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金融庁の有報確認書厳格化、会計不正防ぐ経営者宣言の実効性検証

by 鈴木 麻衣子
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経営者宣言が浮上した有報改革の背景

金融庁は、上場企業が有価証券報告書とあわせて提出する「確認書」の記載内容を厳格化する方向です。焦点は、経営者が有報の内容だけでなく、作成・開示の手続を整備し、その手続が実効的に機能していると確認した旨を明示する点にあります。2027年春にも企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が想定されます。

これまでの確認書は、代表者と最高財務責任者が有報の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正であることを確認する仕組みでした。今回の見直しは、会計不正が起きた後の責任追及だけでなく、不正が入り込む前段階の開示統制を経営課題に引き上げる意味を持ちます。投資家にとっては、有報の文言以上に、その文言を生んだ社内プロセスの信頼性を読む時代に入るということです。

確認書厳格化で変わる責任の所在

現行制度が抱える短い宣誓文

確認書制度は、金融商品取引法24条の4の2を根拠に、有価証券報告書を提出する上場会社などに求められてきました。金融庁の制度説明では、代表者と最高財務責任者を定めている会社のCFOが、有報の記載内容について法令に基づき適正であることを確認した旨を記載するとされています。制度の導入は、財務報告に係る内部統制報告制度と同じく、経営者が開示責任を負う姿勢を明確にする狙いでした。

ただし、現在の確認書は文言が比較的短く、実務上は有報提出時の添付書類として扱われがちです。経理部門、IR部門、法務部門、事業部門、海外子会社から集まった情報がどのように検証され、どの段階で経営者に上がり、取締役会や監査等委員会がどこまで確認したのかまでは、確認書そのものから読み取りにくい構造です。

内部統制報告書は財務報告の信頼性を対象にしますが、有報全体には事業等のリスク、経営方針、人的資本、サステナビリティ、ガバナンスなど非財務情報も広がっています。財務数値だけでなく、経営者の認識や将来見通しを含む情報の重要性が高まるほど、単に「適正」と述べるだけでは説明責任が十分に見えません。

開示手続を問う新たな確認項目

金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループは、2025年12月の報告で、経営者等が有報を作成し開示するための手続を整備していること、その実効性を確認していることを確認書の記載事項に追加するのが適当だと整理しました。これは、経営者にすべての明細を読ませる趣旨ではありません。重要なのは、開示に関する情報が適切な部署から集まり、検証され、異論やリスク情報が経営層に届く仕組みを会社として説明できる状態にすることです。

米国では、サーベンス・オクスリー法302条を受け、CEOやCFOが年次・四半期報告書をレビューし、重要な虚偽記載や省略がないこと、開示統制・手続の設計や評価に責任を持つことを認証する制度があります。日本の見直しも、この考え方に近づくものです。ただし、日本で議論されているのは米国型の文言をそのまま輸入することではなく、有報の実務と金商法上の責任体系に合わせて、開示プロセスへの経営関与を可視化する方向です。

もう一つの背景は、非財務情報に関するセーフハーバー・ルールの議論です。将来情報、見積り情報、企業の統制が及ばない第三者から得た情報は、後から結果が変わる可能性があります。金融審議会の報告は、こうした情報の合理性を担保するには、前提、仮定、推論過程、情報入手経路、社内手続の開示と、経営者による確認を接続する必要があると位置付けています。つまり確認書の厳格化は、罰則強化だけの話ではなく、企業が萎縮せずに有用な情報を出すための制度設計でもあります。

ニデック問題が示した統制不全の連鎖

業績圧力とグループ管理の脆弱性

今回の議論を現実の経営課題として意識させたのが、ニデックをめぐる会計不正問題です。同社は2025年9月に第三者委員会を設置し、2026年4月17日に最終報告書を受領しました。会社側の公表では、グループ内の多岐にわたる拠点で、費用計上の回避や収益の過大計上など多数の不適切な会計処理が行われていたとされています。

東京証券取引所は、ニデック株を2025年10月28日付で特別注意銘柄に指定しました。さらに2026年4月30日には、上場契約違約金9,120万円の徴求を公表しています。JPXの説明では、第三者委員会が算定した金額だけで、2026年3月期第1四半期末の連結財務諸表の純資産に与える累積影響額は1,607億円でした。問題は金額の大きさだけではありません。過度な業績プレッシャー、買収後のグループ会社管理の不統一、監査等委員会に届く情報の質、CFOや経理部門を含む牽制機能の不全が重なった点にあります。

