では軍政、少数民族武装勢力、国境貿易が絡み、原料の追跡可能性は著しく低くなります。

AP通信は2024年、カチン独立軍が中国国境のレアアース採掘拠点カンパイティを掌握したと報じました。資源そのものの存在よりも、誰が支配し、どのルートで中国へ入るのかが供給リスクを決めます。自動車や電子部品の調達担当者は、鉱山国名だけでなく、武装勢力、制裁、環境規制、労働慣行まで確認する必要があります。

北朝鮮産鉱物をめぐる制裁確認

北朝鮮については、地質資源と取引可能性を慎重に分けて考えるべきです。USGSは2024年の北朝鮮のタングステン鉱山生産を1700トン、埋蔵量を2万9000トンと推計しています。つまり資源国としての潜在性はありますが、国連制裁の枠組みが取引の大きな制約になります。

国連安保理決議2371は、北朝鮮の石炭、鉄、鉛、水産物などの輸出を禁じる制裁を強めました。レアメタルの全品目が同じ扱いとは限りませんが、北朝鮮由来の鉱物を含む可能性がある場合、制裁リスト、通関分類、仲介業者、決済銀行、船舶履歴を確認しなければなりません。価格や納期だけで調達すると、後から輸出管理や金融制裁の問題に発展します。

日本企業に迫る調達分散と在庫戦略

日本の製造業は、レアメタル不足を単なる購買部門の問題として扱うべきではありません。タングステン工具が止まれば加工ラインが遅れ、アンチモン系難燃材が不足すれば樹脂部品の認証が取り直しになります。ガリウムやゲルマニウムの供給不安は、通信部品、センサー、パワー半導体、衛星・防衛関連部材に広がります。

第一の対策は、部品表を素材レベルまで掘り下げることです。サプライヤーに「中国製かどうか」を尋ねるだけでは足りません。鉱石、濃縮物、酸化物、金属、粉末、合金、化合物、スクラップのどの段階で中国工程を通るのかを確認し、二次・三次サプライヤーまで見える化する必要があります。

第二の対策は、調達先の分散を価格交渉ではなく設計要件として扱うことです。タングステン含有工具を別素材に変える、アンチモン系難燃材をリン系や水酸化アルミニウム系に置き換える、ガリウム系半導体を用途別に代替設計する、といった対応は購買だけでは決まりません。品質保証、設計、知財、顧客認証が同時に動く課題です。

第三の対策は、戦略在庫とリサイクルの組み合わせです。ガーディアンは、各国が重要鉱物の備蓄や国際連携に動いていると報じています。日本でも高リスク素材については、平時の在庫日数だけでなく、輸出許可の遅延、港湾停止、制裁リスク、代替認証期間を織り込んだ在庫政策が必要です。スクラップ回収や工程内ロスの再資源化も、調達リスクを下げる実務になります。

EUの動きも示唆的です。ガーディアンは、欧州会計監査院の報告を基に、EUがマグネシウムの97%、ガリウムの71%、タングステンの31%を中国に依存していると報じました。EUは域内鉱山やリサイクルを急ごうとしていますが、新規鉱山は水資源や環境規制との衝突を伴い、立ち上げに長い時間がかかります。日本が同じ道を急ぐ場合も、鉱山開発だけで短期解決できるとは考えにくいです。

購買部門が確認すべき供給網の急所

中国のレアメタル囲い込みは、輸入量の増減だけで測れない構造問題です。重要なのは、中国が鉱山、精錬、加工、輸出許可、国内需要を一体で動かし、必要な原料を外から集めながら、下流の供給を選別できる立場を強めている点です。

日本企業は、まず重要部材ごとに「止まったら代替が利かない素材」を洗い出すべきです。次に、中国工程、紛争地域、制裁対象、環境・人権リスク、輸出許可の有無を同じ台帳で管理します。調達価格だけを見ていると、最も重要なリスクは契約書の外側に残ります。

製造現場で現実的に取れる行動は、素材指定の見直し、複数認証、在庫日数の再設計、リサイクル材の品質基準整備です。中国依存を一気に解消することは難しいですが、どの素材が、どの工程で、どの国の政策に止められるのかを把握できれば、次の供給ショックへの耐性は大きく変わります。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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