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EV市場減速で戦略再編VW・Tesla・BYD・Hondaの岐路

by 田中 健司
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はじめに

EV市場を巡る見出しには、減速、失速、後退という言葉が並びます。もっとも、数字を丁寧に追うと、世界販売そのものが急停止したわけではありません。IEAによれば、2024年の世界の電気自動車販売は1700万台を超え、2025年も2000万台超が見込まれています。

それでも自動車各社が動揺しているのは、需要の伸び方が想定と大きく変わったためです。欧州では補助金縮小と規制運用の見直しでハイブリッドが主役に浮上し、中国では価格競争が利益を削り、米国では税制支援の後退が採算を揺らしました。本稿では、Volkswagen、Tesla、BYD、Hondaの動きを軸に、EV投資の減速がどこで起き、何が産業再編を促しているのかを読み解きます。

記録更新の裏側で進む減速の正体

世界販売の拡大と成長率の鈍化

EV市場を「全面的な失速」と捉えると、現実を見誤ります。IEAの2025年見通しでは、2024年の世界販売は1700万台超、販売比率は2割超でした。2025年1〜3月も主要市場で過去最高を更新し、前年同期比35%増となっています。

ただし、産業界が問題にしているのは販売台数の絶対額ではなく、投資回収の前提が崩れ始めた点です。数年前までの計画は、欧米で補助金が続き、中国でも高成長が持続する想定に立っていました。実際には、地域ごとの政策差、金利高、低価格競争、充電インフラの制約が重なり、同じEVでも売れる地域と利益が出る地域が一致しなくなっています。

このズレは、完成車メーカーの設備投資に直結します。販売が伸びても、値引きで数量を取りにいけば利益率は縮みます。電池工場や専用ラインは固定費が重く、需要が少し鈍るだけでも稼働率が急低下するため、経営陣は成長局面でも慎重姿勢を強めざるを得ません。

欧州規制の軟化とハイブリッド優勢

欧州の変化はとくに象徴的です。ACEAによれば、EUの2025年1〜3月の新車登録は前年同期比1.9%減でした。バッテリーEVの市場シェアは15.2%に上がった一方、ハイブリッド車は35.5%を占め、依然として消費者の主流選択になっています。

ここで重要なのは、EUが2035年目標を撤回したわけではない点です。欧州委員会の制度説明では、2035年以降の新車は実質的にCO2排出ゼロを求める枠組みが維持されています。そのうえで、2025年4月に委員会が提案し、同年5月27日にEU理事会が最終承認したのは、2025〜2027年の達成状況を年単位ではなく3年平均で評価する柔軟措置でした。

この制度修正は、目標の消滅ではなく、移行コストの平準化です。しかし企業側から見れば、短期の罰金圧力が弱まり、ハイブリッドや内燃機関車の販売を当面維持しやすくなります。結果として、EV専用投資を急ぎ過ぎた企業ほど、計画の組み直しを迫られる構図になりました。

メーカー別に分かれる生存戦略

Volkswagenの欧州回復と中国苦戦

Volkswagenの数字は、地域ごとの濃淡を端的に示します。同社の2025年1〜3月の発表では、世界のBEV販売は21万6800台で前年同期比58.9%増でした。欧州は15万8100台と前年同期の7万4400台から倍増し、市場シェアは約26%に達しました。

一方で中国は逆風です。同じ四半期の中国向けBEV販売は2万5900台で、前年同期比36.8%減でした。年次報告書でも、2025年通年のグループBEV販売は98万3120台と32%増えたものの、中国のBEV販売は11万5453台と44.3%減っています。欧州では規制対応と新型車投入が効いた半面、中国では値下げ競争と地場メーカーの台頭が既存大手の収益構造を直撃した形です。

つまりVolkswagenは、EV市場全体の減速で一律に苦しんでいるのではありません。欧州では回復の受益者でありながら、中国では競争条件の変化に押されるという二面性を抱えています。大型グループですら、地域ごとに戦略を分けなければならない段階に入ったということです。

TeslaとBYDに広がる採算圧力

Teslaは、EV専業の象徴だっただけに減速の影響が見えやすい企業です。Teslaの開示では、2025年1〜3月の納車は33万6681台でした。2026年1〜3月は35万8023台へ増えましたが、Reutersによれば同四半期は生産が納車を5万363台上回り、在庫積み上がりが鮮明になりました。

さらに2026年1月のReuters報道では、Teslaの2025年通年販売は前年比8.6%減となり、世界EV首位の座をBYDに明け渡しました。欧州でもJATO集計ベースでTeslaの2025年BEV登録は27%減の23万6357台に落ち込み、Volkswagenブランドの27万4278台を下回っています。EV需要が残っていても、商品力、ブランド、価格のどこかで優位を失えば、シェアは急速に崩れるという実例です。

