NTTデータ本間洋氏の統率術 グローバル経営を動かす条件とは
本間洋氏のグローバル経営を読む視角
NTTデータグループの前社長、本間洋氏の経営を振り返るとき、注目すべきは単純な海外売上の拡大ではありません。むしろ重要なのは、巨大化したITサービス企業を、地域分散と全体最適の両方を成立させる組織に組み替えた点です。2023年7月には持株会社、国内事業会社、海外事業会社の3社体制へ移行し、2024年6月には佐々木裕氏へトップを引き継ぎました。
この流れは「誰が社長か」という人事ニュースだけでは読み切れません。背景には、海外拠点を増やすだけでは競争優位が生まれにくくなったという産業構造の変化があります。顧客の多国籍化、サービスのフルスタック化、生成AIやデータセンターを含む大型投資の必要性が高まるなか、グローバル経営には、権限委譲と知識共有をどう両立させるかが問われます。本記事では、本間氏が何を組織で解いたのか、そして人心掌握をどのように経営システムへ組み込んだのかを整理します。
グローバル経営を支えた組織設計
3社体制への再編という構造改革
本間氏の時代を象徴する転換点は、2023年7月1日に始まった新体制です。NTTデータグループは、持株会社であるNTTデータグループ、日本市場を担うNTTデータ、海外事業を担うNTT DATA, Inc.へ役割を切り分けました。2024年1月の年頭所感で本間氏は、この体制への移行について、事業規模の拡大とデジタル時代のスピードに対応するため、現場に近いところで機動的に意思決定できるようにする狙いだと説明しています。
この設計の要は、権限の分散とガバナンスの集中を同時に進めた点です。2023年5月の役員分掌では、本間氏が持株会社の社長を務める一方、日本リージョンは佐々木裕氏、海外リージョンは西畑一宏氏、コーポレート全体は中山和彦氏が担う形が示されました。さらに同年6月には、海外事業会社NTT DATA, Inc.側でも欧州・中南米、北米、NTT Ltd.、Business Solutionsなどの首脳を並べた執行体制が公表されています。これは本社一極集中ではなく、地域・機能・事業軸を分けて責任を明確化する編成でした。
なぜここまで構造を切り分ける必要があったのか。ITサービス企業の競争は、もはや単独国のSI案件だけで完結しないからです。多国籍企業は、コンサルティング、アプリケーション開発、データセンター、ネットワーク、業界別ソリューションを横断して求めます。本間氏は2024年の所感で、3社がそれぞれ強みを磨きながら、グローバルレベルのベストプラクティスをつくり、強連携することで競争優位を高めると述べています。拠点の数より、知見をどこまで共通資産にできるかが勝負になったわけです。
One NTT DATAを成立させる運営思想
本間氏のグローバル経営は、単なる再編では終わっていません。2025年5月のロゴ刷新発表では、会社側が2023年7月以降の再編について、知識と技術を共有する統一グループづくりを進めたと説明しています。ブランド統合を後から進めたのは、見た目を揃えるためではなく、組織再編をOne NTT DATAの物語に変換するためだったと読むべきです。
この点は後継の佐々木氏のプロフィールからも裏付けられます。同氏は、NTT Ltd.との海外事業統合や国内事業会社設立に取り組み、2024年にグループ社長へ就任しました。つまり、本間氏のグローバル経営は個人商店型ではなく、次世代へ引き継げる仕組みとして設計されていたのです。人が替わっても、持株会社が全体最適を担い、国内外の事業会社が顧客接点で迅速に動く構図は維持されています。
ここから見えるのは、本間氏が「グローバル経営」を海外M&Aの積み上げとしてではなく、知識の標準化と責任の分散配置として捉えていたことです。海外拠点を増やすだけでは、現地の成功知見が閉じたままになりやすい。逆に中央集権を強めすぎれば、現場は遅くなります。本間氏の答えは、現場で決めるための器と、全社で共有するための司令塔を分けることでした。
人心掌握を支えた経営哲学
信頼を起点にしたワンチーム運営
構造を整えても、人が動かなければグローバル経営は機能しません。本間氏の特徴は、この点を理念ではなく実務として語っていることです。NTT技術ジャーナルの2022年インタビューで、本間氏はNTTデータが大切にしてきた価値としてLong-term Relationshipsを繰り返し挙げています。顧客との長い関係を守ることを「変わらぬ信念」とし、うまくいかない局面でも相手のために最善を尽くすことが信頼につながると説明しています。