この構図は、確認書の弱点を浮かび上がらせます。経営者が最終的に「適正」と確認していても、現場から上がる情報が歪み、異常値の説明が業績達成の物語に回収され、内部監査や内部通報が経営トップに切り込めなければ、有報の作成プロセス全体が形骸化します。開示の信頼性は、決算数値を集計する会計システムだけでなく、都合の悪い情報が止まらず上がる組織文化に依存します。

監査人任せでは埋まらない説明責任

会計監査人は外部の専門家として重要な役割を担いますが、会社の開示責任そのものを肩代わりする存在ではありません。JPXはニデックの事案で、役職員が監査人に不正確な情報を与え、都合のよい意見を引き出そうとしたとの問題点にも言及しました。監査人の了承を得たとしても、決算の説明責任を負うのは会社自身です。

日本公認会計士協会も2026年1月、新規上場会社等の会計不正事例を踏まえ、監査人に職業的懐疑心の保持と監査手続の徹底を求める通知を出しています。監査の側の対応強化は不可欠ですが、それだけで不正を抑止できるわけではありません。経営者が短期業績を最優先し、部門責任者が目標未達を許容されないと感じる環境では、監査人が接する資料や説明自体が歪む危険があります。

証券取引等監視委員会の開示検査は、虚偽記載への課徴金勧告や訂正報告書の提出命令勧告だけでなく、企業自身が自律的かつ迅速に正しい財務情報を市場に提供する取り組みを促すことを目的にしています。確認書の新たな宣言は、この自律的な開示責任を経営者の署名に近い形で可視化するものです。経営者に求められるのは、部下が作った有報を最後に承認する行為ではなく、正しい情報が上がる構造を設計し、機能しているかを毎期検証する行為です。

企業実務に広がる三つの準備課題

企業側の最初の課題は、開示プロセスの文書化です。有報の各記載項目について、主管部署、データの出所、レビュー担当、経営会議や取締役会への報告ルートを明確にする必要があります。特に海外子会社、買収先、合弁会社、サプライチェーン由来の情報は、誰がどの根拠資料で確認したのかを残す運用が欠かせません。

第二の課題は、財務報告に係る内部統制と有報全体の開示統制をつなぐことです。内部統制報告制度は2023年の基準改訂で、不正リスク、IT委託、評価範囲、開示すべき重要な不備への対応などが改めて意識されました。一方、有報の記載は財務諸表の外側にも広がります。人的資本、気候関連リスク、事業ポートフォリオ、政策保有株式、重要契約などは、会計処理とは異なる情報源から生まれます。CFOだけでなく、法務、サステナビリティ、人事、事業責任者を巻き込む開示委員会型の運営が現実的です。

第三の課題は、取締役会と監査等委員会の関与を形式で終わらせないことです。確認書の文言が増えても、取締役会が有報案を短時間で了承するだけでは実効性は高まりません。重要な会計判断、見積りの前提、将来情報の根拠、内部通報や監査指摘の処理状況を、期末前から継続的に確認する必要があります。SSBJ基準の公表と適用ロードマップにより、サステナビリティ関連財務情報の重要性も高まります。開示統制は、決算期末の作業ではなく、年間を通じた経営管理の一部として再設計されるべきです。

投資家が有報で確認すべき変化

投資家は、制度改正後の確認書を単独で読むのではなく、有報本文、内部統制報告書、監査報告書、コーポレートガバナンス報告書とあわせて確認する必要があります。特に注視すべきなのは、確認書の宣言と本文の記載が整合しているかです。将来情報の前提や推論過程が丁寧に示されているのに、確認書や内部統制報告書が抽象的なままなら、開示統制の成熟度にはなお疑問が残ります。

会計不正リスクを見るうえでは、業績目標の厳しさ、M&A後の統合管理、海外拠点の監査体制、内部通報制度の独立性、監査人の意見、過年度訂正の有無が重要です。特別注意銘柄や上場契約違約金といった取引所措置は、単なる一時的な悪材料ではなく、内部管理体制の検証が続くサインとして読むべきです。

確認書の厳格化は、経営者に新しい負担を課すだけの制度ではありません。投資家との対話に耐える会社ほど、開示プロセスを説明できるようになります。逆に、宣言の裏付けを示せない会社は、資本市場からの信頼を失いやすくなります。2027年春の府令改正が実現すれば、有報は「提出する書類」から、経営者が統制の質を市場に示す書類へ一段と近づきます。読者が次に確認すべきなのは、自社や投資先の有報作成が、誰の責任で、どの会議体を通じ、どの証跡に基づいて進むのかという一点です。

参考資料:

鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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