日東電工・髙﨑社長が貫く利益率重視の独自経営術
日東電工9,300億円規模を支えた利益率経営
日東電工株式会社は、粘着テープや光学フィルム、半導体関連材料などを手がける化学メーカーです。売上収益は約9,300億円規模に達し、数多くの製品で世界トップシェアを誇ります。この成長を牽引してきたのが、2014年4月に社長CEO・COOに就任した髙﨑秀雄氏です。
髙﨑社長の経営哲学は明快です。「売上高にはこだわらない」「重視するのは利益率と利益額」という方針を一貫して掲げてきました。この考え方は、日本の製造業において一般的な「売上高至上主義」とは一線を画するものです。本記事では、髙﨑氏がどのようにして日東電工を高収益体質に変革してきたのか、その独自経営の核心に迫ります。
髙﨑社長の経営改革とその背景
就任時の課題と方針転換
髙﨑秀雄氏は1978年に日東電工に入社し、日東ヨーロッパ社長や常務執行役員、専務執行役員などを歴任した後、2014年4月に代表取締役社長に就任しました。就任当時、日東電工はすでに技術力に定評のある企業でしたが、ニッチトップと呼べる製品は限られていたとされています。
髙﨑氏が打ち出した方針は、売上高の規模拡大を追わず、利益率を徹底的に重視するというものでした。コモディティー化が進む市場では価格競争に巻き込まれ、たとえ売上高が増えても利益率は低下してしまいます。この悪循環を断ち切るために、ハイエンド市場への集中と利益率の追求を経営の柱に据えました。
営業利益率2桁を維持する仕組み
日東電工の営業利益率は常に2桁を維持しています。2025年3月期の決算では、売上収益7,783億円に対して営業利益1,529億円を達成し、営業利益率は約19.6%に達しました。前年比で売上収益は12.2%増、営業利益は36.1%増と、利益の伸びが売上の伸びを大きく上回っています。
2026年3月期の経営目標として、営業利益1,700億円、営業利益率17%、ROE15%を掲げています。売上高ではなく、利益率とROEを経営指標の中心に置く姿勢が、同社の経営哲学を明確に表しています。
グローバルニッチトップ戦略の真髄
「先行者のいない場所」で勝つ
日東電工の成長を支える中核戦略が「グローバルニッチトップ(GNT)戦略」です。同社は2002年にこの言葉を商標登録し、経営指針として社内に浸透させてきました。
髙﨑社長はGNT戦略を「差別化戦略」と定義しています。具体的には、先行者のいない成長市場のニッチ領域を見つけ出し、自社固有の技術や特許、ノウハウを投入してナンバーワンのポジションを獲得するというアプローチです。
この戦略の優位性は、単なる高収益にとどまりません。ニッチ市場でトップシェアを握ることで、顧客との密接な関係が構築されます。その結果、「顧客が次に何を求めるか」という情報を他社よりも早く、多く、正確に入手できるようになります。この情報優位が次のニッチトップ製品の開発につながるという好循環が生まれています。
世界トップシェアを誇る製品群
日東電工がニッチトップの座を確保している製品は多岐にわたります。代表的なものとして、液晶パネルに不可欠な偏光板では世界シェア約4割を占め、トップの座を維持しています。半導体ウエハの加工工程で使われるダイシング用テープや保護フィルムでも世界トップシェアを持っています。
これらの製品に共通するのは、ハイエンド市場に特化している点です。汎用品ではなく、高い技術力が求められる領域に経営資源を集中することで、価格競争を回避しながら高い利益率を確保しています。
「三新活動」と新製品比率35%の秘密
1955年から続くイノベーションの仕組み
日東電工のもう一つの強みが「三新活動」と呼ばれる独自のイノベーション手法です。この活動は1955年頃から開始され、70年以上にわたって継続されています。ハーバードMBAの教材にも取り上げられたことがあり、国際的にも評価されている仕組みです。
三新活動とは、「新市場の開拓」「新製品の開発」「新需要の創造」の3つの「新」を組み合わせた活動です。既存の技術を応用して新しい製品を開発したり、既存製品の新しい用途を見つけ出したりすることで、継続的に新たな市場を創出していきます。
常に35%以上の新製品比率
髙﨑社長が特に重視してきたのが「新製品比率35%以上」という目標です。新製品比率とは、発売から3年以内の製品が全売上高に占める割合を指します。この比率を常に35%以上に維持するということは、理論上3年ごとに製品ラインナップの3分の1以上が入れ替わることを意味します。
この高い新製品比率は、日東電工が常に市場の変化に対応し、新たな成長機会を捉え続けていることの証です。技術開発、製造、販売の各部門が一体となって三新活動に取り組むことで、この高水準を維持しています。電気絶縁用ビニルテープから始まり、ステンレス表面保護フィルム、半導体ダイシング用テープ、光学部材表面保護フィルムへと、時代の変化に合わせて主力製品を進化させてきた歴史が、この活動の成果を物語っています。
今後の展望と課題
新体制への移行と次なる成長
2026年4月からは、髙﨑氏が代表取締役会長CEOに就任し、赤木達哉氏が新社長兼COOとなる新体制がスタートします。髙﨑氏が12年間にわたり構築してきた利益率重視の経営哲学が、新体制にどのように引き継がれていくかが注目されます。
同社は中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」において、ニッチトップ戦略とESG経営の融合を掲げています。重点分野として「パワー&モビリティ」「デジタルインターフェース」「ヒューマンライフ」の3つを策定し、これらが交差する領域で新たなニッチトップ製品の創出を目指しています。
利益率経営の持続可能性
髙﨑氏の利益率重視経営は目覚ましい成果を上げてきましたが、課題もあります。ハイエンド市場への集中は高い利益率をもたらす一方、市場規模には上限があります。また、データセンター向けHDD需要やハイエンドPC・タブレット向け部材など、現在の成長ドライバーが今後も持続するかは不透明です。
さらに、地政学リスクやサプライチェーンの変動など、外部環境の不確実性も高まっています。髙﨑社長は「外部環境がどう変化しても、他社より影響を受けにくい場所で売り上げも利益率もしっかりとキープし成長する」と述べており、ニッチトップ戦略が持つ回復力に自信を示しています。
髙﨑哲学を支えた4本柱と2026年新体制
日東電工の髙﨑秀雄社長が12年間にわたり貫いてきた「売上高より利益率」という経営哲学は、日本の製造業に重要な示唆を与えています。グローバルニッチトップ戦略による差別化、三新活動による継続的なイノベーション、新製品比率35%以上の維持、そしてハイエンド市場への集中という4つの柱が、高収益体質を支えてきました。
2026年4月の新体制移行を控え、髙﨑氏の経営哲学がどのように発展していくかが注目されます。規模を追わず、質で勝負するという姿勢は、多くの製造業企業にとって参考になる経営モデルです。自社の強みを見極め、ニッチ市場で圧倒的なポジションを築くというアプローチは、不確実性の高い経営環境においてこそ、その真価を発揮するのではないでしょうか。
参考資料:
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