注目すべきは、この信頼概念が営業美談にとどまっていないことです。本間氏は、問題化した旅行業システムの案件で、発注者と受注者という関係では成功しないとして、自社の苦境を顧客に率直に伝え、同じ船に乗るチームとして協力を求めた経験を紹介しています。ここでの人心掌握とは、カリスマ的に引っ張ることではなく、利害の異なる相手を同じ目的に乗せることです。グローバル経営でも、この発想はそのまま通用します。海外子会社や各リージョンを単なる指示対象にせず、共通の成果責任を担う仲間として扱うからこそ、知見共有は進みます。
SkillとWillとチーム力の掛け算
本間氏は同じインタビューで、良い成果を生む条件をSkillとWill、そしてチーム力の掛け算で説明しています。能力だけでは足りず、「成し遂げよう」という意志が必要であり、そこにチームの空気や進捗の見える化が加わることで成果が大きくなるという考え方です。これは、巨大組織でありがちな「優秀な個人の寄せ集め」に対する明確なアンチテーゼです。
さらに本間氏は、組織力を「実力×活力×魅力」とも表現しています。ここで言う魅力は、上司や仲間、仕事そのもの、そして顧客との関係まで含む広い概念です。経営者が数字だけでなく、現場がこの会社で働く意味を持てる状態を重視していたことが分かります。グローバル企業では、制度統一だけでは求心力が生まれません。国や文化が違っても、この会社でやる価値があると思える物語が必要です。本間氏にとって人心掌握とは、個人の忠誠心を求めることではなく、仕事の意味を組織に通わせることでした。
この考え方は、凡事徹底や着眼大局・着手小局という本人の言葉にもつながります。大きな志を掲げつつ、日々の約束や基本動作を徹底する。派手ではありませんが、国籍や部門が異なる組織を束ねるには、こうした反復可能な行動原理のほうが効きます。感情論ではなく、再現できる組織習慣として人心掌握を設計した点が本間氏流の特徴です。
3社体制に残るサイロ化リスク
再編だけでは生まれない統合効果
誤解しやすいのは、持株会社化や海外統合だけでグローバル経営の課題が解けるわけではないことです。組織を切り分けると、責任は明確になりますが、同時にサイロ化のリスクも高まります。本間氏が「ベストプラクティスの創出」や「グローバルシナジー」を繰り返したのは、この危険を理解していたからでしょう。形式知化と共有が進まなければ、3社体制は単なる分社化で終わります。
今後の焦点は、後継体制の下でこの設計思想がどこまで運用で定着するかです。2025年のブランド統合は前進ですが、真価は各地域の知見が商品化や営業、デリバリーにどこまで横展開されるかで決まります。生成AIやデータセンター投資の重さを考えれば、地域最適だけでも、中央統制だけでも勝ちにくい局面が続きます。本間氏の遺産は制度そのものというより、分けて任せ、つないで学ぶという運営原理にあるとみるのが妥当です。
信頼と知識共有で築いたNTTデータ統率術
本間洋氏がNTTデータグループのグローバル経営で残したものは、海外売上の拡大そのものより、巨大組織を動かすための設計図です。2023年の3社体制は、現場近接の意思決定と、持株会社による全体最適を両立させるための構造改革でした。
同時に本間氏は、Long-term Relationships、SkillとWill、ワンチーム、凡事徹底といった言葉で、人心掌握を精神論ではなく運営原理として定義しました。グローバル経営を支えたのは、派手なトップダウンではなく、信頼を軸にした責任分担と知識共有の仕組みです。多国籍企業の競争が激しくなるほど、この地味で再現性の高い統率術の価値はむしろ増していきます。
参考資料:
- 着眼大局・着手小局の姿勢、高い志とパッションを携えて、真のグローバル企業へと成長|NTT技術ジャーナル
- 新体制の3社が強連携して競争優位性を高めていく‐NTTデータグループ 本間社長|TECH+
- 役員の業務分掌について(株式会社NTTデータ)|NTTデータグループ
- Announcement of new Executive Leadership Team (NTT DATA, Inc.)|NTT DATA Group
- 役員の新体制について|NTTデータグループ
- NTTデータグループ役員 佐々木 裕|NTTデータグループ
- NTT DATA Group Corporation Announces Corporate Logo Update|NTT DATA Group
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