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ホンダ初の営業赤字が示すEV戦略の岐路

by 田中 健司
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ホンダ初の営業赤字とEV損失2.5兆円

ホンダが上場以来初めて営業赤字に転落しました。2026年3月期の連結営業損益は約4000億円規模の赤字となり、前期の1兆2134億円の黒字から一転、歴史的な業績悪化を記録しています。

直接の原因は、電気自動車(EV)関連の巨額損失です。2026年3月、ホンダは北米向けに開発を進めていたEV3車種の開発・発売中止を発表し、四輪電動化戦略の抜本的な見直しに踏み切りました。今期と来期を合わせた関連損失は最大2兆5000億円に達する可能性があるとされています。

本記事では、ホンダがなぜここまで追い込まれたのか、その構造的な背景と今後の再建シナリオを、製造業の事業再編という視点から詳しく解説します。

EV戦略見直しの全容と損失の内訳

北米向けEV3車種の開発中止

2026年3月12日、ホンダは四輪電動化戦略の見直しを正式に発表しました。中止となったのは、北米市場で生産・販売を予定していた「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3車種です。

三部敏宏社長は記者会見で「断腸の思いで決断した」と述べ、北米におけるEV需要の急速な鈍化を主な理由に挙げました。米国ではトランプ政権による電気自動車関連政策の転換もあり、EV市場の成長シナリオが大きく崩れたことが背景にあります。

損失規模の詳細

ホンダが示した損失の見通しは以下の通りです。2026年3月期の連結決算では、営業費用として8200億〜1兆1200億円、持分法投資損失として1100億〜1500億円を計上する見込みとされています。さらに2027年3月期以降もサプライヤーへの補償などで追加損失が見込まれ、EV戦略見直しに伴う総損失は最大2兆5000億円に上る可能性があります。

最終損益については、4200億〜6900億円の赤字となる見通しで、上場以来初の最終赤字となります。会計基準が異なるため単純比較はできませんが、2009年3月期にトヨタ自動車が金融危機で記録した営業赤字に匹敵する規模です。

カナダEV工場の凍結

損失はEV車種の開発中止にとどまりません。2026年5月には、カナダ・オンタリオ州に建設を予定していた総額約150億カナダドル(約110億米ドル)規模のEV・車載バッテリー新工場の建設計画を無期限に凍結したことも明らかになりました。北米でのEV需要減退、トランプ政権の政策転換、カナダ新政権の通商政策シフトという三重の逆風が凍結の要因とされています。

赤字転落の構造的背景

四輪事業の低収益体質

ホンダの赤字転落は、EV損失だけでは説明しきれません。2025年3月期の時点で、四輪事業の営業利益率はわずか1.7%にとどまっていました。一方、二輪事業の営業利益率は18.3%と高水準を維持しており、売上収益3兆6266億円を計上しています。

つまり、ホンダの収益構造はすでに二輪事業に大きく依存しており、四輪事業は利益貢献度が低い状態が続いていました。このような体質の中でEV開発に巨額投資を行ったことが、損失の影響を増幅させた構図です。

米国関税の追い打ち

EV損失に加えて、米国の自動車関税も業績を直撃しています。トランプ政権は日本からの輸入車関税を2.5%から一時27.5%へと大幅に引き上げ、その後の交渉で15%に落ち着いたものの、ホンダは2025年度通年で約4500億円の関税コストを見込んでいるとされています。

日系自動車大手7社全体では、関税による営業利益の消失額は最大2兆6733億円に達する見通しで、ホンダに限らず業界全体が打撃を受けています。ただし、ホンダはEV損失と関税コストの二重苦に直面している点で、他社よりも厳しい状況にあるといえます。

日産との経営統合破談

もう一つの伏線が、日産自動車との経営統合の破談です。2024年末に覚書を交わした両社ですが、協議は難航し、わずか3カ月足らずで覚書は解約されました。日産側がホンダからの「子会社化」提案に反発したことが主因とされています。