他方のBYDは、数量面ではなお巨大ですが、国内採算の悪化が無視できません。Reutersによれば、BYDの2026年1月販売は前年同月比30.1%減の210,051台で、5カ月連続の前年割れでした。4月28日公表の2026年1〜3月決算でも、純利益は55.4%減の41億元、売上高は11.8%減の1502億元となり、国内販売の鈍化と価格競争の重さが表れています。

それでもBYDは後退だけではありません。2025年の海外販売比率は22.7%へ倍増し、2026年1〜2月には全体の50%に達したとReutersは伝えています。ハンガリーやインドネシアでの現地生産を進めるのも、国内市場の減速を輸出と現地化で埋めるためです。成長市場の中心が中国から海外展開力へ移りつつあることを、BYD自身が示しています。

ホンダと電池産業に及ぶ投資再設計

HondaのEV投資圧縮と混流生産

Hondaの軌道修正は、製造業としての慎重さがよく表れています。2025年5月20日の事業説明会で同社は、2031年度までにEV戦略へ投じる資源を10兆円から7兆円へ3兆円減らすと公表しました。カナダで計画していた包括的EVバリューチェーンの設立を延期し、専用EV工場の建設時期も見直しています。

同時にHondaは、HEV需要の継続成長を見込み、EVとHEVを同じラインで生産できる混流体制を強める方針も示しました。ここでのポイントは、EVから撤退するというより、需要変動に耐える工場設計へ切り替えた点です。専用設備を急拡大するより、既存資産を使い回しながら電池調達と車種構成を柔軟に変えるほうが、現在の市場では合理的です。

製造現場の視点で見れば、この判断は守りではなく稼働率の最適化です。EV普及が中長期で続くとしても、立ち上がり速度が読みにくい局面では、設備を固定化し過ぎた企業ほど調整コストが膨らみます。Hondaの修正は、日本の量産メーカーらしい資本効率重視の対応といえます。

車載電池から蓄電池への重心移動

EV減速の余波は、車そのものより電池産業で深く表れています。LG Energy Solutionは2026年1月公表の2025年通期決算で、売上高が前年比7.6%減になった背景として、主要顧客のEV販売減速を明示しました。その一方で、同社は2026年にESS向け新規受注90GWh超、ESS生産能力60GWh超への拡大を掲げています。

これは単なる新規事業ではありません。車載用に積み上げた生産能力を、定置用蓄電池へ振り替える動きです。Reutersによれば、GMとLG Energy Solutionの合弁会社Ultium Cellsは、テネシー工場をEV向けからエネルギー貯蔵システム向けLFP電池へ転換し、700人を呼び戻して生産を始めます。GM幹部が「3工場を埋める需要がない」と述べたのは、車載電池の需給が想定ほど伸びていないことの率直な表明です。

注目すべきなのは、受け皿がAI時代の電力インフラになっている点です。データセンター向け電力需要の拡大で、ESS市場は車載より高い伸びが見込まれています。EV向けの巨額投資が、そのまま電力・蓄電インフラへ再配分されるなら、今回の減速は自動車産業だけの問題ではなく、製造業とエネルギー産業の接続面を組み替える契機になります。

注意点・展望

第一に、「EV市場減速」は販売減少と同義ではありません。世界全体ではなお拡大が続き、伸びをけん引する国もあります。減速の本質は、期待された成長速度と実際の採算がずれ、投資家と経営陣が前提を修正していることにあります。

第二に、「EUが内燃機関禁止を撤回した」という理解も正確ではありません。2025年時点で緩和されたのは2025〜2027年の達成評価方式であり、2035年のゼロエミッション目標自体は残っています。ただし、この短期的な柔軟化が、ハイブリッド延命とEV専用投資の先送りを促したのは確かです。

今後の焦点は三つあります。第一は、欧州での手頃な価格のEV投入がハイブリッド優位をどこまで崩せるかです。第二は、中国での価格競争が一巡せず、BYDを含む大手の利益率をさらに圧迫するかどうかです。第三は、車載電池からESSへの資本移動が加速し、自動車メーカーのサプライチェーンそのものを再編するかです。

まとめ

EV市場は、成長が止まったのではなく、伸び方が変わりました。欧州では規制の柔軟化とハイブリッド人気が投資判断を揺らし、中国では価格競争がBYDのような勝者まで傷つけ、米国ではTeslaが在庫と需要のズレに直面しています。Volkswagenは欧州で伸びても中国で苦しみ、Hondaは専用EV投資から混流生産へ軸足を移しました。

その先で起きているのは、完成車だけでなく電池産業の重心移動です。EV向けに膨らませた設備は、蓄電池やエネルギーインフラへ流れ始めています。自動車産業の次の勝負は、EV比率の高さそのものではなく、需要変動に耐える生産設計と、電池・電力まで含めた事業のしなやかさに移っていきます。

参考資料

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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