統合が実現していれば、EV開発費用の分担やスケールメリットの確保が可能だったとみる向きもあり、破談がホンダ単独でのEV戦略のリスクを高めた側面は否定できません。

トヨタとの戦略比較に見る明暗

マルチパスウェイ戦略の有効性

ホンダの赤字転落を際立たせているのが、トヨタ自動車との対照的な業績です。トヨタはEV、ハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、水素と複数の動力源を並行開発する「マルチパスウェイ戦略」を掲げてきました。

EV市場の成長が鈍化した局面でも、トヨタは米国工場で生産する電池のEV向け比率を下げ、ハイブリッド向けの比率を高めるなど素早い軌道修正を行っています。結果として、市場変動に対する耐性を確保しており、極端なEVシフトを敷かなかったことがリスクヘッジとして機能しました。

ホンダが犯した「時間軸の誤算」

一方、ホンダは2040年までにすべての新車をEVまたは燃料電池車にするという野心的な目標を掲げ、北米市場でのEV専用プラットフォーム開発に注力してきました。しかし、EV需要の立ち上がりは想定より遅く、特に北米では補助金政策の不透明さも相まって市場が急減速しました。

三部社長自身も「複数シナリオを持って、戦略を修正しきれなかったことは反省すべき課題だった」と振り返っており、市場環境の変化に対する柔軟性の欠如が浮き彫りとなっています。

経営責任と再建への課題

三部社長の続投と報酬返上

赤字転落を受け、三部社長ら経営陣は月額報酬の3割を3カ月分自主返上すると発表しました。しかし、三部社長は続投を表明しています。

業界内では、日産自動車が2025年3月期に6700億円の最終赤字を計上した際に内田誠社長が事実上解任されたこととの比較から、「日産以上の赤字見通しなのに、なぜ続投するのか」と疑問視する声も上がっているとされています。三部社長は「最終的な責任は私にある」としつつも、再建の陣頭指揮を取る姿勢を示しています。

ハイブリッド回帰の勝算

ホンダの再建策の柱は、ハイブリッド車の強化です。北米で人気が高まっているHVモデルの開発を加速し、次世代ハイブリッドシステムの市場投入を進める方針です。具体的には、「シビック」のハイブリッド5ドアや「CR-V」について、日本やカナダから米国への生産移管を計画しているとされています。

また、日本・米国・インドを主要市場と位置づけ、これらの市場でのモデルラインアップ拡充とコスト競争力の強化を図るほか、アジア各国でも次世代ハイブリッド車の投入を進める方針です。次世代ADAS(先進運転支援システム)をハイブリッドモデルにも搭載する準備が進められており、付加価値の向上も狙っています。

2027年黒字回復とEV再加速リスク

2027年3月期も予断を許さない

ホンダは2027年3月期に黒字回復を目指す方針ですが、サプライヤーへの補償などで同期にも約1兆2000億円の追加損失が見込まれています。二輪事業の好調が下支えとなる可能性はあるものの、四輪事業の構造改革なくして持続的な回復は困難です。

2026年5月14日に予定されている2026年3月期の連結決算発表と経営方針説明では、具体的な再建ロードマップが示されるかが注目されています。

EV市場は「消えた」わけではない

重要なのは、EV市場そのものが消滅したわけではない点です。米国全体で2025年以降にキャンセルされたEV関連投資は約199億ドルに達しており、業界全体で戦略の再調整が進んでいます。しかし中長期的にはEVへの移行トレンドは変わらないとする見方も根強く、ホンダがハイブリッド回帰に軸足を移しすぎると、再びEV市場が加速した際に出遅れるリスクがあります。

EV3車種中止後のホンダ再建の焦点

ホンダの上場以来初となる営業赤字は、EV戦略の見直しに伴う巨額損失、米国関税の影響、そして四輪事業の低収益体質という複合的な要因が重なった結果です。北米向けEV3車種の開発中止とカナダ工場の凍結は、同社のEV戦略が根本から軌道修正を迫られていることを象徴しています。

5月14日の決算発表では、具体的な再建計画の全容が明らかになる見通しです。二輪事業の安定収益を基盤としつつ、ハイブリッド強化による四輪事業の立て直しがどこまで進むか。日本の製造業を代表する企業の正念場として、その動向を注視する必要があります。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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